PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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11月3日──【部室】帰り道

 

 

 部室に集まった自分たちは、そのまま色々な思い出を振り返った。

 それぞれ個別に動いていた期間が長かったためから、共有していないエピソードが多く、話題は尽きない。

 唯一おおよその流れを把握している祐騎の視点を含めながらどんな事件が起こっていたとか、どんなトラブルに相まみえたとか、そういう話を色々と聞いた。

 

「……そろそろ時間だね」

 

 なぜかサイフォンを構えていた祐騎の呟きに釣られ、部室に飾られた時計を見上げる。

 確かに、学校が閉まる時間が近付いていた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。

 

「あ! 文化祭の打ち上げしませんか!?」

 

 寂寥感に陥る前に、空がそう切り出す。

 まだまだ話したりなかった自分にとっては渡りに船のような提案だけれども、みんなにとってはどうだろうか。

 

「あ、あたしこの後予定あるから、明日の夕方はどう?」

「僕も今日はもうゆっくりしたいし、やるなら明日かな」

 

 璃音と祐騎の提案に、全員各々の手帳やサイフォンを見て、予定を確認する。

 ……誰からも却下の言葉が出てこない。

 

「じゃあ、明日だな」

「集合時間などは帰宅後にでも話し合いましょうか」

「場所とかも決めねえとな」

「え、無駄に広いハクノセンパイの家で良くない?」

「良いけれども、祐騎も同じ部屋の大きさだろう」

 

 同じマンションなわけだし。

 

「まあ物がない分、まあ体感的な広さは確かにハクノの方だな……」

 

 洸の言う通り、祐騎の部屋には自分の部屋に比べて、機械などが多く、くつろげる空間の広さで言えば自分の部屋のほうが広いのかもしれない。

 ……まあ良いか。

 

「とはいえ、毎回岸波の世話になる訳にもいかねえだろ」

 

 別に自分としては構わないのだけれども。

 みんなからすると毎回同じ場所というのもどうかと思っただけで。

 

「……逆にコウの家はどう?」

 

 場所に悩む自分たちに、明日香から提案が入る。

 洸の家か。

 そういえば、自分は入ったことがないな。

 

「あー……オレの家か? 別に構わないが」

「急だけど大丈夫なのか?」

「ああ。まあこのあとすぐとかでもないしな」

 

 苦笑をする彼だったけれども、嫌がっているようではない。

 今回は、お言葉に甘えさせてもらうとしよう。

 自分も行ってみたいし。

 

「じゃあ、また明日だな」

「ハクノセンパイの部屋の方が近くて楽なんだけど」

「たまの休みくらい遠出するんだな」

「いや近くない? 駅1つ分も動かないよ」

「普段のユウ君は部屋から出ないらしいですし、遠出とカウントして大丈夫だと思います!」

「思いますじゃなくて。バカにしてるよね、それ」

 

 出ないらしい。ということは、その情報は伝聞したのだろう。おそらく祐騎の姉である葵さんから。

 祐騎にとっては好ましくない情報のラインは、未だ健在らしかった。

  ともあれ、話も纏まり、明日の約束も取り付けた所で、全員が帰り支度をして、部室を出る。

 後は帰るだけだ、と未だ興奮冷めやらぬ様子の校内を歩く中、不意に隣に並び立つ姿を感じた。

 

「ね。一緒に帰らない?」

 

 璃音が小声でそう話しかけてくる。

 自分にしか聞こえないように言ってきたということは、何か内緒の話でもあるのだろうか。

 

「もちろん」

「アリガト。じゃ、行こっ」

 

 嬉しそうに、彼女が自分の手を引く。

 一緒に帰ることにした。

 

 

────>【駅前広場】。

 

 

「どこに向かって歩いているんだ?」

 

 学校から璃音の家のあるレンガ小路、自分の家のある森宮記念公園方面へと行くのに、駅前を経由する必要はない。

 ということは、何か目的があってこちらへ歩いてきているのだろう。

 そう思って問い掛けてみたのだけれど、彼女は一向に応えようとしなかった。

 とすれば、行きたいところがあるのではなくて、話したいことがある、ということだろうか。

 少し、待ってみることにした。

 

「……あー……ゴメン」

 

 漸く口を開いたかと思えば、出てきたのは謝罪の言葉。

 しかし、そんなことをされる謂れに心当たりはない。

 素直に、首を傾げる。

 

「何がだ?」

「いや、せっかく時間もらったのに、ちょっとウジウジしてた……ホント、らしくないなぁって」

 

 そう自嘲気味に笑う璃音の姿は、確かにらしくない、と言えるかもしれない。

 普段の彼女であれば、仮にそう思ったとしても、自分にその気持ちを吐露することはなかったと思う。

 

「……あたし、来月からSPiKAに正式復帰することにした」

 

 唐突に、彼女はそう告げた。

 

