閲覧ありがとうございます。
遅くなってしまいすみませんでした。
活動報告にも書きましたが、無事、黎の軌跡Ⅱをクリアしたので更新再開します。
「すまない。明日は迷惑をかけるけれども」
「気にしないでください。ここまで頑張って頂いたおかげで、作業は全体的に前倒しできてるって、ユウくんから聞いていますから! ね!」
「だからユウくんじゃないって何度言えば……」
「そろそろ諦めたらどうだ、祐騎」
「九重センセ、どうやらコウセンパイは、みんなの前でコー君って呼ばれても受け入れてくれるらしいよ」
「おまっ!?」
「あはは……」
明日のハロウィンを超えれば明後日からは11月。文化祭まであと少しといったところ。
今日は璃音と自分が明日空けることへの対応のと、そのままラストスパートに向けた打ち合わせも兼ねて、いったん全員で部室へと集合した。
「まあ、そういう訳だ。特に久我山は、休憩ほとんど取ってないみたいじゃねえか。
この機会に羽を伸ばす……とまではいかねえだろうが、気分転換でもしてくるんだな」
「高幡君の言う通りです。ここで休んだとしても、誰もお2人を責めませんよ」
3年生の2人を始め、璃音と自分を除いた全員が頷く。
本当にありがたい。
「……正直、私にも責任の一端があるわけだし、リオンの代わりをできれば良かったのだけれど」
明日香が眉をハの字にしながら呟いた。
彼女の言う責任とはおそらく、霧の日の独断専行のことだろう。それを解決するために、自分たちは使えるものを使った。色々な人に無茶なお願いだってしたのだろう。今回の依頼人であるユキノさんも、何かしらの事情があって自分たちを誘っているのかもしれない。
「代われなかったのか?」
「ええ。ユキノさんに直接言ってみたけれど、“それなら3人でも良いわよ”と言われてなくなく引き下がったわ。力になれず、ごめんなさい」
「……あたし何させられるんだろ」
「……無事を祈るぜ」
「取り敢えず、ネットだけは確認しておこうかな。面白そうだし」
「取り敢えず俺らは明日も作業があるから忘れずにな」
実際、何をやることになるのだろうか。
自分もそれとなく探ろうとしたし、話を持ってきた洸も確認しようとしてくれたらしいけれど、結局前日である今日まではぐらかされている。
つまり、隠すほどの何か、ということだろうけれど。
「まあでもユキノさんだ。無理難題は言うけど、危険はないだろ」
「……それは、そうだな」
洸の言う通り……というか、他ならぬ一番付き合いの長い洸が言うのだから、間違いはないだろう。
「せっかくだし、皆の言葉に甘えて、楽しむとしよう。璃音」
「……ま、そうだね。ゴメンみんな! 明後日からはまた頑張るから!」
全員が頷く。
みんなの好意に甘え、璃音と自分の仕事の引継ぎを引き継ぎ、その上で全員の一日分の工程をある程度決めた上で、各々今日の作業へと戻っていった。
明日はハロウィンだ。
予想もつかないし、大変そうだけれど、こうして送り出してもらう以上、色々と頑張らなければ。
──夜──
────>カフェバー【N】。
「ん? 岸波か」
家に帰り、一度帰宅した後、今日は外で夕食を取りたい気分になり、カフェバー【N】へと訪れていた。
テーブル席を広々と使うことに若干の躊躇いを得つつも、落ち着いた環境で勉強はありがたいと励むことに。
そんな中、意識の外から突然自分の名前を呼ばれ、声のした方を向けばそこには、呆れたような担任の姿が。
「佐伯先生。こんばんは」
「ああ、こんばんは。まったく精が出るな」
「?」
「いや、前もここで勉強をしていただろう。生徒が学校の外でもしっかりと勉強してくれているのは、少し嬉しくてな」
「嬉しいものなんですか?」
「まあな。これは教師特有の感覚かもしれないが」
立ったまま話されているのも変な気分なので、どうぞと相席を進める。
ああ。とカウンターに立つ男性に注文をし、佐伯先生は自分の前に座った。
「嬉しい、という割には、なんか微妙な顔をしていませんでしたか?」
「! ……はは。そう見えたか。すまない。正直な所、よく勉強しているなという感情が先に来た」
「? どういうことですか?」
「なに。最近は特に、努力している姿をよく見かけるようになったからな。正直休んでいるのかと心配しているんだぞ」
努力している姿か。
確かに前回会った際も、勉強しているときだったか。
それ以前に、進路での悩みや、そもそも相談事があってここに来ることも多かった。
そう思うと佐伯先生には、色々とそういう姿を見せているのかもしれない。
……でも、自分には努力が必要だ。
才能云々の話ではなく、積み上げた量が圧倒的に他より少ない自分は、それを補うよう努力しなければならない。
そうでなければ、自分の価値は上がらず、助けてもらったことに対する恩返しをできる人間にはなれないだろう。
──Select──
それなりに休んでます。
>そういう先生は休んでいるんですか?
