PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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4月22日──【異界】忍び寄る者

 

 

「ま、まさかアレって……!」

 

 突如として現出した非日常に、玖我山が大きく反応する。

 まずい。直感的にそう感じ取った自分は、既に走り出していた。

 

「きゃああっ!」

 

「手を伸ばせ!」「逃げろ、ソラ!」

 

 自分と、時坂が手を伸ばす。

 しかしそこには、先日感じたものと同様の歪みがある。またしても手は空を切った。

 

 

「くそっ!」

 

 届かないと知るや、すぐさま時坂が追って異界へ突入する。

 自分は──

 

 

──Select──

  >後を追う。

──────

 

 

 迷っている時間はない。足を踏み出しかけ、ふと違和感に気づく。

 ……だが、このまま進んでも良いのだろうか。

 

「と、時坂クンが異界に! 早く行かないと!」

「……待て璃音!」

「!? え……な、ナニ?」

 

 意気込み、突入しようとした彼女を咄嗟に呼び止める。

 そうだ、自分たちは準備ができていると言える状態ではない。璃音は武器を扱ったことがないどころか手に持ったことすらない状態で、戦場へ赴こうとしているのだ。

 それを止めることはできない。自分も分かっているから。力がないからと言って、諦めたくない気持ちを。

 しかし自分に彼女の無力さをサポートするだけの力はない。自分たちは現状揃って無力。あっても微々たる力だ。異界に潜った経験があるとはいえ、結局死にかけただけ。勇敢に戦った経験とは、お世辞にも言えない。

 だから、問う。

 

「戦えるのか?」

「……うん、怖いけど、大丈夫。覚悟はとうの昔に決めてたし、何より……ここで見捨てるなんて選択肢、あたしにはできない!」

「そうだな。自分も同じ立場なら、そう思う」

 

 真面目な顔をして宣言する彼女に、同意を示す。

 巻き込まれた女子も、時坂も、璃音も、見捨てるつもりはない。

 故に線を引く。他ならぬ彼女の安全確保の為に。

 

「だからこそ、最初の戦闘時にソウルデヴァイスが出せないようなら、直ぐに帰って待機することを、約束してくれ」

「………………わかった。何がなんでも出す。出してついて行く!」

 

 璃音は1歩踏み出し振り向く。

 真剣な表情を崩した。

 

「それに、キミばっかり危ない目に立たせちゃ、トモダチとして立つ瀬ないしね!」

「……ありがとう……それじゃあ、行くぞ!」

「うん!」

 

 

 ──>?の異界【月下の庭園】。

 

 

 2度目の、世界が変わる感触。

 気分のいいものでは決してない。

 自分の常識が剥離されていく気がして、深い極まる感じだ。

 

 世界に自分が順応した後、視界に飛び込んできたのは、(シャドウ)に挟み打たれている時坂の姿。

 

「岸波、玖我山も! ついて来ちまったのか!」

 

 その右腕には、武器らしきものが付いている。取っ手の先、刃がチェーンのようなもので繋がれている。蛇腹剣もしくは連接剣みたいなものが手甲剣のように装備されている。とても複雑な構造みたいだ。

 存在としての謎さなら空飛ぶ鏡も負けていないが。

 

 ともあれ、約束の戦場である。

 

「璃音!」

 

 無言のうちに玖我山が、一歩足を踏み出した。

 その身体が、金色に光だす。

 それは見間違い様なく魂の輝き。

 

 ──ソウルデヴァイスの発現。

 

 一瞬驚いたように身体を抱いた彼女だが、すぐに落ち着いて力を抜き、叫んだ。

 

 

「──響いて、“セラフィム・レイヤー”!」

 

 

 璃音の背に、羽のようなものが現れる。

 翼状のソウルデヴァイス。身に付け飛び回り、ポーズを取る姿はまるで天使のよう。

 空中宙返りという大技で躍動を現した後は、細かい動きの確認に移ったらしい。浮いたままステップを踏むように動作を繰り返して、大きく頷いた。

 

「うん、イケる!」

 

 どうやら浮遊、飛翔能力があるみたいだ。思い通りに空中を移動する姿は様になっている。

 誰よりも高く。誰よりも速く。

 そんな姿はとても努力家の彼女らしい。

 

「ソウルデヴァイス! ……嘘だろ!?」

「話は後だ、突破しよう」

 

