PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 閲覧ありがとうございます。


 星コミュ 前回までのあらすじ

 
 今でも璃音を心配し、戻ってこられるように手を尽くす彼女。周囲を巻き込み、他人の想いも背負う彼女の生き方は、何かに支えられているものなのだろうか。それを聞き出せるほど、自分たちの縁はまだ深まっていない。


10月28日──【部室】怜香の心得

 

 

 

 日曜日。

 今日は本来、学校が休みで開いていないはずだったが、有志の生徒たちのみ登校し、文化祭に向けた作業ができるようになっていた。

 とはいえ、自分たちはまだ作業を開始していない。

 正確には、自分、洸、明日香の3人を除けば他は全員各々の仕事に従事しているわけだけれども。ちなみに部室に集まっているので、会話には混じっていないけれども祐騎も近くにいる。

 

「……え、かなりヤバい感じ?」

 

 璃音に呼び出した経緯を話してみると、目を丸くした。

 それはそうだよな、と思う。

 

「ああ。正直」

「タイミングがタイミングなだけにな」

 

 事の発端は、あの霧が出た日。

 明日香の行方が途絶えた日のやり取りだった。

 

 レンガ小路へと向かう洸に、情報収集をお願いした結果、彼はアンティークショップの女主人であるユキノさんから、情報を買った。

 その対価として示されたのが、自分の時間──もとい労働。

 別にその交渉自体は、大した問題じゃない。相手が求めていた条件が自分だったというのであれば、それを対価として差し出すことになんの問題も……まあない。切羽詰まっていたのは本当だし。

 

 問題はその内容だった。

 その内容が明かされたのが、小旅行の少し前くらいだったはずだから、だいたい今月の頭頃。

 あの時、確かに洸の口から聞いたはずだったのだ。

 “10月30日と31日は無償労働の日”であると。

 つまりは、月末。文化祭直前だ。

 

 ただでさえぎりぎりな工程の中、2日間も拘束されるのは色々とまずい。

 という旨を、今朝洸と急いで話し合った。

 そこから、洸とユキノさんの間で交渉が開始。

 なんとか纏まったというので、この場が設けられることになった。

 

「で、なんであたしを呼んだの?」

 

 ここまでの経緯に、璃音は出てこない。

 大事なのは、ここからだ。

 

「交渉の結果、とある条件を飲めば、30日の手伝いはなし。31日のイベントに一個出るだけで良いということになったんだが」

「ふんふん」

「その条件が……ハクノとリオンの参加なんだ」

「あたし? ゴメンだけど、あたしの名前を使ったりは」

「いや、そうじゃない。そうじゃねえんだ……」

 

 言い淀む洸。

 代わりに自分が言おうか。

 

「璃音の名前は使わないし、璃音が璃音としてアピールをする必要はない」

「……それ、あたしである必要性ある?」

「ユキノさんが誘うからには、理由があるんだろう。とにかく、璃音に出てほしいのは──」

 

 そして、自分も出なければいけないイベントは。

 

「──男女逆転ショーだ」

 

 空気の固まる音がした。

 

 

 

「ン?」

「璃音には璃音だと分からないレベルで男装してもらって、ショーに出てもらうことになる」

「え、ちょっとマッテ、どーゆーこと?」

 

 以前、璃音の変装について、いっそのこと男装した方がいいのではないかと言ったことがある。まさかそれが現実になるとは思わなかった。

 ……というより、あの話題が出たは確か、アンティークショップ【ルクルト】に向かう道中のことだったし、何かしらの拍子にユキノさんの耳に入ったのかもしれない。

 

「てか、キミも出るってことは、女装するんだよ? イイの?」

「何事も経験かなって」

「前向き過ぎ……!」

 

 いやまあ、思い出にはなるだろう。

 それに……まあ言わないけれども、璃音とこういうことができる機会というのも、彼女が休止中の今だけだろうから。

 できることは、一緒にやっておきたいと思うのだ。

 

「けど、流石に事務所の許可が下りないと思う」

「……まあそうか」

「……」

「どうしたんだ、洸」

「いや、事務所の許可が必要なのは分かるし、その許可自体が難しいのは分かってるつもりなんだが……ユキノさんがその辺に手を打たずにこんな条件持ってくるか? って」

「「たしかに」」

 

