PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 閲覧ありがとうございます。
 単純に難しかったので、更新が遅くなりました。
 申し訳ございません。


11月3日──【教室】文化祭2日目

 

 文化祭2日目。

 土曜日の開催で、かつ一般向けの開放日。

 生徒だけだった昨日とは違い、異様な賑わいを見せていた。

 周りに聞いてみると、こんなものだとみんなが口を揃えて言う。あまり他校の文化祭とかは行く機会がなかったが、みんなが言うならそうなのだろう。

 取り敢えず、クラスの出し物を引き続き頑張る。思いのほか、客足の入りは良い。というか昨日に比べると断然良かった。好調過ぎるくらいだ。

 逆に手が回らない程度には。

 

 ということで。

 

「まさかこっち側に立つとは思わなかったんだが……!」

「自分も助けてもらう側になると思ってなかった!」

 

 着ぐるみを纏い、サーブする食事を受け取りに行くと、手伝いとしてX.R.Cより派遣されてきた洸の姿があった。

 ……いや、見た目だけだと誰かは分からない。着ぐるみに包まれているから。

 

「ほら、これ4番!」

「ありがとう」

「コー君! たこ焼きできてる!?」

「さっきのなくなったばっかだが!?」

「時坂、焼きそば!」

「っ。流石に忙しすぎるぞ……!」

 

 と言いつつ、集中した雰囲気になっていく洸。間違いなく助っ人に頼む仕事量ではないけれども、色々な人が洸なら、と仕事を託していくあたり、積み重ねてきた信頼なのだろうと思える。

 だけれども、あくまで彼は助っ人。時間制限がある。

 

「洸、そろそろ時間だ」

「! 悪いハクノ、引き継いで良いか!?」

「勿論だ。ありがとう」

 

 現在調理中の内容を引き継ぎ、後ろに下がる彼を見送る。

 

「時坂! ありがとうな!」

「時坂君、ホントありがとーっ!!」

「助かったぜ時坂!」

 

 着ぐるみを纏ったままの洸が、片手を上げてバッグヤードへ消えたのを見た。

 洸の奮闘にも支えられつつ、昨日の赤字分を消化しきれる可能性もあるとのこと。

 もうひと踏ん張りしなくては。

 

 その後も、手伝いに来てくれる面々が変わりながらも、クラスでの出し物は無事15時を以て完売することができた。

 思いのほか抜けるタイミングがなく、璃音と2人そろって最後まで居てしまったけれども、自分たちには16時から大切な用事がある。

 お祝いムードのクラスの面々に一言断ると、みんなが口を揃えて、俺たちも後で向かうよ、と言ってもらえた。

 暖かい言葉を背中に受けつつ、璃音と急ぎ体育館へ移動。

 漸く始まる、X.R.Cの“本番”への準備を始めるために。

 

「遅かったじゃん」

「すまない」「ゴメン!」

 

 現場で指揮と最終確認を取っていた祐騎に軽く注意をされるも、すぐに解放される。あとで聞いたが、自分たちが間に合うのかを心配してくれていたらしい。

 祐騎は部全体の指揮をしていた関係で、校内どこのクラスが盛り上がっていたかなども把握していたのだろう。だからこその心配、声掛けだった。

 舞台袖に入ると、明日香と空の姿があった。最初に空が自分たちの到着に気づき、笑顔を浮かべる。

 

「あ、リオン先輩、岸波先輩、お疲れ様です! 良かったです、間に合って!」

「あの後も結構な盛況ぶりだったみたいね」

「あ、ソラちゃん! アスカも! 手伝いアリガトね!」

「あの時は本当に助かった。ありがとう」

「困ったときはお互い様、よ」

 

 洸が抜ける前後で、明日香と空も手伝いに来てくれている。

 明日香には下宿先での手伝いの経験、空には持ち前の明るさから、接客の手伝いをお願いした。

 着ぐるみを纏っていたものの、お客さんからの評判もクラスからの評判もとても良かったことを覚えている。

 

「ってそんなことを話している場合じゃなかったわね」

「あ、今どんな状況!?」

「大丈夫です! 準備はほとんど終わってますから!」

 

 そう言って、空は視線を外した。

 彼女が顔を向けた先、逆側の舞台袖には美月と志緒さんの姿が。

 2人はこちらの視線に気づいたのか、志緒さんが片手を上げ、美月がこちらに一礼してくる。

 お疲れ、という労いのようだ。

 

