PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 5月14~16日はどうしたのかって?
 話のテンポの都合で定期テストは省略されてしまいました。





5月17日──テスト明けは晴れ晴れとした気分で

 

 

 

 テストが終わった。満足いく結果、とまではいかなかったものの、出来る限りの力は使い切れただろう。手応え的にはそこそこといった所。

 という訳で、試験の振り返りもそこそこに、自分たちは例の空き教室へと集まっていた。

 

「柊さんの目標はやっぱりトップ?」

「さすがにそこまでの自信がある訳ではないのだけど……でも、そうね。いつかは取ってみたいわ。今回の手応えはとても良かったし、次も頑張らせてもらうつもりよ」

「アタシも今回は結構自信あるケド、流石にそこまではいけないかなぁ」

「ふふっ、順調なら良いんじゃないかしら。自分のペースで上がっていくことが大事だと思うわ」

「……確かに!」

 

 女子たちが仲良く話している。

 テスト勉強を共に行ったことが関係性にいい効果を齎しているのだろうか。だとしたら嬉しい限りだ。

 

「岸波はどうだったんだ?」

「自分か? 自分は──」

 

 

──Select──

 >普通だな。

  全然だめだった。

  余裕だな。

──────

 

 

 出来たと公言するには“度胸”が足りない。かと言って低く見積もっても意味がないので、正直に答えることにした。

 

「へえ……まあオレも似たようなモンだな」

「そうか」

 

 それなら、そこまで差は無いのかもしれない。

 今後も共に切磋琢磨できるといいんだが。

 

「……意外。男子ってそこで『じゃあ勝負すっか?』って感じになると思った」

「いいえ久我山さん、それはないわ。だって、時坂君に、岸波君よ?」

「「どういう意味だ」」

 

 あらごめんなさい、と口元を隠す柊さん。やっぱりこの人、口が悪いのではないだろうか。

 上品な笑い方、という意味では帰国子女で容姿端麗と評判の彼女に似合った仕草だが、なかなかどうして、彼女の本質は同年代のそれと変わらないのだろう。

 人とは関わってみないと分からないものだ。

 

 

 

 

 

 雑談もそこそこに、柊さんが本題へと踏み込んだ。

 

「部活停止期間も終わったが、相沢さんと郁島さんの様子はどうかしら?」

「ああ、さっそく昨日部活を覗いてみたが、なんてことねえ。いつも通りって感じだったぜ。相沢の方もけっこう吹っ切れてるみてえだ」

 

 時坂の報告に、柊さんは思考するアクションを見せた。

 

「……そう。ならこの件は、一応解決という扱いにしましょうか」

 

 その宣言に、自分たちは胸を撫で下ろす。

 漸く自分たちの手で解決できたのだという実感が湧いてきた。これまではどんなどんでん返しがあるか分からず、手放しで喜ぶことができなかったが、それも終わり。

 自分は嬉しくて笑みが抑えられず、時坂は安堵を込めた息を吐いて上を向き、璃音は大きく腕を挙げて騒いでいる。

 

「やったっ、やったねっ! せっかくだし、打ち上げでもしとく? てか行こっ!」

「とはいえ油断は禁物よ。いつ何がきっかけで再発するかなんて分からないもの。……出来れば本人たちと直接話をしてみたいけれど……」

「きっかけがない、か」

「え、打ち上げ……」

「まあ、それはもう少し経ってからだな」

 

 柊さんが“一応”解決、と言った通り、解決扱いにはなるが、まだ警戒はすべきだ。

 ベテランである彼女が会話し、診断することで、より多くの不安要素を排除できると言うなら、そちらを優先すべきだろう。

 とはいえ、確かに柊さんからすると、相沢さんも郁島さんも接点のほとんどない他人だ。柊さん側には面識があっても、相手には既に記憶消去が施されている為、初対面も同然。

 なら、仲介が必要だろう。問題は、どこからなら怪しまれることなく彼女たちまで辿り着けるか、だが。

 

「ソラの方ならまだセッティングできなくはねえが、相沢はな……」

「……そうね、まずは郁島さんと話してみようかしら。時坂君、お願いできる?」

「おう、明日にでも時間取れねえか聞いてみるわ」

 

 確かに昔からの付き合いである時坂なら大丈夫だろう。

 願わくば柊さんと郁島さんが、お世話になっている先輩を紹介してもらえる程に親しくなってほしいものだ。

 

