PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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5月28日──【杜宮高校】深読みしなかった少年と深読みしてしまった少女とある意味純粋な少女

 

 

 

 

 思うに郁島さんは、自分で自分を傷つけてきたのではないか。

 武道家としての彼女は、誰かに頼ることを是としなかった。ただ迷惑を掛けることを拒んだのだろう。

 だから、逃げるしかなくなった。1人で解決できないからこそ深みに陥ったのに、それを自力でどうにかしようだなんて、土台無理な話だ。

 だが、それも彼女の美徳なのだろう。

 郁島さんは、決して尖った感情の矛先を他人へと向けず、内々で処理しようとした。自分で自分を殴っていただけで、その拳は終始他者へ向けられることはない。

 それどころか、逃避した先に選んだ答えでも、誰かを拒絶することはなかった。友人と料理をし、ショッピングへ行き、日々を共にする。そんな有り触れた友人との時間を、彼女は求めたのだ。

 

 

 

 

「どうした岸波、考え事か?」

「いいえ、大丈夫です」

 

 

 

 例えば自分の為にしか戦えない人もいれば、他者の為にしか拳を握らない人もいる。人を守るために拳を握ることがあれば、何かを壊す為に手を使うこともあるだろう。

 時坂、相沢さん、郁島さんと武道家たちに触れてきたが、それぞれ違う信念を持って拳を振るっているのが分かった。その信念が何なのか、理解できたとは到底思えないが。それを知るには共に過ごす時間が足りない。その人の思考や成り立ちを知って、ようやく掴めるようなもののような気がする。

 

 ……信念、ね。

 自分は、誰の為に戦っているのだろうか。

 ──自分の為、なのだろう。

 しかし、本当にそれで良いのか。

 自分の為に戦うのが悪いことだとは思わない。例えば璃音。彼女は自身の夢や目標の為に戦い、努力をしている。高い目標に付随した努力が、悪いものなわけなかった。

 一方で時坂なんかは、誰かを救うために行動しているように見える。勿論これが悪いとも思わない。世間的には称賛される行為だろう。

 結局大事なのは、理由。

 誰の為に拳を振るうかではなく、何のために拳を握るか、という話だ。

 ……今度、璃音に相談してみようか。

 

 

「岸波、手が余ってるなら課題を足すが?」

「いいえ、本当に結構です」

 

 とは言ったものの、実際手持無沙汰ではある。窓の外を見ながら考え事に没頭するくらいには暇と言っても良かった。

 補習のシステムは授業と言うより、課題プリントを用いた自主学習中心。聞きに行けば教えてくれるものの、補習者対象ということもあってか、聞く必要のある問題も少ない。

 手元にある問題は既に終わった。もう提出してしまおうか……

 

「ん、早いな岸波。流石だ」

「何が流石なんですか?」

「いや、お前は事情が事情だしな。とはいえ規則は規則。補習期間中は全日参加してもらうことになる」

「まあ、自分が悪いですから」

「せめて明日はもう少し難易度を上げた課題を用意するとしよう」

 

 そう言ってもらえるとありがたい。明日に期待しよう。

 

「残り時間は自習でもしていてくれ」

 

 ……まあ、そうか。流石に課題が終わったからって帰れないよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねーゴロウ先生、この後ヒマぁ? あたし、ちょぉっと個人的に相談があるんですけどぉ」 

 

 補習を終え、教室から出ようとした時、女子生徒の声が聴こえてきた。

 髪を明るく染めた女子生徒と佐伯先生の会話姿が目に入る。

 

「はは、悪いがまだ仕事が片付いていなくてな。授業の質問程度ならこの場で答えてやれるんだが。それじゃあ、気を付けて帰るんだぞ」

 

 女子生徒の誘いを軽く躱して、教室から立ち去る佐伯先生。

 なんというか、余裕のある立ち振る舞いだ。

 

「あーん、ゴロウ先生、ホントにイケズ……」

「──マリエ、終わった?」

 

 先生と入れ替わりで教室へ入ってきたのは、どこか冷淡そうな印象の黒髪の女生徒。

 どうやら、補修対象者だった友人を待っていたらしい。

 マリエと呼ばれ、反応したのは、先程佐伯先生に声を掛けていた金髪の女生徒だった。

 

