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総合受付で手続きを終えた璃音が、自分の隣のソファに座る。
「来てもらって良かったかも。前の診察が押してるから待っててだって」
何分くらいだろ、とサイフォンを開いた璃音。
「ということは呼ばれるまでは?」
「そ、ヒマになっちゃった。というワケで、良ければ何か話さない?」
「……そういうことなら、せっかくだし聞きかったことがあるんだ」
「なに?」
「病院で、いつもどんな検査をしてたんだ?」
それは、ずっと気になっていたけれども、聞けなかったこと。
正直自分が知っていたのは、通院しているという事実のみ。
何を看ていたのか、とか。
どんな薬が処方されているのか、とか。
どこを看ているのか、とか。
そういう一歩踏み込んだ内容については、何も知らないに等しかった。
自分が今後、異界に関わっていくのであれば、絶対に無縁のままで一生を過ごすということはないだろう。
同じ症状を発症させている人と巡り合う可能性があるのであれば、知っておいて損はないはずだ。
「んー? って言ってもあたしも全部理解できてるワケじゃないケド……まあ、色んなのトったり測ったりってカンジ?」
「採る。ということは、血液検査とか?」
「血もたまに採られるケド。あとは……えーと、ほら。なんかレントゲンみたいな……何ていうんだろ、ベッドに寝かされて、ウィーンってどんどん測る機会が体に近づいてくるヤツ」
「……MRIとか?」
「あ、そうそう。それが1番よく撮るかな。結構頭とか目とかよく見られてるかも。特に異界に行った後とかなんかはね」
「へえ、なるほど」
自分たちもあまり、ペルソナ能力に詳しいとは言えない。使い方は分かるが成り立ちや起源となると分からないのが本当の所だ。
とはいえ、その能力が“心”、“精神”に宿るという話は、何となく把握している。そして感情は脳が判断しているのであれば、頭の中を見るのは正しいのかもしれない。
まあ、見て得た情報から何が分かるのかは、皆目見当つかないけれども。
「診察自体は“向こう”の専門医がしているのか?」
「専門医ってワケじゃないみたい。普通にあたしの診察前は一般のお客さんも相手にもしてたよ」
「じゃあ、あくまで裏の顔として。ということか」
「でも、今回は逆に助かったかも。ミツキ先輩の家の関係もあって、情報の漏洩とかは考えずらかったしね」
確かにアイドルの璃音からしてみれば、噂が出回らないに越したことはない。
いくら休養を宣言しているとはいえ、当時だったら大っぴらに通院する訳にもいかなかっただろう。
その点、北都の息が掛かっている環境下なら、過度な心配はいらない。
まあそもそも、その症状の出所は一般に伏せられている事件だ。一般に明かしようがないだろうため、情報漏洩のリスクは低いけれども。先生側もしっかりと情報をシャットアウトしてくれるはず。
「……不意に思ったけれども、芸能人が裏の医者と繋がっている、と言うと事件性があるな」
「事件性っていうか、ドラマ性がありそうじゃない? キミは芸能人の友達で、ある日その友人が謎のお医者さんと密会している姿を見つける役」
「なるほど。口封じで殺されるやつだな」
「え、なんでわざわざ事件性を見出そうとするの?」
などという無駄な話からサスペンスの話へ移行し、最近読んだ本の話へとつながる。
そこからドラマ化の話や映画の話へとシフトしていき、結構雑談が弾んだ。
それからしばらく話した後、会話の切れ目を迎えたタイミングで、ちらりと璃音が再度サイフォンを見た。
「……なかなか呼ばれないなぁ」
「どれくらい経った?」
「着いてからだいたい20分くらいかも」
「もうそんなにか。結構長引いているんだな」
「みたい。予約してこんなに待ったのは初めて」
