投稿予告を守ろうとした結果(しかも7分ほどで間に合っていない)、なんか中途半端になるのは違うと思うので、自分が宣言する日にちはあくまで目安と思ってください。
いやほら、あれです……実行力なくてすみません。
戒めにここの部分は修正せず残しておきます。
*原作との相違点
・佐伯先生が英語の臨時講師→臨任教諭とし、クラス担任を務めてもらうことに。
拘束時間が増えるよ、やったねゴロウ先生! でもごめんなさい、出番はそんなに増えませぬ。
まるで仕事増加、給与変更なしの昇格のようだ。
まあ教育界の闇が再現されてるとでも思ってください。
で、なんで変更したかって?
最終章までいけば分かる。
美月による杜宮案内が終わった後マイルームへと戻った自分は、身支度をある程度整え直し、迎えが来るのを待った。
十数分の間を置いて、約束の時間にインターホンが鳴る。覗き窓越しに姿が見れたのは、美月と雪村さん。
何でも今回は雪村さんも一緒に移動する……もとい、雪村さんの運転で移動するらしい。秘書じゃなかったのか、雪村さん。などと思ったものの、そういえば昨日自分も送り迎えしてもらっていたことに気付く。
「キョウカさんは私の秘書という役職ですが、それに留まらず多方面で活躍してくださっているんです」
「すごい、優秀なんですね」
「そんな……恐縮です」
少なくとも運転を任されるほどに、運転能力と信頼を得ているのだろう。
多方面で活躍できるとは、それぞれの方面でも需要があるということだ。それに、職場も一流が揃っている中での多起用。それを優秀と言わずにどう表現できようか。
「それではキョウカさん、今日も運転よろしくお願いします」
「お願いします」
「仰せつかりました」
車を取りに行く雪村さんを見送り、美月と2人玄関にて待つ。
そう時間を置かずに彼女は、昨日と同じ車を操縦して戻ってきた。
それに乗って移動すること数分。通る道筋は数十分前に通った帰り道と同じだ。
分かれ道までの場所は先程の案内で分かっている。覚えているかと言われれば別だが……それは今後どうにかできるとして。
取り敢えず今しかできないことをしよう。せっかくだし、美月に色々と質問してみようか……
──select──
杜宮高校はどんな学校ですか?
何で生徒会長に?
>恋人はいますか?
─────
「……何を、いきなり……? 立候補でしたらお断りしていますが……」
「別にそういうつもりじゃないが」
じゃあ何で聞いたんだという視線を向けられている気がする。
好奇心の為せる技だ。とは流石に言えない。言い訳をしなくては。
「生徒会長に社長令嬢って忙しそうだから」
「……楽しんでいますよ。忙しいですが充実もしていますし、色々な方の色々な考えに触れられますからね」
「見聞を広めるという意味で?」
「はい。多くの学生と接するというのは得難い経験ですから」
あくまで仕事優先、という話し方だ。
この分だと友人も居なさそうだが……大丈夫だろうか。
「あの、何か?」
「……別に」
聞いたら怒られそうなので止めておく。友人が居ないようなら、それこそ自分が立候補すれば良い。
さて、他に聞きたいことはあるだろうか。
──select──
>杜宮高校はどんな学校ですか?
何で生徒会長に?
─────
「そうですね……色々な発見がある場所、でしょうか」
「発見……?」
「こればっかりは実際に体験してもらうしかありませんね。うーん、一般的なことを言うなら、風紀が良くて教師の方々も面倒見の良い先生ばかりが揃っています。学友を作ることも大事ですが、大人からも多くを得られると思いますよ」
それはとても良いことなのだろう。
人生の先輩と言える方々が、多くを残してくれる。それは若人にとって間違いなく、成長の糧になるはずだから。
例えその時はわからなくても、後になって生きてくる経験なんかも得られるかもしれない。
縁というものは、誰と結ぼうが何かしらの形で後に出てくるものだ。結べるのなら、良縁を結びたい。
さて、他には何を聞こう。
──select──
>何で生徒会長に?
