PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 気付けばこの小説も連載を始めて一年が経っていました。
 まだ作中時間は一月半です。
 なんてこった。




 この作品における誕生日の扱いについてひとつお詫びと注意を。
 実は誕生日について載っている媒体を所持していなく、ネットでたまたま見つけた情報をもとに書いています。適当ですみません。
 間違っていた場合はご一報くださると助かります。
 しかしもし事実と異なっていても今話については投稿してしまった以上、この作品の設定です。で通しますのでご了承ください。

 いやほんと、どの情報誌に書いてあるんだ……






6月1~2日──【マイルーム】誕生日

 

 

 

 

──朝──

 

 

 珍しいことに、朝から来客があった。

 来客自体が珍しい。宅配便なども頼まないし、あっても集金くらいだ。

 そんな中でやってきたのは、単身では本当に久方ぶり、北都グループの雪村京香さん。初対面の時同様にスーツを着こなす彼女は、おはようございます、と一礼した。

 

 

「朝早くに申し訳ありません。どうしても、岸波様に確認しておくことがありまして」

「確認しておくこと、ですか?」

 

 何かあっただろうか。

 成績? いや、補習のことかもしれない。

 ……先手を打って謝罪しておく方が吉か。

 

「あの、すみませんでした」

「……意味も分かっていないのに謝罪をするのは失礼ですよ」

「見抜かれた!?」

 

 もの凄い観察眼。さすが秘書。

 

「お話というのは、今日、6月1日についてなのです」

「今日、ですか?」

「その反応、やはり存じてませんでしたか」

 

 やや残念そうに頭を押さえる雪村さん。

 こほん、と咳払いを一つ挟んで、恐らく彼女が伝えたかったのであろう本題を切り出した。

 

「本日は、ミツキお嬢様のお誕生日であられます」

「……誕生日?」

「はい」

「今日が?」

「はい」

 

 ……何も用意できていない。

 何よりも危惧しなければならないのは、美月が放課後に、誕生日パーティーなどへ参加することだ。会社などで盛大にやるといった内容では、帰ってこない可能性だってある。

 だとすると、今日中にプレゼントを渡すのは不可能に近い。

 

 まあまずは、素直に今日の美月の予定を尋ねよう。

 

「岸波様がお嬢様に会える時間があるとすれば、今夜。5月目標の報告を聞く際かと思われます」

「なるほど、それがありましたか」

 

 そういえばほとんど意識していなかったが……まあ、辛うじてなんとかなっていると言うべきだろう。報告くらいはしっかりと出来そうだ。

 

「なら、その時間までに」

「ええ、何かしらの準備をお願いしたく存じます。……恐らく、対等な友人と誕生日を祝うという経験を、お嬢様はしたことがないので」

 

 それはまあ、友人に誕生日を教えてなければそうなると思いますが。

 いや、自分から聞くべきだったか? 言い出す方がおかしいような気もする。

 

「それでは、失礼します」

 

 

 しかし、プレゼント選びか。

 

 …………誰かに相談してみよう。

 

 

 

 

──放課後──

 

 

────>杜宮高校【教室】。

 

 

 金曜日の放課後は少々騒がしい。明日は学校が休みのため、皆が休日の予定について歓談をしているからだ。しかしそんな中で自分は、ひたすらにサイフォンと向き合っていた。

 

 

『時坂なら九重先生に誕生日プレゼントをするとき、何を考える?』

『なんでトワ姉なんだ。まあ、トワ姉相手なら……事前に欲しそうなものに目を付けておく。あれで結構分かりやすいところがあるからな』

 

 確かに。

 裏表が無さそうな分、読みやすいのかもしれない。もっとも、読んだことさえ読まれてそうな奥深さが彼女にはあるが。

 しかし、自分が祝いたい相手は北都 美月。分かりやすい存在とは決して言えない。友人とはいえ微妙に距離があるままだし。

 

『じゃあ例えば……そう、ユキノさんにお祝いするとかなら?』

『あの人の場合まず誕生日なんて人に悟られ無さそうだが……そうだな、祝いっていうなら普段使ってて違和感無さそうなもので、かつ買わなそうなもの。って所か』

『普段使ってそうなのに、買わない?』

『特売の掘り出し物だったり、限定品だったり。ってな。持ってるのを渡すのが一番相手にとって迷惑だろ』

『それはそうだな』

 

 一点物なんかを選べれば確実だろう。しかし自分にそんな財力はない。財布とはよくよく相談しなければ。

 そもそも彼女の立場上、高めのものはいっぱい貰っているだろうから、逆を突いた方が良いのかもしれない。

 

 他にも、同じ女子から意見を募ろう。

 

『うーん、誕生日に貰って嬉しいモノ……相手にもよるんじゃない?』

『まあ、うん。それは置いておいて。具体的じゃなく、なんとなくこういうタイプのものが嬉しいとかはないか?』

『そりゃあたしならおしゃれグッズとか、他のアイドルのアイテムとか、旅行券とかでも嬉しいカナ』

 