 顔を見合わせる。

 洸と自分で璃音をじっと見つめると、彼女はやがて、ため息を吐いた。

 

「はぁ……ダメでも文句言わないでね!」

「当たって砕けろだな」

「砕けちゃ駄目だろ」

 

 それはそうだ。

 

 サイフォンを持って外に出る璃音。

 彼女が話している間、祐騎の進捗を2人で覗き見ることに。

 

「ちょっと、そんなに見られるとイライラするんだけど」

「まあまあ」

「そんな真後ろで覗き込まないでくれる? 気が散るんだけど」

「まあまあ」

「なんだこのセンパイ達……ウザ……」

「「まあまあ」」

「……仕事増やすよ」

「「すみませんでした」」

 

 指揮官に歯向かってはいけないことを学んだ。

 

 そんな感じで、祐騎の仕事を応援しつつ見守っていると、やがて璃音が帰ってきた。

 扉を開けて入ってきた彼女の表情は……若干唖然としている?

 

「どうした、璃音」

「許可、出ちゃった……」

「え」

「ぜひ出てくれって」

 

 いまだにサイフォンを手に握ったまま、彼女は席に着きなおした。

 洸と自分で、その体面に座る。祐騎は定位置についたまま、仕事を続けるらしい。

 

「なんか、SPiKAのみんなもお祭りに参加してるだって」

「そうなのか。璃音は知らなかったのか?」

「元々サプライズだったみたいだし、それにあたしが最近文化祭の準備で忙しくしていたの知ってたみたいで、言うに言えなかったみたい」

「なるほど、それでユキノさんは……」

「かもしれないな」

「さらっとシークレットゲストの中身を知っているのは流石だケド……うわぁ」

 

 頭を抱える璃音。

 まさか許可が下りるとは思わなかったのだろう。

 なにはともあれ、自分も彼女もこれで断る理由はなくなったわけだ。

 

「よし、やろう。璃音」

「……~~っ。よしっ! やろっ!!」

 

 覚悟は決まったみたいだ。

 ……まあでも取り敢えず、3日後を空けるためにも仕事を増やして頑張らないと。

 

 

 

──夜──

 

 

────>【マイルーム】。

 

 

 皆に事情をなんとなく説明し、仕事をある程度割り増しで振ってもらった日の夜。

 若干疲労があったので、外に出るのは控えようかと思っていたけれども、唐突にサイフォンが鳴動した。

 

「…怜香か」

 

 表示された名前は、如月 怜香。璃音の同僚だ。

 この前、チケットを突き返してしまって以来か。

 どうしたのだろう。

 

『ちょうど近くを通るから、暇だったら声を掛けて』

 

 ……まあ、暇だ。

 気分転換に話に行こうか。

 

『自分も暇だから話せると嬉しい』

『じゃあ、いつもの場所にいるから』

 

 いつもの場所、というやり取りが少し嬉しい。

 自分と彼女の縁を示す場所があるということだから。

 ……行くか。

 

 

────>杜宮記念公園【マンション前】。

 

 

「こんばんは。良い夜ね」

「こんばんは。過ごしやすい気温だな」

 

 すっかり秋になってきて、残暑は抜け始めていた。

 夏とは違い、彼女の変装にも気合が入っているというか重装備だ。

 もともと璃音とは違い、最初から彼女と気づいていなければ気づけないレベルではあったけれども、夏の暑さを超えて色々と身に着けられるアイテムが増えたことから、一層磨きがかかっているようにも見える。

 

「怜香ってその変装でバレたこととかあるのか?」

「今のところはないと思うけど……黙って泳がされているだけかもしれないわね」

「泳がされている?」

「今の状況で何か記事を挙げたとしても、得られるメリットは少ないでしょう。もっと私たちが大きくなった時に、特大の記事をぶつける気じゃないかしら」

「……怖いな」

「まあ知らないけどね。あくまで私がその意識を持って行動しているというだけだから」

 

 それがプロ意識ということだろうか。

 流石だ。

 彼女と話すたびに、アイドルって凄いなと思う。

 璃音が身近に感じるアイドルなら、怜香はテレビ等で応援する憧れるアイドルといったところか。

 

