PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

202 / 213
 

 閲覧ありがとうございます。


 皇帝コミュ 前回までのあらすじ

 抱えていた問題は、洸の尽力もあって解決したらしい。目の前の問題に追われることがなくなったので、少し未来の話をしてみたものの、彼にはまだそのビジョンが見えていないようだ。


 


10月26日──【部室】志緒さんと後輩

 

 

「それで?」

「ん?」

「どうだったんだ、昨日の顔合わせってやつ」

「……ああ」

 

 部室で文化祭の準備をしていると、洸に聞かれた。

 昨日は会食の準備等のため、美月と一緒に部活を早抜けしている。その関係で、洸には多少事情を話していた。

 まあ、気になるのも分かる。

 けれども、何と言えば良いものか。

 

「何と言うか、想像より、あっさりしていたというか」

「あっさり?」

「ああ」

 

 実際、話したことの大半が世間話だった。

 行く前は、北都グループについてだとか、異界関連の話だとか、将来のことについてだとか、色々なことを話すものだと、若干身構えていたけれども。

 

「何と言うか…………そう、親戚の大人と子どもが話している、みたいな感じ」

「?」

「……洸は親戚の大人と仲が良かったな」

「べ、別にトワ姉のことは関係ないだろ」

 

 いや、今のは自分の例えが悪かった。

 絞りだしたとはいえ、やはりよく知りもしない家族関係などで例えるものじゃない。

 

「つまり、そこまで仲良くない大人と子どもが、無理やり話している感じってことか?」

「……いや、そういう意味でもないけれども。無理やりとかそんな強制的なこともなく」

「──中身のない会話ってことじゃないの?」

 

 突如、聞き覚えのある声が会話に割って入った。

 後ろでパソコンを操作していた、祐騎の声だ。

 

「踏み込むほどでもなく、離れるほどでもない、付かず離れずの当たり障りのない会話。取りあえず悪い印象は抱かれないようにする程度の、上っ面だけのお話合いってことでしょ」

「あ、ああ……言われてみれば確かに、そんな感じだ。よく分かったな」

「まあ、父さんと僕もそんな感じだしね」

 

 それきり、黙る祐騎。会話に助け舟を出そうとしただけらしい。

 まあ、会話の流れも知らないだろうしな。

 

「ユウキの家って、今そんな感じなのか」

「やっぱり、本人から聞くのと第三者から聞くのは、違うな」

「……なにその周りから聞くって」

「いや、葵さんは話し合いのたびに嬉々として、仲良く話してたって報告が来るから」

「人の姉から家庭状況を仕入れないでくれる?」

 

 仕入れているというか、勝手に報告が来るんだよな。毎回。

 経過は気になっていたし、嬉しいけれども。

 

 まあそれは置いておくとして、だいたい祐騎が言ったことで合っている。

 何と言うか、本質を避けようとしたというか、本音が出てこなかった、というのが、昨日のすべてだ。

 結局、何がしたかったのか、ついぞ分からなかった。

 

「まあでも、悪い人ではなさそうで、安心した」

 

 話し方は、まあ若干気取っている感じはあったけれど、悪人ではない、と思う。少なくとも、自分に含みのある感情を向けてはこなかった。

 

「ハクノは……いや、なんでもねえ」

「?」

「良いから、作業に集中しようぜ。これで遅れたらユウキに何を告げ口されるか分からねえ」

 

 ちぇーっと、詰まらなさそうな声が聞こえたのは、気のせいということにしておこう。

 

 それにしても、洸は何を言おうとしたのだろうか。何にせよ、あまり膨らませて良い話題でもないのは確か。追及するべきではないだろう。

 この場で事情をしっているのは洸だけ。祐騎もいるので、御厨さんの素性についてはおいそれと語れない。そんな中で、深く話し込むわけにもいかなかった。

 …まあでも、美月自身、別に隠していることでもないのかもしれない。自分から言わずとも、聞かれたら答えていたのだろうか。

 自分たちが、踏み込もうとしなかっただけで。

 付き合いの長さだけで語るのであれば部内で一番長いのだけれど、その実彼女について知っていることは少ない。

 あまり彼女自身が語りたがらないのも、確かに1つの要因だろう。けれどもそれがすべてではない。それを理由にするのはただの言い訳だ。

 周囲から距離を取る彼女を見て、それ以上は踏み込むべきではないと、自分が躊躇っていたからだろう。

 ……文化祭期間は忙しく、放課後時間を取る暇はない。

 だから、それが終わってから、またゆっくり、彼女を知る努力を始めよう。

 改めて、友人として。

 

