PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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4月27日──【マイルーム】支えられているという実感

 

 

『1つ、聞きたいことがあるんだが』

 

 翌日の朝、自分は時坂・柊さん・璃音の4人で組む共有チャットに文字を打ち込んだ。

 

『どうかした?』

『何かしら?』

 

 反応してくれたのは、璃音と柊さん。

 時坂からの返信はない。まだ寝ているのだろうか。

 

『異界関連の用意って、具体的に何をすれば良いんだ?』

『絆創膏とか?』

 

 璃音が返してくる。遠足か。

 ……でも、遠足のように、携帯食料なんていう選択肢もあるな。

 となるとやはり、柊さんの意見も聞いておきたい。何に注意すべきなどかは分からないし。

 

『準備するものと一口に言っても、色々なものがあるわ。2人とも、今日の放課後は空いているかしら?』

『大丈夫だ』

『私も大丈夫!』

『なら放課後、買い物に出掛けましょう』

 

 買い物。

 となると、異界関係の店があったりするのだろうか。

 ……今日は土曜日、半日授業だ。広い範囲を回るには丁度良いだろう。

 遠出になるかもしれない。……所持金、足りるだろうか。

 やはり早々にバイトを見つけなければ。

 今回の異界を解決したら、連休で日雇いのバイトをするのも良い。

 

 取り敢えず、学校に行こう。

 

 

──放課後──

 

 ──>駅前広場【スターカメラ】

 

 一旦集合場所として選んだのは、すっかりお馴染みとなった教室。

 そこで4人合流し、向かったのは駅前広場。話によると、スターカメラとさくらドラッグに用があるらしい。店の何に覚えはある。どちらも杜宮に来て以来の訪問だ。

 

 先に、スターカメラを訪問することになった、近い順で。店内に入ると、先導していた柊さんが口を開く。

 

「ここには、“あちら”関係の技術者が勤めているのよ」

「アカネさんって言う……ああ、あの人だ」

 

 受け付けに立つ、1人の女性の前へ向かう。

 銀髪の、凛とした人が綺麗なお辞儀をして出迎えてくれた。

 

「柊さん、それに時坂さんも、月曜日以来ですね。……お話は伺っております。後ろの方々が、岸波さんに、玖我山さん、で宜しかったでしょうか」

「よろしくお願いします」

「は、はい、お願いします」

「異界関連のサポート及び技師を勤めております、アカネです。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 アカネ、と名乗った女性は、自分達のことを聞いていたらしい。

 柊さんが前もって伝えておいた……というには少し、対応がおかしい気もするが。

 お話は伺っている。ではなく、そちらが連絡にあった……という言い方をするだろう。

 だとしたら、誰が言ったのか。

 今のところ、自分と璃音が異界に関わっていることを知るのはあと1人、美月だけだが……まあ、調べた所で意味はないか。必要であれば、柊さんが問い詰めているだろうし。

 

「こちらでは、ソウルデヴァイスの調整と強化。それとエレメントの購入ができます」

「エレメント?」

 

 初めて聞く名前だ。

 柊さんの方を見る。

 

「エレメントというのは、ソウルデヴァイスのカスタムパーツのようなものね。それぞれセットすることで、多様な力を引き出すことが出来るわ」

「へえ……でも、ソウルデヴァイスって出せないよな? どうやって効果とかを確かめるんだ?」

「ええ。実際に付け替えようとするなら、異界でしか行えないわね。けれどサイフォンの中にシミュレータがあるの。そこで能力の変化を試せる」

「え、スゴい。そんな事できるんだ、サイフォンって……!」

 

 璃音が感動したようにサイフォンを弄る。

 シミュレータか。ハイテクだな。

 ……自分も、少しやってみるか。

 

「へえ、岸波、使えるようになるの速えな」

 

 後ろから覗き込んでいた時坂が、そう声を掛けてくる。

 隣の璃音はまだ上手く扱えていないようだ。少し返答に困るが、個人差ということで納得してもらおう。

 

「自分は別に特別なことはしていない。普通だと思う」

「ム。アタシももうちょっとで出来るから!」

 

 数十秒後、出来た! という喜びの言葉が響き、少し恥ずかしそうで嬉しそうでかつ悔しそうな──まるで一人百面相をするかのような──璃音を尻目に説明が再開される。

 

 

「やってもらった通り、エレメントはいつでもシュミレーション出来るわ。一方でほかの調整……例えば、ソウルデヴァイス自体の調整をすることはできない。高度すぎるもの。だからそこは、技師の領分」

「ええ。その為に私たちは居ます。ご入り用の際は、是非お立ち寄りください。柊さんも」

「……善処します。それじゃあ、次の場所に行きましょうか」

 

 

 

 ……善処?