 旅行券……いや、無理だな。そう簡単に用意できるものでもないし、多忙な美月がまとまった休日を確保しようとするなら、かなりの量の負担を掛けることになる。本末転倒も良いところだ。

 アイドルグッズというのも、興味関心の有無が分からないため渡しづらい。

 ただ、おしゃれグッズなるものは良いかもしれない。……と思ったが、美月なら高価なものを揃えていそうだ。こちらも渡しづらい。

 

『うーん、そんなに悩むことかな』

『まあな。誰かの誕生日を祝うのは初めてだから』

『ふうん、じゃあ、何か苦労して用意したプレゼントなんてどう? 感謝の気持ちは伝わるんじゃない?』

『苦労か……』

 

 たった一日で何ができるかは分からないが、何かに挑戦してみるのはアリかもしれない。

 しかし、何かを作るとなると不慣れで間に合わない可能性が出てくる。だとしたら何かの賞品や景品とかか。

 ……いくつか候補があるな。

 

『あ、そういえばさ、誕生日で思い出したんだけど──』

 

 多少の世間話を交わした後、行動に移った。

 

 

 

──夜──

 

 

 

「それで、これ……ですか?」

「ああ」

 

 

 部屋を訪れた、やや整った服装の──パーティードレスとは言わないのだろうが、それでも結構フォーマルな恰好をしている──美月に、大きな袋を渡す。

 その中に入っているのは、巨大な白いぬいぐるみ。

 頭部に青い帽子らしきものを被り、丸い黒目、大きく開かれた口。可愛らしく、やや悪魔っぽいその人形の名は。

 

「特大ジャックフロスト人形だ」

 

 

 

────

 

 

 璃音との話を終えた後、自分は今まで得た知識経験を総動員して、用意できそうなものを考えた。

 

 その結果が、ゲームセンターのクレーンゲーム。

 ということでやってきたのは、以前バイトもさせてもらった、【オアシス】。

 

 次に何をとるのかだが、これは大して迷わなかった。大きいものである。

 小物なら比較的簡単に取れそうで、持ってる可能性があるので、大物一本釣りを選んだ。

 

 大型景品用クレーンゲームの中に入っていたのは、特大ジャックフロスト人形。キングフロスト人形。等身大ジャアクフロスト人形。ジャックランタン3体セットの四種類。

 

 

 500円を使う。

 ……取れない。

 さらに500円を投入。

 ……取れない。

 

 だが、今の根気ならもう少し頑張れる。

 

 1番近い所にある、特大ジャックフロスト人形を、500円を使って寄せていく。

 もう500円を消費して、レバーを操り、タイミングを測る。

 

 

「ここっ!」

 

 

 ──獲った!

 

 

────

 

 

「ということがあった」

「……そう、ですか……」

 

 

 ……あまり嬉しそうじゃないな。女の子は喜ぶと思ったんだけど、ぬいぐるみ。

 

「ありがたく頂戴します、岸波くん」

「……ぬいぐるみ、嫌いだったか?」

「いいえ、そんなことはありませんよ。可愛らしいじゃないですか」

 

 そう言う割にはどこか取り繕ったような笑みだ。

 どうやら気を使わせてしまったらしい。

 ……しかし確かに、パーティに出るような服に巨大ぬいぐるみは、似合わないな。

 

 

 

 

 

 

「さて、先月の目標ですけれども、まずは中間考査、お疲れ様でした。目標も達成できたようで何よりです。まあ約一教科は残念でしたが」

「……ああ」

 

 

 まさか名前を書き忘れて補習とは思わなかった。本当に悔しいの一言に尽きる。

 

「あとは交友目標ですね。他学年の生徒との連絡先交換を5人。達成はできましたか?」

 

 

 指を折って数える。

 1年生のアユミ。マリエ。ヒトミ。

 3年生の寺田先輩。フウカ先輩。

 合わせて5人だ。

 

「その様子だと、達成できたようですね」

「ああ。……一応言っておくと、美月は含んでないから」

「ええ、良かったです。……あ、そうでした」

 

 美月は、鞄から1つの包みを取り出した。

 

「こちら、先月の目標達成報酬です」

 

 

 中に入っていたのは……カエレールと……なんだろうか、これは。

 

「こちらはヒールストーンと言って、再使用に時間はかかるものの、半永久的に使い続けることができる体力回復道具です」

「半永久的?」

「キュアポーションなどといった一般の回復薬は使い捨てで、飲んだら無くなりますよね」

「ああ、飲み物だからな」

「いえ、回復薬を飲み物とは言ってほしくないんですが。……こほん、その他にもカエレールですとか、宝玉などはすべて一度使ったら無くなるものです。ですがこのヒールストーンは違います」

「使ってもなくならないのか。便利だな」

「効果はあまり大きくないので、少し疲れた時に使う程度にしてくださいね」

 

