PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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4月28日──【杜宮高校】それってずるくない?

 

 

 

 ──朝──

 

 

 

 一人で朝食を取っている最中、サイフォンが振動した。

 誰かからの連絡を受け取ったらしい。

 ──差出人は時坂のようだ。

 

『期限ギリギリだし、そろそろ向かわねえか?』

 

 確かに、準備は終わっている。出来ることはしているだろう。

 ただ、昨日の今日だ。準備準備と、皆が休みを取ることはなかった。

 今日このまま異界へ突入して良いだろうか……?

 

──Select──

 >攻略へ向かう。

  今日は止めておく。

──────

 

『ああ、今日行こう』

『そう言ってくれると思ってたぜ! じゃあこの後、空き教室に集合な!』

 

 時坂のやる気が入ったみたいだ。心強い。

 そのまま璃音と柊さんにも、異界へ赴く旨を伝える。休日だと言うのに二人とも、2つ返事で了承してくれた。

 

 ……遂に、か。

 今は取り敢えず、軽く考える程度にしておこう。考えすぎては、食べ物が喉を通らなくなる。

 

 

──午前──

 

 

「集まったわね」

 

 柊さんが、室内を見渡して言った。

 柊さん以外、全然落ち着いていない。不安なのか、焦っているのか、あるいは両方かはわからないけれども、兎に角良くない兆候だ。かく言う自分も、平常心でいることはできていないと思う。

 それでも覚悟を決めなければ。自分は、リーダーなのだから。

 

「……それじゃあ行きましょう。適度なら構わないけれど、緊張しすぎると動きが鈍るわよ」

 

 忠告のように言い放ち、彼女は立ち上がった。自分も続いて立ち上がる。

 立ち上がる、という日常動作がこれ程疲れるとは思わなかった。存外、緊張が解れていなかったらしい。だが、それでも二人より早く立てた。

 だからそのまま、手を差し伸べる。一緒に行こう、と。

 

「……あああああ──ッ! よしッ、やる気出た!」

 

 最初に、璃音が叫びを上げた。

 緊張の種類は似て非なるものだろうが、それでも大舞台でミス少なくやって来た彼女は、その重圧を自ら払い除ける。

 その目に活力をみなぎらせ、その顔に笑顔を咲かせる。

 私は、何処に出ても恥ずかしくないアイドルである、と存在が訴える。

 勢いよく立ち上がり、力強く手を握り返してきた。

 一緒に行こうよ。

 支え合おうよ。

 まるでそういうかのような、優しさと勇気を込めて。

 

 

「──しッ! 行こうぜ皆ッ!」

 

 時坂が吠える。

 武道の経験者である彼は、拳を突き合わせて気合いを入れた。

 その胸に炎を灯し。その手に力を宿し。

 動きたい、救いたい、と視線が訴えてきた。

 しっかりと立ち上がり、拳をこちらへ向けてくる。

 背中は任せた。

 前は任せろ。

 突き合わせた拳は、そんな信頼と熱を伝えてきた。

 

 胸にナニかが宿るのを感じつつ、出口を向く。

 緊張はしている。不安もある。

 それでも、自然と足は前へ出た。

 

 

 

 ────>チアキの異界【月下の庭園】。

 

 前訪れた時と同じく、見ているだけなら長い時間過ごせそうな景色。

 不気味さはあれど、神秘性が高く、不快感はそう高くない。

 そんな光景が続いているけれども、残念なことに、敵は多かった。

 

 時坂が、璃音が、自分が、全力でソウルデヴァイスを振るう。一筋縄ではいかないけれども、特訓の甲斐もありスムーズに進めていた。

 その進行に歪みが生じたのは、異界が中盤に差し掛かった頃だろうか。

 

「うおっ!?」

 

 先行して進んでいた時坂が滑る。滑って滑って──シャドウへ突っ込んで行った。

 ……って、マズい!

 

「タマモ!」

 

 時坂も咄嗟とはいえ、ソウルデヴァイスを前へ出した状態でぶつかりに行ったのが功を奏した。

 お陰で大きな攻撃を喰らうことなく、シャドウと距離を詰めている。

 衝突されたシャドウも体勢を崩していて、攻撃に転じられていない。謂わば、両転げな状態だった。

 追い付いたタマモに横からシャドウだけ蹴飛ばしてもらい、時坂を回収する。

 

「助かったぜ岸波……」

「いや、その、何があったんだ?」

「分からねえ。急に床が滑り出して……」

 

 床?

 時坂が滑った辺りを見る。

 ……確かに、氷が張られているような見た目だが、まさか。

 

 近づき、足を乗せる。乗せただけで少し滑った。まさかとは思ったが、本当に凍っているらしい。

 幸い、凍結した地面は通路中央くらい。現実の道路でいえば車道が凍り、歩道しか歩けない状態。スタッドレスタイヤ付きの車も無いし、今後の進行は困難を極めそうだ。

 

 そんなことを思っていたら、璃音が平然と氷道を進んで行った。

 

「どうしたの? 早く行こっ!」

 

 まあ飛んでいるし、それはそうなのだろうけれど。

 少しだけ、翼のソウルデヴァイスが羨ましくなった。

 

 その後も攻略を進めていく。

 時に氷で出来た坂で滑り落ち──璃音が背中を押してくれた──たり、時に氷の回廊に閉じ込められ──璃音が飛び回り敵を殲滅してくれた──たり。

 本当に、璃音がいてくれて良かったと思う。そうでなければ倍の時間が掛かっていたかもしれない。

 

 ともあれ、そんな異界攻略も終点。

 遂に、相沢さんと郁島さんの姿を捉える位置までやってきた──

 

 

 






 何故原作のリオンは飛んでるのに氷道で滑ってたのだろうか、とても疑問。そういう概念が付与されてたのかな、とか思いましたが、当作では影響を受けないことにしました。
 テレビの中しかりパレスの中しかり、ペルソナ世界観的に、人が考え付かないことをダンジョンに反映はできません。人が深層心理で、飛んでる人が地面から影響を受ける、なんて思い込むはずありませんし。


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