PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 初、リアル日にちに追い付かれた記念。当日投稿です。

 4日分纏めちゃいました。


5月3~6日──時坂 洸(魔術師)(Ⅱ)──良い連休?

 

 

 早朝に呼び出しを受けた自分は、レンガ小路にあるアンティーク【ルクルト】を──ユキノさんを訪ねていた。

 まだ開店準備中なのか、掃除道具が置かれている。置かれているだけ、な気もするが。手を付けている様子もないし。自分の対応を先にしてしまいたかったのか、或いは……?

 

「やってきたわね、青年」

「はい。って、青年って自分ですか?」

「そうよ、少年だとこの後来るバイトと被るから」

 

 バイト……ああ、時坂のことだろうか。4月末に案内してもらった時にも、確かに彼は少年呼ばわりされていた気がする。

 だから掃除道具を出したままにしているのだろうか。時坂の仕事用、みたいな感じで雑用を残していると見れば……それはそれでどうなのだろう。

 

「ゴールデンウィークの予定は開けておいてくれたかしら。何処か都合が悪くても今のうちならまだ変更が効くわよ。少年に代わってもらうから」

「そ、それは……大丈夫です」

 

 時坂の扱いが少し酷い気がする。彼にも用事があるだろうし……もしかして、連休を潰す程の金銭的不安でもあるのだろうか。夏休みに遠出するとか、大型の何かが欲しいとか、色々なことが推測できるが……まあ、もう少し仲良くなってから聞いてみるとしよう。

 

「なら良し。青年の目標にも沿えるアルバイト先をまとめておいたわ。取り敢えずこの4日間はそれらを回ってもらうつもりだから、一通り目を通しておきなさい」

 

 茶封筒が手渡される。開封すると、2枚の紙が入っていた。内容について簡潔に纏めたものと、この4日間の大まかなスケジュールのようだ。場所、仕事内容、時給、待遇の欄を順に読み進めていく。

 

 書かれている内容を要約すると、

 ・旅館【神山温泉】での雑用。

 ・ゲームセンター【オアシス】の店員。

 ・【杜宮総合病院】の夜間清掃。

 ・本屋【オリオン書房】の販売員。

 ・【アクロスタワー】のイベントスタッフ。 

 の5種類。それぞれゴールデンウィークの繁盛や、店員の休暇申請を考慮した結果生じる人員不足を補いたいらしい。

 しかし、4日で5種類とは……少し忙しそうだな。

 

「あ、イベントスタッフだけは少年と一緒に向かってもらうわ」

「ああ、この日曜日のですね。結構長時間みたいですけど」

「まあ朝から夕方までといった依頼ね。それがゴールデンウィーク締めの仕事。それまではできる限り、書いてあるスケジュール通りに行動して頂戴」

 

 与えられた日程表上には、バイトと休息(移動)時間の二種類しかないが。おそらく短期間に詰め込んでくれたのだろう。仕方のないことだ。

 今日は取り敢えず……午後から旅館へ行って仕事の手伝い。それから夜に病院で清掃か。

 

「給料はそれぞれの仕事先での勤務最終日に貰うことになっているわ。なにか質問は?」

「……いいえ、大丈夫です」

「結構。なら、早速向かってもらおうかしら。一応何かトラブルとかあったら報告して頂戴」

「分かりました」

 

 感謝を告げて、【ルクルト】を出る。

 旅館にはバスで行かないといけないらしく、まずは駅前広場に向かう必要があった。

 

「お、岸波じゃねえか」

「時坂」

 

 自分と入れ替わりになるように、時坂が姿を表す。バイトに来たらしい。

 

「岸波は今日から仕事なんだったか」

「ああ、これから神山温泉に行く予定だ」

「へえ……まあなんだ、楽しんでこいよ」

「時坂も、良い連休を」

 

 店内に消えていく彼を見送る。一番最初の仕事は掃除だろう。自分も頑張らなければ……!