 サイフォンのアプリを起動。ソウルデヴァイスの表示をスライドする。

 起動(AWAKEN)という画面が浮かび上がり、自分の周囲に光が集まった。

 光が一纏まりになって形成されたのは、自分の鏡形ソウルデヴァイス“フォティチュード・ミラー”。 

 

「時坂、璃音、サポートする。2人は積極的に攻撃を!」

「応!」「わかったわ!」

 

 時坂はその形状通り、不規則に動く武器を器用に振り回し、ダメージを稼いでいく。

 璃音は翼を当てて攻撃する為、身体を大きく捻ったり真横を飛翔したりする必要があるみたいだ。

 璃音の方が隙の多い攻撃をするが、時坂も決定打となる攻撃を繰り出すには、大きなタメが必要そう。

 なら自分に出来るのは、その隙間を埋めること。浮遊する鏡を必要なタイミングで割り込ませることだ。

 

「璃音はそのまま折り返しで連撃! 時坂は3秒後に大技頼む!」

 

 璃音が通り抜け様に翼を当てようと飛翔した所で、大きく円を書くように鏡を飛ばした。

 横を通過し、指示通り連撃に移ろうと方向転換した所で、その隙を埋めるかのようにシャドウへ鏡が飛来。

 ヒット。

 そのまま鏡は時坂が相手するシャドウへ。

 璃音は連撃を成功させ、シャドウ1体を消滅させた。

 

 時坂が大きなモーションの準備にかかる。リーチの長い武器だ。反動を利用するなら、どうしてもそうなる。

 だから、そこで生まれる隙を埋めるように鏡を飛ばした。

 若干の計算違いから早く衝突しそうだが、間に合わないよりは良い。

 鏡を操作し、隙を突こうとしたシャドウの横っ腹に当てる。

 意図していなかった方向からの衝撃に動揺するシャドウ。

 その隙を、彼の回転切りが刈り取った。

 

「──」

 

 断末魔の叫びを上げて、敵影が消滅する。

 よくないもの(シャドウ)の気配はもうない。

 ひと安心だ。

 

「「「ふぅ」」」

 

 この鏡、便利なのは良いが、身体から離れれば離れる程、小回りが利きづらくなるというか、操作が鈍くなるな。遠くに飛ばす際は注意しなければ。

 

「岸波、玖我山も、適格者だったのか」

「ああ、時坂もだなんて驚いた」

「ほんとビックリ。裏の世界の出来事だなんて言われてたから、こんな身近な人が関係者だとは思わなかった」

 

 確かに。

 美月はこのことを知っていたのだろうか。

 何にせよ、今は心強い味方だ。

 

「それ、鏡か?」

「“フォティチュード・ミラー”。自分のソウルデヴァイスだ」

 

 そう自己紹介ならぬソウルデヴァイス紹介をしている最中も、鏡は自分を中心に周遊している。

 

「なんで浮いてるんだ?」

「……さあ?」

 

 寧ろ自分が知りたいくらいだ。

 

「それで、時坂の扱いづらそうなそれは?」

「ああ、名前は“レイジング・ギア”。伸び縮みするし、使いやすいソウルデヴァイスだぜ」

 

 ……まあ、本人が使いやすいと言っているならそうなのだろう。

 足を止めていたのはその間程度。

 その後は、進みながら確認していく。

 

 今回の異界は前回と違い、幾何学的な模様も何もない。先進的な、よく分からない遺跡のような場所でもなかった。

 どちらかといえば、自然の色が強い。

 薄暗い光景。月が反射する黒い石質の床。光を浴びて煌めく草花。まさに、月下の庭園といったものだ。

 そこらに咲く花に見覚えさえあれば、少しくらいの現実感があれば、素直に感動できたかもしれないのに。

 

 

 

「……つうことは、岸波はともかく久我山は初の実戦だってことか」

「ああ。異界の経験はあるが、戦闘経験者じゃない」

「その割には……」

 

 時坂が視線を前に向ける。

 そこには、遊撃・偵察をひとりでに行う璃音の姿が。

 自身が機動力や回避力を備えているからこその決断らしいが、見ているこちらからすると、本当にひやひやする動きだ。

 

「スマン、巻き込んで……だが、どうか力を貸してくれ。オレだけじゃ、ソラを助けられるか分からねえ。今は少しでも、成功率を上げてえんだ」

「元よりそのつもりだ。自分も璃音も、目の前で誰かが悲しまないように戦うと決めている」

 

