PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 閲覧ありがとうございます。


 皇帝コミュ 前回までのあらすじ。

 志緒さんに憧れているらしき後輩と出会った。その名はハルヒコ。彼は自分と志緒さんが友人であることに驚いているらしい。それだけでなく、BLAZEの人たちとも関りがあるとのことで、一目を置かれているようだ。けれど、彼と志緒さんは一体どういう関係なのだろう。


10月29日──【教室】志緒さんと責任

 

 

月曜日。

学園祭を週末に控え、昨日もその準備。

やや校内の雰囲気が浮足立っているようにも感じる今日も、授業は普通に行われる。

とはいえ授業中に隠れながらも何かしらの作業を行っているクラスメイトたちは数人見受けられたので、すべてが通常通りとはやはりいかないらしい。

まあテストも終わり、気が緩んでいることもあるのだろう。

先生も苦言は呈していたものの、続くようなら取り締まるという旨だけ伝え、授業を進行させていた。

 真面目に聞いていたからか、今日は一段と指されることが少ない。

 それだけ分かりやすいということだろうか。というか、内職のようなものは先生側からどの程度見えているのだろう。

 そのうち、誰かに聞いてみてもいいかもしれない。

 

 

──夜──

 

 今日も今日とて文化祭準備に励み、怒涛の放課後を過ごした。

 全体的に生徒たちの熱量が先週より上がってきている気がする。

 連休を通して、完成度が上がってきたからだろうか。

 

 まあ、それはそれとして。

 今、自分がなぜ、九重神社にいるかと言えば、呼び出されたからだ。

 いや、ここを指定したのは自分だから呼び出しという表現は間違っているのかもしれない。けれども、夜に時間を作ってくれと言われたのは確かだ。

 その待ち合わせ相手が、ようやく石階段を登ってやってきた。

 

「ぜー……はー……スンマ、セン」

「いや、自分も今来たところだ。大丈夫か? 水いる?」

「い、いや、大丈夫ッス」

 

 現れたのは、明るい髪色の後輩。

 この前蓬莱町で知り合った、ハルヒコという1年生だ。

 

 彼に捕まったのは本日の午後。授業間で教室を移動している最中のことだった。

 用事があり、1階の廊下を歩いているところを呼び止められたのだ。

 そこで、今日の夜に時間を作ってほしいとお願いを受けた。別に断る理由もなかったのでそれを承諾。

 どこでも良いと言われたので、神社を待ち合わせ場所にし、彼が来るのを待っていたのである。

 

「あの、スンマセンっした、今日は」

「いや、別に自分は大丈夫だけれど」

「あざまっス」

 

 ちなみに、前回のどのタイミングからだったかは忘れたけれども、出会った時とは違い敬語を使うようになった彼に、普通に話しても良いと伝えたところ、若干引き気味に断られてしまった。

 少し距離を感じるようになったものの、断られたものは仕方ない。

 いつでも止めていいとは言ってあるので、あとは彼に任せるしかないだろう。

 

「それで、どうしたんだ?」

「あの、岸波センパイって、高幡センパイの……その、ダチなんスよね?」

「? そうだけれど」

「オレ、その、高幡センパイに憧れてて……どうしたらセンパイみたいになれますかね?」

 

 どうしたらなれるか。

 憧れる姿に近づきたいという気持ちは分かる。なんとかして相談に乗りたいところだけれど、自分に何が言えるだろうか。

 今の志緒さんがどういう人間かを、自分から見えている範囲で語ることはできる。もちろん好き勝手に彼の過去や彼との思い出を話すことはできないし、しないけれど、印象を語る分には問題はないはずだ。

 とはいえ、ハルヒコが目指しているものが志緒さんのようになることであれば、自分がそれを話して解決に近づくとは思い難い。

 それならば、いっそ。

 

「……よし、そういうことなら」

「なんでもやるっス」

「まずは移動だな」

「うっス」

 

 

────>商店街【蕎麦屋≪玄≫】。

 

 

「こんにちは」

「いらっしゃいませ」

 

 お店に入ると、志緒さんのお義母さんに出迎えられた。

 夕飯時からは若干外れているため、客足はまちまちなのか、半分くらいは空席らしい。

 通してもらった奥の席に座り、改めて後輩を正面に捉える。

 

「好きなものを頼んでくれ。自分が出すから」

「いや……スンマセン、飯は食べてきたんで」

「なら、甘味もおすすめだぞ」

「あ、じゃあ頂くっス」

「分かった」

 

 店員さんを呼び、注文をする。

 自分は申し訳ないけれども普通にセットを頼み、2人分の甘味を頼んだ。

 