 

 

──>旅館【神山温泉】。

 

 山の中、バスに揺られること数十分。都会特有の喧騒や高層ビル軍が視界に映らなくなって、代わりに視界では緑色の占有率が上がっていた。

 静かだ。乗客は多く、あちこちから話し声が聞こえているものの、バスの外部からはほとんど雑音が届かない。

 やがて、バスが減速し始めた。目先にあるバス停の横には、長く続く塀がある。

 どうやらここが目的地らしい。

 

 

 バスを降りる。

 建物の前に立ってみると、かなりの大きさだということがすぐ分かった。

 先に建物へ入っていく人たちは旅行客だろうか。

 ……自分も早速中へ入ろう。

 

 

 ──>神山温泉【ロビー】。

 

「ああ、岸波さんね。神山温泉の女将、シノと申します。本日はお手伝い頂けるとのことで、誠に感謝しています。さっそく手伝って欲しいのですが、準備は宜しいですか?」

 

 着物を来た女性──シノさんが尋ねてくる。

 見た目は50歳近いが、とても仕事ができそうな人だ。何というべきか……そう、風格がある人。

 来て早速だが、仕事があるらしい。本当に人手不足なようだ。

 

「はい、大丈夫です」

「それではまず、仕事着に着替えて頂きます。着いてきてください」

「はい、よろしくお願いします」

 

 女性は満足そうに頷くと、更衣室まで案内してくれた。

 仕事着は色々な大きさのものが予備として残されており、その1つを使わせてもらえるらしい。

 

 アルバイトに臨むということで、到着までの道中でココについて少し調べた。

 古くからある多摩の名湯、【神山温泉】。県境に位置し、美人の湯として有名、日帰りでの利用も可能な天然温泉旅館らしい。それとは別に稲荷神社への参拝道へ直接出れるらしく、参拝帰りに一汗流すという客もいるようだ。

 

 着替え後最初に行われたのは、挨拶や笑顔の確認。直接お客と顔を会わせるのは女将さん達だが、バイトとして動く以上、すれ違う人や迷惑を掛ける人がいるだろうから、その対応の為だ。

 どうやら直接人と話したりする仕事ではないようだが、果たしてどういったことをするのだろうか。

 

「まずは客室の準備です。宿泊客の皆様をお待たせする訳にはいきませんので、心地よく使用していただけるよう前もって準備しておかねばなりません。一通りの動作は一緒にやって覚えてもらいます」

「はい」

 

 そこから部屋を掃除したり、お着き菓子などの準備をしたりしていく。その合間合間に他の仕事のことや、心構え、神山温泉についてなど色々な情報を叩き込まれた。

 女将さんの動作には、1つ1つ丁寧さと優雅さが含まれている。自分も積極的に見習っていかなければ。

 

 そうして一通りの仕事を教えられつつ、各持ち場の従業員と挨拶も終え、そこからは極力一人で仕事をしていった。当然だ、人が足りないといって呼ばれたのだから。いつまでも女将さんを拘束しているわけにもいかない。

 

 気が付けばすごい勢いで時間が過ぎていって、あっという間に終業の時間となった。

 

「お疲れさま。どうでした、当旅館の仕事は」

「覚えることが多くて大変でしたけど、色々な所に気配りがあって勉強になりました」

「そうですか、それは何よりです。次回は土曜日ですね、またよろしくお願いします」

「はい、今日はありがとうございました」

 

 本当に初バイトとしては大変だったが、やりがいのある仕事だったと思う。

 ここで働いていれば、“優しさ”が磨けそうだ。

 ……さて、まだまだバイトは続く。バスに乗って休みながら戻ろう。

 

 

──夕方──

 

 ──>ゲームセンター【オアシス】。

 

 蓮菜町にあるゲームセンターが、次のバイト先だ。ここでは主に巡回とトラブル解消、あとは景品交換などが仕事になるらしい。

 蓮菜町は少し治安がよくないことで有名だ。どちらかと言えば不良の溜まり場だったり、夜の町として輝いている印象がある。

 そんな町中のゲームセンター、怖くないといえば嘘になるが……とにかくやってみなくては。

 

 

 3時間程働いてみた感想としては、思ったより普通だった。というくらいのものだ。

 客層は若者が多かったが、どれも揉め事を起こすような人ではなかった。実際あったトラブルなんて、UFOキャッチャーで品物が取れず喚いていた大人の対処くらいしかなかったし。

 とはいえ怖いものは怖い。たまに対戦ゲームコーナーでは殺気立っている人も居たり、メダルゲームのコーナーでは柄の悪そうな人たちが競馬のゲームに挑んでいた。

 

 ここで働いていれば、“度胸”が身に付きそうな気がする。

 とはいえ今日の仕事は終了。次は夜、病院の仕事か。

 

 

──夜──

 

 ──>病院【杜宮総合病院】。

 