 一方、話の輪から外れた璃音は、すっかり落ち込んでいた。

 肩から脱力するように項垂れ、机に頬を付けてぐだっとしている。

 ……そんなに行きたかったのか。

 

「……ふぅ」

 

 そんな璃音を見て柊さんは、仕方がないわね、といった感情でも込めていそうな溜息を吐き、少し考えてから優しく微笑んだ。

 

「所で皆、今週末の予定は空いてるかしら?」

「今のところ何もねえな」

「自分も大丈夫」

「私も……」

「事件の山場は超えている訳だし、そこまでに少し強引でも話をつけてしまいましょう。そうすれば、取り敢えず一段落することだし、打ち上げが出来るかもしれないわね」

「 っ!! 」

 

 璃音が跳ね起きる。

 琥珀色の瞳が爛々と輝き出した。

 

「ひいら──ううん、アスカ! ほんっとうにアリガトッ!」

「い、いいえ、私自身、打ち上げには興味あったから」

 

 溢れる感謝を全身で表現しようと、柊さんに抱き着こうとする璃音と、それを必死に止める柊さん。

 そんな光景を見て、時坂と小声で意見を交わす。

 

「……柊さんってあんな感じの人だったか?」

「いや、正直オレも驚いてる」

「なんかあったのかもな」

「もしくはこれから何かあるとか」

「嵐の前の静けさ?」

「柊を人的要因に異界が生まれたり」

「絶対生きて帰れなくなるから止めて欲しい」

「……もしくは既にシャドウが本人に成り代わってる、って線も無くはねえな」

「もし仮にシャドウが生まれたとしたら、柊さんは友達が欲しいけど諦めていたということになる……」

「……悲しいな」

「……もう少し優しくしてあげよう」

「結構よ、それより私が優しく刺し殺してあげるわ」

「いえ、それは結構です──」

「じゃ、そういうことで──」

「あ、待ちなさい2人ともッ!!」

 

 いつの間にか取られていた背後から冷気を纏った声が聞こえた瞬間、自分と時坂は静かに逃走体勢に移り、ごく自然に走り出した。

 我ながら、今のは上手な逃走方法だった気がする。逃走が上手になることは良いことだ。シャドウにも倒されなくなるし、うん、そういうこともある。

 

 

 

──────

 

 

 

「異界領域でもないのに凍え死ぬかと思った」

「走ってるはずなのに段々体温が下げられてる気がするとか、冗談じゃねえ」

 

 氷の悪魔の追跡から逃れた自分と時坂は、学食のテーブル席で一息吐いていた。

 異界関係の力は、特殊な力場でないと発現できない。自分が今ソウルデヴァイスやペルソナを発動させようとしても不発に終わる。

 だとしたら彼女は何故あそこまで冷気を纏えるのか。

 訓練の成果だというなら、ぜひとも時坂にも熱を扱えるようになって頂きたい。そうすれば2人で拮抗できるはずだから。

 ……というか、もしかしてこの学校、異界の影響が出てたりするのか?

 

「ん? そういう話は聞いてねえな。寒気云々はきっと柊特有の威圧感だ」

「それはそれでどうかと思う話だな」

 

 2人で柊さんに謝罪文を送る準備をしながら、鬼気迫る表情で追いかけてきた彼女を追想する。

 何があそこまで彼女を駆り立てたのだろうか。ひょっとして友達が少ないことを本当に気にしていたのだろか。だとしたら悪いことをした。しっかり謝らないと。

 

「さて」

 

 時坂が立ち上がる。

 どこかへ行くのだろうか。

 

「まさか、直接謝罪に行くのか?」

「いや、流石に死にには行かねえよ。どちらかと言えば、司法取引の準備だな」

 

 減刑されないと困る、と苦笑し、彼は道場を指さした。

 目的を察する。だが、

 

「女子空手部は昨日練習だったんじゃないのか?」

「ん? ああ、確かに練習場は男女で1日交代らしいが、別に部活自体が休みな訳じゃねえしな」

「成る程、外練か」

 

 自分も部活で練習場が使えない場合は、よく外を走ることを思い出す。確かに、部活だからといってその競技の練習しかやらない訳ではない。

 ならその活動場所で郁島さんに会えれば良い、ということだろう。

 

 