 あの日、目覚めた日に掲げた決意に反することはしない。それをするのは、それが許されるのは、全てを解決した時か全てを諦めた時だろう。

 

「……目の前で誰かが、か。そうだよな……」

「?」

 

 

 その後も数度の戦闘を挟み、探索を進める。

 

「時坂は、異界攻略に慣れていないのか?」

「今までに3つ──いや、2つってところだ。どれも自然発生のものだったが」

「それは1人で?」

「いや、経験者の助けがあって、だな」

「じゃあ、今回は」

「ああ、慣れてねぇヤツ同士で進むしかねえってことだろ。……しかし柊のヤツ、いつもなら颯爽と来るってのに、何かあったのか?」

「柊?」

「ワリィ、こっちの話だ」

 

 柊。それが彼の言う経験者だろうか。

 美月とは違う異界に触れてきた者。年齢も、性別さえも分からないが会ってみたい。

 何にせよ、この異界を攻略してからだが。

 

「2人とも、ちょっと遅くない?」

「すまない、少し話し込んでた」

「何か分かったのか?」

「うん、その奥を右折すると広い空間に出るんだけど、シャドウもいっぱい居たかな。逆に左折方向だとシャドウの姿は1体だけ。でもすぐ先が曲がり角だからどうなってるか分かんない」

「そうか……ありがとう」

 

 さて、どちらに行くべきか。

 

──Select──

 >広い空間に出る。

  曲がり角を進む。

──────

 

「その心は?」

「時坂、広いところの方が得意だろうし」

 

 何より戦闘数が心許ない。この状況下で攻撃手段の狭まる環境を用意したくなかった。

 時坂の攻撃スタイルは至近距離で殴り合いというよりは、1対他で時間稼ぎをするのに有効そうだ。1人での決定打も打てることから単独戦闘能力も高いのだろう、まさに万能型。オールラウンダーと言って良い。

 そして、1番の経験者が彼ということも大きかった。彼の自由度が減るということは、想像以上に戦力低下へと直結するだろうから。

 

 ……せめて、自分も同様に戦えれば良いんだが。

 鏡を使った戦い方など、フリスビーのように投射し、微調整して当てるくらいしか思い付かない。

 まあどうせ直接戦闘型ではないし、全員の闘い方の把握と支援に気を配ろう。

 ついでにペルソナを使う戦闘も見ておきたいが、無闇矢鱈に喚ぶだけで精神力が減る。余計な消費は避けたい。

 自分のタマモは火炎(アギ)呪怨(エイハ)を使って攻撃ができる。

 他人のペルソナがどういったことを出来るのか分からないが、属性相性というものがあるくらいだし、被っていないと有り難い。

 

 開けた場所の前にたどり着く。

 空間内には……3体か。どれも小鬼のような外見をしていて、的が小さい。足も短い為、素早くは無さそうだが……さて。

 

 

「よし、突入しよう。璃音は1体1体着実に倒して。囲まれると機動力が行かせない。少しでも不味いと思ったら自分を呼んで。アシストする」

「分かった!」

「時坂はなるべく隅に追いやられないように。常に空間を保って、できれば2体の注意を引き付けて。サポートはする!」

「応! 頼むぜ岸波! 久我山も!」

 

 指示通り2人は突き進んだ。

 合間を縫って牽制しつつ、時坂が抑え込まれないよう立ち回る。

 順調に進んでいる。そう考えた時だった。

 

 

 

「岸波くん!」

 

 璃音に呼ばれる。

 時坂が2体を足止めしていた為、彼女の方は敵が単体の筈だが──

 

「通路からもう1体、シャドウが!」

「くっ、増援か!」

 

 時坂は動けない。

 璃音も対峙している敵を倒すのが優先──待て。

 敵が接近してきている通路に1番近いのは、璃音だ。なら、彼女がそちらの対処に回り、自分が彼女の相手を預かった方がいい。

 

「久我山、その敵もらう!」

「えっ」

 

 ソウルデヴァイスをサイフォンに仕舞い、表示画面を切り替える。

 

「ペルソナッ!」

 

 タマモを呼び出し、敵を蹴りつけた。璃音が受けもっていた敵がこちらを向く。優先すべき敵として認識してくれたらしい。

 

「璃音は通路の対処! 頼む!」

「お、オッケー!」

 

 しかし、素人3人で4体を、しかも若干離れている敵を相手取るのは厳しい。

 多少無理しても、速攻で片付ける。

 

