PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 さてさてインターバル。今回はちゃんとコミュとパラメータが進むことを期待して。


インターバル 2
4月30日──時坂 洸(魔術師)(Ⅰ)──杜宮の便利屋さん。もしくは学生プロアルバイター


 

────

 

 夢を見た。

 いつかの夢の続き……のようなものを。

 ただの夢と言うには妙にリアルで、現実と言うには明らかに異質な、相も変わらず見覚えのない夢。

 

 

 だが、この雰囲気は何だろうか。

 

 前回の夢は平凡で、退屈で、それでもどこか安心するものだった。

 けれども今回のは、そうじゃない。暖かさなんて微塵も残っておらず、あるのはただ、殺伐とした雰囲気のみ。

 

 日常の雰囲気は欠片もなく、起きていたのはとある“戦い”。

 必死に、もがきながら、葛藤するように死闘に挑む“自分と瓜二つな青年(岸波 白野)”の姿と、その指揮のもと戦う、見覚えのある人影。

 狐耳を生やした和服姿という不思議な容姿。自分のペルソナ──“タマモノマエ”と同じ姿をした、妖艶な半妖の女性だった。加えて彼女の周囲には、自分のソウルデヴァイス──“フォティチュード・ミラー”に似た鏡が浮かんでいる。

 相対するのは拳銃を持った女性と、髪のふさふさ……いや、ふにゃふにゃにさせた男性。相手側も、男性の指示のもと女性が戦っていた。

 

 それは決して人間同士の争いではない。

 理解ができなかった、自分が見ているものが。

 それでも戦いは続き、やがて終わりが訪れる。

 勝敗は決し、二人の間に柵が引かれた。勝者と敗者を分けるように出てきて、敗者を閉じ込めるような檻として。

 負けた青年はその奥で、泣きながらなにかを訴えている。喚いていると言っても良い。最初は気付かなかったが、青年の身体は崩壊し始めていた。

 何を言っているかは分からないが、悲痛な叫びを上げていることだけは理解できる。

 しかし、いくら何を言おうと崩壊は止まらず、青年は消え去った。呆気なく、元からそこにはなにもなかったかのように。

 それを岸波白野らしき男性は呆然と眺めていた。

 そのままの姿で、彼は立ち尽くす。周囲の光景が変わろうと、ただただ呆然と立っていた。

 やがて彼は1人の女性に声を掛けられる。若干苦痛そうに顔を歪めつつ女性に対応。そして去っていく女性を見送ると、突如現れた半妖の彼女にも話しかけられ、俯く。

 次に顔を上げた岸波白野に似た青年の瞳には、ほんの少しだけ力が宿っていた。

 

 

────

 

 

「今のは……」

 

 辛く、苦しい夢だった。

 あそこに居たのは、自分じゃない。記憶を失う前の自分かと疑いはしたけれど、それは違うと直感が叫んでいる。

 ならば、今の夢はなんだったのだろうか。

 

 ……何か意味があるのだとしたら、今後も続きを見ることになるだろう。

 見続けてれば、何かが見えてくるかもしれない。今は取り敢えず、忘れておこう。

 

 気付けば4月も最終日。編入からは怒濤の2週間だったな。

 ……学校に行こう。

 

 

 

──授業中──

 

 

「あー、中間考査まで1ヶ月を切った。何か分からないことがあれば早めに相談しに来るんだぞ」

 

 英語の授業中、教科担任──佐伯吾郎先生からのアナウンスが入る。

 もう4週間ないのか。少し緊張する……が、やれることをやっていくしかない。

 

「英語は基本的に授業でやっていない長文は出さないが、短文や並び替え問題なんかは、新出問題を出すから基本をしっかりと覚えていることだ。……そうだな、試しに──岸波」

 

 っ!