 夕飯を済ませた後、夜の8時から本日最後のバイトが始まった。

 【杜宮総合病院】。杜宮の中では最大級の病院であり、入院・リハビリ設備も完備している所だ。自分も先月、璃音の時の一件でお世話になっている。北都グループがある程度貢献しているとのことで異界関連の治療も押し通すことができるそうだが、果たして。

 まあ、裏の事情は置いておこう。

 ……そういえば、郁島さんはここに入院しているんだったか。思いの外衰弱の激しかった彼女は、5月2日──つまりは明日までここに入院が決まっていた。時坂や空手部の寺田部長、相沢さんはよくお見舞いに来ているらしい。時坂曰く、問題等は特になさそうとのこと。

 様子を見に行きたいが、郁島さんには異界に関する事柄について記憶消去が為されている。その為、自分とは面識がない状態なのだ。まあ記憶があった所でほぼ初対面に等しい訳だが。

 ……まあ、関わらない方が良いか。消したはずの記憶に何かあったら柊さんに申し訳ないし。

 

 そういう訳で、バイトに専念することにした。

 仕事内容は、空き病室や廊下の清掃。精密機器や個人情報に触れない程度の空間を綺麗にすることだ。

 特に9時以降は面談時間外なので、人通りが少ない。まだ電気の灯りがあって明るいものの、とても閑散としている。だからこそ、集中して掃除に取り組めた。

 清掃のバイトを通じてしつこい汚れと対峙し続けることで、“根気”が磨けそうな気がする。

 

 ──バイトが終わった。

 夜の10時。もう遅い時間だ。

 早く帰って明日に備えよう。

 

 

──5月4日(金)──

 

 ──>駅前広場【オリオン書房】。

 

 ゴールデンウィーク2日目の正午、自分は駅前広場を訪れた。勿論、バイトの為である。

 

「ああ、君が岸波君だね、待っていたよ」

 

 目的地へ入り、身近な店員さんに声を掛けると大柄な男性が柔和な笑顔でそう言った。

 【オリオン書房】。駅前にあることで、かなり利用客の多そうな本屋だ。確か杜宮に来た初日に訪れている。あの時は居心地が悪くて立ち去ったが、この店自体が苦手ということでは決してない。

 ならどういう感情だったのか、と聞かれれば、応えられないのだが。

 

「岸波 白野です、よろしくお願いします」

「ははっ、楽にしてくれ。ウチはそんなに厳しい所じゃないからね。聞けば、キミも娘やコウちゃんの同級生らしいじゃないか」

「娘さん、ですか……?」

 

 知り合いの誰かの親なのだろうか。

 それに『コウちゃん』という呼び方は、何処かで……ああ、時坂のことだ! 本人が忘れてほしそうだったから、すっかり忘れていた。

 ということは、その呼び方をしていた子が、この人の娘さんってことか。

 

「もしかして、倉敷さんの?」

「ああ、シオリの父親さ。娘共々、よろしく頼むよ」

「いいえ、こちらこそ」

 

 世間って狭いなぁ。

 

 

 仕事内容は、主に本棚の整理。

 在庫の陳列や位置の確認をしたり、他の人が手を離せない時にレジを変わったりといった感じだ。

 これから泊まりがけで長旅する人たちや、家で休暇を過ごす人たちが多く買っていくらしい。土曜日までの3日間が勝負だとか。確かに大きな鞄を置いて本を物色している人も何人かいた。

 本当に凄い人だかりだ。

 ちなみに昨日と明日は時坂が手伝うとののも。彼はよく手伝いに来ていて、今日はたまたま別の仕事を頼まれているから自分に話が回ってきたらしい。

 

 本を整理しつつ、並べていく。判断力などが大きく求められていた。続けていけば処理能力とかが上がり、“知識”が向上しそうである。それも微々たるものだろうが。

 

 

 

「いやぁ、今日は助かったよ、はいこれ、バイト代ね」

「ありがとうございます」

 

 4時間働いて、“3560”円を得た。

 

 せっかくだし何か本を買っていきたい所だが、今から選ぶには少し時間が足りない。次の仕事が待っている。

 

「また今度、本を買いに来ますね」

「ああ、またのご来店を心待ちにしているよ」

 

 

 

──夜──

 

 ──>【マイルーム】。

 

「つ、疲れた……」

 

 今日の仕事も一段落。ゲームセンターでの仕事に、病院の清掃を終え、たった今帰宅した。

 ……時坂はいつもこんな生活をしているのか、凄いな。

 まあ、何はともあれあと2日。瞬く間に終わってしまいそうだが、1つ1つ考えながら、色々なことを吸収して進めていこう。

 