 ──アギ。

 

 火炎属性技を念じ、放たせた。

 しかし効いた感じはない。

 ならばと呪怨属性技(エイハ)を放ってみるも、耐性があるのか効きが薄かった。

 

 ……ゴリ押すしかない。

 

 属性技を諦め、普通にペルソナを動かし接近戦を挑む。蹴る、蹴る、ひたすら蹴る。

 

「いい加減、倒れてくれ!」

 

 思い切り、気持ちを込めて命令した蹴りが、敵を消し去った。余計に精神力を使ったが、仕方ない。

 タマモを戻し、ソウルデヴァイスを喚び直そうとした所で……サイフォンの画面が光った。

 

「……?」

 

 画面には、倒した影が力を貸してくれる(New Persona!)ようですの文字。

 タップすると、ペルソナの欄に“ピクシー”という表記が。

 

 これは……喚べる、ということだろうか。

 兎に角試してみよう。考えている時間が勿体ないし、現状を打破する力になるかもしれない。タマモの時と同様、ソウルデヴァイスを突き出して叫ぶ。

 

「“ピクシー”!」

 

 自分の後ろに、小さな妖精が現れる。少し嬉しそうに飛び回っていた。

 同時に、使えるらしい技も流れ込んでくる。どうやらペルソナは目覚めた時点で、その能力などを把握できるらしい。ソウルデヴァイスと同じだ。理屈が分からないところまで。

 

「“ガル”!」

 

 疾風属性技(ガル)。突如として生まれた疾風が、時坂を囲んでいたシャドウの1体を転倒させた。

 

「うぉっ!?」

「もう1発……!」

 

 もう1体にもガルを放つ。これで敵が2体とも転倒。

 

「畳み掛ける!」

「お、応!」

 

 縦横無尽に、ソウルデヴァイスを使用してボコスカとタコ殴りにする。それはもう、埃が全身を覆うレベルに舞い上がるほど。

 

 それが晴れた時には、シャドウは消滅していた。

 

「やったな、岸波!」

「ああ、時坂のおかげだ。よく持ちこたえてくれた」

「へっ、御安い御用だぜ。岸波こそ、良い指揮すんじゃねえか」

 

 拳を突き合わせる。

 しかし最後のラッシュ、爽快感が凄いな。

 感触に浸りつつ、サイフォンを見る。今度は、何の表記もない。ただペルソナの欄には変わらず、タマモとピクシーの名が表示されていた。

 

「なあ、ところで今──」

「ちょっと! 終わったならこっち手伝ってよ!」

「「……悪い」」

 

 あまりの爽快感が、彼女のことを忘れさせていた。お陰で怒り心頭。アイドルがして良い顔をしていない。

 ……しかし何故だろう、特別変わりない気もする。普段がアイドルらしくないからだろうか。

 

「……反省してなさそう」

「本当にすまなかった」

 

 何にせよ、目を離した自分が悪い。

 

「って、そんなことより岸波──」

「そんなこと?」

「あ、わりぃ。……いや、それより説明してくれ。何でお前、ペルソナ2体も喚べんだよ!」

 

 そんなこと言われても。

 呼べたから、正確には表示があったから喚んだだけだ。

 そもそも、何かおかしな事なのだろうか。

 

 

 

 

「──タイプ・ワイルド。まさか、杜宮に現れていたなんてね」

 

 

 背後から、女性の声が響いてくる。冷たい、鋭利なものだった。背筋が凍ったかのようにゾッとするほど。

 

「柊……」

「こんばんは、時坂君。それに、D組の久我山さんと……編入生の岸波君も」

 

 赤いヘアピンを付けた、長めの茶髪。その声と同じくらい冷たそうな青い瞳。何処か不機嫌そうな美少女が、そこには立っていた。

 

 

 




 

「──美しい。シャドウさえ、いなければ……創作の邪魔をするモノは、斬る」
 某狐のお面の怪盗が居たら、一定時間は鬼神のごとく活躍するものの、その後は点で役に立たなくなる模様。



備考・白野レベル2
   璃音レベル1
   時坂レベル8
(突入時)


 そりゃ苦戦します。経験のある時坂くんと同様の動きができるわけない。かつ柊さんみたいな足並みを揃えてくれる実力者もいませんから。
 まあ、雑魚戦を長く描写するのも、きっと多くはないでしょう。
 勝てないなら、特訓すれば(レベル上げれば)ええやん?

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