「さ、着いて早々悪いけど、そろそろ幕開けだよ」

 

 祐騎の言葉で、ステージ上へと意識を向ける。

 前の部活の発表が終わり、人が舞台上から捌けていくところのようだ。

 このまま司会進行のアナウンスが入り次第、自分たちの出し物が始まる。

 

「ほら、ハクノセンパイは行った行った。向こうでコウセンパイが待ってるよ」

 

 ……そうだった。自分の役割は、ここにいることではない。

 頑張って。と残る面々に告げ、自分は舞台袖から出る。

 向かうのは体育倉庫──から出てきた洸の下だ。

 

「お、間に合ったんだなハクノ」

「すまない、待たせた」

「良いって。それより、早く運ばないか?」

「ああ。すぐに」

 

 彼の運んでいたもの──プロジェクターを乗せた机を、逆側から持つ。

 そのままそれを運んでいるうち、アナウンスが入った。

 

『それでは次のプログラムは、X.R.Cによる、“動画上映”です』

 

 言い終わると同時、体育館の明かりが落ちる。

 明かりが付いているのは、ステージ上のみ。そのステージ上にはスクリーンが下りて来つつ、かつ拡声器を手に持った明日香と美月が上手と下手からそれぞれ登壇した。

 

『皆さん、お待たせいたしました』

『文化祭も大詰め。楽しんでもらえましたか?』

『……流石は北都会長、檀上で皆さんに問い掛ける姿が様になっていますね』

『ふふ、慣れの問題かと。私が生徒会長でいられるのも、あと少しの話ですけどね』

 

 会場中から、美月の解任を惜しむ声が上がる。

 人気があったのだろう。

 なんとなく、知り合いが人気で嬉しい気持ちになりつつも、準備を進めた。

 

『……皆さんの気持ちは分かりますが、そういうのはこの後の締めの挨拶でやってもらっても?』

『あはは、すみません。その通りですね。皆さん、今の私は、生徒会長としての前に、X.R.Cの一部員として立っています。よろしくお願いしますね』

『とはいえ、皆さんも北都さんがX.R.Cとして活動する姿は、見ていただけたのではないでしょうか』

『色々と文化祭の準備に参加させて頂きましたから、その節はありがとうございました。部員一同を代表し、お礼を申し上げます』

『ありがとうございました』

 

 美月と明日香のお礼に対し、観客席の生徒たちからも感謝の言葉が飛ぶ。

 彼女らより近くに居た洸や自分に、直接お礼を言ってくれる人たちも居た。

 この数週間で、色々な人たちに顔を覚えてもらえた気がする。

 

『私たちX.R.Cは、準備段階から皆さんのお手伝いをしながら、1つ、交換条件にあるお願いをしました』

『“思い出を共有すること”。すなわち、“活動の写真を撮らせてもらうこと”です』

 

 そう、各部活、各クラスの活動を手伝う片手間、写真や動画を撮らせてもらった。

 自分たちの目的は、その画像を一本の“動画”にまとめること。

 所謂、文化祭の締め。だからこそ文化祭閉会式の1つ前のこの時間に、ステージの順番をもらった。

 

『この文化祭が成功であれ、失敗であれ、皆さんの心には、きっと大きな経験と思い出が残ることかと思います』

『ここを卒業してもいつの日か、それを思い出すことができるように。私たちからのささやかな贈り物です』

 

 美月と明日香が、こちらに視線を向ける。

 こちらの準備はできた、とアイコンタクトで返した。

 

『『それでは、どうぞご覧ください』』

 

 

 

 

 

 

 そうして流れた動画は、本当にこの2週間近くを凝縮したものだった。

 ある部活の飾りつけ。

 あるクラスの調理の手伝い。

 生徒会からの依頼。

 教職員たちからのヘルプ。

 思い返すと、色々な活動に加わってきた。

 尤も、個々人として映り込むことはあれど、X.R.Cとしての全員での活動の画像は、ここにはない。

 いつも撮る側だったし、それぞれ単独行動が基本だったから、それは仕方のないことだ。

 しかし自分たちは、自分たちがこの画像を撮ったことを、覚えている。

 その準備に参加し、縁を培ったことは、明確な事実。自分たちはその思い出を抱いて、この動画を見返すことができる。

 それもまた、自分たちだけの特権ではあった。いろいろな部活動に混じって準備する、だなんて贅沢、他ではできなかっただろうし。

 

 

