PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 日常回。


5月21日──【教室】(ネタバレ)おみくじはスゴい……

────

 

 

 夢を見た。

 目的のない旅の夢だった。

 

 

 心は定まらず、しかし時は流れゆき。

 多くの者に迷いを突かれて、それでも少年は先へと進む。

 罠にはまっても、不意打ちを受けても、旅の終着点にすら疑問を抱いても、その歩みは止まらない。

 信頼するパートナーと共に幾多の困難を乗り越えていくその姿からは、何か感じるものがある。

 

 そして、敵対しているらしい相手からも、得るものがあった。

 敵は、老人だった。老兵と呼んだ方が良いのだろうか。

 ──己に誇れる生き方で、夢を掴むからこそ、価値がある。

 彼の瞳は、そんな信念を背負っていた。

 

 

 己に誇れる生き方。

 経験も記憶も、確立した“己”すらない岸波白野は、胸を張って生きられるような信念を持ち合わせているだろうか。

 夢の中の存在(キシナミハクノ)は、どういった答えを出したのだろう。

 

 

────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──始業前──

 

 

 椅子に座り、ホームルームの開始を待っていると、サイフォンが静かに振動した。

 グループチャットに、書き込みがある。

 

『この前話に出たソラの両親について調べたぞ。共有しておきたいことがある』

 

 時坂の、郁島さんの両親についての報告だった。

 

『昨日連絡とったんだが、ソラは16日に両親へ電話を掛けていたらしい』

『というと、失踪の2日前ね』

『で、どんな内容だったの?』

『母親とは、“高校1年生の頃は何をしていたか”って話で盛り上がったらしい。で、父親とは“自分にどうなって欲しいか”で揉めたらしい』

 

 親と、揉めたのか。

 郁島さんの持つ理想と、親が持つ理想が離れていったとか、そういうことか?

 

『ソラの母親に聞いた話なんだが、父親は別に何も言わなかったそうだ』

『言わなかった?』

『『それを見つけるのも、修行の一環』だと』

『あー……そういう』

『何か分かったのか、久我山』

『うん、まあ……でも言葉にしづらいかも。とにかく、もう少し情報を集めてから言いたいかな』

『そうか』

『時坂君、ありがとう。この調子で情報を集めましょう。岸波君、異界に挑むのはまだなのよね?』

『少し待ってくれ』

 

 今の情報で、彼女の悩みに向き合えるかどうかは分からない。

 だが、異界攻略と言っても踏破するのではなく、軽い探索くらいなら修練も兼ねて行った方がいいか?

 ……そうだな。

 

『明日、途中で引き返すことを前提に入ってみよう。時間は大丈夫か?』

『オレは大丈夫だ』

『私も』

『わたしも!』

『それじゃあ放課後、空き教室集合で』

 

 ちょうど始業のチャイムが鳴り響いた。

 サイフォンをポケットに仕舞う。今日も1日頑張ろう。

 

 

──昼休み──

 

 

「おーい、テストの結果が張り出されてるぞ!」

 

 昼食中、そんな大声が聴こえてきた。

 先週行った中間テストの点数や順位が廊下に張られているらしい。

 行ってみるか。

 

 

 

 

────>杜宮高校【廊下】。

 

 

 人混みの中、自分の名前を探していく。

 ──あった。120人中48位。

 赤点科目──英語。

 

 

 

「……ん? 赤点!?」

 

 

 ど、どういうことだろうか。しっかり解けたはずだが。

 英語は担任の佐伯先生が担当している。行けば解答用紙を見せてもらえるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

────>杜宮高校【職員室】。

 

 

「ああ、岸波。丁度良かった」

「先生……」

 

 眼鏡の似合う教師、佐伯先生が自分の教務机に座ったまま、2ーDと書かれたファイルを漁る。

 そして、1枚の紙を渡してきた。

 

 自分の解答用紙。目にするのは1週間ぶりか。

 回答は一通り埋まっているが、点数の所には小さく0と書かれている。

 

「まさか自分の担当するクラスから0点が出るとは思わなかったぞ」

「自分も思わなかったです。解けてると思ったんですが」

「まあ確かに少しではあるが解けてはいたな」

「え、それならなんで0点に?」

「何でって、解答用紙の最上部をよく見るといい」

 

