所謂、ペルソナ戦闘システムのチュートリアル。
そして今さらですがまたしてもご注意を。
物語の都合上当然といった考えもあり、タグを着けてませんでしたが、主人公勢は大半が固有ペルソナの所持者となります。
ペルソナ過去作や異文録、メガテンから造形を変えて引っ張ったりもしますが、新規も勿論居ます。
原作がペルソナならまだしも、別の物語、別の登場人物。メインキャラを変えるならペルソナも新しく。仕方ない。仕方ないのです。そういった内容が苦手な方、本当に申し訳ありません。
仕方ないで済む話ではないことも、理解しています。
以上のことを受け入れられた方は、お付き合い頂けると幸いです。
昨日時坂たちが沈静化したという異界に到着、その入り口で簡単なレクチャーがされていた。
なんでも1度鎮めた異界はしばらく活性化──つまりシャドウの凶暴化が起こらないらしく、腕試しや修練に丁度良いんだとか。
「異界での戦闘は基本的に避けるべきじゃねえ。シャドウに見つかれば追われることになるし、それで背後を取られたら最悪。陣形は乱れ先制は取られて……散々なことになる」
そう考えると、最初の異界ではよく敵に見付からず行けたものだ。
ソウルデヴァイスもペルソナも目覚めていない時点で背後を取られていたら、一瞬で命を失っていただろう。
「基本は先制攻撃。隙を見せるまで待ち、確実に注意が逸れてる所で背後から、が理想だな」
「つまり闇討ち?」
「闇があるとは限らないが、まあ。先制できればシャドウの動揺も誘えて戦いやすくなんだよ。折角だし、積極的に狙っていこうぜ」
取り敢えずやってみせっか。と時坂はサイフォンからソウルデヴァイスを呼び出す。
自分と璃音も、戦闘準備を済ませた。
「じゃあ……標的はアイツにするか。オレが一撃加えたら、2人も続いてくれ」
そう言って彼は、球体のようなシャドウを通路影から観察し始めた。
そして、シャドウが後ろを向いて離れ始めた瞬間、一気に接近。
「らあッ!」
独特な軌跡を描いて、時坂のソウルデヴァイス──レイジング・ギアがシャドウに斬りかかる。
──当たった。
それを確認した自分は鏡を投射し、璃音は翼を羽ばたかせた。
シャドウは動揺しているのか、左右を忙しなく見て警戒している。敵は目の前にいるというのに。
まずは璃音が近付いき羽を大きく振ることで打撃する。
続いて自分の鏡をぶつけ、最後は時坂が一撃を与えた。
「敵には固有の戦闘モーションがある。個体によって知能に差があるのかは分からねえが、取り敢えず見切っちまえばコッチのもんだ。相手に攻撃の気配があったら、一回攻撃の手を止めて、見ろ。来たぞ!」
彼の言う通り、球体らしきシャドウが動き出す。
のそのそと近付いて来たかと思えば、身体の裂け目から舌を出し、こちらへ伸ばしてきた。
斜め下から、舐めるように這い上がってくる攻撃。
ギリギリまで引き付けた後に回避を試みるが、少し遅かったらしい。逃げ遅れた右腕に敵の攻撃が当たった。
伝わってきたのは予想以上の衝撃。見た目に反して攻撃が響いてくる。殴られたかのような重さだ。
「普通に痛えだろうが、ソレが急所にでも入ればもっと痛え。しばらく身動き取れなくなるし、その隙に追撃を仕掛けられたりもするから、気を付けようぜッ……と」
時坂が攻撃後の隙を突いて攻撃し、シャドウが消滅した。
「……え、今のシャドウの攻撃って痛いの?」
「見た目じゃ分からねえだろうが、結構痛え」
「くらってみるか?」
「や、やめとく……」
「ちなみにオレは同じような会話を柊として、普通に問答無用でくらわされた」
「「柊さん怖い」」
まあ、見た目より余程痛いというのは伝わったらしい。
分かっていたが、異界は気が抜けない。