 動画の最後。

 “Produced by X.R.C”

 “Thank you for watching”

 という文字が浮かび、そのまま画面が暗くなる。

 体育館の明かりが徐々に元へと戻っていく。

 明るくなった体育館の中では、何人か涙を流している生徒たちもいた。

 動画の途中では笑い声をはじめとする色々な声も聞こえたし、反応を聞く限りは、成功だったと判断していいだろう。

 

『改めまして、皆さん、本当にありがとうございました』

『この後、おおよそ15分後に閉会式が行われます。休憩や、ご歓談をされてお待ちください』

 

 どう言って、檀上から捌ける2人。

 自分たちも、撤収の準備をするか。

 

 

 

 

──夕方──

 

 

「みんな、今日は……ううん、今日までお疲れ様!」

 

 クラスで解散の音頭が取られた後、部室に集合した自分たちは、九重先生に部室で労いの言葉をもらった。

 

「こちらこそ、色々とサポートしていただき、ありがとうございました」

 

 明日香が自分たちを代表して、先生にお礼の言葉を返す。

 

「まあそうだね。九重センセイのサポートがなくちゃ、流石にちょっときびしかったかも」

 

 全体のスケジュール調整や、動画編集などを行っていた祐騎は、その大切さを身を以て知っているのだろう。

 彼も変に強がることはせず、先生の補助に感謝しているらしい。

 自身の片腕をつかんだまま話す彼は、頭を下げることはしなかったにせよ、彼らしい形で九重先生を労った。

 

「ううん。わたしなんて……! 頑張ったのはみんな、だよ?」

「そのみんなの中に、トワ姉も入ってるってことだろ」

「……えへへ、ありがとう、コー君! みんな!」

 

 はにかむ九重先生。彼女を囲むみんなも、笑顔だ。

 湧き上がる感情を分析するのであれば、今自分の中に溢れているこれは、達成感なのだろう。

 この数週間、この文化祭にかかりきりだった。

 最初こそ案が出ずに苦戦したけれども、終わってみると、自分たちらしい活動ができていたのではないかと思う。

 

「しっかし、よく間に合ったよな。あそこから」

「ま、僕のお陰だろうね」

「ああ。間違いなくお前がいなくちゃ成り立たなかっただろうよ、四宮」

「本当に、大変な作業をよくやり遂げてくれた、祐騎」

「……まあね。とはいえセンパイたちも頑張ったんじゃない。指示通りに動かない、なんてことがなくて、僕も負担が減ったかな」

 

 本当に、全員が祐騎に感謝しているだろう。ここまで効率を求めて動くことができたのは、やはり祐騎の指示があってこそだったと思うから。

 

「でもユウ君、クラスの方まったく手伝ってないのは駄目だと思うよ」

 

 少し自慢げで、それでいてやや恥ずかしそうにしていた祐騎を、空が半目で見つめる。

 だがそれに関して、彼は鼻で笑って受け流した。

 

「ま、気が向いたら来年ね」

「心にも無さそう……」

「でもセンパイたちもよくやるよね。クラスの方の出し物もしっかりやったんでしょ。ハクノセンパイと玖我山センパイたちのクラスなんて、今日大盛況だったし」

「……逆にわたし達の場合、よその手伝いに行っていた手前、なんで自分たちのクラスは手伝わないんだ、という批判が向けられる可能性もあったから」

「その点、ユウキは部室内ですべての作業をしていてから、特にクラスメイトたちから何を言われることもなかったんだろうな」

 

 もしくは、言われても無視したか、という可能性もある。

 けれどまあ、どちらにした所で、祐騎が口を割る可能性もない。

 

「美月、志緒さんも、楽しめたか?」

「ああ。勿論だ」

「私も、とても有意義な期間でした。……ふふっ、岸波君も時坂君も、しっかり約束を守ってくれましたね」

 

 ……覚えていたのか、美月。

 まあ、そもそもあれから1週間ほどしか経っていないし、不思議はないけれども。

 

「え、何ですか、その約束って?」

「私が、高校生活最後の文化祭を楽しみたいといった際、一生の思い出になる文化祭にしてみせます。約束してくれたんですよ」

「「「おお~」」」

「って、なんだその反応!?」

 

 洸が顔をやや赤く染めつつ、突っ込みを入れた。

 いや、恥ずかしい気持ちは分かるけれども。

 ……まあ、3年生の2人が楽しめたのであれば、良かった。

 

 

 


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