 自分の名前だ。

 

「『It becomes an unforgettable journey.』これはとある作品に使われていたキャッチコピーなんだが、訳せるか?」

「……はい。えっと」

 

──Select──

  この旅を、忘れない。

 >忘れられない、旅になる。

  あんほげったぶるな、じゃーにーになる。

──────

 

「正解、エクセレントだ。ちなみにこのJourneyという単語。旅という意味があるが、旅には他にもTravelやTripといったものがある。これらは長さや距離で使い分けられて、感覚としては小旅行がTrip、長旅がJourney。このキャッチコピーにJourneyが使われているのは、成長や出会い、別れを長い旅を通して経験していく。なんて意味もありそうだな」

 

 

 ……どうやら正解したらしい。

 知識が深まったような気がする。

 

 

 

──放課後──

 

 

 下校の準備を済ませ、一階へと向かう。だが、今日の予定は決まっていない。ただ真っ直ぐ帰るのも時間がもったいないし、どうしたものか。

 

「お、岸波じゃねえか」

 

 頭を悩ませていると、背後から声を掛けられた。振り向くと、鞄を持った時坂がいる。

 

「時坂、今帰りか?」

「ああ。岸波もか?」

 

 頷きを返す。そうだ、せっかくだし彼に予定が無ければ共に過ごしてもらおう。

 そう思って訪ねてみたが、どうやらレンガ小路に用があるらしい。一応自分の帰り道も同じなので、途中まで同行することにした。

 

「それで、時坂は何をしにレンガ小路へ?」

「今日はアンティークショップでバイトがあってな」

「……バイトか」

「? どうした?」

 

 そういえば、そろそろ生活も落ち着いたことだし、バイトを本格的に始めるべきかもしれない。

 ……少し、相談に乗ってもらおう。

 

「実は自分、バイトを探していて」

「へえ……まあ独り暮らしだし色々入り用だよな。職種とかは決めてんのか?」

「それがまったく決まってない」

「マジか」

「だから、お勧めのバイト先とかあれば教えて貰いたいんだが」

 

 そうお願いすると、時坂は少し考え込んだ。

 やはり他人に紹介などは難しいのだろうか。

 

「やりてえ職種とかが無えなら、オレみたいに紹介してもらう形にしてみるか?」

「紹介?」

「ああ──」

 

 彼がどうやって色々なバイト先に勤めているかを教えてもらった。

 何でも仲介してくれる人が居るらしく、その人から人手が入り用な所を聞いて、バイトへ出向いているらしい。派遣のようなものだろうか。

 

「いきなり決めろってのも無理な話だし、色々経験してから自分に向いてるのを探せば良いんじゃねえか?」

「なるほど」

 

 お試し期間、という形で色々なことを出来るのは有り難い。

 美月とも以前話したが、やってみて駄目でした、では済まないことだ。自分の得意不得意や興味関心を探すにはうってつけの話だろう。

 

「そうだな、一通り体験してみたい」

「分かった。ちょっと連絡取ってみるから待っててくれ」

 

 歩みを弛め、時坂がサイフォンを通話モードにして耳元へ持っていく。

 

「もしもし、ユキノさんっすか? 時坂っす──」

 

 電話の相手は、ユキノという人らしい。

 話の流れからして、その人が仲介を担っている人なのか?

 

「はい、岸波ってヤツで……はい、ちょっと待ってください──岸波、この後少し時間取れるか?」

「ああ、大丈夫だ」

「よし──あ、もしもし、大丈夫らしいっす。……はい、了解っす。じゃあこの後向かいます」

 

 電話が切れたらしい。サイフォンをポケットに仕舞う。

 この後向かうとか言っていたが、話は着いたのだろうか。

 

「取り敢えず簡単に話を聞きたいから、この後店に来てほしいらしい」

「分かった。店って?」

「さっき言ったオレが今向かってるアンティークショップ。その店主が、ユキノさんっていう女の人でな。色々とバイトを斡旋してくれんだ」

「成る程、そこに行けばいいんだな?」

「おう、そうらしい。だから悪いが着いて来てくれ」

「悪くなんてないさ。寧ろ有り難いくらいだ」

 

 

 ────>レンガ小路【入り口】。

 

 

 時坂のバイト話など、他愛ない雑談を続けていると、ようやく町並みが変わってきた。

 レンガで舗装された、明るくお洒落な通りに出る。

 目的地のアンティークショップは……確か以前訪れたコーヒー屋の近くだったか。

 

「……ん?」

 

 歩いていると、時坂がなにかに気付いたのか、声を漏らした。

 視線はそのコーヒー屋。中に居るのは同じ学校の生徒のようだが……ああ、見覚えのある顔も居た。確か相沢さんの一件で話を聞いた八百屋の……誰だったか。

 店内に居たのは3人。そのうちの1人、唯一の女子が時坂に気付いたのか、手を振っている。釣られて残る2人の男子もこちらを向いて──と思ったら、八百屋で働いていた青年が立ち上がり、店から飛び出して来る。