だとしたら、何か本格的なトラブルだろうか。
まあそれでも、待っていればいつかは通されるだろう。
予約なしで来た訳ではないし。
「お待たせ」
そんな話をしていると、通路の方から白衣を着た男性と、スーツ姿の男性が歩いてきた。
「あ、センセ! もう終わったの?」
「ああ。……いやぁ、待たせてすまなかったね」
今話している人が、璃音の担当医か。
確かに見た感じ、異界関連なんて裏の事情に手を出しているようには見えない、普通のお医者さん。といったところ。
普通に病院に通っていれば、まず気づかない。だからこそ、騒ぎになっていないのだろうけれども。
まあ、目の前のお医者さんに対する興味は尽きないけれども、今はそれよりも気になることが1つある。
お医者さんと一緒に歩いてきた、より気になるのは後ろにいる人間について。
なぜ彼が、ここにいるのだろうか。
「? おや、君は──」
「先日ぶりです、御厨さん。岸波です」
姿勢の良い、肩幅の広い男性は、この前美月の婚約者として紹介された御厨さん。
なぜ彼がここに居るのだろう。って、それはおそらく向こうも同じか。
「……ああ、ミツキ君の友人の。先日振りだね。ところで、なぜここに?」
「友人の付き添いで」
「友人……ほう」
視線を璃音へと移す御厨さん。
てっきりアイドルの璃音を見て、何か反応があるかと思ったけれども、どちらかと言えば彼が見せた反応は、予想の逆。
彼は璃音を見て、眉を吊り上げた。
だが、瞬く間に表情を穏やかなものへと変え、自分へ視線を向けなおす。
「わざわざ病院まで付き添うなんて、付き合いが良いんだね。まあ、学生時代の出会いは一生のものとも言う。大事にすると良い」
「それはもう。そういう御厨さんは……どこか悪くされているとか?」
「ハハハ、まさか。僕はこれでも、“こちら”側なのさ」
そう言って彼は、上着のポケットに入れられていたカードのようなものを見せてくる。
……杜宮総合病院のスタッフ証明だった。
ということは、璃音の症状とかも知っている、ということなのかもしれない。だとしたら、先ほどの反応も頷ける……のか?
「申し訳ございません。存じ上げず」
「フフ、キミはまだ高校生だろう。追々覚えていけば良い。だが、忘れないでくれたまえ。やがてキミの失態は、上司であるミツキ君の責任に直結することになる、とね」
「……はい」
将来、北都グループで美月の専属として働くのであれば、そうなるはずだ。美月もおそらく、その選択肢があるからこそ、先日自分と彼の面通しをさせたのだと思う。
どのような道を選ぶとしても、少なくとも北都グループやその周辺については、一般常識程度以上の知識が必要か。
そのうち学ぶ機会があればいいけれども。
と、御厨さんと話していたら、くいくいと袖をつかまれた。
振り返るまでもなく、犯人は璃音だ。彼女は自分に顔を近づけ、耳打ちをしてくる。
「じゃ、あたし行くね。長い時間付き合ってくれてアリガト!」
「ああ、頑張って」
「ま、頑張るも何も、ほとんど問診だけじゃないかな。多分」
「? そうなのか」
「さっきも言ったけど、今日で最後だし。ほとんど回復したって前提だから……とと、早く行かないと。じゃあまたね!」
小走りで医者と共に、待合室の方へと進んでいく璃音。
……それにしても、問診だけなのか。
なら、今日は割と早く終わるのかもしれない。ともすれば待つのも有りだろう。
けれども、今から帰ればまだ、何かをしたり誰かに会ったりするだけの時間は取れそうだ。
どうしよう。
「──さて」
先に去っていった2人に続き、御厨さんも腰を上げる。
「行かれるんですか?」
「ああ。油を売っている暇はそうないんだ。時間は有限だからね。キミも遅くならない内に帰ると良い」
ふぁさっ、と前髪を掻き上げた彼は、2人と同じ待合室の方へと歩いて行った。
彼もスタッフとして、やるべきことがあるのだろう。
