PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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5月8日――時坂 洸(魔術師)(Ⅲ)──関わるきっかけを

 

 

――放課後――

 

「お、岸波じゃねえか。……なんか久しぶりな気がするな」

 

 2年生全教室がある2階の階段前。壁に寄りかかるようにして時坂がサイフォンを操作していた。

 久し振りと言いたくなる気持ちも分かる。最後に会ったのはゴールデンウィーク最終日。働きすぎて記憶すら残らず、唯一疲労が残った日のことだから。あの忙しさが遠い日のことのようである。実際は1日間を挟んだだけなのに。

 

「確かに。そっちは元気そうだな」

「ああ、そこはまあ慣れってやつだろ。逆に1日何もしなかったせいで落ち着かねえくらいだ」

「ユキノさんに伝えておくか?」

「マジでやめてくれ」

 

 バイトのプロはこんなにも頼もしさが凄い。どれほど働けば、ここまでの気概が身に着くのだろう。

 そしてそんな彼にここまで嫌そうな顔をさせるユキノさんは、もっと凄いな。何だろう、斡旋の魔王とでも呼んだ方が良いだろうか。

 ……何故か分からないが、とてつもない寒気がした。

 

「そう言う岸波も、結構疲れが抜けてそうじゃねえか」

「まあ」

 

 なんて返したが、嘘だ。

 昨日の時点でもかなりの疲労が残っていた上、参加した部活ではとことん走った。疲れていない方がおかしいだろう。

 なら何故素直に疲れていることを言わなかったのかと言えば、やせ我慢……という訳ではないにしろ、それでも自分1人疲れたように振る舞うのは申し訳ない気がした。とでも表現すべきだろうか。

 

「……そうだ岸波、今少し時間あるか?」

「? ああ、特にやることもない」

「なら、少し付き合ってくれないか」

「良いけど、何をするんだ?」

「聞き込み調査……みたいな?」

「何故疑問形……」

 

 

――――>杜宮高校第2校舎【図書室】。

 

 遭遇時に時坂がサイフォンを弄っていたのは、コミュニティアプリケーション“NiAR”内のシステム、掲示板を見ていたかららしい。

 そこには『気付いた人お願いします』や『時間の空いてる方募集』のような、特定多数の人間に対して送られる依頼が度々書き込まれる。その中から自分にできそうなものはないかと探していたのだ、とか。何てお人好しなのだろう。

 自分を誘った理由が曖昧だったのは、詳細を依頼者から聞いていないから。それをこれから聞きに行くのだと、彼は道中で説明してくれた。

 依頼人は図書室の司書教諭――コマチさん。依頼内容は、延滞図書の回収だと言う。

 

「あ、時坂くん、もしかして“NiAR”を見て?」

「はいっす。詳しい話を――」

 

 慣れた様子で内容を聞き出し、サイフォンにメモしていく時坂。この手伝いとやらも頻繁にやっているのだろうか。

 一通り聞き終え、廊下に出る。

 延滞図書、つまり返却期限を過ぎてもまだ返されない本4冊を、直接回収してきて欲しいという依頼だった。

 

「えっと借りているのは……3年の“エリカ先輩”と“コウサク先輩”、2年の“サブロー”、あとは“タナベ先生”か。先輩の所へはオレが行くから、岸波にはまず、サブローの所を任せていいか?」

「ああ。……所で、サブローって誰だ?」

「……いや、同じクラスじゃねえか。アイツ、D組だぞ」

「…………」

 

 まさかまだクラス全員の名前を憶えていないことが仇となるとは。

 とはいえ同じクラスなら難易度も低い。その人物の見た目と現在地を知っていそうな人に聞いて回れば良いのだから。

 

 

――――

 

――>駅前広場【オリオン書房前】。

 

 

 居た。

 黒髪に赤いバンダナ。瓶底のような眼鏡を掛けた男子生徒。まさしく聞き込みで得た風貌と一致する。

 さっそく話しかけてみよう。

 

「あの――」

「五月蠅い、少し待て」

 