 慌てて青年を追う大人しげな女子と、中性的な男子。結局3人とも自分たちの前に立った。

 

「ど、どうしたのさリョウタ、そんなに急いで」

「わ、悪い、つい……」

「……はあ、お前ら、会計は?」

「あ、それは大丈夫だよ、コウちゃん。店の人には一言掛けて出て来たから」

 

 ……3人とも知り合いのようだ。自分は少し席をはずした方が良いかもしれない。

 

「時坂、自分は先に──」

「待ってくれ!」

「……え?」

 

 リョウタと呼ばれた男子が自分を呼び止める。そんな想像していなかったので驚いた。

 てっきり時坂に用があるんだと思ったが、違うのだろうか。

 

「あれ、キミは確か……」

 

 中性的な顔の男子が、自分の顔を見て首を傾げる。

 どこかで会っただろうか?

 

「岸波!」

「あ、ああ」

「この間は、すまんかった!」

 

 リョウタという男子が、頭を下げてくる。

 ……謝られる理由が思い浮かばない。何かあったか?

 

「……ああ! 転校生の!」

 

 残った男子の方が声を上げる。やはり自分のことを知っていたらしい。

 一方女子の方はピンと来ていないのか、首を傾げていた。

 

「転校生……?」

「岸波君だよ、ほら、リョウタが前暴走して突っかかっちゃった……」

「あ、あの時の……」

 

 どうやら思い出したらしい。

 ただ、今のやり取りから自分と直接面識があるかは察せなかった。

 

 いやいやそれよりも、自分はどうして彼に謝られているんだ?

 困ったように視線を時坂へ移す。

 仕方ねえなあ、と彼は後頭部を掻きながら口を開いた。

 

「リョウタ、何に謝ってんだ?」

「いや、その……リオンの時のこと、しっかりと謝ってなかったって思ってな。前回のアレはオヤジに言わされた感じだったし」

「……ああ、そういうことか」

 

 ようやく分かった。どうやら彼は編入初日の一件を未だに覚えていたらしい。

 それでわざわざ謝ってくれるなんて、良い人だ。

 

「気にしなくて良い。気持ちは分かるからな」

「へ……分かるって?」

「自分の色々あってファンになったから。確かに、応援している人に何かあったら心配になるよな」

「……分かってくれるか! 良いヤツだな、岸波!」

「君の方こそ」

 

 握手を交わす。

 周りは少し微妙な雰囲気だが、自分と彼はそんなことなく、何かが通じ合ったような気がしていた。

 

「えっと……」

「よ、良かったのかな?」

「……そうなんじゃねえか?」

 

 良かったんだよ。

 

「そうだ岸波、サイフォンの番号を教えてくれよ」

「ああ、勿論だ」

「……ねえ、コウちゃんは、岸波君と仲が良いの?」

「ん? まあな。これから結構一緒にいることが増えると思うぜ」

「そっか……ねえ、私とも交換してもらって良いかな?」

 

 リョウタ──登録された名前には、伊吹 良太と書いてある。

 ……そういえばそんな名前だったな。忘れていたことは本当に申し訳ない。

 

「君は……?」

「私は倉敷(クラシキ) (シオリ)って言います。コウちゃんの幼馴染みで……えっと」

 

 倉敷さんが言葉に詰まる。幼馴染みというだけじゃ理由に弱いと思ったのだろうか。

 確かに、幼馴染みだという彼女がなぜ自分の連絡先を欲しがるのか分からない。

 

「「保護者?」」

 

 緑色の髪を短く切り揃えた中性的な男子生徒と伊吹が声を揃えて言う。苦笑いだ。

 保護者……倉敷さんが、時坂の?

 

「誰が誰の保護者だ!」

「朝起こしてもらってるくせに! くぅ、いつ思い出しても羨ましいぜ!」

「はは……まあそういうことかな」

 

 時坂が怒る……というよりは恥ずかしがってるのか?