もしかしたら、璃音の問診に関係しているのかもしれない。
さて、いよいよ自分はどうしようか。
夜はそのまま、璃音と過ごしても良いけれども。
──Select──
>診察が終わるのを待つ。
帰宅する。
──────
帰ってやりたいことも特にはない。
それに、彼女から連絡が来るまで、何かが手に付くほど集中できないだろう。
とはいえ手持無沙汰だ。
5分、10分と、手元にある携帯端末を弄る。
有益な時間とは言えなかったけれども、それでも集中していない現状で時間を潰すのには持って来いだった。
「……遅いな」
15分が経ちそうな頃。
事前に話を聞いていた通り、話をするだけならそこまで時間もかからない気がするけれども……まあ、正直な所は分からない。
念のため何かを追加検査しているのかもしれないし、それこそ今後通わなくなる上での注意事項を細かく説明されていたり。
何が原因で時間がかかっているかなんて分からず、終わる時間も当然分からない。
それにしても、座りっぱなしで、少し疲れた。
いったん、お手洗いにでも行くか、と気分を変えるためにも席を立つ。
どうやら、総合受付よりも少し奥。待合室近くの廊下に、お手洗いはあるらしかった。
「……」
そこまで歩きながら、四肢を軽く伸ばす。
座っているだけだった先ほどまでと違い、動いたことで、少し体が軽くなったような気がした。
そのまま扉を開け、中に踏み入れようとした、その時──
「────ッ!?」
──不意に、悪寒が走った。
背筋が寒くなり、室温が変わったわけでも無いのに体が震えあがる。
腕から力が抜け、押していた扉に押し戻された自分の身体は、思わず壁に持たれかかった。
すぐに壁へと手を付きなおし、姿勢を持ち直したものの、早まった鼓動の音は大きく響き続ける。
「あの、大丈夫ですか?」
後ろから、声を掛けられた。
しかし言葉を返す元気はなく、お気遣いなくと手を振る。
心配そうな目を向けられているのが分かったため、平然を装いながらも、なんとか受付前のソファまで戻った。
柔らかい椅子に腰を下ろし、顔を伏せる。
先ほどよりは大分楽になったものの、未だに嫌な感覚は抜けない。
出迎える人間の顔色が悪ければ、璃音も良い気はしないだろう。
今日はもう、帰った方が良さそうだけれども……どうしようか。
──Select──
今日は帰る。
ここで休憩する。
>璃音の様子を見に行く。(要コミュランク7)
──────
──突発的な悪寒に苛まれている最中、この異常事態に、どこか引っ掛かりを得る。
この感覚は、既視感に近い何かだろう。
けれどもだとしたら、どこかで体感したことが、あるのか?
自分の感覚が正常であるかを疑いつつも、藁にもすがる思いで記憶を遡る。
思い出を振り返った先、その果てにて巡り合ったのは、玖我山 璃音の存在だった。
そうだ。
あの時、最初に璃音と会った、昼間のこと。
当時も喫茶店の前でら言いようのない違和感と、嫌悪感に苛まれた。
自分の中の直感が、偶然と判断するべきではないと訴えかけてきている。
……璃音を、探そう。
勿論、不調である今、強引に動くべきではないことを頭では理解している。
けれども、今自分が感じている倦怠感に、璃音が関与している可能性はゼロではない。
何がどう関係しているのかは分からないけれども、立ち止まっている訳にもいかなかった。
免罪符のように、救援を求める連絡だけ、部活のグループチャットに残してから、腰を上げた。
これで見た人で動ける人間は、来てくれるだろう。みんなが動けなければ、そこまでだけれども。
ともかく。足を引きづって……というほどではないものの、重い身体を気合で動かして、病院の中を回る。身体を引きづりまわすうちに、特定の方向へと進むことで、身体がより不調になることが分かった。
とすれば、原因はそちら側にあり、進んだ先に璃音が居る可能性もあるだろう。
