閲覧ありがとうございます。
遅くなってしまい申し訳ありません。単純に難産でした。
8月に入って、毎週水曜日に時間が取れそうになったので、まずは毎週1回更新を目指して活動していきます。
できなかったらすみません。
女教皇コミュ 前回までのあらすじ。
以前に比べて仲が良くなってきたように見える明日香だが、どうやら本人の中には譲れない1線があるらしい。
個人的には気にするほどのことでもないと思うのだけれど……なんとかできないだろうか。
土曜日。
自分たち杜宮高校生にとっては、待望の連休だ。今日は午前授業もなく、文化祭の準備に全力を出せる機会。
文化祭は来週金曜からなので、実質最後の連休にはなる。平日4日間あるので、まだまだやろうと思えば支度はできるけれども。
ということで、活気あふれる校内を駆け回る。
自分たちは正直、ほかの部活に対し出遅れているので、どれだけ駆け回っても時間が足りなく感じてしまう。
一仕事終えて部室へ戻ったが、休んでいる暇はない。
「祐騎! 進捗は!?」
「3~4割ってところかな。今日1日頑張って7割くらいまでもっていきたいね」
「指示とかは任せた。次はどこに行けばいい?」
「今のところ高幡センパイのとこと久我山センパイのとこが人足りないかも。高幡センパイの方は郁島が近いから終わり次第そのままヘルプ入ってもらう予定だし、ハクノセンパイは久我山センパイの方に行ってくれる?」
「璃音は……グラウンドか。分かった」
指令室と化している部室から出て、また走り出す。
人の動きについては祐騎に任せておけば良い。というか、任せておくしかない。全体を把握しながら動く余裕は残念ながらなかった。
祐騎が指揮に専念してくれるおかげで全員効率よく動けているから、本当に感謝しかない。
「璃音!」
「あれ、そっち終わったの?」
「ああ。手伝いに来た」
「アリガト! 助かる!!」
そんなこんなで、今日は1日走り回ってばかりだった。
……途中、璃音から不自然に視線を感じたのは、何だったのだろう。
──夜──
────>カフェ【壱七珈琲店】。
「明日香の親って、どんな人たちだったんだ?」
「どうしたの、急に」
放課後。
明日香のバイト先を訪ねた自分は、兼ねてより気になっていたことを聞いてみることにした。
カフェでする話ではないような気がしなくもないけれど、周りに人がいないことと、マスターであるヤマオカさんもいるし、いい機会かと思ったのだ。
「いや、昔の明日香が戦う覚悟をするほどに、大好きな親だったんだろう?」
「それは、そうだけれど……言う必要あるかしら?」
「ない。単純に、仲間の昔話を聞きたいだけだ」
明日香が話す過去となると、留学時代のことが多い。
ステイツの経験といって彼女が話す内容も、いろいろと知らないことが多くて面白いけれども、それとは別に彼女の根幹たる部分を知りたいと思っていたのだ。
あとはまあ、親とか、家族とかの話は色々聞くだけで楽しいし。自分がまったく知り得ないことだから、余計に。
気を使わせたくはないので、言わないけれども。
「まあ別に隠している訳でもないし、話すこと自体は構わないけれども……正直、語れるほどの思い出はないわ」
「そうなのか?」
「戦う覚悟を決めた当時ならいざ知らず、今からしてみれば10年以上前のことだから。まったく覚えていない訳ではないけれど、鮮明な思い出なんてほとんど残っていないわよ」
そういうものか。
まあでも、それはそうだろう。いくら大切な思い出とはいえ、薄れるものは薄れる。
……けれどもそれは、辛くないのだろうか。
──Select──
>歯がゆくなることは?
親が恋しくなることは?
それでも戦う理由は変わらなかったのか?
──────
「思い出せないことを言うのであれば、貴方の方が大概じゃないかしら」
「いや、最初からないのと失うのでは話が違うだろう」
「どうなのかしら。……いえ、そうかもしれないわね」
腕を組んだまま目を閉じて、納得したように呟く彼女。
まあ自分だって、思うことがないわけではない。けれども、後ろを向くより前を向いた方が建設的だと思うし、その切り替えは恐らく自分の方が簡単だ。
「思い出せないことで歯がゆくなること……は、あまりないかしら。そもそも普段であれば、思い出そうとすること自体が少ないから」
「あまり気にしていないのか?」
「ええ。……まあ、流石に四宮君の一件の時とかは考えたけれども」
ああ。
祐騎の時は確かに、父親と祐騎のすれ違いとか、姉である葵さんの家族に対する愛情が色々と絡み合っていて、家族の在り方を考えさせられた。
あれがなければ、自分もそこまで家族というものを考えなかったかもしれない。
「自分も祐騎の一件で、自分の親ってどんな人だったんだろうって考えたな」
「みんな、それぞれの家族のことを考えるでしょう。私も……そうね、父と母が私をきちんと想っていてくれたことを思い出したわ」
初めて、彼女からその両親についての印象が零れてきた。
「朧げだけれども、記憶には残っているの。両親ともに異界の研究をしていたし、共働きだったからあまり家に長く居た記憶もないけれど、記憶の中にいる姿では、2人が常に揃っていたから。きっと少ない休みを合わせて取ってくれたりして、しっかりと私に向き合っていてくれたんでしょうね」
「いい両親だな」
「ええ。好き……だったわ。とても。当時はまだどんな仕事をしているかとか、詳しいことまでは分からなかったけれども、間違いなく両親は、私の誇りだった」
噛みしめるように語る彼女。
本当に、大切なものを語っているのが分かる。
……やはり、親を大切に思う気持ちは大きいのだろう。何だかんだ言いつつも、気持ちが溢れているから。
「異界の関係者なのは知っていたけれど、研究者だったのか。ソウルデヴァイスは引き継いだものって聞いていたし、ご両親も戦っていた人なのかと思ってた」
