PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 作中時間が15日しか経ってないのに、30ページを超えてくるとは……いったい完結までどれくらい掛かるんだろうか。





4月29日──【杜宮高校】余韻に浸る

 

 

 

「そこ、気を抜かない。怪我したらどうするの!」

「「はい!」」

「集中は切らさない。もう少ししたら休憩だから、頑張りなさい!」

「「「「はいッ!」」」」

 

 クラブハウス。道場の出入り口で、自分と柊さんは内部の様子を伺っていた。

 事件から1日。郁島さんは検査入院中だが、一応異界を解決したので空手部の経過観察に来たのだ。

 

「雰囲気は良さそうね」

「そうだな」

 

 扉を離れ、学食を通りすぎ、校舎を歩く。

 話に聞いていた険悪な雰囲気は、今日の空手部になかった。郁島さんが復帰していないので確かなことは言えないが、改善の芽は出ていると考えて良いだろう。

 しかし、こうも早く影響が出るのか。

 

 そのまま歩みを進め、いつもの集合場所に入る。

 内部には時坂と璃音の姿があった。

 

「どうだった?」

「雰囲気としては、良い感じだと思う」

「そうか……」

 

 ひと安心したのか、時坂は胸を撫で下ろす。

 

「まだ安心するには早いわよ、時坂くん。郁島さんが部に戻った時も確認してみないと」

「そりゃ分かってるけどよ」

「まあまあ、少し安心するくらい許してあげなよ」

 

 璃音が苦笑する。

 仕方がないわね、と柊さんが腕を組み。

 一呼吸挟んだ時坂は、真面目な面持ちになった。

 

「それで、結局どういうことなんだ? 何で相沢のシャドウを倒して、現状が改善すんだよ」

「正確には、シャドウを説き伏せると、ね」

 

 柊さんは立ち上がり、黒板の前に立つ。

 チョークを持ち、何かの図を書き始めた。

 

「シャドウは隠した欲求の現れ。それを説得し、本人の中へ戻すということはつまり、異界を発生させていた程のストレス源を解消したということよ」

「……すまん、もっと分かりやすく頼む」

「……周囲からの重圧。倫理観。法的拘束。そういったものが発症者の理性と本音の摩擦を産み出し、別れさせる。シャドウとして顕れるのは当事者の本心の塊のようなもの。ここまでは良いわね?」

 

 柊さんは黒板に同じ形をした2つの人型絵を描き、その胴体にそれぞれ『本人』、『シャドウ』と記す。シャドウの方は丁寧に紫チョークで影まで付けていた。更にその頭部には、『理性』、『本心』と書き入れられる。

 見やすい絵だな。自分も板書係として頑張らなければ。

 

「さっきも言った通り、本心の抱える訴えはシャドウが持っているわ。私たちが異界でしたのは、彼女に本心を吐かせ、その上で説き伏せた、ということなのよ」

 

 シャドウと書かれた人の周囲に、『ストレス』『重責』などといった単語を浮かべ、上からバツ印をつけていく。

 

「つまり、持って出たストレスとかをあたし達が解消したから、戻ったときには綺麗さっぱりってこと?」

「大体はそういうことね」

「……けれどそれだと、またストレスが溜まるんじゃないのか?」

「ええ、だから貴方達がとった手段で正解だったのよ」

 

 シャドウの上に矢印を描き、もう1体人形図形を書く。その周囲を黄色でなぞりつつ、頭部には『本心』という単語を残した。

 これは、何やら下のと比べて雰囲気が良くなったようだが?

 

「シャドウの持つ蟠りなどを解消すると、その人はストレスなどと向き合い方を獲得することになるわ。本心が受け入れた考え方を、そのまま実践できる、ということね」

 

 そうして、黄色に包まれた人形の横にまたもう1体の人を書き、頭部には『完全体』と入れる。

 ……完全体?

 それだけでなく、新しい人形の内側にもう1体の人を書き、黄色い枠を書いた。

 そして隣の図形から延びる横矢印。成る程、これが還った状態ということか。

 

「本心が問題を受け入れられるようになれば、現実の見方や捉え方が変化し、当人の表現にも差が出てくる。これが今回、貴方達が成し遂げたこと──ああ、岸波くんからしたら2度目になるのかしら」

「……そういうことか」

 

 璃音の時も同様だ。

 自分が考える向き合い方を伝え、璃音本人がそうしようと願ったことで、本心の燻りはなくなった。それが結果として彼女に戦う力を与えた訳だが、ひょっとして相沢さんもペルソナ使いになっているのだろうか。

 

「尤も、玖我山さんの一件はそれだけでなく、本人の異界適正が高かったこともあるわね。玖我山さん自身、当時の事ははっきりと覚えてるんでしょう?」

「え、あ、ウン。そりゃあ目の前であんなことが起きたら覚えてるって」

「普通は起きてすらいられないのだけれど、まあいいわ。それが幸いして、玖我山さんが理性と本心の間で妥協点を探し出し、結果抱いた強い願いがペルソナへと変化した」

「……あー、なるほど?」

「絶対分かってねえなコイツ」

 

