今回が恐らくシステムチュートリアルのみ回としては、今回が最後。
ペルソナシリーズに馴染みのある方は、結構読み飛ばしても大丈夫かと。
準備はあらかた整っているものの、このまま突入するべきか。
否、やるべきことは残っている。
そんな訳で自分は、人通りの多い駅前広場にただ1つ存在する、異質な扉の前へと来ていた。
それだけなら何てことないのだが、扉の前に一人、見覚えのある蒼い服の女性を認識し、足が止まる。
……どうして外に立っているのだろう。
「予想以上に遅いお越しで、私、驚いております」
「……すまない。なにか、約束していたか?」
「いいえ。特別なことはなにも。立ち話も何でしょう。お入りになられますか?」
ベルベットルームの扉を開け、彼女が尋ねてくる。
よく分からないものの、その為に来たのだから、入るとしよう。
────>駅前広場【ベルベットルーム】。
「ようこそベルベットルームへ」
長鼻の男イゴールが、数々の計器を背に、歓迎の言葉を口にする。
見慣れない機械の数々に、光の入り込まない天窓。生き物1つ見つからない海域。
この景色は、何度見ても慣れない。
異質さは異界と良い勝負な気がする。
「おや、お客人……以前とは少し、雰囲気が異なりますな。どうやら、善き出会いに恵まれた様子」
……そうか?
自分的にはなにも感じないが。
「ええ、それはもう……アメーリア」
「畏まりました」
イゴールの隣に立つアメーリアが、何やら本のようなものを取り出し、こちらに歩いてくる。
「これは、ペルソナ全書。今までに生まれたペルソナや、新たに生み出せるペルソナを管理できる媒体です」
そんな物があるのか。
しかし、新たに生む、とは?
「所持しているペルソナ同士を合体させることで、より強い個体を生み出すこと。私たちはこれを、ペルソナ合体と呼称しております」
試しに1体行ってみましょうか。と彼女は本を開く。
しかし一旦、本を閉じ直して、自分の顔を真っ直ぐ見つめ直してきた。
「そうでした。今、ご主人様は“愚者”たる縁をお持ちの様子。同属性のペルソナを生み出す場合、少しばかりの強化が期待されます」
……愚者の縁? どういうことだ?
「質問ばかりですね」
「これ、アメーリア」
「失礼しました」
謝罪の言葉は返ってきたが、反省の色は見えない。
まあ、謝ってほしかった訳でもないし、なにかが気に障った訳でもない。
どちらかといえば、説明を続けて欲しかった。
「愚者のアルカナは、自由な可能性。それを体現するような縁が、ご主人様の中に築かれておいでです。つまり、その面に於いて“他者に認められている自分”が構築されている状態。ペルソナは心の海から生まれますが、無からよりも、有から生み出した方が簡単且つ有用なのは自明ではないかと」
つまり現状、他のペルソナに比べて愚者という側面を持つペルソナは、作成する土台がしっかりしていると?
「そういうことです。他にも縁を紡いでいけば、色々なペルソナが強化されていくことでしょう」
「誰と縁を紡ぐも紡がぬもお客人次第。我々はただ、見守らせていただきます」
そうしてくれると助かる。
誰とどんな風に仲良くなれば強い個体が生まれやすい。とか、そういう指示をされて誰かと仲良くなるのは、何かが間違っている気がするから。
「さて。今お客人の内側に目覚めているペルソナは4体。早速、合成を試みますかな?」
……合体というのは、目覚めているペルソナを消す、ということなのだろうか。
「否定しません。ですが、ペルソナを合体させるということは、今までの成長を受け継ぎ、新たな面として生まれ変わってもらうということ。そう悲観的になることもないかと」
生まれ、変わる。
そうか、無かったことになる訳じゃないのか。
……だとしても……いや、それなら、やってくれ。
「宜しいのですね?」
その問に、もう1度だけよく考えてから、頷きを返す。
「了解いたしました。それでは試しに、この“ピクシー”と“ジャックランタン”を合体させるとしましょう」
ピクシーは相沢さんの異界で、ジャックランタンは特訓の時に目覚めたペルソナだ。
ピクシーには窮地を救われたことがある為、合成してしまうことが申し訳ないけれど、それでも行う。居なくなる訳じゃない。成長して、姿を変えるだけなのだから。
それを、真の意味で理解する為にも。
選ばれた2体が描かれたカードが強い光を放ち、1つに纏まる。
そうして生まれる1枚のカード。
その後ろに、ペルソナの姿が浮かんだ。
『私は“サキュバス”……よろしくね……』
自己紹介のようなものが聞こえると共に、自分の中に新たな力が目覚めたことを感じる。
これが、ペルソナ合体か。
「……おや、どうやらピクシーから、ガルのスキルを受け継いだ様子」
受け継ぐ、か。
ありがとう、ピクシー。
「サキュバスのアルカナ属性は月。お客人がまだ相当する縁を紡がれていない為、特別な強化などはされておりません」
それは、別に良い。
強ければ強いほど良いのは分かっているが、やはりそこを重視するものでもないと思うから。
「結構」
「では、これでペルソナ合体については終了です。質問等はございますでしょうか?」
……特に、ない。
やっていけば覚えるだろうし。
この感覚に慣れるかどうかは分からないが。
「多いに結構。それもまた、お客人の選択。お客人の意思なのですから。私共はそれを異を唱えることは致しません」
「それではご主人様、またすぐにでも会いましょう」
……?
またすぐに、とは?
「すぐに分かります」
……訪ねても無駄なようだ。
会ったのは数回だが、何となく分かってきた気がする。
かといって、掴み切れてはいないけれども。
……帰ろう。
元来た扉をくぐり、自分はベルベットルームを後にした。
──夜──
カレンダーを眺める。
救出の期限まで、あと6日だ。急がなければ。
──サイフォンが音楽を奏でた。誰かから連絡が来たらしい。
……広告メールだった。
さて、今日も勉強するとしよう。
知識+1。
──────
ペルソナ合体にここまで感情を移入しようとする主人公が居ただろうか。
うーん、しかし、ベルベットルームのキャラの癖にキャラ立ち過ぎてる感はある。え、ベス様よりマシ? そりゃそうだよ、あれは超えられないよ。
でもオリキャラ、キャラが立つ云々よりは、角が立ちそうだな……と書いてて思いました。
とはいえ以前(多分)申しました通り、このキャラの掘り下げはしません。