 言われた通りに少し待つことに。

 彼はじっと何かを待っている。その手には高そうなカメラが収まっていた。

 ……写真撮影だろうか。その目線の先には、線路がある。

 

 独特な走行音が響いてきた。

 その音を耳にした瞬間から、彼はカメラをしっかりと構えて動かない。如何なる機会も逃さぬよう集中しているのが見て取れる。こちらにまで緊張が伝わってきた。

 やがて、その時が訪れる。

 静かに彼は、シャッターを切った。

 

「ふむ……」

 

 撮影した写真を見て、満足そうに頷く男子生徒。

 そろそろ良いだろうか。

 

「あの」

「ん? ザビじゃないか。居たのか」

 

 ……ザビと呼ばれたことは流しておこう。いまはツッコミを入れるべきタイミングではない。

 

「して、何用だ? 確か話したことなどなかったと思うが」

「ああ、図書館で本を借りてないか? 代わり――」

「なんと、お前もあの傑作に興味があるのか!」

 

 傑作?

 彼が借りた本のことだろうか。しかし、自分はそもそも内容どころか、本のタイトルすら知らない。

 

「すまない、そういうのじゃないんだ」

「む?」

 

 司書教諭――コマチさんからの依頼と、それを受けてサブローを探していた旨を伝える。

 

「そうか、早とちりしてしまったようだな。これがその本だ」

 

 鞄にしまったままだったらしいそれを受け取る。

 表紙には“季刊・ミリタリーマニア”という題と、何やら機械の巨体が乗っている。

 

「これは……?」

「所謂、|軍事≪ミリタリー≫情報誌でな。数ある情報誌の中でもそのシリーズは至高である上に、その巻は神号とも呼べる代物となっている!」

「へえ……」

 

 そこまでベタ褒めされると、興味が沸いて来る。

 ペラペラと中を覗いていくと、確かに素人目にも凄い重火器や機械が載っていた。

 中でも目を惹いたのは、表紙の写真と似た型の、大型機械だ。

 

「これは、凄いな。よく分からないけど、カッコイイ」

「ほう……なかなか見る目があるようだな。それは“機動殻(ヴァリアント・ギア)”と言って、日本の技術の粋を集めた軍用機械の一種。謂わば男のロマンの結晶と言って然るべき存在なのだ!」

「“機動殻”か……」

 

 見た感じ人型に近いが、もしかしたら乗ったりも出来るのだろうか。

 良いな、こういうの。作ってみたい。

 

「フフ、また一人虜にしてしまったようだな」

「ああ……他にもお勧めなんかあったら教えてもらっても良いか?」

「勿論だ。同士が増えることに忌避感などない。――っと、悪いがそろそろ次のモノレールが来てしまう。本の返却は任せたぞ」

「分かった」

 

 変わった人だが、悪い人ではなさそうだ。

 回収した本を持って、駅前広場を後にする。

 

「フフッ、良い……良いぞ、この洗練されたフォルム! ああ――」

 

 歓喜に溢れた叫び声が聞こえた気がしたが、まあ気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 帰り道、時坂にサブローから本を預かったことを連絡する。

 

『そっか、サンキュ。今どこに居る?』

「駅前だな。学校に向けて歩き出したところだ」

『ならついでに、タナベ先生の回収も任せていいか? 職員室で聞いたんだが、商店街の蕎麦屋に向かったみたいでな』

「分かった」

『頼むぜ。オレはこのままコウサク先輩の所に行くからよ』

 

 通話を切る。次の目的地は、商店街だ。

 

 

――――

 

――>杜宮商店街・蕎麦処【玄】。

 

「タナベ先生、お食事中失礼します」

「んん? おお、岸波じゃないか! どうした、キミも蕎麦を食べに来たのかね。なら一緒にどうだ!」

 

 現国教師のタナベ先生は情報通り蕎麦屋に居て、その美味しそうな蕎麦に舌鼓を打っているところだった。

 流れるように相席を促されたが、残念ながら目的は食事ではない。

 

「実は、図書室からの依頼で先生の借りた本を返してもらいに来たんです」

「なに……しまった!! 手間をとらせたな、すまない! せめてもの詫びに、ここの食事は私が出そう!!」

「い、いえ。結構です」

「遠慮することはない! さあ、好きなものを選ぶといい。ちなみに先生のお勧めは――」

 

 その後も色々と薦めてくる先生を躱しながら、本を返してもらった。

 彼が借りた本は……“3年F組・金鯱先生”?