 最上部にあるものへ、順番に目を通していく。……不自然な空欄が、1つだけあった……

 

「……もしかして」

「ああ、名前の書き忘れだ」

 

 眼鏡をくいっと上げて苦笑する先生。そんなかっこいい動作をしてないで、点数をください。

 

「ちなみに、名前を書いていたら平均点まであと少しな点数はあったな」

「……ちなみに、赤点ってどうなるんですか、処分とか」

「ああ、来週から放課後毎日、補習だ」

 

 あんまりだった。

 規則は規則らしい。

 転入したてだから許してほしいと訴えても、どこの学校でも何の試験でも名前を書き忘れたら0点だろ、と言われて、納得してしまった。至極その通りである。

 しかし、平均点より少し低い程度の点数は取れていたのか。結構頑張れたな。

 ……補習か。学校の先生が授業時間以外にも講習を行ってくれると思えば、別に良いか。成績としては期末との合計で判断されるらしいし。

 

「他に何か聞きたいことはあるか?」

「いいえ、大丈夫です」

「そうか、じゃあまた後でな」

「はい、失礼しました」

 

 職員室を後にする。

 ……いろいろ頑張らないとな。

 

 

 

──放課後──

 

 

────>杜宮駅【駅前広場】。

 

 

 今日は自分の足を使って、色々な場所を回ってみよう。何か新たな発見があるかもしれない。

 そう思い、まずやって来たのがここ、駅前広場。単純に人通りが多い所で、杜宮市が東京都内であることを強く認識できる場所でもある。

 ここにある店と言えば、オリオン書房、さくらドラッグ、スターカメラくらいなものだ。一度下に降りればMiSETANやAKASIMAYAといったデパートへも行けるが、どうしようか。

 周囲を見渡す。ギターを弾いているアロハシャツの男性を見つけた。どこか見覚えがあると思ったが、よくよく思い返すと、杜宮に来た初日に彼とは話をしている。

 ……ああ、転居初日といえば、あそこも訪れたな。

 

「こんにちは」

「おや、いらっしゃい」

 

 愛想のいいお婆ちゃんが窓口に座っている。

 これも、あの時と同じ光景だ。

 

「見ない顔だけど、学生さんだね。“ウィークリーくじ”買うかい?」

「はい」

 

 向かったのは、宝くじ売り場。

 宝くじには年齢制限が確かなかったから買えるはず。前に訪れた時も、お婆ちゃんは学生にも売っているくじを教えてくれたしな。

 

「ひょっとして、買うのは初めてかねえ?」

「そうですね。何か注意事項とかが?」

「注意事項って程じゃないけど、ほら、アタリのシステムとかについては知っておかないとだろう?」

 

 確かに。買って終わる訳じゃないしな。

 

「ウィークリーくじの特徴は、1週間毎に新しいのが販売され、前の週の当選結果も分かるところさ。今買えば来週の月曜日には何等が何枚あったのかが分かるよ」

「なるほど。1枚いくらですか?」

「300円。最大の5口まで買うなら、合計で1500円だ。ちなみにくじの結果は3等まであって、1等10000円、2等1000円、3等100円だね」

 

 つまり1等が出ればその時点でプラスが確定するのか。

 …………他に使い道のないお金だ。試しに買ってみよう。

 

「5口お願いします」

「まいど!」

 

 どうでもいい話だが、『まいど!』や『まいどあり!』といった言葉はそもそも、『毎度有り難うございます』の短縮形だと思う。

 だとすると果たして、初来店や初購入の際に『まいどあり』と言うのは正しいのだろうか。それとも自分が考えている正式形が間違っているのか。どっちなのだろう。

 いや、本当にどうでもいい話なのだが。

 当選番号の書かれたくじを受け取り、財布に仕舞う。どうか収支がプラスになりますように。

 ……神頼みでもするか。このあたりで神社といえば、九重神社だろう。

 どこからか響いてくるギターの音色を背に、商店街へ向かうことにした。

 

 

────>九重神社【境内】。

 

 

 商店街を抜け、長い階段を昇り、参拝できる場所に辿り着いた。

 さて、確か先に手を洗うんだったな。

 手水舎に着く。丁寧なことに作法が一覧として書いてあったので、それに従うようにして手を清めた。

 そのまま参拝所まで歩き、お賽銭をする。

 宝くじにあたりますように。とお願いし、その後なんとなく、みんなが平和に過ごせますようにと願っておく。

 その後、巫女さんが販売しているおみくじを買った。

 

