PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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5月29~30日──【杜宮高校】後輩たちと約束

 

 

 

「6月といえば梅雨だね。梅雨といえば何か……私はカタツムリと紫陽花を思い出す」

 

 そんな語りで始まった今日の化学。紫陽花もカタツムリも化学に関係なさそうだが、果たして。まあ理科教師からの季節的なお話とでも思っておこうか。

 

「誰かに聞いてみるとしよう。では……ククッ、眠そうにしている岸波」

 

 そんなことを考えていたら指されてしまった。

 梅雨か。別に好きでも嫌いでもない季節だが、どうだろう。

 

「カタツムリには別の呼ばれ方があるねェ。マイマイだとか、でんでん虫だとか」

 

 マイマイ、というのは聞いたことないが、でんでん虫なら知っている。有名な童謡にもあったはずだ。歌えというなら仕方ない。やってみよう。

 

「このでんでん虫という呼び方、どのようにして定着したか分かるかい?」

 

 ご、語源!?

 

 

──Select──

  早く出て来いという子どもたちの呼び掛けが浸透したから。

 >カタツムリが雷を連れてくると言われていたから。

  呼びやすいから。

──────

 

 呼びやすいから、ということはないだろう。それならとっくに廃れている。カタツムリはともかく、マイマイの方が呼びやすいし。

 だとしたら、残るは2択。

 早く出て来いというよりは、出てこない虫であることを揶揄って出ん出ん虫と名付けることくらいはありそうだ。とすると、呼びかけの浸透も違うと推測できる。

 梅雨という時期を鑑みれば、雨と雷は自然と増えそうなもの。梅雨の時期に増えるカタツムリ。カタツムリが増えると雷が増える……あながち間違いではないのかもしれない。

 故に、カタツムリが雷を連れてくるという説が、一番正しい気がする。

 

「残念、不正解だねェ」

 

 違うのか。

 ならやはり、出ない出ない虫ででんでん虫か?

 

「この場合の答えは、子どもたちの呼び掛けの浸透が正しい。とはいえ、この場合のでんは、“出ない”の変化系ではなく、“出ろ”などといった命令形の名残によるものだ。そこは勘違いしないように」

 

 そうなのか。どうも耳に残る童謡の歌詞から、出てこない動物というイメージが結びついてしまっている。

 てっきり理科の授業だし、気候に絡めてくるのかと勘繰ったのもあるのだが。

 

「まあ、ただの雑談だがね。さて、授業を始めようかねェ」

 

 ……本当にただの雑談だったらしい。

 

 

 

──放課後──

 

 

────>杜宮高校【補習室】。

 

 

 授業が終わり、今日も今日とて補習だ。

 最初は毎日補習と説明されていたものの、詳しく聞いてみれば、1週間という期間内は毎日、ということだったらしい。

 つまりは残り4日。誰かと何処かへ遊びに行けるような時間帯には解放されないものの、買い物をして帰るくらいの余裕だけがあるこの期間は、あと4日で終わるのだ。

 それに案外、この時間もそこまで苦ではない。昨日は課題が簡単すぎて暇を持て余していたものの、今日は先生の宣言通りに少し工夫を凝らしたプリントが出題された。

 とはいえ前回のテスト範囲以前の学習内容。次回の試験で優位に立てるような問題はなさそうである。

 

 しかしこうなると、もう少しまとまった時間が欲しいな。

 こうして学校の用事に追われていれば、放課後満足に動くこともできない。部活も交友も労働もできないとなっては、少し物足りなさを感じてしまうものだ。

 ……夜のバイトでも探すか。

 いかがわしい意味ではない。以前行った総合病院の清掃もそうだし、他にも探せば色々あるのではないかと思う。勿論、未成年で働ける範囲で、だが。

 

 そうと決まれば今日は帰りにバイト探しをしよう。

 

「どうした岸波、手が止まっているぞ」

 

 

 ……集中して勉強できた気がする。

 

 

 

 

──夜──

 

 

────>【マイルーム】。

 

 