「……それは、おめでとう」

「うん、アリガト」

「……えっと?」

「いや、キミとは一番付き合い長いし。……色々と愚痴をこぼしちゃったし」

 

 一番最初に、想いを共にした仲間。璃音と自分の関係で言えば、それが一番しっくりくる表現だ。それはずっと、変わることがないもの。自分たちの縁だ。

 そして彼女の言う愚痴とは、恐らくハロウィンの日に相談されたことだろう。

 

「あの時、意見を押し付けたりせず、あたしにちゃんと考える機会をくれた。時間をくれた。……きっと何か言われてても、出した答えは変わらなかったと思うけどさ。キミの言葉で、あたしはあたしの出した結論に、自信が持てたから」

 

 あの時自分は確かに、璃音が選んだ答えであれば大丈夫だと。それが最良の選択になるはずだと答えた。

 その言葉は、彼女の妨げにならなかったのか。

 その言葉は、彼女の力になれたのだろうか。

 その答えを、今、自分は受け取っている。

 

「だから、一番最初の報告とお礼を、キミに。アリガトねホント。……あの時隣に居たのがキミで、良かった」

 

 彼女は、そう言って笑う。

 先ほどまでの逡巡はどこへやら。すらすらと彼女の思いは口からこぼれた。

 

 あー、スッキリ! と背を伸ばす彼女。

 なんというか、友達冥利に尽きる報告だった。

 部室でするよりも先に、自分に教えてくれるなんて。

 

「本当に、おめでとう。なんて言うか、長かったな」

「あれから半年以上経ったしね。けど、あっという間のようにも感じる、カモ? ま、ホントは今の問題が全部片付いてからにするつもりだったんだけどね」

「そうなのか。……有り難う、ここまでずっと付き合ってくれて」

「……なんか勘違いしてそうだから一応言っておくケド、別にこれから先は手伝わないってワケじゃないからね?」

「……そうなのか?」

 

 流石に、その二足の草鞋を履くのは難しいかと思ったのだけれど、璃音はどうやらそう思っていなかったみたいだ。

 不服そうに、頬を膨らませている。

 

「あったり前じゃん! 第一、そんな中途半端で投げ出せないでしょ」

「けれども、復帰するということは、これからレッスンとかも増えるんじゃないか?」

「それはそうだケド! それでもやるって決めたの! どっちもあたしがやりたいことだから!」

「大変そうに聞こえるけれども」

「背中を押してくれたのキミだからね!? いざというときは手伝って!」

「……わかった」

 

 確かに、背中は押させてもらった。手を添えた程度の感覚だったけれども。

 これが彼女の導き出す、“最良の結論”だったのだろう。

 ならば、信じた自分も、友として彼女を支えていきたい。

 

「何か困ったことがあれば、言ってくれ。喜んで力になる」

「そっちも、何かあった時は必ず言ってよね!! 変に遠慮なんてせずに、ちゃんと! 分かった!?」

「え、ああ。うん」

「絶対分かってないでしょ!」

 

 頼るから、頼ってくれ。

 彼女はそう言っているのだろう。

 今までも自分は璃音に頼り切りだったとは思うけれども、それでは駄目なのだろうか。

 

 

「ま、追々わからせればいっか。さて、と。それじゃああたし、これから病院だから」

「……あれ? 片付けの日に病院へ行くって言っていなかったか?」

 

 ハロウィンの時の彼女曰く、最後の通院。

 忙しいから午前授業である片付けの日に行くと言っていたのを覚えているけれども、予定がどうやら変わったらしい。

 

「いや、復帰を決めたんだし、早い方が良いかなって予約取っちゃったんだよね。で、明日は午前で事務所に挨拶行って、色々と段取り決めたら帰ってくるから、そのあと打ち上げの予定」

「少し忙しないようにも思えるけれども」

「だって決めたからには、時間がもったいないし。アイドルとしての活動を休んでたのは事実。少しでも早く色々取り戻さないとね!」

 

 そこまで覚悟が決まっていて、やる気に溢れているのであれば、純粋に応援できそうだ。少し心配の気持ちはあったけれども、璃音もプロ。そのあたりは、しっかりとしているだろう。

 

「ま、その為には今日の診察で、センセーにオッケー貰わないとなんだけど」

「……璃音、自分も付いて行っても良いか?」

「え、ウン。……別にイイけど。どうして?」

「これであの4月からの出来事が1区切りになるんだったら、せっかくだし、最後くらい立ち合いたかったから」

 

 

 あの日、廃工場で伸ばした手が届かず。

 異界へと落とされ、力に覚醒し。

 ここまで一緒に駆け抜けてきた。

 今日を以て関係性が変わるとか、そういうものではないけれども、節目には違いない。

 だから、立ち合いたかった。その場に居たかった。

 

 そっか。と彼女は笑顔を作る。暗い表情ではないから、嫌がっているわけではないようだ。

 彼女に付いて、病院へと行くことにした。

 

 

 

 

 


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