「そもそもなんで、志緒さんみたいになりたいって思ったんだ?」

「オレ、最初は不良ってかっけえ! って思いこんでたんスよ。で、髪も染めたんスけど、なかなか思うようにいかなくて……そんな時、モノホンの不良に絡まれて、高幡センパイに助けられて……その時に言われたんス」

「なんて?」

「『“不良”なんてモンに縛られねぇで、てめぇ自身の道を見つけてみろや』って。正直痺れたんスよ。で、それなら憧れを目指してみるのも、アリじゃねってなって」

「なるほど」

 

 まあ確かに、ハルヒコは素直そうな人間だ。不良が向いているとは正直思えない。

 外面だけ繕って中身が伴わない、みたいな状態に見えてしまう。

 それよりは、自身が思う自身のなりたいものを突き詰めてみろ。と。

 

「誰かを目標にするのは良いと思う。“不良”とか、そういう漠然としたものを目指すよりは、成りたい姿が明確だから」

「うっス。それで、高幡センパイを目標にするのは決めたんスけど、どうしたら近づけるのか、わっかんなくて」

「なら、もう少し目標を明確にした方がいいんじゃないか?」

 

 不良という漠然としたものから、志緒さんという1つの個に絞ったように。

 志緒さんのたくさんの長所の中から、1つ真似できそうなところを真似てみる。

 それを繰り返していけば、きっとなりたい姿には近づくんじゃないだろうか。

 ……自分の考える志緒さんのカッコよさといえば、どこだろうか。

 

 

──Select──

  多くは語らないところ。

 >優しいところ。

  強いところ。

──────

 

 

 行動の裏に優しさがあること。

 そこが最も彼のカッコよさに繋がっていると思う。

 BLAZEの掲げる焔。その意志の強さ。

 それを自分は、間近で見てきた。

 自分に厳しく、他人に優しく。がしっかり出来ているから、あんなにも背中が大きく見えるんだろうなと思う。

 

「自分がおすすめするとしたら、まず誰かに優しくある姿勢を真似した方が良いかな」

「優しさ……オレみたいなのを助けてくれる人柄ってことっスか」

「ああ。分け隔てなく、色々な人に手を差し伸べられる姿勢をな」

 

 強さは後からでも身につくだろうし、結果に対し寡黙であるのはその結果を出し続けてからでいい。

 ただそれよりも、志緒さんを目指す人間には、優しくあってほしいと思う。

 まあ、それを要求できるような立場に、自分は本来いないのだけれど。

 

「なんか、難しそうっスね」

 

 眉を寄せるハルヒコ。

 まあ確かに、どうするべきかは分かっても、どうすればそれをできるかはまた別問題だろう。

 一番分かりやすいのは、その人が特定の行動をしている場合だ。まずは形だけでもそれを真似られると大きいと思う。けれども志緒さんにそういったことはないように思うので、今回は使えないだろう。

 まあせっかくだし、後で本人に聞けばいいか。

 いったん箸を止めて、頭の中に思い浮かんだことを言う。

 

「自分が思うに、誰かに優しくするには、周りをよく見ることが必要だと思う」

「周りっスか?」

「ああ。誰かを助けられるのは、助けを求められる場に気付けるかどうかだと思うし、それを自然に出来ているからこそ、志緒さんはいつもタイミングが良い」

 

 人の異常に対する気づき方というのは色々あるけれども、彼の動き方は基本的に“見守る”姿勢に長けている。

 聞いたことはないけれど、おそらくあれは、孤児院などで年下を見る機会が多かったからなのかもしれない。

 BLAZEを結成してからも、まとめ役の1人として立つことが多く、周りに気を配る生活が続いたが故の、気配りや心遣いなのだと思う。

 美月や明日香とはまた違った、人のまとめ方。求心力。

 それらを形作っているのが、彼の持つ優しさそのものなのではないだろうか。

 

「でも、周りを見るって言われてもどうすりゃいいんスか」

「まずはなんでも、見て動くのが大事だと思う。そこで相手がどんな反応をするのかを学んでいって、経験を積むのがいいんじゃないか?」

「ふーん……高幡センパイもそうしたんスかね」

「というよりは、経験に裏打ちされた判断のようなものがたまに出てくるからな」

 

 志緒さんもまた、色々と過酷な道を歩いてきた人間だ。そこで積み上げられてきた諸々を、今日明日真似をして頑張ったくらいで身に着けることはできない。

 それでも近道をするのであれば、本人から学べるのが一番なはずなのだけれど。

 

「……遅いな」

「ん? ああ、デザートっスか? 店員呼びます?」

「いや、デザートもだけれど、そろそろ特別講師が来る頃かな、と」

「は? センコーっスか?」

「ああ」

 