 曖昧な表情で分かったような反応を示した璃音に、時坂が厳しいツッコミを放った。

 うぐっ……と胸を押さえる璃音。分からないなら素直に言えば良いのに。

 しかし、そうか。相沢さんはその適正云々があって、ペルソナ使いにはなれないらしい。

 

「何でこの話をわざわざしたのかと言うと、恐らくこの経験のお陰で最後、岸波くんと玖我山さんはシャドウに止めを刺さなかったのでは、と推測できたからよ」

「止めを刺すと、どうなってたんだ?」

「同じことの繰り返し、でしょうね。ストレスは一時的に解消されても、精神的にはなにも変化せず、向き合えないままだし。時間の経過で再発することになると思うわ」

「……いや、そういうことは早く言えよ、柊」

「だから、“すべてを任せる”と言ったじゃない。それにもしそうなったとしたら、私が1人で対処するつもりだったし、今後すべての作戦は私が主導、皆には適当に経験を積んでもらう形になっていたわね」

 

 恐ろしい事を言う。

 間違えなかったから良かったものの、もし何かを仕損じてた場合は見捨てられてたということか。

 

「だから総合的に言えば、及第点でしょう。ただし、戦闘内容はもっと良いものに出来るはずだから、そこは追々直していきましょうか」

 

 柊さんがクールに笑って言う。

 次の機会が与えられている、ということは、認められたのだろうか。自分たちは。

 だとしたら、良いな。

 

「……まあ、まだまだ、ってことだろ」

 

 まだ強くなれる。まだやることがあると時坂は拳を突き合わせる。

 やる気は十分みたいだ。

 

「そうだね。でも、これからも諦めないで行こっ!」

 

 璃音も、それは同じ。笑顔で、力強く、周りと自身を鼓舞していく。

 胸の前に拳を構え、衝動を溜め込んでるかのようだった。

 

「ああ、まだまだこれからだ」

 

 浮かれてはいられない。いつ次の事件が起きるかは分からないから。

 けれど少しだけ、この雰囲気に浸ろう。

 皆が嬉しそうに、前向きでいる、この温かな空間に。

 

  

 

 

 

 






 コミュ・愚者“諦めを跳ね退けし者たち”のレベルが2に上がった。

────



 最終話っぽく。
 2話の主題は、前回までにも出している“競うこと”への諦め。
 副題は、“生きてきた足跡”……とかですかね。明かせる範囲だと。

 1話と2話の主題とかについて少し注釈しようかとも思いましたが、止めときます。いつか完結したら乗せるので、良ければその時にでも。


 さてさて、今回は前ページの選択肢回収を行います。
 ハクノのステータスは次回必ず。

────
 33ー1ー2

──Select──

  子どもの頃の君が、持っていたものだ。
 >これから身に付けていくものだ。
  君が目指すべき力とは違うものだ。

──────

『私が……これから……? そんな力を? ムリ……だって、分からない。意味が分からないもの!』

 しまった。
 確かに最終的にはそうなるべきだけれども、まずは彼女の警戒心と忌避感を中和させなくては……!

 →ダメージ1。

────
33ー1ー3
──Select──

  子どもの頃の君が、持っていたものだ。
  これから身に付けていくものだ。
 >君が目指すべき力とは違うものだ。

──────

『は……? じゃあ何、どうしろって言うのよ!』

 ……間違えた。
 彼女に足りないものは、向き合う強さだと考えたばかりなのに。
 考えろ、彼女のシャドウは何を示唆していた。

 →ダメージ1。


────

33ー2ー1

──Select──

 >空手は、好き?
  君はどうなりたい?
  相沢さんにとって、力ってなに?

──────

 空手が、好きか。と問う。
 好きならば、頑張れるはずだ。まだ立ち上がれるはずだと信じて。

 ……けれど。

『分からない。もう私には……自分のことがわからない……』

 畳み掛けた言葉が、彼女の心を折っていた。
 自分たちは彼女が空手を好きなままでいると信じているけれども、彼女が彼女自身を信頼できていないから、断言できないのかもしれない。
 これは、言葉を間違えたな。

 →ダメージ+。

────
33ー2ー2
──Select──

  空手は、好き?
 >君はどうなりたい?
  相沢さんにとって、力ってなに?

──────

 どうなりたいのか、思い描く将来像を問う。

『どう、なりたいかなんてわからない。何して良いかも分からないのに』

 ……馬鹿か。そうに決まってるじゃないか。
 今の彼女に未来を尋ねてどうする。大事なのは、今と向き合うことだ。
 なら、掛けるべき言葉は……!


 →選び直し。

────
33ー3ー2
──Select──

  君はまだ、諦めたままでいたい?
 >向き合う準備はできているか?

──────

『まだ、怖い……受け入れられる訳がないし。準備なんて……そもそも、私はどうして……』

 しまった、逆効果か。ここは無理にでも焚き付けるべきだった。
 仕方ない。もう1度、ゆっくりやり直そう。もうミスは許されない。
 
 →やり直しルート。

────
 3ダメージでバッドエンド。
 錯乱した相沢さんのシャドウに殺される感じで。

────

 こんな感じかな。
 ここはやっぱりCCC風なアレ。バニッシュ? ないよ。






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