ペルソナ要素がなかなか出せない。
まあコミュとかはまだしも、戦闘要素とか。
原作(東ザナの方)は出だしから異界に入ってたのに……
「失礼、岸波様でしょうか」
「あ、はい」
少し考え込みすぎたのか、目の前に立つ女性に気付かなかった。
スーツ姿の彼女は目線が合うとすぐに1礼。綺麗なお辞儀の後に、微笑みながら口を開く。
「編入試験合格おめでとうございます。本日案内を勤めます
「ありがとうございます、お陰さまで合格することができました。岸波 白野です、よろしくお願いします」
「下に車を用意してますが、何か他に買い物等御用はおありですか? もしよろしければお付き添いさせて頂きますが」
「大丈夫です、お願いします」
それではこちらに、と雪村さんはバス停が多く並ぶ階下へ自分を誘導する。
降りて、暫く着いていくと、そこには大きな黒い車が待っていた。
……これ、きっと、高いやつだ。
「どうぞ」
拒否する理由もないので、開かれた後部座席のドアへと入る。
外から見ても大きな車だったが、中に入るとやはり広い空間だった。
言っては何だが、タクシーとはまったく違う。座席1つを取っても座りやすい。ここならもっと快適に眠れそうだ。
雪村さんはそのまま運転席に乗り込んだ所で、ミラー越しに目を合わせると、話しかけて来る。
「申し訳ございません、本来ならば会長の北都 征十郎かその令嬢である北都 美月が案内に来る手筈だったのですが、急な会議で出れなくなってしまいまして」
「いえ、大丈夫です」
むしろ、実際に来ていたら縮こまっていただろう……いたはずだ。
流石にここまでくると、北都グループがどれだけの大企業かは漠然と理解できる。
その代表やそれに近しい人間といきなり話せと言われても、言葉がでないだろう。
「雪村さんは普段、何をされている方なんですか?」
「私は美月の秘書をしております。岸波様も、後日手続きを終えれば似た立場になるかと」
「……そう、なんですか」
秘書。美月という人は有名グループの令嬢としてだけではなく、秘書をつけられる程に仕事が多い役職の方らしい。
しかし確か自分は、高校に通いながら勉強と経験を積んでいくという話だったはずだが。
「詳しい話はまた明日。編入手続きの際に説明があるとのことです」
「……わかりました」
それにしても、今後上司になるであろう人と話すのには大きな違和感を覚える。
元来敬語を上手く使える人間ではないし、そこは書物で勉強しただけだ。練習した訳でもない。そのうちこういった礼儀も教えてもらえるのだろうか。可能な限りは自分で頑張りたいが。
「……ああ、そうでした、これから同僚となる岸波様に、1つお願いが」
「はい?」
「美月お嬢様とは、出来るだけ対等に、友人として接していただけないでしょうか。これは会長の征十郎様の意向でもあります」
「……? すみません、理解ができないのですが」
「岸波様の現状については理解しております。端的に申しまして、お二方とも同年代とは掛け離れた境遇と能力の持ち主。競い合い、高め合うことが、お二方の、そしてグループの発展に繋がるのでは、というお考えのようです」
……能力云々は置いておくとしても、境遇が特殊なのは自覚している。
原因不明の病気に侵された自分は、
どう表現したところで、自分の過去を語るには伝聞系を使わざるをえない。眠りにつく以前の記憶がまったくないからだ。
その環境下で、治療法が確立されたことで完治したらしい自分は1年半前に目覚め、病院でリハビリをしつつこうして社会復帰を果たした。
そのリハビリ──いや、病院の手配から何まで行ってくれたのが、北都グループ。
目覚めた自分の両親や家族は見付からなかったらしい。顔くらいは知りたかったが、その痕跡すら分からないとのこと。とはいえ分からないなら仕方がない。
幸いにして、前に進む道は北都が与えてくれた。
北都は、治療費や入院費、リハビリ代などをすべて肩代わり(という名の出世払いに)してくれ、何の担保もない自分を高校へ編入する手続きや試験のために家庭教師を用意。
その代金として、大学卒業後は北都に就職すること、高校や大学には通いながら、学生兼社員として行動することを契約した。
具体的な仕事内容は聞いていなかったが、秘書のようなことを任されることになるのか。
とはいえ、自分に望まれていることは分かった。
「分かりました。対等に、できるだけ仲良くしてみます」
「お願い致します。……さて、そろそろ到着ですので、降車の準備をお願いします」
もう着いたのか、と窓の外を見る。
左側には池が広がっていた。右側には広場のような空間と簡易な販売店にオープンテラスがある。公園のような場所らしい。
遊び回る子どもの姿やそれを見守る母親、犬と散歩する老婆など、晴れ間の下に暖かい光景が広がっていた。
「ここは?」
「杜宮記念公園という場所です。この奥にマンションがあり、岸波様にはそこで暮らして頂くことになります」
車のフロントガラスを覗くと、確かにマンションがある。
あまりの大きさに圧倒され、言葉もなかったが。
……改めてすごいな、都会。
退院する前に外を散歩する機会があり、看護婦さんと共にぐるっと敷地内を回ったことがある。しかし病院自体が田舎町のような場所にあったので、そこまで高い建物を見たことがない。
勿論テレビなどでは見たことあったが、生だとやはり迫力が違う。
暫くすると車は減速を始め、やがてマンションの玄関前に停車する。
雪村さんが先に降りて、後部座席の扉を開けた。
お礼を言いつつ車を降りる。
すると彼女は、車を仕舞って参りますので少々お待ちください。と自分に言い残し、再度運転席へ乗り込み、車と共に建物影へと消えていった。
景観はとても良い。
広い公園、並ぶ木々に大きな湖。貸しボート場やスケートボード広場などがある。
建物の上から見える景色はきっと凄いものだろう。
それだけに……料金が気になる所だが。
「お待たせ致しました。それでは、お部屋へ案内させて頂きます」
「よろしくお願いします」
戻ってきた彼女に着いていく。
……いったいこの会社、自分にどれだけの価値を見ているのだろう。
────
「それでは明日、編入手続きの為、午前10時にお迎えに上がります。それまでに準備などを済ませておいてください」
「雪村さん、今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」
「はい。長い付き合いになるでしょうし、岸波様は高校生、もう少し気を楽に接してくださって構いませんよ」
「……善処します」
部屋へと案内してもらった自分は、雪村さんに感謝を伝えて見送り、改めて部屋を見渡した。
中層に位置する自分の部屋は、とても1人用と思えない程に広い。
どう考えても持て余してしまうそうだ。
その反面、いろいろな物が置けるかもしれないが……如何せん、リハビリと勉強しかしてこなかったので趣味などはない。
なにか興味を持ったものがあれば、自分でお金を稼げば買えるだろう。
さて、掃除と暮らせる最低限の準備、就寝できる環境と、あとは明日の支度を済ませれば、今日の活動は終わりだ────
──どこかの主人公トーク──
「羨ましい……俺は屋根裏部屋なのに」
「どうでもいいけど、俺は学生寮だったよ、後輩」
「俺は菜々子や堂島さん──親戚の家族の家で暮らしてたぞ、後輩」
「……その待遇を頂戴する……(住居を)奪え、アルセーヌ!」
「……すまないジョーカー……《幾万の真言》」
「ぐあぁっ! これが、真実……!」
「……別に、暮らせれば、何処でもよくないかな?」