 さて、夜のバイトと言って瞬時に思い浮かぶものといえば、昼にも考えた杜宮総合病院の清掃バイト。しかし、どのようにして連絡を取ろうか。前回の神山温泉のように、現地に行って直接、というのはよろしくない。清掃を請け負っていたのは別会社の可能性も一応あるし。

 あ、そうか、ユキノさんに話を通してもらうようお願いすれば──

 

「……ん?」

 

 サイフォンが鳴る。誰かから連絡が来たらしい。

 電源を入れて確認すると、恐ろしい名前(ユキノさん)の表示が。

 

『青年、もしまたバイトがしたくなったら、いつでもうちに来なさい』

 

 ……なんてタイミングだ。時坂が恐れる理由も分かる。こんなこと毎回起これば、いくら親切心でも怖いだろう。

 いや、わざわざ連絡してくれるのはありがたいことだが。

 そう考えてみると、とても優しい人なのではないだろうか、ユキノさん。なんだか恐怖も薄れてくるというもの。

 取り敢えず行くなら明日だな。速い方がいい。

 なら今日は……勉強でもしようか。

 

 

 

 

 

 

──5月30日(水) 放課後──

 

 

────>杜宮高校【補習室】。

 

 

「あのぉ、なんで昨日連絡くれなかったんですかぁ?」

 

 補習が終わり、帰り支度をしている途中、不意に声を掛けられた。

 顔を上げると、そこにはいかにも不機嫌そうな1年生の女子が居る。

 確かそう、名前は──

 

 

──Select──

  マリー。

 >マリエ。

  マリカ。

──────

 

 

「……覚えてくれてありがとうございますぅ。で、何で連絡くれなかったんですかぁ?」

「何でも何も、約束していなかっただろう?」

「はぁ?」

 

 意味が分からない、と首を傾げられる。

 こちらも取り敢えず、首を傾げておこう。

 

「マリエ、終わっ……なにしてるの」

 

 黒髪の少女が一昨日同様迎えに来た。そして自分とマリエを交互に見た後、自身も首を傾げる。

 ……収拾がつかなくなったな。

 

「あ、ちょっと聞いてよヒトミィ」

「なぜ昨日連絡を寄こさなかったのかと詰め寄られているところだ」

「へえ、何で連絡しなかったんですか」

「昨日するという約束もしてないし、特に連絡するような事項もなかったから」

「……え、じゃあマリエはなんで怒ってるの?」

「連絡がなかったからって言ってんじゃん。……え、あたしが悪いカンジ?」

「話聞いてる限りはね」

 

 とはいえ、納得がいかないのか、しきりに首を傾げる彼女。

 そんな彼女をヒトミは連れ出し、小声で何かを話し始める。するとみるみる内にマリエの顔が晴れていき、話し終わる頃にはヒトミの方が不機嫌そうになっていた。

 

「そのぉ、センパイ、ごめんなさい」

「あ、ああ、気にしなくていい」

「ありがとうございますぅ。それでぇ、お願いがあるんですけどぉ」

 

 お願いの内容を纏めると、どうやら“週に1度は佐伯先生の様子を報告してほしい”らしい。そのうえで、面白いエピソードなどがあれば逐一教えて欲しいとのことだ。

 それを聞き、漸くマリエが詰め寄ってきた理由を察する。彼女は毎日報告が来るものだと思っていたのだろう。彼女の持つ熱量はすごい。気付かなくて申し訳なかったな。

 

「分かった。これからは一週間毎に報告させてもらう」

「その、あたしからもよろしく」

「ああ……その、ありがとう」

「別に礼を言われることはしてないし」

 

 そっぽを向きながらヒトミは答える。少し顔が赤かった。

 

 ……少しだけ彼女たちのことが分かった気がする。

 

 

 

────

 我は汝……汝は我……

 汝、新たなる縁を紡ぎたり……

 

 縁とは即ち、

 停滞を許さぬ、前進の意思なり。

 

 我、“悪魔” のペルソナの誕生に、

 更なる力の祝福を得たり……

──── 

 

 

「ヒトミ、そろそろ帰ろー」

「あ、うん。それじゃセンパイ、また」

「ああ、また」

 

 

 教室を出ていく下級生たちを見送り、自分も次の行動へ移るべく帰り支度を再開した。

 