 自分の目の前に配膳されていた料理が減っていたのに、志緒さんのお義母さんは気づいていた。

 だからそろそろ、デザートが運ばれてくるはずなのだ──と、噂をすれば。

 

「オイ。お前ら、何て話をしてやがる」

「志緒さん、こんばんは」

「え⁉ た、高幡センパァイ!?」

「店の中で騒ぐんじゃねえ」

「す、スンマセンっス!!」

 

 いまいちハルヒコの声のボリュームが落ちているとは思えないけれど、そこにはあえて触れずに、まずは彼の手にある甘味を提供してくれた。

 まだ事態を呑み込めていないのか、ハルヒコは挙動不審だ。

 慣れるまで、話題はこちらで用意しよう。

 

「自分たちが何の話をしていたのか、知っているのか?」

「まあ、楽しそうに報告が来たからな」

「あー……」

 

 彼の後ろに、ちらりと母親の影が見えた。

 それはそうか。ここで話していればすべて筒抜けだろう。

 楽しそうに話すお義母さんと、それを苦い表情で聞く志緒さんの構図が頭に浮かんだ。なんか申し訳ないな。

 まあともあれ、そうなれば話は早いか。

 

「率直に聞くけれど、志緒さん」

「俺みたいになりてぇって言うのは、止めておけ。そんな大層なもんじゃねえ」

「っ」

 

 ばっさりと、ハルヒコの要望を切り捨てる志緒さん。

 正直驚いた。もっと話をするものかと思ったから。

 

「お前には、お前のなるべき姿がもっとあんだろ」

「え?」

「俺みたいになるのは、いつでもなれる。けどそれは、もっと色々なことに挑戦してみてからでいいんじゃねえか?」

「……でも」

 

 話し合いが開始して早々、志緒さんはハルヒコを突き放しているように見えた。

 その理由は、正直分からない。

 おそらく志緒さんにも何か、考えがあるのだろう。

 けれども、それはあまりにも、早すぎるように思えた。

 

「目指す目指さないを決めるのは、もっと知ってからでいいんじゃないか、お互いに」

「ん?」

「ハルヒコだって、志緒さんの知らない所がいっぱいあると思います。当然志緒さんだって、ハルヒコのことはあまり知らないでしょう?」

「まあ、そうだが」

「ハルヒコにとってもしかしたら、志緒さんを目指すうえで得るものが大きなプラスになるかもしれない。逆もしかりだけれども、とにかく距離を取るのは、そこを見極めてからでも良いんじゃないか?」

 

 そもそもが、不良になりたいという目標を、志緒さんのようになりたいというプラスに持っていけるような出会いだったのだ。

 なら、まだまだお互いが関わりあうことで得することがあるかもしれない。

 

「オ、オレからもお願いするっス! このままじゃ納得できねえって言うか……お願いしやす!」

「……」

 

 頭を下げるハルヒコの姿に、志緒さんは考え込む。

 だけれど、場所が幸いしたのかもしれない。店内であまりにも注目を集め過ぎたようで、視線を感じた志緒さんは、仕方ねえなと首を縦に振った。

 

「取り敢えず、今日のところは帰ってくれねえか。俺も少し、考える時間が欲しい」

「う、うっス!」

「と、岸波は残ってくれ。話したいことがある」

「……分かった」

 

 なんだろうか。まあ今回のことだろうけれども。

 取り敢えず、会計だけ済ませて、店から去っていくハルヒコを見送る。

 

「さて」

 

 ハルヒコの姿が見えなくなった後、腕を組んだ志緒さんが、こちらを細目で見ていた。

 

「どういうつもりだ、岸波」

「何が?」

「惚けるんじゃねえ。さっきのだ」

 

 惚けているわけではないのだけれど。

 

「何をそこまで怒っているのかが、正直分かっていないんだけれど」

「……言ったら何だが、俺はお前や時坂のような、まっとうな道を歩いてきた人間じゃねえ。今は確かにこうして前を向けちゃいるが、誰かの憧れになろうなんてのは」

「できない、と?」

 

 志緒さんは口を閉じる。

 何を躊躇っているのかは、ここまで聞いても正直よく分からない。

 

「昔のことは関係なくないか?」

「ハッ。その過去が人を形作るんだろうが。過去を隠して人と向き合えるかよ」

「隠す必要もないと思うけれど。だいたい、今は前を向いていて、その前向きな志緒さんにハルヒコは憧れたんだろう? なら、問題ないじゃないか」

「助ける姿に憧れたっていうなら、あれは“力で解決した俺”だ。確かに力を振るってアイツを助けられはしたが、内容は誉められたものじゃねえ。時坂が居なきゃ解決できなかっただろうし、お前や北都だったらもっと上手くやったんじゃねえか」

 

 頑なだな。

 ……なんて返そうか。

 

 

──Select──

 >助けたのは志緒さんだ。

  随分と弱腰だな。

  BLAZEの後輩たちにもそう言うのか?