 

──夜──

 

 

────>【蓬莱町】。

 

 

 日が沈み、夕飯時も若干過ぎた頃。

 なんとなく外を歩きたい気分になり、歩き始めて数十分。昼間よりも若干活気のある町へと足を伸ばした。

 久しぶりに、ゲームセンターにでも行こうか。BLAZEの人たちにも挨拶したいし、と思っていた所、その直前で、妙な人影を見かける。

 

「あの、何をしてるんだ?」

「うぉ!?」

 

 後ろから声を掛けたことで、驚かせてしまったのかもしれない。

 飛び跳ねるように自分から距離を取った彼は、こちらの姿を視認して、はぁ~と息を吐いた。

 

「んだテメエ、いきなり声掛けんじゃねえ!」

「いや、すまない。見たことのある顔だったから」

「あぁ!? ……いや、オレはお前のこと知らねえんだが……まさか、ナンパか!? ソッチの気はねえぞ!!」

 

 なにやら、思いっきり警戒されてしまったらしい。

 まあ、知らないのも無理はない。見た目からして校内でも目立つ彼と、地味……いや、特徴のない……いや、普通よりな自分とでは、知名度にも差がある。

 

「2年の岸波だ。君は、1年生の子だよな」

「……なんだセンパイかよ。そうだぜ、1年のハルヒコだ」

 

 派手な髪色をした彼──は、何度か1階で見たことがあった。洸とも何度か話していた気がする。

 先輩に対しても物怖じしない態度で接していることが印象的な人物だった。

 

「で、そのセンパイが何の用だ?」

「いや、単純になにをしてるのかなって。そんな物陰で」

「……ケッ、野次馬かよ」

 

 野次馬という言葉の使い方が正しいかどうかは分からないけれども、興味本位で近づいたのは確か。

 というのも、不思議だったのだ。コソコソと隠れているのかと思えば大きく身を乗り出して何かを見ているし。尾行や逃走だったらそうはならないだろうというくらいの身体のはみ出し方だった。

 

「たくっ、仕方ねえから教えてやるよ。良いか見てみろ、向こうにいる人をな──!」

「……誰も居ないが」

「そうだろうそうだろ──あ?」

 

 弾かれたように振り向く彼だが、目当ての人物は彼にも見つけられなかったらしい。

 い、いねえ!! と悲鳴のように叫んだ。

 

「そんな……せっかく会えたのに!」

「誰が居たんだ?」

「くそ……聞いて驚け! アンタは知らないかもしれねえが、あそこに居たのは、かの名高いBLAZEって──」

「──BLAZE(オレら)がどうしたって?」

 

 横から遮るような声がした。

 見ると、黒のパーカーに焔の柄と、見覚えのある服装でビルの陰から歩いてくる恰幅の良い男性の姿が見える。

 

「ぶ、BLAZE!?」

「さっきからコソコソしてたのはテメエだな。いったい何の用だ」

「い、いや、オレは……!」

 

 さきほどまでの自分に対する勢いは消え失せていた。若干発言が尻すぼみしているような。

 ……はたから見ていると詰め寄られているように見えないこともないな。

 人目がないわけでもないし、騒ぎにならないとも限らない。

 一旦間に入ろう。

 

「こんにちは」

「あ? ……ってオマエか。久しぶりだな」

「どうも」

「へ?」

 

 後輩は気の抜けたような声を出して、自分とBLAZEの男性を交互に見ている。

 ……そういえば結局、ハルヒコは何をしているのだろうか。

 さきほどの話からするに、BLAZEの人に会いたかったようだったけれども、目の前に立つ青年の反応を見るに、顔見知りではないみたいだし。

 

「コイツ、オマエのツレか?」

「……まあ、そんなところ? 一応後輩だ」

「はっきりしねえな。で、オマエは何の用だよ」

「ここに来る理由なんて1つしかない」

「……ハッ。良いじゃねえか。ちょうど退屈してたんだ」

 

 目の前のゲームセンターを視界に入れ、彼との間に火花を散らす。

 そろそろ勝ちたいところだ。

 

「お、おい……そんな口の利き方……!」

 

 裾を引っ張り、小声でこちらを諫めてくる後輩。

 いや、そこまで怯えなくても。

 