 

 

 

 

 

 ──>駅前広場【さくらドラッグ】。

 

 

 ここの店員は見覚えがある。

 杜宮に着いて、初めて会話した人間。

 いや、タクシーの運転手の次だから、2人目か?

 

「おや? キミ達は……」

「どうも、ミズハラさん」

「どもッス」

「……ハハッ、結局こうなってしまったか」

「「「「?」」」」

「いや、こっちの話さ。それにしても、アイドルまで居るんだよね、サイン貰ったりしても良いのかな?」

「え、あ、はい」

 

 璃音がサインを書いていく。流石に手慣れているのか、スラスラとした手つきだ。

 書き終え、渡し終えた璃音がこちらを振り返る。何だろうか。

 

「キミ達も、サイン貰っとく?」

「「いや、別に」」

「むむっ……」

 

 自分はしっかりとした理由があるが、時坂もか。

 そういえば時坂も、璃音のことを知らなかったんだっけ。

 すっかりむくれた璃音を尻目に、彼に話しかける。

 

「時坂は良いのか?」

「ああ。実はまだアイツの所属するグループのこととかしっかり分かってねえんだ。よく分からねえのに貰うのは、なんつうか、悪い気がしてな」

「……なるほど」

 

 確かに、価値を理解してないで求めるのは気が引ける。

 しっかり考えてるんだな。

 

「そういう岸波は?」

「……璃音が、しっかりとアイドルに復帰できてからにする」

「そういうことか」

 

 何だか、そうした方が良いと思ったのだ。

 単純に、アイドルとして輝きを取り戻してあげたいと。

 歌えるようになった彼女に、笑顔で貰いたいと。

 ……少し、傲慢な考えだろうか。

 

「良いな、そういうの」

「何がだ?」

「いや、別に」

 

 本当に、何だろうか。

 

 

「……男同士の内緒話は終わったかしら?」

「内緒話?」

「別にしてないが」

「なら、遠慮なく話を進めるわね。ミズハラさん」

「ああ」

 

 ミズハラさん。薬局らしい白衣を着た爽やかな紺髪の青年。

 場所と眼鏡が相乗してか、とても知的に見える。

 特に眼鏡が良いな。優しさ、爽やかさ、知的さをすべて補助していた。なんて万能アイテム……!

 

「ど、どうしたんだい、そんなに熱心に見詰めて」

「なんでもありません」

「そ、そうかい。……こほん、時坂くんは月曜日以来だね。ああでも、キミには2週間くらい前に会ったかな。改めまして、ミズハラです。一応異界関連の薬も扱う薬剤師だよ、よろしくね」

「「よろしくお願いします」」

 

 異界関連の薬、とは、どういうものだろうか。

 

「僕が扱うのは、魔法の力が込められた回復薬とかかな。後は普通に“よく効きすぎる”栄養ドリンクとか。まあ、ここら辺はとっておきだから高価だし、おいそれと販売できないけどね」

「それでも、回復薬は数種類持っていった方が良いわ。探索には体力を使うし、ペルソナ召喚には精神力を消費するから」

「そうだね、取り敢えず副作用の殆どない物はキミ達にも売れるよ」

 

 ……つまり、慣れてきたら副作用のある物を売ってもらえるのだろうか。

 

「でも、時坂君にも言ったけど、僕はやっぱりキミ達素人が異界に関わることには反対だ。異界には中毒性のようなものがある。踏み込めば踏み込む程帰れなくなるもいうのは、覚えておいて欲しい。柊さん、引き際は見極めてあげてください」

「承知しています。……踏み込み過ぎて良い裏なんて、決してありませんから」

 

 表情に影が落ちる。

 裏、か。

 日常の裏。正しく、異なる世界。あれを身近に感じてしまうようなら、もう2度と元の生活には戻れないのだろう。

 戦いに慣れた脳は次の戦いを欲す。命の危機に晒され続ければ、安全な場所に恐怖を覚える。本の中だがよく聞く話だ。だからこそ、初心を忘れてはいけない。それを当然と思ってはいけない。

 

 ……だが、異界から目を背け、安寧を享受することは、本当に正しいのだろうか?

