ここから、朝時間と夜時間を解放。
基本、ニュースの確認だったり世間話を聞いたりが朝。
家でなんか色んなことができるのが夜。
みたいな。
──>九重神社【境内】。
立ち入った瞬間、ナニかを感じ取った。
自然と背筋が伸びる。この感情は、何だろうか。
「道場は左側だ。さっさと行こうぜ」
「あ、ああ……」
歴史を感じる神社の左側には、古風な民家が建っていた。
いや、道場なんだっけか。
表札には、九重と書いてある。
「……九重?」
何処かで聞いた名のような気がする。
そんな風に考えていると、家の戸がひとりでに開いた。
「それじゃあ行ってきまーす!」
「げっ」
出てきたのは、どこか見覚えのある、中学生くらいの女子。
それに対して、とても失礼な反応をする時坂。
二人の目が合う。
「あ、コー君! いらっしゃい!」
「よ、よおトワ姉、さっきぶり」
「どうしたの? お爺ちゃんに用事?」
「まあ、そうだな」
「……んー?」
怪しい……と首を傾げる女性。
しかし時坂の呼び方で、漸く自分の記憶と結び付いた。
編入日に職員室の前で会ったのが初めてで、以降数学の授業で顔を合わせていた。
見た目とは裏腹に、その指導能力、学力は高い。人気教師の一人だ。
そんな彼女の大きな瞳が、自分の姿を捉える。
「あれ、岸波君?」
「こんにちは、九重先生」
「こんにちは。あれ、コー君と一緒なんて珍しいね」
コー君。やはり、時坂のことなのだろうか。
「……」
「見られたくなかったって顔してるな、時坂」
「……別に」
「……あ、ご、ごめんね、コー君!」
「だからコー君呼びは止めてくれって……!」
どうやら、その呼び名が知られることに抵抗があるらしい。
良いと思うが、コー君。呼びやすそうだ。
「あっ。ごめんね、そろそろ行かないと。どうやって仲良くなったとか、また今度聞かせてね!」
「いや、言わねえよ」
「むぅ、コー君のいじわる。じゃあ、またね! 岸波君も、コー君のことよろしくね!」
元気な先生だ。
こうしてプライベートの姿を見ていると、少し子どもっぽい所もあるのかもしれない。
しかし仲が良さそうだ。コー君に、トワ姉。互いの愛称が少し幼気な気もする。
……そういえば、ここは時坂の祖父がやっている道場と言っていたか。
表札は九重。先生の名字も九重。
「つまり、師範代は九重先生? でも祖父と言っていたか……はっ、女装!」
「ねえよ」
無いらしかった。当然だろう。
まあ順当に言うなら、つまり2人は従姉弟なのか。
「……ここが九重道場だ。ジッちゃんも中に居るみてえだし、とっとと行こうぜ」
「特に何も言わないんだな」
「何のことだ?」
「何もなかった体か。分かった分かった」
まあ、相当に恥ずかしかったのだろう。
取り敢えず、触れないのも優しさな気がするので放っておく。
──>九重神社《九重道場》。
道場。踏み入れてもいないが、入り口に立っただけでも重みを感じる。
空手部が活動していた部道場とは、また違った雰囲気。
その中に、胴着を纏った男性が座していた。
「……コウか」
「邪魔するぜ、ジッちゃん」
この人が、時坂の祖父。
白髪の、還暦は超えていそうな男性。
しかし、老人というには十分すぎるほど力を秘めている。
そこにいるだけで、只者ではない感じが伝わってきた。
これが武術を極め、道場を背負った者の姿なのか。
「そちらの者は?」
「岸波 白野。時坂くんの友人です」
「岸波……そうか。岸波くん、というのか。初めまして、九重
「オイ、愚息って……」
「ふん、親孝行の1つでもしたら撤回してやるわい」
何て言うか、仲良さそうだな。
「それで、何用じゃ?」
「ああ、今から説明する」
要所要所は誤魔化しつつ、郁島さんの置かれている状況、それを心配して動いていることを伝えた。
宗介さんは、少し厳しい顔をして頷きながら聞いている。
時坂が言える範囲での全てを語り終えると、彼もゆっくり口を開いた。
「そう、か。では、わしも知っていることを話そう」
「「!」」
彼が語ってくれた内容は、時坂の考えを裏付けるものだった。
郁島さんの様子が変わったのは、新学期が始まり、部活への自主参加を積極的にするようになってから、おおよそ二週間後のこと。丁度馴染み始めたかに思えてきた頃らしい。
深く聞いてみたことはないが一度だけ、部活はどんな感じか聞いてみたと言う。彼女は少し困ったように笑いながら答えたそうだ。
『今は少しアレなんですけど、大丈夫です。優しい人ばっかりですから!』
と。
結果として、その答えを聞いた宗介さんは、嘘でないと判断し、経過を見守ることにした。
「……コウ、しっかり向き合い、支えてやるのじゃぞ」
「分かってる」
「岸波くんも、どうか、頼む」
「……はい」
それは、征十郎さんが美月についてお願いしてきた時と、同じような瞳だった。
孫を案じ、誰かを頼る目。
この人にとっても、郁島さんは大切な教え子なのだろう。
自分と時坂は道場を後にした。
必ず解決してみせます、という誓いを立てて。
サイフォンを起動する。
結構な数のメッセージが貯まっていた。送り主は、璃音と柊さん。
学校に残った2人も、色々な情報を収穫できたようだ。
下校時刻が迫ってきたこともあって、2人は既に解散、それぞれ帰路についている。
自分たちも、聞き取りが終わったこと、分かったことの報告を纏め、送信。
最後に一言。
『明日の放課後話し合って、動くか動かないかを決めよう』
全員から、了解の返事が返ってきた。
「一刻も早く、何とかしないと」
「だな。……待ってろよ、ソラ」
道を別れ、帰路に付く。
詳しくは明日の検証次第だ。原因が突き詰められたと思ったなら、物的準備を済ませ次第、もう異界へ乗り込める。
頼むから、進展しますように、と夕焼けに願った。
──夜──
──>【マイルーム】。
さて、調査も大事だが、寝る前に勉強を少し進めておこう、と教科書とノートを開く。
一科目分だけ、教科書の内容とノートの中身を擦り合わせた。
まずはこれから毎日、全教科分のやってる内容を理解していかないと。
使えるのは、3から4時間程度。決して多くはないが、無駄にできるものでもない。
……効率的に、頑張ろう。
知識+1。
─
ゲームみたいに音符出ませんので、パラメータ・好感度推移は上のようにして表記していこうかな、と。
各章の終わりにでも現状の人格パラメータを纏めていきましょうかね。
上のような表現が気に入らない、というご意見があったら、章末の経過確認だけにすると思います。
そろそろ佳境。