───────

 

 

「ああそうだな。俺が、俺と時坂で助けた。だが──」

「『人をただ救って終わるのは物語の中だけです』」

「……あ?」

「『意図して誰かを助けるのであれば、中途半端で放り出すのは救わないのと同様に質が悪いと心得てください』だそうだ」

「どういう意味だ」

「自分が以前言われたことだが、あえてそのまま言うと、『危機から救っただけで満足、なんてしていませんよね?』 っていうことだ」

 

 あれは、杜宮に来て最初の頃。

 初めて異界に関わり、璃音を助けることに成功した後のことだ。

 根本的な解決をせずに、危機的状況から救い出すだけ救い出してはいさようならとはいかないと、美月に窘められた。

 

「自分からしてみると、今の志緒さんは救った責任から逃げているだけのように見える」

「……」

「救われた人が救ってくれた人に憧れを抱くのは、おかしなことではないだろう。それをまともに取り合わずあしらうだなんて、どんな理由があれど、あまりにも無責任とは言えないか?」

「そいつは……そうだな」

 

 ようやく、志緒さんが話を聞き入れ始めてくれた。

 美月の言葉は、やはり凄いな。的確だ。

 

「救った人間の責任か。確かに、ここで投げ出すのは道理が通らねえ」

「じゃあ」

「ああ。俺に何ができるとは思わねえが、また少し話をしてみるか」

 

 そう言って志緒さんは、またこちらを見る。

 

「その時は岸波も来てくれるか?」

「2人が良いのであれば、喜んで」

 

 引き合わせたのは自分だし、それもまた責任だろうから。

 と、次の約束を交わしたところで、そろそろ帰ることにする。

 結構長居してしまったな、と、志緒さんに今日の感謝と別れを告げると、彼が自分を引き留めた。

 

「ああ、そうだ岸波。1つ、礼を言い忘れていた」

「? 礼って?」

「あの後輩に、俺に一番見習うべきは優しさだって言ってくれたらしいじゃねえか。オヤっさんはともかく、奥さんが喜んでくれていたからな」

 

 ただ本心を話しただけなのだけれど。

 ともあれ、志緒さんのお義母さんがそれを聞いて喜び、喜んでいる姿を見て志緒さんが嬉しくなったというのであれば、誰にとっても良かったのか。

 だとしたら、うん。とてもいい話だ。

 

「どういたしまして」

「じゃあ、またな」

「ああ、また」

 

 改めて、家に帰るとしよう。

 




 

 コミュ・皇帝“高幡 志緒”のレベルが7に上がった。


────

 物語の進行上で選んだ選択肢と、個人的に選びたかったものが違ったので、珍しく選択肢回収します。

────
205-2-3。
──Select──
  助けたのは志緒さんだ。
  随分と弱腰だな。
 >BLAZEの後輩たちにもそう言うのか?
───────

「あ?」
「志緒さんを慕っているのは、彼だけじゃない。BLAZEの人たちも、自分たちだってそうだ。自分たちも、そうやって突き放すのか?」
「いや、それは……BLAZEもお前らも、仲間でありダチだ。そんなことしねえ」
「なら、仲間じゃないからハルヒコのことは軽く扱うと? それは、昔に明日香と志緒さんが揉めた際とどう違うんだ?」
「そ、れは……」

 若干の差異はあれど、状況は似ている。
 あの時は「救う対象が家族なら良いけれど、ただの後輩を助けるのに私たちに命を懸けろと?」という明日香と、「大切な人の価値に優劣をつけるべきではない」といったこちら側との戦いだった。
 あの時の解決策も、結果論頼りだったはず。

 今回は「敬ってくれるのが仲間なら良いけれど、ただの後輩であればそれを許さない」という志緒さんに、「敬ってくれる人に優劣はない」と自分が反論している形だ。
 状況が似ていないとは、言い切れないと思う。
 命がかかっていたりはしないけれど、逆に命をかける状況でも、まずはやってみてから考えようという結論になったのだ。
 じゃあ今回も、それで良いはずではないか。

「……確かにあの時、我が儘を通してもらった俺が、協力してくれたお前に対して、これを言うのはあまりにも、道理が通らねえな」
 以下合流。


 →♪0です。半ば脅しでは?


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