作中時間が15日しか経ってないのに、30ページを超えてくるとは……いったい完結までどれくらい掛かるんだろうか。
「そこ、気を抜かない。怪我したらどうするの!」
「「はい!」」
「集中は切らさない。もう少ししたら休憩だから、頑張りなさい!」
「「「「はいッ!」」」」
クラブハウス。道場の出入り口で、自分と柊さんは内部の様子を伺っていた。
事件から1日。郁島さんは検査入院中だが、一応異界を解決したので空手部の経過観察に来たのだ。
「雰囲気は良さそうね」
「そうだな」
扉を離れ、学食を通りすぎ、校舎を歩く。
話に聞いていた険悪な雰囲気は、今日の空手部になかった。郁島さんが復帰していないので確かなことは言えないが、改善の芽は出ていると考えて良いだろう。
しかし、こうも早く影響が出るのか。
そのまま歩みを進め、いつもの集合場所に入る。
内部には時坂と璃音の姿があった。
「どうだった?」
「雰囲気としては、良い感じだと思う」
「そうか……」
ひと安心したのか、時坂は胸を撫で下ろす。
「まだ安心するには早いわよ、時坂くん。郁島さんが部に戻った時も確認してみないと」
「そりゃ分かってるけどよ」
「まあまあ、少し安心するくらい許してあげなよ」
璃音が苦笑する。
仕方がないわね、と柊さんが腕を組み。
一呼吸挟んだ時坂は、真面目な面持ちになった。
「それで、結局どういうことなんだ? 何で相沢のシャドウを倒して、現状が改善すんだよ」
「正確には、シャドウを説き伏せると、ね」
柊さんは立ち上がり、黒板の前に立つ。
チョークを持ち、何かの図を書き始めた。
「シャドウは隠した欲求の現れ。それを説得し、本人の中へ戻すということはつまり、異界を発生させていた程のストレス源を解消したということよ」
「……すまん、もっと分かりやすく頼む」
「……周囲からの重圧。倫理観。法的拘束。そういったものが発症者の理性と本音の摩擦を産み出し、別れさせる。シャドウとして顕れるのは当事者の本心の塊のようなもの。ここまでは良いわね?」
柊さんは黒板に同じ形をした2つの人型絵を描き、その胴体にそれぞれ『本人』、『シャドウ』と記す。シャドウの方は丁寧に紫チョークで影まで付けていた。更にその頭部には、『理性』、『本心』と書き入れられる。
見やすい絵だな。自分も板書係として頑張らなければ。
「さっきも言った通り、本心の抱える訴えはシャドウが持っているわ。私たちが異界でしたのは、彼女に本心を吐かせ、その上で説き伏せた、ということなのよ」
シャドウと書かれた人の周囲に、『ストレス』『重責』などといった単語を浮かべ、上からバツ印をつけていく。
「つまり、持って出たストレスとかをあたし達が解消したから、戻ったときには綺麗さっぱりってこと?」
「大体はそういうことね」
「……けれどそれだと、またストレスが溜まるんじゃないのか?」
「ええ、だから貴方達がとった手段で正解だったのよ」
シャドウの上に矢印を描き、もう1体人形図形を書く。その周囲を黄色でなぞりつつ、頭部には『本心』という単語を残した。
これは、何やら下のと比べて雰囲気が良くなったようだが?
「シャドウの持つ蟠りなどを解消すると、その人はストレスなどと向き合い方を獲得することになるわ。本心が受け入れた考え方を、そのまま実践できる、ということね」
そうして、黄色に包まれた人形の横にまたもう1体の人を書き、頭部には『完全体』と入れる。
……完全体?