 ──ゲームセンター【オアシス】でのバイト代“5400”円を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──5月5日(土)──

 

 

 ──>旅館【神山温泉】。

 

 

 

「お疲れ」

「あ、お疲れさまです」

 

 旅館バイトの先輩が、休憩時間に飲み物を持ってやって来た。

 

「今日でバイト終わりって聞いたけど」

「はい。何というか、体験のようなものなので」

「そうか、少し残念だな……アルバイトを本格的にやってみる気はないのか?」

「続けたくはありますけど、もう少し色々なことをやってから決めたいので。申し訳ないですけど」

「……いいや。まあ俺も昔はバイト掛け持ちとかしてたし、余裕が出来たら検討してくれ。女将さんも、仕事が正確だって褒めていたから」

 

 誉めてもらっていたのか。それは、嬉しいな。

 まだ2日だが、女将さんの人は結構分かってきている。

 仕事に誇りがあって、真面目。確固とした仕事観というか、自分の中の理論を大事にしている感じの人だ。 

 だから、よほど頑張らなければ認めてもらえないと思ったが……そうか、聞けてよかった。

 

「先輩、ありがとうございます」

「いいや、厳しいだけの仕事じゃないと分かってもらいたかっただけだ」

「ははっ、実際はやりがいがあって、楽しい仕事でした」

「それは何よりだな」

「先輩はこのバイト長いんですか?」

「いや、岸波の1週間くらい前に入った」

「ほぼ同期かよ!」

 

 それにしては、仕事が様になっているというか、動作1つ1つに差を感じたが。

 コツとかあるのだろうか。

 

「色々な経験が生きているだけさ。大きな店と小さな店で働いた時に見えたそれぞれ長所短所。大人を相手にする仕事と子どもを相手にする仕事。個人を相手にする仕事と集団を相手にする仕事。大勢でやる仕事と個人でやる仕事。色々な良し悪しがあって、参考に出来るところも多い。数学の勉強をしてたら国語と理科の成績が上がるようなものだ」

「ようなものって言われても」

 

 自分にはそういった経験はない。しかしなんだっけか、学習の転移とかはそういう理論だった気もする。

 ともかく、先輩は自分にはない多くの経験をしているらしい。そこで細かい所に差が出る、と。

 

「先輩っていうか、大先輩って感じですね。おいくつなんですか?」

「今年で18」

「一個上かよ!」

 

 なんか、こう、訳がわからなかった。バイト中はとても真面目な人なんだがな。

 

「岸波、突っ込みが早くなったな」

「一昨日も今日も、何回かやってますからね、こういうやり取り……」

 

 初めてならこんな返しはできない。

 けれどこの人は何というか、人との距離感を詰めるのが上手なのだろう。気付けば自然とタメ口で突っ込むようになっていた。

 

 

「まあ、そんな2日もこれで終わるわけだ。楽しかったと思えたなら、また来てくれ」

「……はい」

「それじゃあお先に──休憩上がります」

 

 さて、自分も行かなければ。

 気を引き締め直すとしよう。

 

 

 

 ──2日分の給料に少し上乗せしてもらい、“10000”円を手に入れた。

 

 

 ──夜──

 

 今日の仕事も終わった。旅館、ゲームセンター、病院、本屋。4ヶ所でのバイトが全て終了。明日は、アクロスタワーでイベントの手伝いだ。

 ……得るものの多い3日間だった。“人格的に向上できた”気がする。

 さあ、明日も朝早い。早々に寝て準備しよう。

 

 

 ──病院清掃のバイト代“4400”円を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

──5月6日(日)──

 

 ──>アクロスタワー【展望台】。

 

 

「これは、凄いな」

「ああ、岸波もそう思うか。オレも正直ここまでとは思わなかった」

「ね、凄いでしょ! この人混──」

「「この望遠鏡」」

「なんで! 見通し良いところまで来て! 遠く見ないで! 遠くを見るための道具を見てんのっ!?」

「「だって凄いだろ」」

「ほんと男の子って……!」

「これ上向かないかな、月とか見たいんだけど」

「流石に無理じゃねえか? ……あ、そういやトワ姉が天体観測用の持ってたっけな。今度頼んでみるか?」

「是非頼む」

「ちょっとー? お2人さーん?」

「「ん?」」

 

 

 振り返る。璃音が居た。それだけだ。

 