─────
「一言で言うなら、成りたかったし成る必要があったから、ですね。やりたいこととやるべきことの一致、というものです」
「やりたいことと、やるべきこと」
「岸波君も、例えばやるべきことが一見やりたくない事柄だったとしても、その何処かに意味を見出だしてみてください。色々な人と接することで、多くの価値観が得られると尚良いですね。それがきっと、岸波君の“価値”を高めることに繋がるんだと思います」
価値。
……今の自分には、無い言葉だ。
記憶もなく、経験もなく、資産もなく、人脈もない。
となれば自分は、自分の価値を磨いていくべきなのだろう。
「……そろそろ着きますね」
窓の外を見るミツキが、ぼそりと呟いた。
その言葉に自分も漸く景色に目を向ける。
「はい、岸波様も、降車の準備をお願い致します」
……しまった。曲がり角から前の道を見ていない。
帰りは注意しなくては。
────
──>杜宮学園【校門前】
学園に到着。
改めて見る校舎はとても綺麗だ。
校門前、通学路には桜が咲いていて春を彩っている。
内部も新緑の葉が生い茂っており、昇降口までの道も明るい。さすが、新入生を迎える季節だと言えよう。
そういった景観的要因からか、校舎自体が明るい雰囲気に包まれている。
「ではお嬢様、岸波様、私は車を止めて参りますので、先に校長室へと移動をお願いします」
「分かりました。ありがとうございます、キョウカさん」
「ありがとうございました」
きれいな一礼を見せ、運転席へと戻る雪村さん。
そのまま車を走らせて、校舎の影へと消えていった。
「では、私たちも向かいましょうか。一応2、3年生は授業中なので、お静かにお願いします」
「……美月は受けなくて良かったのか?」
「ええ、授業と言っても、休み明け試験の補習のようなものですから。岸波君も、補習には気を付けてくださいね」
「……善処します」
正直、現状の学力がよくわかっていないので、なんとも言えなかった。
──>杜宮学園【校長室前】。
「では私もこれで。生徒会室でお待ちしていますので、終わったらいらしてください」
一緒に来るんじゃないのか。
そんなことを一瞬考えたが、よくよく考えてみれば、生徒会長が編入手続きに同伴する理由なんてない。
通常、共に話を聞くとすれば、身内──家族や親族が出てくるべきだろう。
しかし、そうなると……自分は? 独りで聞くことになるのだろうか。恐らく金銭面の話も出るだろうから、書面に纏めてもらえれば最善。無理でもメモくらいは取りたい。
……取り敢えず、ここで悩んでいても仕方がないか。
意を決して扉を叩く。
「どうぞ」
男性の低い声が聴こえた。
失礼します、と一声入れてから校長室へと入室する。
内部に居たのは、3人の男性だった。
以前編入試験を受けた時、面接で校長と教頭とは顔を合わせたが……残る1人は誰だろう。
「来たね、岸波くん」
「はい。お待たせして申し訳ありません。岸波 白野です。よろしくお願いします」
「うむ、よろしく。では早速だが、そちらの椅子に掛けたまえ」
誘導されるがままに、応接用のソファに腰を掛ける。
対面にはその3人がそのまま横並びに座った。
人数のバランスが悪い。
「先に紹介をしておこう。こちら、君のクラスの担任を勤める、
「よろしくな、岸波。色々と戸惑うこともあるだろうから、気軽に声をかけてくれ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
担任として紹介された彼と、握手を交わす。
第一印象は、眼鏡を掛けた優しそうな先生。
少し目付きが怖いが、頼りにはなりそうだ。
「もうそろそろ、君の後見人がやって来るだろう。難しい話はそれからにして、少し話でもしようか」
「はい……ん?」
……後見人……後見人!?
聞いていない。
後見人ということは、自分の身分を証明してくれる人。
今の自分には、それに該当する人物が1人しかいない!
コンコンコン、とノックの音が響く。
「おや、噂をすれば……」
校長の呟きに、太くて重い声が返ってくる。
「失礼、こちらに編入する予定の岸波 白野の代理人を務める者だが」
「どうぞ、お入りください」
教師陣が立ち上がる。
慌てて自分も立ち上がった。
入ってきたのは、まさに大物といった風格を匂わせる佇まいで、荘厳さの塊のような顔と、瞳に優しさを携えた方。
その人物の名は──
「遅れてしまい申し訳ない。私は
────
──>杜宮学園【3階廊下】
…………はっ。
いつの間に自分は外に?