 それを2人の友人が受け流していた。

 

「あはは……そんなわけで、その、ダメ……かな?」

「いいや、時坂が良いなら」

「何でオレの許可が要るんだよ」

「保護者なんだろ?」

「違えよ!」

 

 まあ、保護者なんて呼ばれ方、余程じゃないと付かない。先程の話にもあったがそれほど面倒見が良いのだろう。だとしたら自分と交換しようと言ったのも、時坂を心配してのことかもしれない。

 

「あ、それじゃあ僕も。僕は小日向(コヒナタ) (ジュン)。よろしくね、岸波くん」

「ああ、よろしく、小日向」

「ったくテメエら……はぁ、用が済んだなら行くぞ、人を待たせてんだ」

「あ、すまねえなコウ、岸波もサンキュー、今度SPiKAの話しようぜ!」

「ああ、また今度な」

 

 時坂の友人たちと別れる。

 

「良い人たちだな」

「……まあな」

 

 これも人徳、というのだろうか。

 時坂の友人がいい人なのは、時坂本人がいい人だからだと思う。って、これは前にも思ったか。数度同じことを感じるということは、彼はきっと筋金入りのいい人なのだろう。

 

「さて、そろそろ行こうぜ岸波」

「ああ」

 

 

 

 

 ──>レンガ小路【ルクルト】。

 

 アンティークショップに着いた。その内部はアンティークというだけあって、伝統や気品を感じる品が多い。

 一歩踏み入れるだけで違う時代に来たような感じがする。そんな店の奥に居たのは、一人の女性。

 

「ようこそ、少年たち」

「ユキノさん、こいつがさっき話した──」

「岸波君ね、少しこちらへ来てもらえるかしら。少年はバイトの準備をしていて頂戴」

 

 黒髪の女性に手招きされ、店の奥に通される。

 

「ユキノよ、ここの店主をしているわ。……さて、それじゃあ色々聞かせてもらおうかしら」

 

 まるで面接のように、色々な質問をされていく。

 バイトをしたい理由。週にどれくらい働けるのか。可能な時間は。希望する待遇は。内容。好きな人のタイプや苦手なこと。時間にして30分程話しただろうか。

 

「成る程、流石に少年の紹介だけあるわね」

「えっと……?」

「今回はある程度体験ということで、色々な種類を紹介させてもらうわ。ただし、どこも数回は勤めてもらうことは覚えておいて」

「数回体験しないと、その職の利点が見つからないからですか?」

「それもあるし、雇う側には、雇う側の理由があるということよ」

 

 ……成る程。

 

「それじゃあバイト先が見付かり次第、預かった連絡先にメッセージを送るわ。これから先暫く、特にゴールデンウィークは空けておいて頂戴」

「分かりました」

「それじゃあ今日は帰ると良いわ」

「ありがとうございました。よろしくお願いします」

 

 礼を告げて、店から出ようとする。その時丁度出てきたエプロン姿の時坂に感謝を告げ──エプロンが似合うと褒めたら五月蝿えと返された──、帰路に着く。

 

 無事バイトの目処が立って良かった。

 時坂にはいつか恩を返さないと。

 

 彼の友人との出会い、バイトという繋がりを経て、新たな縁の息吹を感じる──

 

 

────

 我は汝……汝は我……

 汝、新たなる縁を紡ぎたり……

 

 縁とは即ち、

 停滞を許さぬ、前進の意思なり。

 

 我、“魔術師” のペルソナの誕生に、

 更なる力の祝福を得たり……

──── 

 

 

 ……帰ろうか。

 今日の夜も勉強しないとな。

 

 




 

 コミュ・魔術師“時坂 洸”のレベルが上がった。
 魔術師のペルソナを産み出す際、ボーナスがつくようになった。


────


 知識+3。


────




 おい、こいつ知識しか上がってねえぞ……!
 見えない所で伝達力は上がってそうだけど、パラメータには無いんですよねえ。
 現状の人格パラメータは、こちら。

────

 知識 そこそこ(レベル1)
 度胸 ふつう(レベル1)
 優しさかなり鈍い(レベル1)
 魅力 無個性(レベル1)
 根気 諦めが悪い(レベル1)

────

 ちなみに現レベルは13。
 所持ペルソナは
 タマモ(愚者)level 10。
 シルキー(女教皇)level 8。
 サキュバス(月)level 8。
 ゲンブ(節制)level 8
 ベリス(法王)level9
 の5体ですね。

 実際そんな出てこないし、ちょくちょく合成されるのですぐに変わりますが。まあ設定的にはこんな感じ。
 こんなもんかな。

 今回の選択肢については、原作のものと同じなので書きません。正解で知識+2。今日上がった残り+1は夜勉強。


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