「吉か」

 

 確か、大吉の次に良かったはずだ。

 宝くじ、当たりそうである。

 

 ……せっかくだし、どこかで食事でもしてから帰るか。

 

 

 

────>レンガ小路【壱七珈琲店】。

 

 

 前にここに来たのは、一か月程前だった気がする。

 確か、初めて璃音と出会ったのがその時だった。

 ……あの時覚えた違和感は、いったい何だったのだろうか。

 とにかく、店に入ろう。

 

「いらっしゃいませ。……おや」

「あ……」

 

 入店していちばん最初に目に入ったのは、前に見たマスターと、キャップを深く被った璃音(アイドル)だった。

 

「……あっ! もしかして、追いかけてきた?」

「……ははっ」

「なんで笑った!?」

 

 いや、偶然会ってストーカー呼ばわりされるとは思わなかった。チョー失礼と呟いているが、璃音もそこそこだと思う。

 まあそれだけ、人気アイドルとしての危機感覚が備えられているのかもしれないが。

 

「璃音はどうしてここに?」

「……まあ、そのうち話すつもりだったし、別に良いんだけど。アスカのことでね」

「柊?」

 

 ……そういえば、最初に訪れた時、柊に似たような人が働いていたような。

 

「ここでバイトしているのか」

「正確には下宿する代わりにお店を手伝ってるんだって。だよね、マスター」

「はい、アスカさんにはとてもお世話になってます」

 

 なるほど、ここに住んでいたのか。

 

「ってことは、柊と璃音は近所に住んでいることになるのか」

「……言われてみれば確かに!」

 

 今度勉強教えてもらおう。と言い出した彼女に、程々にしておくよう言いつつ、マスターにランチセットを頼む。

 

「って、なんであたしがこの辺に住んでること知ってるの? まさか……」

「いや、前に同好会の話しながら送ったことあるだろ。その時の話でなんとなく気づいてた」

「ううっ……あまり言い触らさないでよ?」

「分かってる」

 

 その後は自分の住所の話になり、杜宮記念公園のマンションだと言うと、目を輝かせて言ってみたいと言い出した。それでいいのか、アイドル。

 

「あれ、そういえば岸波クン、今日はなんでココに? 捜査?」

「いや、宝くじ買って、当たるようお祈りして、今食事に来たとこ」

「……え、何してんの?」

 

 ……何してるんだろうな、ほんと。

 

 本当は情報収集に出たかったけど、1人で面識のない子を調べるのは、不可能に近かったのだ。それも駅前広場に着いてから気づいたのだが。

 ……この1日が無駄にならぬよう、宝くじの当たりにすべてを賭けたい。

 

 

 

──夜──

 

 

 さて、今日は返却期限が明日までな、“日本妖怪の伝説と奇譚――室町・平安編”を読了してしまおう。

 前回は玉藻の前についての記述を中心に読み進めたが、今回は逆、妖怪に対して動いた人間について考えていこう。

 平安時代以降の陰陽師として有名なのは、前回にも出て来た安倍晴明という男性を始めとし、後に土御門を名乗ることとなる阿部家、弓削、三善……あとは蘆屋道満くらいか、自分の知る限りだと。

 特に安倍晴明の活躍は、多くの物語にて語られている。そのライバル関係──として表現するのが正しいが分からないが、蘆屋道満については、そんなに書物がないにも関わらず、だ。

 

 彼らが妖に対し、どう相対したのか。その他力のなかった人間は、どうやって生活していたのか。

 数時間かけて読み進めていくと、妖怪が“分からない”ものではなくなった。分かるとは言わないが、“分からなくはない”。どう対策するのかなどは知識として分かって、どう向き合うべきかは感覚として掴んでも、結局は実戦のしようがないからだ。

 だが、“知識”と“度胸”は身に付いた気がする。

 

 ──そろそろ寝ようか。

 

 

 




 

 知識 +1。
 度胸 +2。


────



 岸波白野 金運D。
      ガチャ運A。

 きっとこんなもの。
 アルバイト以外の金策として、最終手段(たからくじ)が実装されました。この主人公ヤバい。


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