「気が付いたかね」
愉快そうに笑う老人が居た。
失礼、老人ではなかった。うん。
北都 征十郎。現北都グループの代表。日本を代表する資産家であるという男性が、目の前にいる。
近い内に会うことになるのは知っていたが、こんなタイミングだとは思わなかった。
「本日はご足労頂き、ありがとうございます」
「うむ。挨拶が遅れて申し訳なかった。これから孫娘を含めて話す為にも移動することになるが、ミツキとはもう会ったかね?」
「はい、今朝町を案内して頂きました。とても接しやすくて、良いお孫さんですね」
「そうか。それは良かった」
口角を釣り上げ、安堵の様子を見せる彼。
風格が違いすぎて少し話しづらいが、気難しい方ということではなさそうだ。
「願わくばこの出会いが、2人とっての良縁となって欲しいと考えていたのだ。立場上、あの子に友人は出来づらく、グループでの働きで多忙な故、誰かとゆっくり過ごす時間も作れていないだろうからな」
「自分に彼女の友人が務まるかは分かりませんが、そうなれる為にも、努力します」
「うむ、励んでくれたまえ。さてと、見えてきたな。あそこが生徒会室だ」
目線を前に向けると、首から入校許可証を下げた雪村さんが、廊下に立っていた。
グループの代表が来るということで、ずっと立って待っていたのだろう。
足音から察知したのか、彼女はこちらを向き、深く一礼し、扉を開ける。
「お久し振りです、会長」
「うむ、キョウカ君も元気そうでなにより。……そして」
体を生徒会室内へ向ける。
彼は孫娘に向かって、優しそうに微笑んだ。
「久しぶりだな、ミツキ」
「はい、お久し振りです、お祖父様」
──>杜宮学園【生徒会室】
「さて、時間が許すなら色々と話したい所だが、私も多忙な身の上、手短に済まさせてもらおう。ミツキも事前に通達が行っているだろうが、同席して聞いてくれたまえ」
それはそうだ。1グループの頭。彼が居ないだけで纏まらない話も多いだろう。
そんななかでも自分に時間を割いてもらっているのだ、これ以上高望みはできない。
「岸波君。君に北都が出資した理由は多々ある。ここでその要因すべてを語ることは、申し訳ないができない。だが、せめて私から1つ言わせてもらうなら、これは君への“期待”の集まりだ」
「期待……ですか?」
「日本国の未来を担う若者の将来を潰さない。というのは勿論だが、それ以上に君には多くを──多くの人が多くの事を望んでいる。先程廊下で語った内容も、私が君に期待する事の1つだ」
美月の、良い友人になることを望まれている、ということか。
期待としては小さいのかもしれない。けれども当人達にとっては大切なことなのだろう。きっと各々の考える大事なことが絡み合った結果、自分は掬い上げられた。
なにも持たない自分に何が求められているのかとか、それが大きな理由によるものでも小さな理由によるものでも関係はない。
期待を向けてもらい、願いを掛けてもらい、その結果として今の生があるのであれば、その生の中で全てに応えるだけだ。
「未来を明るくするという意味でも、期待に応えてもらうという意味でも、君には君の“価値”を高めてもらいたい」
「自分の、価値」
「うむ。誰かと関わり、理解し理解されること。何かを学び、何かに活かすこと。積極的に働きかけ、物事を動かすこと。色々な経験が糧となり、そのすべてが、その人間を構成する価値となる。いいだろうか──」
──人は生きている限り、自分の価値を磨き続けられるのだ。
彼は言う。
歩いてきた軌跡、結んできた絆、培ってきた経験、それらすべてが価値であると。
だから多くの体験をしろ。多くの人と関われ。多くの事に関わるのだ、と。
先程、車内で美月が言ったように。
「君に施す課題は、1つの指針と思ってくれれば構わない。何事も挑戦してもらいたく思う。その為の足場、その為の今だと思ってくれたまえ」
本当に望まれているのは、自発的な課題以上の行為。
課題とはそのまま、最低限の“やらされる事”であり、それが全てではないということだろう。
それはそうだ。未体験の事柄なら、自分から飛び込んだ方が面白いに決まっている。
「想いは決まったようだな。なら最初に今月の課題を示そう。今月は──『同学年で在籍クラスが異なる者かつ異なる部活に所属する者達5人以上と、連絡先の交換を行う』。だ」
5人……しかも、同じクラスの者、同じコミュニティの者を除くという。
多くの人に触れる。まさに、絆を育む為の課題だ。
……これをやらされていると思ってはいけない。
そもそも、多くの友人を作ること、色々な人と話すことは、自分の“やりたかったこと”だろう。
「……引き受けました!」
「うむ、よい返事だ。期待している……さてと、私は行くが、何か聞いておきたいことはあるかね?」
「大丈夫です」
「よし、それでは、報告を楽しみにしている……時間をとれずに済まない。ミツキも、息災でな」
「はい、お祖父様も」
「キョウカ君、後は頼む」
「畏まりました」
見送りは良い、交遊を深める時間に使ってくれたまえ。と優しく微笑んで、北都会長は去っていった。