「いやいや、自然と流そうとしないでよ!」

「……はぁ、何だ、玖我山。オレ達忙しいんだが」

「何処が!?」

「「バイトが」」

「休憩中って言ってたじゃん!」

「知ってるか、璃音。休憩ってのは、休むためにあるんだ。自分はこの3日で知った」

「いや、当たり前でしょ……」

「おい岸波、目が死んでるぞ」

「気のせいだ。そういう時坂こそ、目に生気がないんじゃないか?」

「そうか? まあ良くあるよな」

「ないわよ!!」

「「ある!」」

「……なんなのよ、もう! はぁ、調子狂う」

「大丈夫か、本番前だろ?」

「 だ れ の せ い だ と ? 」

「……?」

「首傾げられた……ッ!」

 

 

 ゴールデンウィーク最終日。朝から夕方開始のイベントの為、アクロスタワーへと出向いていた。拘束時間が長いことは分かっていたが、これまで3、4時間で終わっていたバイトがその2倍近い時間やるとなると、既に疲労がでてくる。

 唯一の救いは、時坂という話し相手がいることくらいか。

 そんなこんなで漸く駆け付けた休憩時間。たったの30分なので貴重にしたいところなのだが、何故か自分たちは展望台へと召喚された。

 呼び出したのは、久我山璃音。自分と時坂が働いてるのを目敏く見付けた彼女は、休憩に入った自分らを連れ出し、ここに引っ張ってきたのである。

 

「てか久我山、お前休業中じゃねえのか」

「あ、うん。歌手活動はね。今日はお忍びで皆の応援」

「……良ければこっち手伝うか?」

「止めとく。てか、絶対ヤだからね!」

 

 ここまで強く断られるとは思わなかった。

 しかし、そうだ、休業中なんだよな。いつか、ステージに立ってる姿を生で見たいものだが。

 

「で、オレたちをここに呼び出した理由は?」

「え、特にないケド? 強いていうなら時間が余ったから話したかったのと、SPiKAの人気を目に見える形で教えてあげよって」

 

 

 人気。外の人混みのことか。

 イベントの為に集まった大人数の姿が、ここから見下ろせる。確かに、こうして見ると凄い人気だ。

 わかったわかった。

 帰って休憩の続きを取って良いだろうか。

 

「また目が死んでる……なんか買ってこようか?」

「いいや、大丈夫だ」

「それよりオレ、あそこのソファに座ってるわ」

「じゃあ自分も」

「……な、なんか、ゴメン」

「気にするな」

 

 

 しかし改めて見ると、時坂がこうして疲れているのは意外だった。てっきり慣れてるから疲れも感じづらいのだと思っていたが。

 

「時坂はこの連休どれくらい働いてたんだ?」

「……あー、分からん。日程表出すわ」

「……──ひっ」

 

 凄い密度だった。

 移動時間とか自分のは少しでも余裕があったんだな。びっしり過ぎる気がする……というか、夜、この時間帯ってアルバイト良いのか?

 ……まあ、そういう日もあるか。

 

「あ、アハハ……身体壊さないようにね」

「……身体が壊れなくても心の方が──いや、なんでもねえ」

「不吉すぎじゃない!?」

 

 久我山が、飲み物買ってきてあげる。と席を立った。

 時坂と二人、ソファで休憩を取る。

 

「時坂は、なんでそんなにバイトをしてるんだ?」

「ん? さあ、なんでだろうな……金に困ってるとかじゃねえんだが……」

 

 答えに窮しているみたいだ。

 自分でもよく分かっていないらしい。

 しかし、目的も分からないままでこんなに身を粉にできるだろうものなのだろうか。

 

 少し、時坂のことが分かった気がする。

 

 

 

「お待たせ! これ飲んでまた頑張って!」

 

 璃音が飲み物を差し出してくる。

 “マッスルドリンコ”を手に入れた。

 

「あ、岸波、休憩終わるぞ」

「本当だ。璃音、飲み物ありがとう」

「ううん、その、ゴメンね!」

 

 

 ──さて、もう一仕事だ。最後まで突っ走ってしまおう。

 

 

──夜──

 

 

「……………………眠」

 

 

 あ、ベット……ベッドが、目の前、に──

 

 

 

 




 

 コミュ・魔術師“時坂 洸”のランクが2に上がった。


────


 知識 +2。
 度胸 +4。
 優しさ +4。
 魅力 +4。
 根気 +4。


────


 ちなみに最終日のバイト代は10500円でしたとさ。
 
 皆様も働きすぎにはご注意下さい。


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