 

「ああ、その本か。良い本だぞ、お勧めだ! 以前流行った“弱虫先生”はあまり合わなかったが、これはとても感動したぞ! 勿論“弱虫先生”も面白い。どちらも一読を薦める!」

 

 ……押し付けられてしまった。

 どちらにせよ1度返さないといけない訳だが。

 まあ、いい。早速返却に行ってしまおう。

 

「ん、何だ、もう帰るのか。また明日な!」

「はい、先生もまた明日」

 

 

 

――――

 

――>杜宮高校【図書室】。

 

「岸波、戻ったか」

「ああ、2冊とも回収してきた」

「助かったぜ。そんじゃ、コマチさんに渡してくる」

「待ってくれ、自分も行く」

 

 2人で司書さんの所へ向かい、本を返却する。

 

「ありがとうございます。これ、お礼です」

 

 何か見たことのあるような何かを、時坂が受け取った。

 どうでもいいが、無償ではなかったのか、これ。

 

「どもっす」

「あ、すみません、今返した本の中で、すぐに借りられる本ってありますか?」

 

 せっかくだし、読んでみたい。特に、自分が直接回収した2冊。あそこまで薦められたら、読みたくもなるだろう。

 

「少々お待ちください。……あ、“季刊・ミリタリーマニア”と“世界のグローバル企業”、“日本妖怪の伝説と奇譚――室町・平安編”なら、すぐに貸し出しできます。“3年F組・金鯱先生”は予約待ちの生徒さんがいらっしゃいますので、その後になってしまいますね」

 

 “季刊・ミリタリーマニア”はサブローの借りていた本だ。しかし他2冊は分からない。時坂が回収したものだろう。

 ……“3年F組・金鯱先生”はダメなのか。少し残念だけど、次の機会にしよう。

 

「それなら、“季刊・ミリタリーマニア”と、“日本妖怪の伝説と奇譚――室町・平安編”を借りても良いですか?」

「分かりました。では、手続きするので学生証を出してください」

 

 本の裏にあるバーコードを読み取り、自分の学生証のデータを打ち込んでいくコマチさん。

 処理を待つ間、時坂と話す。

 

「ちなみに本を返してもらう時、エリカ先輩やコウサク先輩から何か感想みたいなものを聞いていないか?」

「ん? ああ、エリカ先輩は『私の会社が入ってないなんて、落丁本ですわね』みたいなことを。コウサク先輩は『創作・補完の余地を残しつつ詳しく書かれていて良かった。次の劇にも生かせそうだ』とか言ってたな」

 

 ……先輩たちの人柄は分からないが、エリカ先輩は自分の親の会社が第三者から見てどのように映っているのかを知りたかった。コウサク先輩は劇で使う知識や情報を深めたかった。ということだろうか。

 エリカ先輩は目的の情報が得られなかったらしいが、コウサク先輩は借りた本から多くを学べたらしい。自分も何かしら知識を深められると良いのだが。

 

「お待たせしました。返却期限は2週間後、“5月22日の火曜日”になります」

「分かりました」

「遅れたら時坂君に回収を頼みましょうか」

「はは……その時は容赦なくとっちめるつもりっす」

 

 そんな脅しを聞きながら、図書室を後にした。

 忘れないようサイフォンにメモしておかなければ。

 

 

 

 

 第1校舎へ向かう廊下を、2人で歩く。

 ついでに、1つ疑問を消化することにした。

 