 

 

────>レンガ小路【ルクルト】。

 

 

「あら、遅かったわね、青年」

 

 特に約束とかはしていなかったはずだが、さも自分を待っていたかのように出迎えの言葉が掛けられた。ひょっとして昨今、約束してないけどした体で振る舞うのが流行っているのだろうか。

 ユキノさんは相変わらず気怠そうな雰囲気を醸しており、少し怪しさが増していた。得体の知れなさはベルベットルームの2人レベルかもしれない。

 

「こんにちは、お久しぶりです」

「ええ、久しぶり。それで、今日来たということは、昨日のメールの件で良いのかしら」

「はい。その件で少し」

 

 自分が今、夜にできるアルバイトを探していることを伝えると、彼女は特に合間を挟まずに軽く頷いた。

 

「そう。今すぐに紹介できるとしたら、病院清掃か倉庫整理くらいかしら。接客が含まれるものは基本的に少年の方へ紹介しているから、案件が残ってなくてね」

 

 少年、というのは時坂の呼び名だったか。

 確かに接客系の仕事でよく見かけた気がする。何故彼は来客対応のある仕事を中心にしているのだろう。

 

「じゃあ、病院の清掃をやりたいです」

「分かったわ。今後、夜にバイトがしたくなったら一言連絡しなさい。こちらから繋いであげる。仲介料は取るけどね」

「よろしくお願いします」

「あら、いくら取るかは聞かないの?」

「……何割くらい取りますか」

 

 紹介してもらう立場なので聞かないつもりだったが、よくよく考えてみれば確認しておくべきことだ。必要があれば断らないといけない。大丈夫だとは思うが。

 尋ねてみると、ユキノさんはそうね、と考え込み、指を1本立てた。

 

「これでどうかしら」

「……1万?」

「1割。というか、青年が何割か聞いたんでしょう」

「……それだけでいいんですか」

「高校生のバイト代なんて高が知れてるもの」

 

 そういうものなのだろうか。てっきり高くて3割程だと思っていたが。

 まあ安く済み、お互いに納得できているなら、それに越したことはない。

 

「では、それでお願いします」

「承ったわ。今日は取り敢えずそのまま病院へ行きなさい。話通しておくから。場所は分かるわよね」

「大丈夫です」

 

 そ。なら早く帰りなさい。と少し笑って告げるユキノさん。

 確かに補習、後輩たちとの会話。そして寄り道。結構な時間が経っている。日も隠れ始めてしまった。バイトのことも考えれば、そろそろ行動を切り上げるべきだろう。

 

「では、今日はありがとうございました。これからよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ。またいらっしゃい。客としてもね」

 

 自分がアンティークを買う姿を想像しようとして、しかしうまく思い浮かばず、ただ善処しますとだけ返しておいた。

 

 

 

 

──夜──

 

 

────>杜宮総合病院【廊下】。

 

 夜の病院で、もくもくとモップ掛けをする。

 やや暗いが、それよりも人気がないことの方が気になる。一応病室には患者が泊っているはずだが、もう寝ているのだろうか。

 せっかくだし、丁寧にやろう。

 

 ……特に何事もなく3時間の仕事を終える。

 バイト代、2700円を手に入れた。

 

 

 今日はもう帰ろう。

 

 




 

 コミュ・悪魔“今時の後輩たち”のレベルが上がった。
 悪魔のペルソナを産み出す際、ボーナスがつくようになった。


────


 知識 +2。
 根気 +2。
 >根気が“諦めの悪い”から“粘り気のスゴイ”にランクアップした。


────

選択肢回収


────
54-2-1。

──Select──
 >マリー。
  マリエ。
  マリカ。
──────

「日本人じゃなくない!? ……こほん、そんなぁ、センパイ酷いですぅ」
「日本人だったのか」
「いや、これ染めてるだけだし。コイツもしかして天然……間違えたかな」


 →ぶりっ子が終わります。敬語もなくなります。


──────



 悪魔コミュ、対象はマリエとヒトミ。両方です。
 異性コミュで、対象は2人。2人とも女性です。
 つまり……?


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