 差し入れの飲み物を買って、外へと出る。

 案の定、女子空手部の面々はすぐに見つかった。

 クラブハウスの裏で精力的に練習をしている彼女たち。

 流石に女子しかいない空間に入るのは気が引けた自分たちは、大人しく休憩時間か誰か来るのを待つことに。

 

 そして、数分後。

 

「その、お待たせしました」

 

 先輩の1人に呼び出してもらうことで、郁島 空さんとのコンタクトを取ることができた。

 ……こうして近くで見ると、小柄だな。

 類稀な身体能力を持つ、空手部のエース。先の1件に関わった際に得た彼女の情報は、そういったものだ。

 だがこうして見ると、見た目は細身の女の子。短い黒髪に青い髪留めを付けていて、可愛らしさと凛々しさを踏まえた、良い意味で素朴な少女だった。

 

「えっと、そちらの方は……」

「ああ、岸波 白野。オレの同好会仲間だ」

「岸波です、よろしく」

「い、郁島 空です。よろしくお願いします!」

 

 大きな声で頭を下げてもらった為、自分も少しくらいは、と思い彼女より低く頭を下げる。

 すると郁島さんも頭をより下げてきた。困った。これではまだ下げるしかない。

 

「いや、何やってんだよ」

「「……はっ」」

 

 ついやってしまった。

 郁島さんも少し恥ずかしそうにしている。

 

「えっと、悪かった」

「こちらこそ、すみませんでした」

「いえいえ、こちらこそ」

「いえいえいえ、こちらこそ」

「だから止めろって言ってんだろうが!」

「「……はっ!」」

「『はっ!』 じゃねえよ。さっきもそう言って何にも気付けてなかったじゃねえか」

 

 時坂の言う通りだった。情けない限りである。

 彼は、取り敢えず差し入れだ。と飲み物を渡す。彼女は嬉しそうに受け取って、笑顔で礼を言った。

 

「えっと、それで、わたしに何か御用でしょうか」

「ああ、実は少し頼みがあってな」

 

 同好会の活動内容、ある女子生徒が郁島さんと話したいと言っていること。後日時間を貰えないかどうかという要求を話す。

 最初は普通に聞いていた彼女だったが、話が進むにつれて顔が強張ってきた。

 それはそうだろう。いくら親しい先輩の知人とはいえ、見知らぬ誰かが自分に興味を持っていて、話し合いの場を欲しがっていると言うのだから。気色悪がっても仕方ない。

 時坂も、彼女の表情の変化に気付いたのだろう。話し終える頃には少し言い辛そうな雰囲気を出していた。

 

「その、嫌なら別に断ってくれても良いんだぞ」

「別に、イヤというわけでは……分かりました、引き受けます。それって明日のお昼休みでも大丈夫ですか?」

「あ、ああ。伝えておく……良いのか?」

「はい。他ならぬ、コウ先輩からの頼みですので!」

 

 そう言って笑う、彼女。

 しかし第三者目線で見ても、その顔には不安が滲み出ている。

 これは、止めておくべきじゃないだろうか。

 

「そうか……頼んでおいてなんだが、いつも通りのソラで居てくれれば大丈夫だ」

「いつも通り…………」

「それじゃあ頼んだぜ、ソラ」

「……はい!」

 

 しかし、時坂は敢えてそれを依頼した。

 少し驚いたものの、当人たちが納得しているなら良いか、と考える。元より関係性の薄い自分が口を挟めることでもないが。

 ……そういえば、なんで自分、ここに居るんだ?

 

「……すみません、そろそろ戻らないと。コウ先輩、岸波先輩も、また」

「ああ、頑張れよ」

「また」

 

 しっかりと一礼し、彼女は空手部と合流した。

 その後ろ姿を見送って、自分たちも帰路につく。

 

「良かったのか?」

 

 時坂に尋ねる。

 無論、先程のことだ。

 彼は話し合いの成果を柊さんに報告しているのか、サイフォンを弄りながら、口を開こうとする。

 ……そういえば自分もまだ、謝罪文をしたためている途中だ。急いで仕上げないと。

 お互いがサイフォンを操作していると、漸く彼自身が大丈夫だと考えた理由が言葉に出来たのか、時坂は解答を述べ始めた。

 その顔には、苦笑が浮かんでいる。

 

「まあ、なんつってもソラだしな」

「?」

「純粋で真面目、礼儀正しくて良いヤツ。それに大抵誰とでも仲良く慣れそうな明るさを持ち合わせてる。柊も明るさ以外は大体似たようなもんだし、問題は起きねえだろ」

 