「ん? お前ら……」

 

 どう落ち着かせようかと悩んでいると、またしても割り込んでくる声が聞こえてきた。

 振り返ると、いつもの仕事着を身にまとった志緒さんの姿が。

 

「あ」

「お疲れサマです! シオさん!!」

「た、たたたっ、高幡センパイ!?」

「おう。お前は……たしか、この前の1年か。巻き込んですまなかった」

「い、いえそんな!! むしろ助けてもらって……」

 

 ……どうやら、志緒さんとハルヒコの間には繋がりがあるらしかった。

 巻き込むとか助けるとか、只事ではなさそうだけれど……まあ、当人たちの様子を見るに、もう終わったことなのかもしれない。

 

「それで、珍しい面子で何をしてるんだ?」

「お、オレはその……ただ通りかかったところで……」

 

 嘘だ。それならあそこまでコソコソはしないだろう。

 

「オレはこの地味男を揉んでやるところっす!」

 

 志緒さんが来てから一層テンションの上がったBLAZEの男性は、拳を鳴らしながらそう言った。

 自分はどう返答しようか。

 

 

──Select──

 >挑発を買う。

  素直に答える。

  冗談を挟む。

──────

 

 

「今日こそその呼び方を撤回してもらうために勝ちに来た」

「…………ま、楽しそうなら別にいいか」

 

 何か含みを持たせた言い方をする志緒さん。

 ……まあでも、悪い感情で言っている訳ではなさそうだし、突っ込まなくても良いか。

 

「シオさんも一緒にやらねえっすか!?」

「悪いが、仕事中でな。あまり遅くまでハメを外すんじゃねえぞ」

「言われなくてもちゃんと帰しますって。な?」

「ああ。心配はいらない」

「……岸波はしっかりしているが、時たま妙に気分が乗ってることがあるからな」

「信頼しているのかしていないのか」

「大事な場面や要所要所では信頼してるぞ」

 

 そこ以外は……?

 ……いや、聞かないほうが良さそうだ。

 

「あ、あの……岸波……センパイ? は……」

「どうした急に畏まって」

「い、いやその……た、高幡センパイと! どういった関係でいらっしゃるんスか⁉」

 

 急に敬語を使いだした後輩に対する疑問はまず置いておいて。

 自分と志緒さんの関係か。

 

 

──Select──

  仲間。

 >友人。

  マブ。

──────

 

 

「友人だな」

「ハハッ。まあ、そうだな。後は同じ部活の仲間とかか」

「へ、へえ~……」

「と、悪いがそろそろ戻らなくちゃ不味い。あまり熱くなりすぎるんじゃねえぞ。またな」

「ああ、また明日」

「お疲れ様っす!!」

「お、お疲れ様ですッ!!」

 

 背を向けて去っていく志緒さんを見送る。

 さて、そろそろ決戦の場に──

 

「く~っ、やっぱカッケぇ!!」

「ハルヒコ?」

「あ、いや……」

 

 ……なるほど。

 所謂、おっかけというやつか……?

 BLAZEの人たちを遠巻きに見ていた、というのも、その一環だとすれば説明がつく。

 

「……ンすか」

「いや」

 

 ここで何かを指摘するのは、無粋なのかもしれない。

 それにしても、志緒さんは凄いな。熱心に追ってくれるようなファンがいるのだ。

 璃音のようにアイドルとして輝く姿を見せている人に応援がつくのとは、また話が違う。

 自分だって誰かに憧れることは多々あるけれども、1人を追いかけて学びを得ようと考えたことはそうない。

 確かに、志緒さんから学べることは多そうだしな。生き方とか。在り方とか。

 後輩のおかげで、また少し縁が深まりそうな気がする。

 

「良ければ、ハルヒコも来るか?」

「え⁉」

「あ? 後輩に無様な姿見せんのかよ」

「いや、観客は多いほうが良いかと」

「違いねえ。んじゃ、行くぞ地味男。とその後輩」

「は、はい!」

 

 その後、段々集まってくるBLAZEの方々と1時間ほどゲームをして遊んだ。

 かなり負け続けた。

 ……ちなみに一緒に来たハルヒコは全然初心者だったらしく、教わりながらもボコボコにされていたけれども、まあ嬉しそうだったので良いか。

 

 




 

 コミュ・皇帝“高幡 志緒”のレベルが6に上がった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。