あの程度……と言って良いのかは分からないが、普通に徘徊しているシャドウの攻撃でもあそこまで強力な攻撃を仕掛けてくるのだ。
異界の攻略は連戦が基本になる。異界内には多くのシャドウが蠢いているのだ。そのすべてと戦う訳ではないにせよ、避けて通れないものが殆どのはず。
しっかりとした体力と、見る力を付けなければ。
「まあ先制攻撃が基本とは言ったが、通路とかの狭い場所ならともかく、広い空間でやるのは厳しい。狙えるときは積極的に、って感じだな。狙いすぎると視野が狭くなって危ないぞ」
「場所によって色々な戦い方がある訳だな」
「オレ達のソウルデヴァイスやペルソナにも、それぞれ長所、短所がある。そこを見極めて、誰がどう立ち回るかを考えつつ行くのも重要らしい。今は経験者の柊に任せてるが、オレ達も出来るようにならねえとな」
「それなら、今は良い機会だね!」
璃音の言葉に時坂が頷く。
確かに、自分たちだけで立ち回りを学ぶ、というのも大事そうだ。
何より柊さんに任せっぱなしでは、いざというときが怖い。
自分の癖をしっかり把握するのもそうだが、全員の闘い方、戦術的好みも知っておいた方が良いだろう。
「まあ、オレらの中じゃ今のところ、指示を出すのは岸波だな」
「自分か?」
「イイんじゃない? 前の指示も的確だったと思うし」
「ああ。それにその立ち位置が良い。オレらのこと後ろから見て、状況判断できるの岸波くらいだろ。柊くらい慣れてれば、接近戦仕掛けても回りが見えてそうだが」
自分たちは柊さんの戦闘を見ていないから、どれだけ優秀かは分からない。
だが時坂の口からは相当の信頼を聞かされている、相当の練度のようだ。
「じゃあ次に、ペルソナの戦闘についてだが……あー、まず何を言ったもんか」
「……そういえば時坂のペルソナはどんなものなんだ?」
「オレのか。ちょっと待て」
時坂はソウルデヴァイスを装着している右腕を大きく左に引き、左手に持ったサイフォンへ近づける。
ソウルデヴァイスが光の粒子になってサイフォンへ吸い込まれていき、代わりに彼のサイフォンが少し光る。
「来やがれ……“ラー”!!」
サイフォンの画面をスライドして現れたのは、赤い球体を頭上に乗せた鳥。造形は
大きく、威嚇するように羽を広げた彼のペルソナは、空中を旋回している。
「コイツがオレのペルソナだ。使える技としては、アギとラクカジャ、二連牙くらいか」
「アギ……って、タマモが使えるのと同じ技だよね?」
「ああ」
だが、ラクカジャと二連牙というのは知らない。
確認すると、自軍の防御を固くする術と、2連続の物理攻撃スキルらしい。
「火炎属性が被ったのは残念だが、ラクカジャは強力だな」
「被ったつっても、岸波はペルソナ変えられんだろ」
「……あ、そうか」
なら、自分は誰かと被っても気にしなくて良いということか。むしろ、居ない穴を埋められるようになれる。
一方で、自分はペルソナの乱用を避けなければならないだろう。いざというときに出せないようでは、この特性も意味がなくなってしまう。
「ちなみに柊は氷結属性。
「なるほど」
なら、時坂と柊さんは、火炎属性と氷結属性のコンビで闘い抜いてきたのか。
真逆の属性だ。お互いを巧く補い合えるのだろう。
……いや。少し待て。
「そもそも、属性っていくつあるんだ?」
「火炎、氷結、電撃、疾風、核熱、念動、祝福、呪殺。計8つらしいぜ」
「へー、結構多いんだね」
「含まないだけで、物理や補助系、妨害系って色々あんだよ。オレの使うラクカジャも、味方をサポートする系のスキルだしな」
なら自分は出来るだけ多くの属性を集めていた方が良さそうだ。ペルソナの集め方もいまいちピンと来ないが、そのうち慣れるはず。