「それにしても、なぜ自分を誘ったんだ?」

「あー……まあ何だ。人と関わりそうな依頼だったからな。岸波に丁度いいかと思ってよ」

「丁度いい?」

「まだ周囲に馴染み切れてないようだからな。交友関係を広げるには、こういうのもアリじゃねえか?」

 

 成る程、つまりお節介を焼いてくれた、ということか。まったく、よく見ている。確かに今後、こういった機会を通して交流を広げていくのも良いだろう。

 しかし、お節介か。

 

「時坂はよくこうして依頼を?」

「ん? いや、つい最近からだな。ユキノさんにやってみろって言われて」

「バイトの一環ってことか?」

「そういうわけじゃねえんだが……まあ確かに、報酬は貰ってるし、似たようなモンなのか」

「報酬」

 

 そういえば先程なにかを貰っていた。あれは何だったのだろう。

 

「ああ、オレもこれが何かは分かっちゃいねえが、持ってくとこ持ってけば換金してくれて、異界探索の資金に変えられるみてえだ。倒したシャドウが落とすのを見たことねえか?」

「……ああ、見覚えがあったのはそれでか。そういうことなら回収して進めば良かったな」

「まあそうだな、教え忘れたこっちにも非はあるし、次から気を付けようぜ。ちなみに前回の探索では柊がすべて後ろで回収してたらしいから、気にしなくて大丈夫だそうだ」

「そうか、感謝しないとな」

 

 特に気にせず素通りしてしまったが、柊さんには申し訳ないことをしてしまった。結構な量だっただろう。勉強会の時に謝らなければ。

 

「時坂はこの後バイトか?」

「そうだな。ついでに知り合いからも依頼が出てたし、話を聞いてからだが」

 

 まだ依頼をこなすのか。

 依頼のシステム的に、彼がやらなければいけない事では決してない。参加自由のレクリエーションのようなものだ。相手の悩みを遊びのように例えるのは気が引けるが、しかしその例えに間違いはないと思う。

 だというのに、なぜ彼はこうまでして積極的に関わろうとするのか。

 ……以前彼に尋ねた、数多くのアルバイトを行う理由。時坂は答えに窮していたが、今回の件も同じように思える。

 何がそこまで彼を駆り立てるのか。今後も関わり続ければ、明らかになっていくのだろうか。

 ……少しだけ、時坂に対する理解が深まった気がする。

 

 

「取り敢えず、今日は助かったぜ、岸波」

「ああ、また何かあったら声を掛けてくれ」

「おう、じゃあ、またな」

 

 時坂と別れた。

 ……家に帰ろう。

 

 

――夜――

 

 

 勉強の合間に、今日借りた本を読んでみる。

 “季刊・ミリタリーマニア”。熱弁されたように、軍事趣味を満たすための1冊のようだ。

 自分にその趣味はまだないが、それでもとても引き込まれるものがある。

 特に≪機動殻≫のスペック、出来ることなどを見てると、想像力がかき回された。

 漢の趣味に触れた気がする。

 ……本にはまだ続きがある。また今度にしよう。

 

 

 

 




 

コミュ・魔術師“時坂 洸”のランクが3に上がった。


────


 知識 +1。
 魅力 +2。


――――



 P5Aすきぃ。特にOP。
 あと、祐介の覚醒シーン良かった……次の覚醒シーンも楽しみです。
 あとあと、一二三監修の美少女将棋とか少しやってみたい。小ネタが多いのが原作ファンの楽しみですね。

 それにしても、主人公の彼、良い感じに喋ってますよね。4Aでも思いましたが、どれだけ主人公に喋らせるかってペルソナアニメ化の重要点の1つな気がする。
 この作品もそれは同様で、本来話してない主人公をどのように話させれば印象を壊さずに済むか、というのは大事になってます。怖い。主人公だけとは言わず、たまに勝手に暴走するから怖い。
 なので、「このキャラってこういうこと言わない気がする」といった違和感を覚えた方はご指摘いただけると助かります。――以上。


 珍しく長々と作品以外について書いてしまった。反省。
 でもなんだかんだ最後は作品の話になったので、お赦しください。


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