「あー、うん。終わったぁ。マジで疲れた」

「お疲れ。でもわざわざ補習になることなかったんじゃない?」

「良いの! だってゴロウ先生に教えてもらえるんだし!」

 

 ? 佐伯先生、もしかして校内では有名な英語教師だったりするのだろうか。確かに教えるのはとても上手だと思う。なるほど、その実力を見込み、わざわざ補習になってまで教わりに来る勉強熱心な生徒もいるのか。

 凄いな、見習わないといけない。

 

「あ、そだ。1つ用があったんだ……っと、いたいた」

「……マリエ?」 

「あのぉ、岸波先輩、ちょぉっと良いですかぁ?」

 

 長居するのも良くないし、そろそろ教室から出ようかと考え始めていると、背後から呼び止められた。

 振り返ると、いつの間に近寄ったのか、髪を明るく染めた方の女子生徒──マリエの姿が目に入る。

 

「先輩ってぇ、ゴロウ先生のクラスの生徒なんですよね?」

「ああ、そうだが」

 

 ……待て。これはあれだろうか。『お前ごときがなんで!』という類の──そう、果たし状を叩きつけられるやつ。あ、女子なら果たし状より手袋を投げつけるんだっけ。……いや、手袋してないな。

 さてどうしたものか。取り敢えず、武力を置いた話し合いでの理解を求めるべきだろう。相手はシャドウじゃない。人間なのだから。

 

「クラスなら代われないぞ?」

「はぁ?」

 

 ……反応からして、どうやら違ったらしい。

 しかし喧嘩を売りに来たのではないとしたら、何の用だろう。

 

「ちょっとマリエ……!」

「イイからイイから。あのぉ、先輩にお願いがあってぇ」

「お願い?」

 

 初対面の自分に、何を頼みたいと言うのか。

 

「普段のゴロウ先生の話とか、聞きたいんですよ。授業中何話してたとか、そういう他愛ないコトで良いんで、教えてくれませぇん?」

 

 ……はっ!

 つまり、佐伯先生の心を解して、いろいろ教えてもらう作戦か。

 親しい相手の相談ならば断われない。その上、彼女が求めるのは教師という職に何も反していない内容。なし崩し的に聞いてもらえる確率が上がる。

 なんて賢い案なのだろう。そういうことなら、ぜひ協力してあげたい。

 

「わかった。自分にできることなら」

「しっ! ……こほん、じゃあコレ、アタシの連絡先なんで、気楽に教えてください。あ、プライベートな話はお断りなので」

「プライベート? まあ分かった」

「じゃあよろしくお願いしまぁす。んじゃヒトミ、どこ寄ってく?」

「ちょっと待って先行ってて」

「はぁ? まあイイケド、なるはやね」

 

 そんな会話を交わし、教室から出ていく派手な方の一年生──マリエ。

 残ったのは髪色だけ見れば地味な方の一年生──ヒトミという名前らしい少女。

 

「えっと、さっきはマリエが悪かったね。あの子、強引なとこあって。断っても良かったのに」

「いや、あんなに真面目な子の頼みは断れない」

「真面目? まあ直情型というか、素直ではあるのかも。……けど、ふうん。センパイ、結構イイ人なんだ」

「そうか?」

「多分ね。ホントに下心とか無さそうだし。あ、コレ、あたしの連絡先。あの子が迷惑掛けることがあったら連絡頂戴」

「仲良いんだな」

「まあ、ね」

 

 連絡先を交換し合い、サイフォンをポケットにしまう。

 丁度その時、廊下からヒトミを呼ぶ声が掛かった。

 

「あ、そろそろ行かないと。それじゃセンパイ、じゃあね」

「ああ、また」

「──そう、だね。じゃあ、またね」

 

 ……?

