ザナドゥは料理音痴がいないから、某竜の娘的なデスコースやP4のムドオンカレーみたいなものは出せないのである。
フラグではない。
ただし麻婆は除く。暫く出番ないですけどね。
「せっかくですし、時間まで杜宮を案内しましょうか?」
朝食を済ませ、部屋に戻ろうとしたときに出された提案。美月の好意に甘え、一通り案内してもらうことになった。
車は使わず、歩いて移動ということになる。
申し訳なさそうに言われたが、寧ろ当然だと思っていたことに申し訳なくなった。
「それでは岸波くんは編入試験まで、ずっと勉強漬けで?」
「幸い、本を読むのは好きだったみたいで。入院中はリハビリのない時間ずっと本を読んでいたくらい。時たま普通の勉強もしたが」
特に、伝記や創作の類いが面白い。正直半分以上それらを読むのに時間を割いたと思う。
「普通、逆では……?」
「…………」
聴かなかったことにしよう。
「……一応、成績にもノルマは設けられると思いますから、勉強はしておいてください。可能な限り手伝いますから」
結構です、と言えないことが辛かった。
存外に自分はやることが多いらしい。
勉強をしつつアルバイトをこなし、グループの手伝いもするのだ。
……表現してみると案外大したことのない事柄な気がする。そこら辺は手応えを得たこともないので、手掴みでやっていくしかない。
そうこうしているうちに、最初のスポットへ着いたようだ。
────
──>【杜宮商店街】
南側から一周して杜宮記念公園へと戻り、少し休んで学校へ行くという本日の流れ。
おおまかに主要な場所。特に買い物をするのに大切な場所を順に当たってくれるらしい。
こういう時、現地住人の協力は大きいなと感じた。
「ここは杜宮一大きい商店街です。八百屋や精肉店、駄菓子屋にスポーツショップなどが並んでいます。他にも文房具屋、金物屋、新聞社……奥には老舗のお蕎麦屋さんなんかもありますね」
「そうか。美月はよくここに?」
「最近はあまり。以前はよく来ていたんですけどね。そもそも私が杜宮に来たのも、5年程前のことですから」
「5年前……」
事情は、聞かないでおこう。
今後仲良くなってからでも良い。彼女の立場も少なからず関係しているだろうし、信用を得てからの方が美月も話しやすいはずだ。
商店街は朝早いにも関わらず活気に溢れていた。特に八百屋の男性が声を張り上げている。通りを歩く小学生に精肉店の女性店員が声を掛けていたりと、どれも日常的な光景で、暖かく感じる。
「良い場所だね」
「ええ、本当に……少し見て回ったら、次の場所へ行きましょう」
美月自身が久しぶりと言っていたものの、実際に歩くと声を掛けられていた。結構な知名度……という訳ではない。きっと彼女自身ここを好きだったからこそ、受け入れられた結果なのだろう。
流れで自分の名も紹介される。初対面だが笑顔で会話を続けてくれ、何人かはサービスということで色々持たせてくれた。
マイルームからは位置的に結構離れているものの、ここを訪れる機会は多くなりそうな気がする。
────
──>【
駅前広場を経由し、次に訪れたのは七星モールという名の大型ショッピングモール。新装開店のポスターが張られており、『個性派ショップ七つ星☆』というキャッチコピーも書かれている。
「この時間帯はまだ開いていませんが、内部には輸入雑貨店やジュエリーショップなどを始めとし、ミリタリーショップ、ジャンクショップ、模型屋、コスプレ屋にアニメグッズ専門店など、趣味関係の道具を揃えるのに向いた店舗が揃っていますね」
「趣味……」
自分は以前、何が趣味だったのだろうか。
色々と趣味を持てば、息抜きができるのは勿論、人間関係の構築にも役立つだろう。金銭的にも時間的にも余裕が出てきたら、色々と取り組んでみたい。
「ちなみに美月の趣味は?」
「私ですか。うーん、残念ながら趣味と呼べる程のものはないかもしれません。強いて挙げるのなら、誰かとお茶をするのは好きですね。岸波くんも、宜しければ今度またご一緒に」
「喜んで」
お茶か……やはり彼女程の人間が飲むお茶やお菓子は、どこかの国の有名なやつだったりするのだろうか。
そういえば、そこら辺の知識にはそこまで明るくない。
他国の郷土料理なら通じていることには、通じているが。これも、彼女の側で過ごすなら得ておきたい所。
「さて、次の場所に行きましょうか」
────
──>【レンガ小路】
道中の分かれ道を直進し、レンガ小路の方へと足を伸ばした。そこで右折すると自分の通う【杜宮学園】に辿り着くらしいが、そこは後に改めて、という方針らしい。
それはさておき、レンガ小路について。
小綺麗な町並み。なるほど、床にレンガが敷き詰められているのか。故にレンガ小路。名称としてはとても分かりやすい。店や家などの外装も基本的にレンガで構成されているようだ。統一感があり、かつ色とりどり。お洒落で落ち着いた感じが魅力的に感じる。
「ここにはフラワーショップやブティック……アンティークショップや珈琲店などもありますね」
色々な意味で商店街とは客層が分断されていそうだ。
落ち着いて軽食をとったり、たまの贅沢をするのにここは使えるかもしれない。
「さて、ここまでで何か質問などはありますか?」
「いや、大丈夫だ。本当に助かった、ありがとう」
「礼には及びませんよ。では戻りましょう」
ちょうど良い時間ですし、と笑う美月。
確かに、約束の時間まで残すところ1時間強と言ったところだった。
彼女自身も学園に赴くだろうし、身支度を踏まえるならばそろそろ戻り時だろう。
ついに学校か。
帰路に着きながら、予想も付かない今後のことについて、色々な思いを巡らせてみた。
たった数時間の探索だったが、自分にないものの確認には充分すぎる刻だろう。
だが、今感じ取ったのは“やりたいこと”。“やるべきこと”については、これから思い知っていくはずだ。
その2つを照らし合わせて、今後の指針を考えよう。
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