 送信、と彼は呟く。

 だが間一髪、自分の誠意を先に送ることができた。

 全文ひらすら謝り倒していることだし、大丈夫だろう。あとはこの後どうするか、だな。

 

「けど、不安そうだった。少し時間を置いても良かったんじゃないか?」

「……まあ確かに、ただ他人に会うってだけでああいった反応されるとは思ってなかったけどな。寧ろ喜んで了承してくれると思ってたが、流石に驕り過ぎたみてえだ」

「……」

「でも、ソラなら大丈夫だ。なんつってもソラだからな」

「……何だそれ」

 

 結局妹弟子自慢のような話が始まりそうだった。

 

 

 ──聞きたい、聞いてあげたい。本当だ。本心だ。ぜひともお聞かせ願いたいとも。

 だが残念。謝罪文も送り済み。先に帰らせてもらおう。

 

「じゃあ時坂、自分は帰らせてもらう」

「ん、ああ、もう帰るのか。またな」

「ああ、また……あ、そうだ、1つだけ」

 

 自分は、本校舎入り口の壁に背中を預けて立つ氷の鬼を見てから、手を立てた。

 

「すまない、おたっしゃで」

「……?」

 

 そもそも未だ追われている身で、現在地が分かるような連絡をするのが悪いのだと、自分に言い聞かせる。

 郁島さんと話したと伝えれば、空手部の活動場所にいることなんて想定されて当然。だから、そう、自業自得なのだ。

 ……またな、か。そうだな、また会える日が来ると良いんだが。

 誰かに呼ばれた気がしたが、振り返らずに帰った。

 

 

 

────

 

 

 さて、今日は読書をしよう。

 テストも終わったことだし、疲れも特にない。

 サイフォンが何やら震えているが、遠目で確認する限り、送り主は1人のみ。明日確認すれば良いだろう。

 

 さて、今日読むのは“日本妖怪の伝説と奇譚――室町・平安編”。特筆すべき内容としては、自分にも縁深いペルソナ──玉藻の前についてだ。

 平安時代末期に存在したとされ、一説によれば白面金毛九尾の狐が化けたモノともされる存在。

 周囲を虜にする美貌と、卓越した才覚。これらを以て当時の天皇──後鳥羽上皇に寵愛されることになった彼女は、しかし彼が病に伏せている間に、己が人間でないということを陰陽師──安倍晴明に暴かれてしまう、という話だ。

 この話にはまだ続きがあるが……今日はここまでにしておこう。

 何と言うか……難しい話だった。伝説と奇譚というタイトルなだけあって、想像の余地を残した書き方であるがゆえに。

 玉藻の前は、本当に九尾の狐なのか、という疑問。九尾の狐というなら神獣だが、何故わざわざ人に化けたのか、という疑問。後鳥羽上皇が倒れたのは本当に玉藻の前の所為なのか、という疑問。

 ……ダメだ、答えなどでない。せめてペルソナが喋れたら良いんだが……気分転換に、他の妖怪についての記述も読むか。

 

 数時間かけて読み進める中で、昔の人々が妖怪とどう向き合っていたのかが見えてきた。これは自分がシャドウと対面するときにも使えそうな心構えだ。

 少しだが、“知識”と“度胸”が身に付いた気がする。

 

 

 

 

 ……そろそろ寝ようか。

 サイフォンは……やはり無視しよう。眠いから。

 

 

 




 

 知識 +1。
 度胸 +2。
 
 
────



──どこかの主人公トーク──

「氷結属性……先輩だ」
「先輩か、俺の周りには上級生がいなかったからな。どんな人だったんだ?」
「……串刺し?」
「「……ん?」」
「……あ、ブリリアント」
「……んん?」「ああ、あの人か」
「え、知ってるの?」
「強烈な人だったな」
「強烈なのか……俺の仲間の氷結属性持ちも何て言うか……個性的だったな」
「へえ、どんな?」
「芸術家」
「「個性強そう」」
「そうは言うが、そちらはどうなんだ?」
「比べたら普通。同級生で隣の席で肉とカンフーが好きで警察志望なだけだ」
「「十分すぎないか……?」」



 氷結属性といえばジャックフロスト。ジャックフロストは可愛い。つまり氷結は正義。
 まだ正式に戦ってないのに、攻撃属性だけ判明する柊さんマジパない。







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