PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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6月12日──【教室】フウカの悩み

 

 

 チャイムが鳴り、今日も1日が終わった。

 

「……?」

 

 サイフォンが振動する。何かの通信を受け取ったらしい。

 誰だろうか。表示は……フウカ先輩?

 

『こんにちは。今お会いできますか?』

 

 保健室の先輩、病院通いの少女、フウカ先輩。

 連絡先を交換して以来、毎日とはいかずともそれなりの頻度で連絡を取り合っている。

 しかし、このように声を掛けられたのは初めて。何かあったのだろうか。

 

『すぐ行く』

 

 恐らく保健室にいることだろう。

 火急の用事ということもあり得る。速いに越したことはないはずだ。

 やや乱暴に荷物を詰め込み、教室を後にした。

 

 

 ────>杜宮高校【保健室】。

 

 

「あ、岸波君……」

「こんにちは」

 

 案の定彼女は保健室にいて、廊下側に置かれているベッドに腰かけていた。

 そんなに具合が悪そうには見えないな。

 

「体調、良さそうですね」

「うん、今日は少し体が軽いの」

 

 それはよかった。

 しかしだとしたら保健室にいる必要も無さそうだが、なにゆえ此処にいるのだろうか。

 

「えっと、今日来てもらったのは、岸波君に付き添いを頼みたかったからで」

「付き添い、って言うと、病院の?」

「ええ、そうなの。実は──」

 

 纏めると、今日送迎してくれるはずの両親が急用で来られず、そういう時に依頼していた友人は部活がちょうど忙しい時期らしい。邪魔したくないのだそうだ。

 しかし、自分が1人で行くと過剰に心配されてしまう。例えポーズだとしても同行者が欲しかった。

 そこで白羽の矢が立ったのが、自分。頼むのは心苦しかったが、頼りになりそうな異性で、かつある程度の事情を汲んでくれる人、ということで呼んでくれたのだとか。

 

「急な話で、本当にごめんなさい」

「いいえ、自分が役に立てるなら」

 

 自分が共感して交友を持ってきたのだ。こうして頼られて嬉しくないなんてことはない。

 

「いつ出発しますか?」

「私は準備出来ているから、岸波君が良いなら大丈夫だよ」

「なら行きましょう。帰り道が暗くなると危ないですし」

「そうね」

 

 ニコリ、と儚く笑う先輩。

 しっかりとエスコートしよう。

 

 

──Select──

 >手を差し出す。

  待っている。

  小粋なトークをする。

──────

 

 

「あ、ありがとう」

「いえいえ」

 

 

 ────>杜宮総合病院【入り口前】。

 

 

 ……微妙な段差がある。

 病院の入り口はすぐ先だ。

 

 

──Select──

 >手をつなぐ。

  腕をとる。

  先に行って扉を開ける。

──────

 

 

「お手を」

「あっ。……ふふっ、ありがとう」

 

 安心したように微笑む彼女に、気遣いが成功したことを悟った。

 あまり力を貸され過ぎても困るだろうから、手を取るだけに留める。引いて歩くことも考えた。しかし、調子が良好だという彼女にとって、必要以上の干渉は忌避したくなるものだと思う。

 できることは、すべてやりたい。

 感覚を鈍らせない為に、というのが1つ。加えて、普段できないことをする、というのは、自己肯定に割と大事なことなのだというのも、理由に含まれる。

 仮にできないことがあるなら、自分で言い出してくれるだろう。そうでない限りは、助力に努めるべきだ。

 ……あくまで持論に過ぎないけれど。

 

「岸波君と一緒だと、『それくらい大丈夫』って言わなくても良いのね」

「え」

 

 ぽつりと、彼女が小声を零した。

 フウカさん自身、自分が反応したことで初めて呟いたことを自覚したらしい、目を見開いている。

 慌てて弁解しようとしたのか、口を数度開いたが、続きが出てくることはなかった。

 

「私ができないことを見極めようとしてくれているでしょ? 他の人たちだと全部やってくれようとしたり、逆に困ってしまって何もできなかったりするから」

 

 それどころか逆に落ち着きを見せ、ゆっくりと自分の言葉で説明してくれる。

 

「別にそれが嫌というわけではないし、手伝ってくれること自体は本当に嬉しくて。でも、すべてが終わった後にほら、少しだけ、疲れちゃうから」

「……」

 

 そういう、ものか。

 自分は手伝ってくれる友人なんて、いなかったからな。その気持ちが分かるとは言いづらい。

 なら、自分の選択は間違っていなかったのだろう。

 いや、本来は誰の判断も間違っていない。彼女を助けようと、手伝おうとしたこと自体は、褒められるべきことだ。

 自分の行動が彼女にとって正解だと思われているのは、近い経験があったからに過ぎない。その境遇に陥らないと、有益なアイデアや配慮は難しいだろう。

 

 もっと彼女の理解者が増えると良いな。

 心の底からそう願った。

 

 フウカ先輩との縁が深まったような気がする。

 

 

 帰りは両親が迎えに来てくれるらしい。自分が付き添うのは診断の前まで。あとはロビーでの待ち時間くらいか。

 時間は順調に進み、終わりの時間が近付いてきた。

 

「今日はありがとう。これ、お礼だから、受け取って」

 

 ジュース1本を奢ってもらって、その日は現地解散する。

 

 

 ……家に帰ろう。

 

 

──夜──

 

 

 今日は夜バイトの日、蓬莱町のゲームセンターで働くことになっている。

 さっそく向かおう。

 

 

 ────>ゲームセンター【オアシス】。

 

 

 来るのは実に久々。蓬莱町の中でも大通りに面している、大規模なゲームセンター、オアシス。夜遅い時間帯だと言うのに、まだかなりの客足がある。

 蓬莱町全体がそういう雰囲気の地域というのもあるのだろう。昼と夜では持つ顔がまったく違うというのも、町の魅力の1つだ。

 そんな喧騒溢れる町の中でも、ひと際騒音が凄いお店が、ここ。大型の筐体からいくつも音が出ているのだから、当然と言えば当然か。

 

 ……だが、以前来た時より少し騒がしいな。

 普通、ゴールデンウイークのような連休の方が人も入るだろう。なのに今の方が少し音が大きく聴こえる。

 どういうことだろうか。聞いてみよう。

 

「え、ああ、最近少し物騒でね」

「物騒?」

「なんでも不良チームがここら辺でカツアゲをしているとかなんとか。僕も詳しいことは知らないんだけど」

「不良チーム……」

 

 身に憶えがなかった。恐らく出くわしたこともない。

 カツアゲか……されたら困る。気を付けなくては。

 

 




  

 コミュ・死神“保健室の少女”のレベルが2に上がった。
 
 
────


 度胸 +2。 
 

────


 フウカさん書くの難しすぎ。書くけど。


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