 

 日常の裏には、非日常が存在する。気付いていなかったもの(シアワセ)に気付かされただけ。見てみぬフリが善い生き方だと、自分は思えない。

 璃音の闘う理由に、近いものがある。

 

「まあ、柊さんが居るなら大丈夫だろう。しっかりと準備していくといい」

「ありがとうございます。それじゃあ岸波くん、薬品の説明をするから、こっちに来て頂戴」

「ああ」

 

 きっと、目を逸らしたくない物は誰にでもあるだろう。

 自分たちが異界という問題から目を離さないのと同様、柊さんは自分たちという問題から目を背けないでいてくれているのかもしれない。

 

 

 

 ──>駅前広場【広場入口】。

 

 

 薬の効能を聞き、必要そうなものを割り勘して購入。

 そうして店舗から出た後、ちらりと視界に入ったもののことについて訪ねた。

 

「時坂と柊さんは、月曜日に異界を攻略したんだよな?」

 

 目を向けた先には、特訓で使用された異界がある。そういえば駅前広場から入ったんだったか。

 

「ええ、異界と言っても小規模な危険性の低いものよ。時坂君もいざという時の対処法くらいは覚えておいた方が良い、と思って。まさかその夜すぐに別件へ巻き込まれるとは思ってもいなかったけど」

「ぐっ、そりゃあ……目の前であんなことが起きたら、見過ごせるワケもねえだろ」

「そうね。短い付き合いでも、貴方がそういうタイプの人間なのは分かっている。けど、ミズハラさんも言ったでしょう、積極的に関わることじゃないと。表の人間は、裏に関わるべきではないわ」

「またお前は、自分と他人は違うみてえな言い方しやがって……!」

「事実違うもの。私は任務として学校に通っている。貴方達は学生として学校に通っている。何に重きを置いているかでも明確に分かるでしょう?」

 

 言い争いに発展しそうな剣幕だ。

 実際柊さんは、異界のプロフェッショナルという肩書きを背負っている。

 自分達は、否、自分は正義感で首を突っ込んでいるだけに過ぎない。

 それでも。

 

「柊さんにとって、そこは譲れない線なのは分かった。でも現実として、自分達の前で事件が起きている。伸ばした手が、宙を切っているんだ。目の前で起こる悲劇から目を逸らさない為に、戦うことを選んだ自分達としては、見過ごすなんてできない。だとしたら後は、協力した方が有意義じゃないか?」

「……否定はしないわ。この前言った通り放っておいて何か起きても事だし、何より協力の必要性は、私も認めている。だからこそ同行を許しているし、こうして案内もしているのよ」

 

 そういえば空き教室で釘を刺されたこともあったか。でも、確かにそのはずなのだ。

 本職の柊さんにとっては、目の届かない範囲で何かをされるのが一番迷惑だろう。

 だからこそ、自分や時坂という不確定因子を監視の為に手元へ置いた。

 彼女はそれをしっかりと分かっている。分かった上で、これ以上は関わらない方が良いと言ってくれているのだ。従うかどうかは別として、それ自体はとても有り難いことだと思う。

 後は、時坂の方だな。

 

「時坂、立場が違うのは当然だ。彼女が居るお陰で、自分たちはこうして行動できている。それは、分かっているんだろう?」

「……そりゃあ」

「なら聞くが、立場が違う人には背中が預けられないか? 共に戦えないか? 仲間にはなれないか?」

「……いや、そう、だよな。大事なのはそこじゃねえか」

 

 そう、立場じゃないのだ。

 大事なのは、その人が仲間か。協力し合える存在か、ということ。

 

「すまねえ柊、言い過ぎる所だった」

「こちらこそ」

 

 時坂が頭を下げ、柊さんも口論の責を認める。

 なんとか仲裁できたみたいで良かった。

 

「さて、時間を取ってしまったわ。商店街へ急ぎましょう」

 

 