「じゃあここで男と2人で話しているのは良いのか?」

「下心でもあるの?」

 

 ……ないけれども、ここではっきりと断るのはどうなんだろうか。

 

 

──Select──

 >ない。

  実は……

  ある。

──────

 

 

「……はっきり断言されるのは少しモヤっとするけど、貴方のその物事をハッキリ言う所、結構好みよ」

「自分も、感情をダイレクトに伝えてくれるところは好きだ」

「人としてね」

「ああ。友達として」

 

 何かを隠されるより、断然分かりやすい。

 なんというか、彼女はとても自分に正直に生きている気がする。

 生き方に自信を持っているというか。

 だから、あんなにも輝いて見えるのだろう。

 ……SPiKA、か。

 

「璃音と怜香って、結構付き合い長いんだっけか」

「よく知ってるわね」

「実はそれなりに追ってる」

「ああ、ファンって言ってたわね」

「璃音と会ってからだから、歴自体は浅いけれども」

「時間は関係ないわ。応援してくれる気持ちが、何よりも嬉しいのよ」

 

 そういうものなのだろうか。

 いや、なるほど。

 自分たちに重ねていいものかは分からないけれども、異界攻略についてだって、力を貸してくれること自体がとても嬉しい。そこに対して、もっと早くから手伝ってほしいなどとは思わないし、もっと早く目覚めてくれればとも思わない。

 というより、思いたくないというのが、正直な所か。

 だってそれは、何かに対しての不満を、責任を、他者に押し付けてしまう行為だと思うから。

 

「自分で言うのも何だけれど、応援してくれるって、嬉しいよな」

「ええ、それはそうよ。特にアイドルという存在は顕著だわ」

 

 腕を組みながら、彼女は答える。

 

「星がどれだけ輝いていても、観測してくれる人がいないなら、その輝きは届いていないことになるわ。どんなに綺麗な星空だって、見上げてくれなければ気づかれることはない。例えそれが一等星(SPiKA)でもね」

「……」

「だから、私はいつでも完璧を目指すのよ」

 

 完璧、か。

 そしてそれを目指せる仲間が、SPiKAということなのだろう。

 璃音も陽菜も、それぞれ人柄は違うが、お互いを大切に想い、切磋琢磨しているのが、見ていても分かる。

 

「って、なんか仕事の話をしちゃってるわね」

「いや、聞けて良かった。自分も色々と気づかされるしな」

「……私ばかり話しているから、貴方の話も聞いてみたいわね」

「なんでも聞いてくれ」

「それじゃあまず……趣味は?」

 

 趣味。

 今となってはたくさんあるけれども、強いて言うなら、なんだろうか。

 

 

──Select──

  アルバイト。

  勉強。

 >ゲーム。

──────

 

 

「どういうゲームをやるの?」

「基本的にゲームセンターとかにあるゲーム機で遊ぶことが多いな。家庭用ゲームもやるけれども」

「!! もしかして、“GATE OF AVALON”はやってるのかしら?」

「ああ。結構よくやるな」

 

 自分が答えると、彼女は目を輝かせた。

 “GATE OF AVALON”。戦略性を持ったカードゲームだ。

 

「ぜひ今度やりましょう!」

「え、怜香もやってるのか?」

「ええ。自慢じゃないけど、負けない程度にはやり込んでいるわ」

「じゃあ、今度やろう」

「絶対に負けないわよ」

 

 怜香は燃えている。

 楽しみだ。自分もカードバトル系は勝率が高い方だし、少し仕上げておこう。

 

「っと、話しすぎちゃったかしら」

「結構話したな」

「フフ、最初は璃音の学校の様子を聞きたいだけだったのに、すっかり普通の友人として落ち着いてしまったわね」

「問題ないだろう」

「ええ。勿論」

 

 にっこりと微笑む怜香。

 また一層彼女との縁が深まった気がする。

 

 呼び出したタクシーを待つ間も雑談を続け、やがて去っていく彼女を見送り、自分もマイルームへと帰った。

 




 

 コミュ・星“アイドルの少女”のレベルが5に上がった。


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