──授業中──
「そういえば今日から部活に後輩ができるな。先輩として、後輩に指摘されるような間違いは極力避けたいだろう? 普段から使ってる言葉でも、間違って覚えていることとかあるからな!」
国語の授業中。
教壇に立つタナベ先生が今日も熱い授業を展開している。
しかし、今日から部活開始か。すっかり忘れていた。
今日は帰らずに活動場所に寄らなければ。……何処か調べてからだが。
しかし、間違って覚えている言葉、か。自分はどうだろう。
「そうだな……岸波!」
──!!
心臓が高鳴る。
大丈夫だろうか、自信はないが……取り合えず、答えるしかない。
「『平謝り』の正しい意味が何だか知っているか?」
……平謝り?
聞いたことのある単語ではあるが……誤用が広まっているのか?
……どのように謝ることを、平謝りと呼ぶのだろう。
──Select──
普通に。
>感情を込めずに。
ひたすらに。
──────
平謝りに謝るとか聞いたことがある。
平って言うと思い浮かぶのは、平淡、平然という熟語。こうして並べると、総じてあっさりとしている印象だ。
故に平謝りは“感情を込めずに謝ること”だろう。
「残ね~んっ! 不正解だ岸波! 正解は“ひたすらに謝ること”だな!」
……間違えてしまったみたいだ。
「あ、間違えた」
「こんな簡単なの間違えるなんてね……」
周囲から囁くような声が聴こえる。
……地味にショックがデカい。
「確かに平って漢字には、穏やか、静か、普通といった意味が含まれている。けど、だからといって平謝りという熟語がそうであるということはない。さっきも言ったが、ひたすらに……そう、ひたすらに! 謝るというのがこの熟語の意味だ! 後輩の謝罪に心が隠ってないと思っても、『平謝りしてんじゃねえ!』って叱るのはいかんぞ!」
熱弁している。
勉強になったな。授業とはそんなに関係ない事柄ではあったが。
タナベ先生は熱い授業をする先生で、普段から生徒のことをよく見ている人だと思う。ただ、気に掛けすぎて変な方向へと努力してしまったりしているみたいだ。
この授業だって、自分たちが恥を掻かない為に時間をとって教えてくれている。
とはいえ一応試験前で……試験範囲とか、大丈夫だよな? もしかしたらこれらも問題として出されるのだろうか?
……ま、まあ、そういう日もあるだろう。
──放課後──
すべての授業が終わった。
今日から部活動が解禁される。
……そもそも自分は何部を選んだのだったか。
──Select──
>水泳部。
陸上部。
──────
思い出した、確か水泳部にしたのだ。
早速職員室へ行って、練習場所を確認しよう。
──>杜宮高校【職員室】
「ああ、岸波ね。よろしく」
「よろしくお願いします」
「早速だけど、これ。水着の購入表。明後日までに出してくれると助かる。後、これプリント、目を通しておいてくれ。この後は更衣室前に集合な」
「分かりました」
活動日や理念、目標、月間スケジュールなどが書かれた紙と、諸道具の購入用紙を受け取って、職員室を後にする。どうやら先生はまだ来られないらしい。
活動日は月・水・木らしい。当然、大会期間外に限るそうだが。
……更衣室へ行こう。確かクラブハウスだったな。
──>杜宮高校【クラブハウス】。
「あ、キミも新入部員かな? 部長。これで9人全員です」
「よし、まずは水泳部への入部を決めてくれてありがとう。正直、部活動紹介もろくに出来ず不安視していたんだが、その……なんだ、心より歓迎している」
その後も水泳部部長の話が続いた。
幾つかの事項を話した後、活動についての話になる。
「水着が届き次第各自現状をテストを実施。結果を見て先輩と相談しながら各々月毎の目標を立ててもらうことになっている。届くまでは校舎の回りをランニングとか、各部の筋トレとかだな」
「取り敢えず今日は……ランニングですか?」
隣にいる部員が質問する。
部長は自分たちを見渡して、爽快な笑みを浮かべた。
「ああ、全員外履きを履いてから校門へ集合。取り敢えず下校時間前まで走るぞ」
「「「「はい!」」」」
この後、本当に下校のチャイムが鳴るまで、走っては休み走っては休みを繰り返した──
──夜──
……今日も予想以上に疲れてしまった。
貰った書類に目を通すだけにして、早く寝るとしよう。