そう思い、胸を押さえながら歩き続けた。
そして、辿り着く。明らかに周りと雰囲気が違う扉の前に。
当然、不調もピークだ。
視界が歪んで見える。
重力が倍かかっているような感覚すら引き起こされていた。
それでも、その扉を、開ける。
────>杜宮総合病院【脳波検査室】。
開けた扉の先、空間が歪んでいた。
そこには大きな機械とベッド、それに見覚えのある嫌なもの──“異界の扉”が。
人影はないようだけれども、それも扉があるなら説明がついてしまう。
ここに居た人たちは、全員おそらく、異界に居るのだろう。
璃音が異界内部に入っているかは、分からない。
しかし、居ないのであれば救援要請を見て、後からでもみんなと合流してくれるはずだ。
それに、中に入っているのであるならば、もう既に単身で解決へと動いているかもしれない。
一般人が巻き込まれている可能性があるのであるならば、みんなを待っている時間も惜しい。把握できるところまで把握するためにも、異界へ入った方が良いだろう。
扉に、手を伸ばす。
視界が揺らぎ、身体が浮き、世界が変わった。
────>異界【翼神の宮殿】。
【キィイイイイ!】
自分が異界へと入った途端、何か甲高い鳴き声のようなものが異界中に響き渡った。
それを認識するのと同時に、自分が感じ取れる範囲の世界の輪郭が鮮明になっていく。
「って、あれ?」
先ほどまで全力で自分へと訴えかけていた不快感、倦怠感が、きれいさっぱり無くなっていた。
どういうことだろうか。
……いや、それを考えている暇はない。動けるのであれば、まずは動かないと。
『先輩!』
サクラの声がサイフォンから響き、彼女の姿が目の前に出力された。
「サクラ。いろいろ説明している暇はなくて申し訳ないけれども、一刻を争うんだ。ガイドを頼む」
『はい。経路の検索、ルートの記録に努めます。……ご武運を』
「ああ!」
頼もしい案内人と共に、異界を駆け抜ける。
戦闘を最小限に、探索とかも一切なしで、全力で奥まで駆け抜ける。
大事なのは、耳。シャドウの音、異界の音、そして人の声。何もかもを逃さないよう動かなければならない。特に助けを求める人数はわからないけれども、1つたりとも逃さないよう動かなければ。
そんな気の入れ方を裏切るかのように、異界は静かだった。
数回戦闘をしたものの、やはり基本は回避行動。ここはサクラがナビゲーションをしてくれることで、通常より大幅にカットできている。
それに現状、特別なギミックが無さそうなのも有り難い。そこに取られる時間も、勿体ないと危惧していた所だった。
何にせよ、特に問題はなし。順調に探索は進み続ける。
『!?』
「どうした、サクラ」
『先輩! この先、右の空間、人の反応があります! 生存者です!!』
「!?」
サクラの声に気を引き締め、進路を右へ。速度を緩めることなく、彼女の言う空間に駆けこんだ。
その空間は確かに、少しだけ開けている。
その中央よりも奥側。サクラの言う通り、人影があった。
それも、とても見覚えのある姿を含めて、2つ。
「ッ!! 璃音!!」
片方は、ぐったりと力なく横たわった璃音だった。
もう片方は、彼女の隣に座り込む、璃音の担当医と紹介された男性。
「! 君は、久我山くんの……」
「先生! 璃音は!?」
「それが、意識が戻らないんだ。さっきの【怪物】の叫び声以降、ずっとね」
怪物の叫び声……自分が異界へとやってきたときに聞いたものだろうか。
彼もあれを聴いたらしい。
それと彼女が目を覚まさないこととの因果関係は分からないけれども、何にせよ、事態は若干好転している。今は情報を集めなければ。
「それで、ほかに巻き込まれた人は?」
「……それが──」
「岸波君! リオンさん!」
「センパイ達! 無事!?」
突如、遠方より自分たちを呼ぶ声がした。