 ──>商店街【倶々楽屋】。

 

 そこは、鍛冶屋のような場所だった。

 いや、それ自体はなんとなく、外で掛け軸を見たときから気付いていたが。

 『鍛冶、金物、研ぎ、よろず承ります』と書いてあったし。

 

 しかし実際入ってみると、特段異質な雰囲気を感じた。

 フライパンやボウル、鍋を初めとし、包丁や刀、ペンチやバールまで置いてある。

 もっとも雰囲気を出しているという意味では、レジにいる中学生くらいの着物少女と、その奥にいる眼帯を付けたご老人だろうか。

 

「あ、アスカさん!」

「マユちゃん」

 

 少女が、顔を輝かせて柊さんの名前を呼んだ。

 それに応えるように、柊さんも柔和な笑みで彼女の名を呼ぶ。

 その後も笑顔で会話し続ける2人を眺めつつ、時坂が説明を始めた。

 

「あの子はマユちゃん、奥に居るのがジヘイさん。爺孫の霊具職人ってやつらしい。スターカメラで出来るのと同様に調整ができたり、後は霊具──ああ、あっちの世界にある不思議な力を利用した道具のことなんだが、そういうのを作成販売してくれる」

「へえ……あんなかわいい子も、あんな世界を知ってるんだ」

 

 璃音が、心配そうな表情をした。

 彼女のように巻き込まれて関わった訳ではないだろう。だが、いくら後方とはいえ命の関わる事柄に関与しているとなると、少し思うところがあるのかもしれない。

 生き方に口を出すとしたら傲慢だろうが、そうやってすぐに心配できるのは彼女の良いところだろう。

 

「すみません、時坂さんも、こんにちは! あれ、後ろのお2人は……?」

「岸波です」

「えっと、玖我山です」

「……どこかで見たことあるような……?」

 

 璃音を見て首を傾げるマユだったが、そういうこともあるか、と納得した様子だった。

 その自己完結に、ひっそりと落ち込む璃音。最近よく見る光景なので放っておく。例え慰めたとしても、キミには言われたくないと返されるだけだろうし。そういう日もある、ということで。

 

「あ、じゃあもしかしてお二人も?」

「ええ、関係者よ」

「せ、精一杯頑張りますので、倶々楽屋をよろしくお願いします!」

「ああ、頼らせてもらうよ」

 

 その姿勢を見て、やはりこの子は自分からこの道へ進んだんだな、と感じた。

 そして自分たちは、今日会う人たちの助力を得て戦うんだと。

 頼らせてもらう、か。言った後だが、本当にその通りだった。彼らがいなければ、自分たちは相当な苦境に立たされるだろう。命を救ってもらっていると言っても過言ではない。

 目の前に立つ人は、年端もいかない少女などではない。彼女だけでない、直接関わる人関わらない人の多くが多くを助けている。自分達がやるのも、そういうことだ。謂わば、同志? いや、仲間と言った方が良いのだろうか。

 生きていく上での仲間。ああ、良い感じがする。

 

 

 

 

 ──>杜宮商店街【入り口】。

 

 装飾品、霊具と言ったか。

 それらに一通り目を通した自分たちは、店を出ることにした。

 というのも、単に持ち合わせで購入することが難しい品物が多かったということもある。

 

「ちなみにシャドウを狩ることで、お金が手に入るわ」

「シャドウっていったい何なんだ……」

 

 まあ、お金があって困るということはない。

 逆に現状、無くて困っている所だし。

 

 その後、特になにもなく別れた。

 

 

────

 

 さて、そろそろ期限も間近。しっかりと考えて行動しなくては。

 

 取り敢えず、今日も勉強しよう。

 

 




 知識+1。

────

 あとがきの欄だけ見ていくと、主人公、勉強しかしてないんじゃないか疑惑。

 少し貧乏アピールが多いのでは? と思わなくもないですが、装備を買えなかったりする主人公はきっとこんな心情。物語最初のうちしか味わえないしなぁ、と。


 個性という言葉に弱い岸波白野。女主人公の特権と化している眼鏡スキーを持ち合わせている訳ではない。たぶん。
 でもそのうち眼鏡は掛けるはず。イメチェン作戦。某個性的(?)Tシャツも着てもらって。
 あくまで予定ですけどね!


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