それだけでなく、新しい人形の内側にもう1体の人を書き、黄色い枠を書いた。
そして隣の図形から延びる横矢印。成る程、これが還った状態ということか。
「本心が問題を受け入れられるようになれば、現実の見方や捉え方が変化し、当人の表現にも差が出てくる。これが今回、貴方達が成し遂げたこと──ああ、岸波くんからしたら2度目になるのかしら」
「……そういうことか」
璃音の時も同様だ。
自分が考える向き合い方を伝え、璃音本人がそうしようと願ったことで、本心の燻りはなくなった。それが結果として彼女に戦う力を与えた訳だが、ひょっとして相沢さんもペルソナ使いになっているのだろうか。
「尤も、玖我山さんの一件はそれだけでなく、本人の異界適正が高かったこともあるわね。玖我山さん自身、当時の事ははっきりと覚えてるんでしょう?」
「え、あ、ウン。そりゃあ目の前であんなことが起きたら覚えてるって」
「普通は起きてすらいられないのだけれど、まあいいわ。それが幸いして、玖我山さんが理性と本心の間で妥協点を探し出し、結果抱いた強い願いがペルソナへと変化した」
「……あー、なるほど?」
「絶対分かってねえなコイツ」
曖昧な表情で分かったような反応を示した璃音に、時坂が厳しいツッコミを放った。
うぐっ……と胸を押さえる璃音。分からないなら素直に言えば良いのに。
しかし、そうか。相沢さんはその適正云々があって、ペルソナ使いにはなれないらしい。
「何でこの話をわざわざしたのかと言うと、恐らくこの経験のお陰で最後、岸波くんと玖我山さんはシャドウに止めを刺さなかったのでは、と推測できたからよ」
「止めを刺すと、どうなってたんだ?」
「同じことの繰り返し、でしょうね。ストレスは一時的に解消されても、精神的にはなにも変化せず、向き合えないままだし。時間の経過で再発することになると思うわ」
「……いや、そういうことは早く言えよ、柊」
「だから、“すべてを任せる”と言ったじゃない。それにもしそうなったとしたら、私が1人で対処するつもりだったし、今後すべての作戦は私が主導、皆には適当に経験を積んでもらう形になっていたわね」
恐ろしい事を言う。
間違えなかったから良かったものの、もし何かを仕損じてた場合は見捨てられてたということか。
「だから総合的に言えば、及第点でしょう。ただし、戦闘内容はもっと良いものに出来るはずだから、そこは追々直していきましょうか」
柊さんがクールに笑って言う。
次の機会が与えられている、ということは、認められたのだろうか。自分たちは。
だとしたら、良いな。
「……まあ、まだまだ、ってことだろ」
まだ強くなれる。まだやることがあると時坂は拳を突き合わせる。
やる気は十分みたいだ。
「そうだね。でも、これからも諦めないで行こっ!」
璃音も、それは同じ。笑顔で、力強く、周りと自身を鼓舞していく。
胸の前に拳を構え、衝動を溜め込んでるかのようだった。
「ああ、まだまだこれからだ」
浮かれてはいられない。いつ次の事件が起きるかは分からないから。
けれど少しだけ、この雰囲気に浸ろう。
皆が嬉しそうに、前向きでいる、この温かな空間に。
コミュ・愚者“諦めを跳ね退けし者たち”のレベルが2に上がった。
────
最終話っぽく。
2話の主題は、前回までにも出している“競うこと”への諦め。
副題は、“生きてきた足跡”……とかですかね。明かせる範囲だと。
1話と2話の主題とかについて少し注釈しようかとも思いましたが、止めときます。いつか完結したら乗せるので、良ければその時にでも。
さてさて、今回は前ページの選択肢回収を行います。
ハクノのステータスは次回必ず。
────
33ー1ー2
──Select──
子どもの頃の君が、持っていたものだ。
>これから身に付けていくものだ。
君が目指すべき力とは違うものだ。
──────
『私が……これから……? そんな力を? ムリ……だって、分からない。意味が分からないもの!』
しまった。
確かに最終的にはそうなるべきだけれども、まずは彼女の警戒心と忌避感を中和させなくては……!
→ダメージ1。
────
33ー1ー3
──Select──
子どもの頃の君が、持っていたものだ。
これから身に付けていくものだ。
>君が目指すべき力とは違うものだ。
──────
『は……? じゃあ何、どうしろって言うのよ!』
……間違えた。
彼女に足りないものは、向き合う強さだと考えたばかりなのに。
考えろ、彼女のシャドウは何を示唆していた。
→ダメージ1。
────
33ー2ー1
──Select──
>空手は、好き?
君はどうなりたい?
相沢さんにとって、力ってなに?
──────
空手が、好きか。と問う。
好きならば、頑張れるはずだ。まだ立ち上がれるはずだと信じて。
……けれど。
『分からない。もう私には……自分のことがわからない……』
畳み掛けた言葉が、彼女の心を折っていた。
自分たちは彼女が空手を好きなままでいると信じているけれども、彼女が彼女自身を信頼できていないから、断言できないのかもしれない。
これは、言葉を間違えたな。
→ダメージ+。
────
33ー2ー2
──Select──
空手は、好き?
>君はどうなりたい?
相沢さんにとって、力ってなに?
──────
どうなりたいのか、思い描く将来像を問う。
『どう、なりたいかなんてわからない。何して良いかも分からないのに』
……馬鹿か。そうに決まってるじゃないか。
今の彼女に未来を尋ねてどうする。大事なのは、今と向き合うことだ。
なら、掛けるべき言葉は……!
→選び直し。
────
33ー3ー2
──Select──
君はまだ、諦めたままでいたい?
>向き合う準備はできているか?
──────
『まだ、怖い……受け入れられる訳がないし。準備なんて……そもそも、私はどうして……』
しまった、逆効果か。ここは無理にでも焚き付けるべきだった。
仕方ない。もう1度、ゆっくりやり直そう。もうミスは許されない。
→やり直しルート。
────
3ダメージでバッドエンド。
錯乱した相沢さんのシャドウに殺される感じで。
────
こんな感じかな。
ここはやっぱりCCC風なアレ。バニッシュ? ないよ。