時坂のラーに柊さんのペルソナ。自分のタマモとピクシーを含めて、補えていない属性は4つ。半分だ。
「じゃあひとまず、玖我山も喚んでみろ」
「う、うん……」
すう、はあ、と深呼吸。意を決したようにサイフォンを抱き抱える。
背中についたソウルデヴァイスが収納された。
「来て──“バステト”!」
それは、猫のようなペルソナだった。……顔だけだったが。
顔が猫のもので、体は人に近いナニか。それでいて置物のような不自然さが滲み出ている。
「これが、あたしのペルソナ……」
「喚んだ感じはどうだ?」
「うん……なんかちょっとだけダルいかも。ほんの少しだけ疲れた、って感じ? ステージとかじゃなく、カラオケで軽く一曲歌った、みたいな」
「例えが分からない」
「? カラオケ行ったことない?」
「ああ。知ってる曲も少ないしな。時坂は?」
「オレは付き合いで少し。ほとんど歌ったことはねえ」
「……道理であたしのこと知らないわけだ」
そのことについては本当に申し訳ないと思っている。
「ちなみにその疲れは精神力の減少から来てるんだとよ。スキルを使えばもっと疲れがダイレクトに来るはずだぜ」
「ふーん、スキルって?」
「あー、なんかこう、“こんなこと出来る”って直感がねえか?」
「うーん、あ、何となくわかってきたかも。ソウルデヴァイスの時と一緒だね」
確かに、何となく戦い方が分かるソウルデヴァイスと、何となく使える技が分かるペルソナは仕組みが似ている。どちらも心の現れだからだろうか。本人が産み出したモノである以上、その本人が使い方を知らないわけがない。
「えーっと、こうかな。“
彼女が唱えた瞬間、自分を緑のオーラが包んだ。
なんとなく、身体が軽くなった気がする。
だから何となく、跳び跳ねてみた。
……羽のような軽さだ!
「うわ、結構疲れる……」
「だろ。精神力も鍛えれば上がるらしいし、気にしなくてもいいと思うぜ」
「あ、そういうもの? じゃあどんどん練習しないとね!」
「おう、その意気だ。……って、いつまで飛び回ってんだ岸波!」
「あ、ああ、すまない」
つい楽しくて我を忘れてしまった。
……しかし、跳び跳ねているキャラ、個性的ではないだろうか。これを続けていれば、無個性とは思われないかもしれない。
代わりに何か、大事なものを失いそうだが。
「使える技は一応今のやつと、
「念動……今のところバランスよく整ってきてんな」
「ああ」
確かに、自分は例外として、重複なく5属性が揃うというのは運が良さそうだ。
あと足りないのは雷撃属性、核熱属性、祝福属性の3つ。
ここを揃えるのが、次の異界攻略時までの課題か。
「ペルソナを使う際はとにかく弱点を突くこと、体勢を崩した瞬間に畳み掛けることを頭に入れとくと良いぜ。じゃあそろそろ実践だ、弱点を見極める為にも、積極的に挑んでいくぞ!」
「ああ」「オッケー!」
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ある程度慣れ、かつペルソナを呼べそうな回数も数えられるほどになってきた時点で、この修練は終わった。最後の方は特に苦戦なく終われ、弱点解析も素早くなったと思う。時坂も、もう教えることはねえな、って言っていたし。
さて、今後のことについては明日話す、と柊さんは言っていた。
ならば今日は早く帰って体を休めるとしよう。疲弊しきった状態で無理をし風邪でも引けば、それこそ異界探索どころではない。
まずは璃音を家まで送り、時坂は住宅街の方へ、自分はマンションの方へとそれぞれ帰っていった。
登場させるペルソナについては、社会科の授業風景を書く時にでも触れていくつもり