 なんで今、ヒトミは言い直したのだろう。

 ……まあ良いか。恐らく、聞いてわかることでもない。

 

 さて、まだ時間はあるが、疲れたしそろそろ帰──る前に、寄るところがあったな。

 

 

────>【駅前広場】ウィークリーくじ。 

 

 

「おや、いらっしゃい。換金だね。ちょっと待ってな」

 

 やって来たのは、先週買ったくじの当選確認。

 受付の女性に前回購入した5枚を渡し、告げられる結果を待つ。

 確か全部で1500円したんだったよな。元が取れてると良いんだが……

 

「お待たせ、結果出たよ」

 

 順に確認していく。

 1枚目……100円。

 2枚目……10000円。

 3枚目……1000円。

 4枚目……100円。

 5枚目……100円。

 

 ……1万……1万!?

 

「おめでとう、一等1枚、二等1枚、三等3枚で11300円だね」

「……や、やった……!」

 

 元を取るどころではない。大きなリターンだ。

 これは……来週の分も買うしかない!

 

「また5口ください!」

「まいど!」

 

 思わず頬が緩みそうになるのを我慢しつつ、改めて帰路に着く。

 ……いや、そういえば前回は当選祈願で神社に行ったのか。

 今回も行っておくか?

 

 

──Select──

 >行く。

  行かない。

──────

 

 

 こうして大金を得られたのも、おみくじで吉を引いたおかげだ。

 今回も行っておこう。

 

 

 

 

────>【九重神社】境内。

 

 

 

 

「……き」

 

 凶だった……!

 

「……おみくじって、何回まで良いんだったか」

 

 そもそも引き直しとか許されるのだろうか。

 いや、でも、縁起が悪いままではいたくない。

 さて、どうしたものか。

 

 

──Select──

 >引く。

  引かない。

──────

 

 

 ……引こう。このままじゃ、終われない。

 巫女さんにもう一度声を掛けて、新しいおみくじを賜った。

 心を込めて、いざ。

 

「…………大、凶?」

 

 しかも、金運:悪し。と書かれている。

 これは、一度目のおみくじを信じなかった罰なのだろうか……

 

「……帰ろう」

 

 これ以上は駄目な気がする。

 明日また出直そう。

 

 

 

─────

 

 

  

 さて、寝るまで少し時間が空いた。

 久し振りに読書をしようか。確か“世界のグローバル企業”が途中だったはず。

 

 前回読んだときは日本企業を中心として読んだが、次は世界各国の企業頁へ目を通そう。

 ……全然知らない企業ばかりだ。言われてみれば名前を見たことがある程度。それでも、専門店へ行かなければ目にもしないようなメーカーばかり。

 それでも、その筋では確固たるファンを獲得しているからこそ、こういった雑誌にも載るのだろう。彼らが自社製品に掛ける想いや熱意が、文を通して伝わってきた。

 少し視野が広くなったことで、自分の魅力が増した気がする。

 本にはまだ続きがあるようだ。また後日、読むことにしよう。

 

 

  




 


 魅力 +2。
 
 
────


 誰だガチャ運Aとか書いたヤツ。
 あ、これは私の友人の話ですが、ガチャは出るまで回せばハズレって存在しないから、つまり絶対に当たるんだよ。爆死とか存在しない。と言っていました。狂気を感じました。
 岸波白野は同じことを永遠に繰り返せるような根性の持主です。つまりその結果がガチャ運Aに結び付いたのでしょう。
 ガチャ運A(出るまで続行)って感じで。
 数発で狙ったものが出る人は、ガチャ運A(真)。
 狙った獲物が来ずにすり抜ける人はガチャ運A(偽)。
 みたいな。
 またどうでもいい内容を載せてしまった。


 なんとなく選択肢回収。


────
 53ー1ー2

──Select──

  行く。
 >行かない。

──────

 そう何度も神様に頼る訳にもいかない。
 今回はこの勢いに任せていこう。大丈夫だ、きっと当たる。


 →何も大丈夫ではない。




────
53ー2ー2
──Select──

  引く。
 >引かない。

──────


 駄目だ。おみくじは一応、神様からのお告げやご助言のようなもの。
 貰い直しなんて以ての外だろう。
 仕方ないので踵を返す。
 境内の出口へと向かいながら、詳しい中身を読んでみた。

 心して読んだものの、大した内容は書かれてなかった。てっきり寿命:短し。とかもあると思ったが。
 まあ何より目を奪ったのは、金運:良いというただ数文字。
 もしかすると、もしかするのでは……?
 来週が楽しみだ。


 →普通に当たる。



────




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