じゃあ今度サボります。
──────
最近は色々なものに手を出すことも減ってきたし、誰かと一緒に何かをすることも増えてきた。休んでいるといえば休んでいるだろう。
休んでいるかどうかが気になるといえば、先生の方ではないか。教師という職業は大変だと聞いたことがある。
「はは。ありがたいが、大人を心配するなんて10年早いぞ、岸波」
「……誰かの身を案じるのに、遅いも早いもなくないですか?」
「大人に気を配るよりも先に、自分や周りに目を向けてみるといい。ということだ。少なくとも自分の体と向き合っている長さは、子どもより大人の方が長いからな。不調には気づきやすい」
「でも、気づけないこともあるのでは?」
「まあな。その時のために、おそらく人は家庭を持つのだろう」
家庭。夫婦や親子は毎日顔を合わせている。他人よりよほど異常に気づきやすいだろう。
でも、それは佐伯先生が言うことだろうか。
運ばれてきた夕食を食べ始めた彼を見て、思う。夕飯を作ってくれる存在は、いないみたいだけれど。
「先生、ご家族と住んでいらっしゃるんですか?」
「生憎、独り暮らしだ」
「では、先生に一番毎日会っているのは、自分たち担当生徒では?」
「……はは。確かに。じゃあ素直に礼を言うことにしよう。ありがとうな、岸波」
可笑しそうに薄く笑った佐伯先生。
まあ、怒られるよりは良いか。
「それで、岸波には俺が疲れているように見えたと?」
「なんというか、いつもより覇気がないように見えます」
いつもより、言葉に切れがないというか。
少なくともいつもの先生だったら、自分を見て微妙な顔をしなかったような気がする。思い込みだけれども。
「……生徒に見透かされるようでは、俺もまだまだだな」
「見透かされる、ということは」
「まあ、体調を崩しているというほどではない。少し仕事が重なったこともあり、休みが取れていなかっただけだ」
だけ。というには重いと思うけれども。
まあでも、彼の言い方的には、そう珍しいものではないのかもしれない。
──Select──
休めないんですか?
>一緒に休みますか?
つらくないんですか?
──────
「一緒にって……学校をか? そんなことできるわけないだろう」
先生は呆れている。
「そもそも、教師はそう気軽に休めないんだ。授業に穴を開けるわけにもいかないからな」
「……自分が言うのも何ですけれど、大変なんですね」
「まあ、それを織り込み済みで教師という職を選んでいるからな。文句もなにもない。有給休暇は土日にでも使うとしよう。ただまあそれにしても、申請の関係で実際に休むのは少し先になるだろうがな」
……まあ、そうか。
急に明日休みますと言われても、いくら土日といえ他の先生たちが対応できないか。
彼の言う通り、休むのは結構先になるのだろう。それまで休みなし、というのは大変そうだけれど、頑張ってもらうしかない。
せめて、その休みのことを考えてもらって、気を休めてもらおう。
「休みをもらえたら、何がしたいですか?」
「……特にしたいことは思い浮かばないな」
少し考え込んだものの、良い過ごし方が思い浮かばなかったらしい。
彼は難しい顔をしている。
「そういえば岸波は最近色々なことに手を出しているんだったな。何かお勧めなどはあるか?」
「自分の、ですか?」
「ああ。せっかくだし、生徒の過ごし方を聞いてみるのも一興かとな」
……そう突然言われても。
何かあるだろうか……
「……急に言われると、候補が多すぎて思い浮かばないですね」
「そうか。まあ時間はあるし、何か思い浮かぶようであれば、教えてくれ」
「分かりました」
……何か思い浮かぶようであれば、佐伯先生に報告することにしよう。
「さて、あまり長居してもあれだからな。お暇するとしよう」
気づくと夕食を取り終えていた彼は、帰り支度を始めた。
……また少し、佐伯先生との距離が近づいたような気がする。
「自分はもう少しやってから帰ります」
「あまり遅くなるんじゃないぞ」
「はい」
背を向け、手を振りながら出ていく彼の姿を見送った。
コミュ・刑死者“佐伯 吾郎”のレベルが5に上がった。
────
次回はハロウィン回。
メインストーリーを進めます。