閲覧ありがとうございます。
本年もありがとうございました。
長くなったので、前後編に分けます。
次話は明日投稿予定です。
11月2日。金曜日。
今日から2日間かけて、文化祭が開催される。
きっと忙しさに奔走することになるだろう。
そんな中でも楽しむための約束は取り付けてある。
休憩時間も合うように調整済みだ。
……さて、そろそろ学校へ行こう。
────>杜宮高校【X.R.C部室】。
若干浮足立っていたのか、遅刻しないよう早めに出たのが影響したのか、とにかく校舎についたのは、いつもよりも30分も前だった。
流石にまだ誰もいないかな、と思いつつ、荷物を持ったまま部室へ直行すると、洸の姿が見える。30分も前なのに、だ。
人のことは言えないけれど。
「おはよう」
「うっす。はやいな」
「洸こそ。逆にみんなはまだ?」
「流石にな。って言っても来てるヤツは来てるが。ソラは空手部、ミツキ先輩は生徒会だな。見てないけど、アスカは教室の方に寄ってから来るって言ってたぞ」
「半分は来てるってことか」
「ま、オレも含めてそれぞれのクラスの出し物があるからな」
そう言って、洸は今日の学園祭のパンフレットを広げる。
「ハクノとリオンのクラスは……水族館カフェ?」
「ああ。来るか?」
「行こうとは思ってるが……そもそもなんだコレ。熱帯魚とかを展示……するのか?」
「いや、みんなが魚の着ぐるみを着てカフェを運営している」
「……なんで?」
「……さあ」
まあ、色々な理由はあるけれど。
元々はメイドカフェだった。
まあ男子も全員メイド姿にするという非難の飛んだ案だったけれど。
ただそこで、璃音が結果的に客寄せになってしまうことが問題視されてしまった。
まあ活動休止中とはいえ、彼女も事務所に所属している身だ。そういう璃音を含めて全員着ぐるみを身に纏えばよいのでは、という話がどこからだったか浮上する。
まあその声を受けて出し物は見直し。検討の結果、動物の着ぐるみで森林カフェをやるか、魚の着ぐるみで水族館カフェをやるかの2択になった。
で、色々あって水族館カフェになった訳だ。
「涼しい時期で本当に良かった」
「確かに残暑厳しいタイミングだったらキツそうだな」
ちなみに自分が入るのはサメらしい。というか男子の7割はサメだ。サイズ的に合うものが市販でなかったから仕方ない。
「まあ来た時、自分を当ててみてくれ。多分分かりづらいから」
「……そういう楽しみ方もできるってことか」
「いや、副産物だけど。指名されたらその人が対応するし」
「指名しても出てくるのが魚じゃなあ」
「甲殻類メンバーもいないことはないぞ」
「そういう問題じゃねえよ」
ないらしかった。
「てかハクノ達は、結構クラスの方でも体力持っていかれそうだな。こっちの活動は大丈夫なのか?」
「やりきるしかない。それに大変のは自分だけじゃないだろう」
「まあ……なあ」
そう言って、再度パンフレットへ目線を下す洸。
「オレとアスカはお化け屋敷。と、ユウキのところもか。ソラのクラスはポップコーン屋。シオさんのとこは縁日で、ミツキ先輩は……占い&プラネタリウム……?」
「ああ、ミツキのところは星座占いした後にプラネタリウム見て星の勉強するらしい。『星繋がりらしいです』とは言ってた」
「……まあ、行ってみないと面白いかどうかはわからないか」
一見盛り上がりという面では難しいだろうけれど、一定の女子人気や、カップル人気はありそうな気がする。
けれどまあ、どう転ぶかは占い次第か。
「祐騎と洸たちは被ったか」
「まあ、申請時に実行委員から通達は受けてたけどな。2つのクラスがお化け屋敷を希望していますって。そこでまあ、協議の結果、うちはサウンド系のホラーを作って、ユウキのクラスは装飾系のホラーを作ることになった」
「じゃあ実際ジャンルは違うのか。なるほど」
それは、どっち行っても面白そうだ。
「サウンドだったら祐騎も強そうだけどな」
「そもそもユウキが積極的に文化祭に関わるかどうかが微妙じゃないか?」
「……」
否定できない。
「っと、オレもそろそろ教室に行かねえと。ハクノはどうする?」
荷物を持ちながら洸が尋ねてきた。
どうしようか。
……でも、元々早く来たから誰かいれば程度で来ただけだし、洸しかいないのであれば、その役目もここではもう果たせないだろう。
教室へ行って文化祭開始までクラスの手伝おうか。
「自分も戻る」
「じゃあ、また後でな。良い文化祭にしようぜ」
「ああ。お互い良い文化祭を」
──午前──
『只今を持ちまして、20XX年、杜宮高校文化祭を、開始いたします』
美月の宣言が放送室より学校全体に届けられ、学校中の至るところから、それを迎える拍手が響いてくる。
自分もクラスでそれを聞いていた。
着ぐるみを前にして。
「……」
拍手が鳴りやみ、他のクラスががやがやし始めてからも、自分たちのクラスは比較的静かだっただろう。
まだ誰も、着ぐるみに袖を通していない。
各自の目の前には、死んだように横たわる魚たちの姿。彼らは何というか、陸地に打ち上げられて跳ねる元気をなくしたような、そんな見た目をしていた。
それを嬉々として着るような元気は、クラスに湧いていない。
「ねえ……マジでこれ……」
「いや……もうやるっきゃねえだろ」
「ほら、早く着なさいよ」
「えー……じゃあせーので着ようよ……………」
「せーのって言えよ……」
……これは、大変な文化祭になりそうだ。