 そんな一気に疲れが吹き飛ぶような道具が無限に使えたら、ミズハラさんも商売上がったりだ。

 ともあれ、便利なものには違いない。ぜひとも使わせてもらおう。

 

「ありがとう、美月」

「いいえ、岸波くんが目標達成した報酬ですから。それに、景品を用意したのも私ではないので、礼を言われるようなことは何も」

 

 胸の前で手を振りつつ、美月は苦笑する。

 そんなに必死に否定しなくてもいいと思うが。感謝しているのは事実だし。

 

「さて、それでは改めて、6月の目標を決めましょう」

「ああ。しかし6月って行事もなにもなかったと思うが。テストみたいな目標は作れそうにないな」

「ええ、残念ながらその通りです。なのでそうですね……岸波くん、少しお部屋にお邪魔しても?」

「? 別に構わないけど」

 

 どうぞ、と扉を大きく開け、美月が入れるようにする。

 彼女は、お邪魔します。と一礼してから中へ。黒のパンプスを脱ぎ、綺麗に揃えてから歩き始めた。

 

「久し振りに入りましたが、変わっていませんね。……失礼なことを言いますと、男性ですし少しばかり散らかっているものかと想像してしまいました」

「時間はあるから、掃除だけはこまめにしている」

 

 もはや趣味のようなものかもしれない。

 いや、掃除を趣味とするには、本気で考えながら取り組んでいる主婦の方々に申し訳が立たない気が。公言するのは止めておこう。

 

「……よし、決めました」

「何を」

「ですから目標ですよ」

 

 何だろう。自分の部屋に何か問題でもあったのか。

 

「新品でも中古品でも構いませんので、テレビを買いましょう」

「……テレビ?」

 

 言われてみれば確かにこの部屋にはテレビがない。しかし、必要だろうか。ニュース等の情報はサイフォンで入手が可能だし。

 

「いいえ岸波くん、それは違います。サイフォンで得られるのは“自分が興味を持っている情報のみ”。他はあったとしても、見出しが記憶に残るくらいの効果しか望めません。そもそもの興味の窓を広げることや、雑学等を得るのにもテレビは有用です。それに、せっかくできた友人たちとの会話の種にもなるじゃないですか」

 

 ……そういわれてみればそうかもしれない。

 いずれ必要なものは買いそろえるつもりだったし、ここで渋れば、『じゃあ北都持ちで買ってあげます』となりそうだ。

 

「岸波くんがアルバイトで貯めたお金を使ってしまうことになりますが」

「いや、どのみちいつかは買うつもりだったからそこは問題ない」

 

 バイト代も基本日払い。中古品なら十分やれるだろう。

 

「その目標にしよう」

「……はい、では6月度の目標は“テレビを所有する”にしておきますね。頑張ってください」

「ああ」

 

 アルバイトにも目標金額ができて良い。差し当たっては明日当たり、相場を調べに出てみるとしよう。新品と中古品なら新品の方が良いが……やはりスターカメラだろうか。

 

 そうして美月は帰っていくのを見送った自分は、そのまま就寝の準備を整え寝室へ。

 テレビのある生活にわくわくしながら、布団を被った。

 

 

 

 

──6月2日(土) 昼間──

 

 

────>駅前広場【スターカメラ】。

 

 

 

 

 

「テレビたっか……」

 

 

 新品の中でも安いものを探すと、まあそこそこ手の届くだろう範囲に収まる。しかし店が推しているような機種を買おうとすると、血の気が引くような値段が目に入ってしまう。

 あんなに気が狂う程働いたゴールデンウイークですら4万円に満たない収入だったのに。

 ……祝日のない6月では、あんなに強引なお金の稼ぎ方はできないだろう。

 とはいえ、毎週日曜日を使うとしても4日分。あの連休と同等の働きは出来そうだ。ならあと数日、学校終わった後や夜にでもバイトを入れれば、6万7万は稼げるのでは。

 それだけあれば、そこそこいいテレビも買えそうだ。

 

 

「……頑張ろう」

 

 

 いつ壊れるか分からない中古品の為に、お金を稼ぎたくはない。

 それに、ここで大金を稼ぐペースさえ作ってしまえば、今後が楽になるはずだ。

 しばらくは頑張ってみよう。

 

 

 

 

 

 




 

 根気 +2。


────



(イメージ)

 レバー操作。アームが動く。少し屈んで角度を注意深く計算し、アームを止めるタイミングを測る白野。
 
「ここっ!」(ペルソナ風カットイン)

 ごとんっ。

「ふっ」(たたらたたったったー)


 ──みたいな。流石に本文中にカットイン云々とか効果音とか入れられないけど、なんとなく伝わればいいなって。


 ちなみに、根気のランクによって上げられるものが変わり、ミツキからの反応も変わります。一番反応が良いのはジャアクフロストをあげた時。喜悦な笑みを浮かべて童心に帰ったような喜びを見せます。多分。


 

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