「後から聞いた話では、適格者としても活動はしていたらしいわね。本職が研究職だっただけで。……だからこそ、東亰冥災で命を落としてしまったのかもしれないけれど」
「あ……」
そう、か。常に前線で戦い続けていたわけではない人たちが、激戦に身を投じれば、普段から戦い続けている人たちに比べれば多少の遅れを取ることも、まああるだろう。
もちろんそれだけが理由では決してないはず。すべては想像だ。その現場を見ていた訳でもない自分は、状況を推し量ることはできない。
「小さかった私が悲しみをぶつけられる相手なんて、それこそ目の前のシャドウにしかなかった。私の中には基本的に、シャドウに対する憎悪がある。みんなと違ってね」
みんなと違って。
明日香はよくそう言う。
復讐を理由に戦う私とみんなは違うのだと。
まあ確かに、自分たちは誰も復讐という名目で戦っていたりはしない。
でも。
「明日香と自分たちが違うのは、それこそ明日香のおかげだろう」
「え?」
「自分たちも一歩間違えれば、何かを失っていて、もしかしたら同じように復讐の道を選んだかもしれない。でも、そうならない方法を教えてくれたのも、色々とサポートしてくれたのは、明日香だ」
思えば彼女は常に、最悪を見据えて行動している。そこを守ってさえいれば、失うものは最小限になる、という形で。
つまりは、大切なものを取りこぼさせないように立ち回っていたということだ。
いつだって後ろに控えていて、自分たちに経験を積ませつつも、失敗しないように見守り、手伝ってくれていた。立ち回りから何まで、すべて自分や洸が彼女から学んできたことだ。
そこにどんな思惑があれど、そのお陰で自分たちは思うがままに動くことができ、届かなかったはずのところへと手を伸ばすことができたのだから。
「つまり結果的には、自分たちと明日香は同じ行動をしていると思うんだ」
「でもそれは結果だけ見ればの話よ。本質的には全然違うわ」
「本質的な話をするのであれば、そもそも全員違うだろう」
誰もが同じ気持ちで戦っているわけではない。
大事なのは、どこを向いて戦っているかだと思う。
「違う志を持っていたとしても、仲間には変わりないだろう。それに、目的が食い違っている訳でも、対立しているわけでもない」
「……けれど、誰かを助けるために戦っている貴方たちと、結果的に救えているだけの私は、やっぱり根本的に違うわ」
「……なら、付け加えればいいんじゃないか?」
「え?」
どうしても、同じ目線になれないというのであれば、どちらかが寄るしかない。
「シャドウを殲滅しつくすという志は変えずに、誰かが同じ思いをしないためにシャドウを殲滅しつくすとか、シャドウを殲滅することでこれ以上の被害を防ぐとか、そういう風に考えられるようにするとか」
「……そんなこと、できるわけないわ」
「そうか。なら、自分たちが……まずは自分が変わるとするか」
「……? どういうこと?」
どういうことかと言われても、言ったとおりだ。
どちらかが変われば解決できるかもしれなくて、明日香側が難しいというならば、自分が変わるしかないだろう。
「“目の前で起こる悲劇から目を逸らしたくない。自分に出来ることをしていきたい。”だから、悲劇を繰り返させないためにシャドウは殲滅するし、その戦いはここで終わるものじゃなくて、ずっと続ける。シャドウがいなくなるまで」
「……え」
「復讐を手伝う。この先もずっと」
自分の返事に、目を丸くした明日香。
そんなに驚くようなことだろうか。さっきから言っていると思うけれど。
「……っ。貴方、何を言っているか分かっているの?」
「勿論だ」
分かったうえでこの回答をしている。覚悟もなにもなしで話せる内容ではない。
「自分たちが失わないよう手を尽くしてくれた明日香の為であれば、自分たちは……少なくとも自分は手を貸す。それが復讐であったとしてもだ」
それもまた、恩返しだ。
いろいろと手を尽くしてくれている彼女に対する。
それに、自分の道がそれほど変わることはない。どうせ元々、このまま今回の件が解決したとしても、シャドウの存在を知らぬ存ぜぬの生活には戻れそうにない。
「これで、明日香と自分の戦う理由は、本質的に同じになったよな?」
「……結局、貴方は誰かのために戦うけれど、私は私のために戦っていることには違いないわ」
「……あれ?」
確かに。
……いやでも、そういう話だったっけ? 皆が前を向いている中で、自分だけ後ろ向きな理由で戦っているというのがそもそものすれ違いでは。
難しいな。やっぱり。
「……ふふっ」
「明日香?」
「いえ、でも……そう思ってくれている人のために戦うというのも、悪くないのかもしれないわね」
「……え?」
「じゃあ私、仕事に戻るから」
そう言って、そそくさと離れていく彼女。すぐにバックヤードへと戻ってしまった。
聞き間違えでなければ、彼女は今、変わってもいいと言ってくれたのだろうか。
「岸波さん」
少しの間、驚きの出来事を処理するのに停止していると、声を掛けられた。
マスターのヤマオカさんだ。
「あ、すみません。長話をしてしまって」
「いえ。アスカさんを気に掛けていただいて、ありがとうございます」
「礼を言われることじゃありませんよ。友人なので」
「ありがとうございます。どうかこれからも、アスカさんのことをよろしくお願いいたします」
「? それは、はい。もちろんです」
自分の答えに何かしらの満足を得たのか、微笑んで会話を終えられてしまった。
なんだったのだろうか。
……まあでも、明日香に何かしらのきっかけができたのなら、よかった。
取り敢えず、そう思うことにして、今日は帰ろう。
コミュ・女教皇“柊 明日香”のレベルが8に上がった。