振り返ると、自分が来た方角から、美月と祐騎──同じマンションに暮らす2人の姿が。
救援要請を見て、一緒に駆けつけてくれたのだろう。
良いかった。人では多い方が良い。
「2人とも、よく来てくれた!」
「まあ正規ルートのナビがあったしね」
そう言って、地図の表示されたサイフォンを見せてくる。
自分は何もしていない、とすると、サクラがマッピングをしてくれたのだろうか。
とても有り難い。
「それで、状況は?」
「璃音が異界化に巻き込まれて、意識不明だ。後は担当医師の人と……他には?」
「それが、御厨様が、最奥に」
同じ空間へとたどり着いた2人に、手短に感謝の言葉を伝え、これからの話へと移る。
十分な人数が確保できた。これからなら、まず脱出のために動きたい。
……しかし、御厨さんが、最奥。
そうなってくると、自分たちもしっかりと準備をしてからではないと、流石に危険だろう。
「……居場所を断言された、ということは、貴方方は御厨さんが最奥に居るのを確認されたのですか?」
「おかしいよね。はぐれたのであれば、どこに居るか分からないって言うはずだし」
美月と祐騎が、男性の言葉尻を捉え、詰める。
男性医師は、緊張からか喉をごくりと鳴らし、彼らの質問に答え始めた。
「……はい。最初は3人で最奥に居たのですが、御厨様が『迎えが来るまではここにでも居たまえ』と、私と彼女をここに送り、戻っていかれました」
その言葉に、考えを巡らせる。
美月も祐騎も、発言をしなかった。
自分同様、考えを纏めているのだろう。
どういうことだろうか。疑問点は、複数ある。
例えば、御厨さんが最奥に残った理由。
他にもそもそも、なぜ、異界が発生しているのか。
「……んっ」
各々が考えを巡らせている中、その集中を割く声が聞こえてきた。
出所は地面付近。
横たわっている、璃音からだった。
「璃音!」
「リオンさん!」
うっすらと、彼女の目が開いていく。
朧気だった彼女の意識が、徐々に取り戻されていくのが分かった。
やがて、今いる場所の異質さに気付いたのだろう。バッと勢いよく起きた後、首を大きく横に振り回し、周囲を確認するような動作をとった。
「えッウソ!? ドコここ!? なにッ!?」
明るい。それにまずは安心した。
どこか痛めている様子もなさそうだ。
俊敏な動きで周囲を確認している。
……まあ、目が覚めたら異界に居た。なんて恐怖だろう。
自分は体験したことがないけれども、取り乱すのも分かる。
「いったん落ち着いてくれ、璃音」
「……?」
自分を見て、首を傾げた璃音。
「取り敢えずここから──」
「え、ゴメン。そもそもキミ……どちら様?」
「──ぇ?」
訝しげに、自分を見る、璃音。
……え?
「ってか、生徒会長……です、よね? え、ホントにどういうこと!? ドッキリとかじゃないの!?」
「「「────」」」
言葉を、探す。
冗談を言っているようには、見えなかった。
だけれども、何を言っているのかは、分からなかった。
え、え。と慌てる彼女の姿を見つつ、何をしているのか、何を言っているのかを脳内で反芻してみる。
何一つ、理解が及ばない。
「……まさ、か」
何かに気が付いたのか、美月が口元を手で隠し、目を見開いている。
「……いえ。ひとまず脱出は、後回しに。直に皆さん到着されるでしょうし、動くのはそれからで。……今は」
美月の声が、呆けかけた意識を戻させてくれる。
そう、行動を止めているのはあまりにも愚行だ。
ここは戦場であり、命の危険性がある場所だ。見通しの良い広間で、現在敵影がなかったとしても、その危険性は変わりない。
それでも、集中できているとは思えなかった。
集中したいとは、思っているはずなのに。
今はただ、何も考えずに、美月の次の動作を眺める。
彼女は、いつにもなく厳しい瞳を、医者に向けた。
「説明を、してもらえますね?」