PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 閲覧ありがとうございます。
 毎回遅くなってしまい本当に申し訳ございません。
 
 インターバル6最終話です。




10月24日──【杜宮高校】テスト明け。晴れ時々

 

 

 中間試験最終日。

 部活動の活動停止期間も終わり、各々部活動やクラスの文化祭準備に取り掛かり始めた。あっちへ行ったりこっちへ来たりと、廊下を歩いていてもいつもより校内が忙しなく感じる。禁止期間は静かだったし、その落差もあるのかもしれないけれども。

 そしてそれは他人事ではなかった。自分もせっせと働かなければいけない。

 差しあたって本日の自分に振られた仕事は、小道具の買い出しである。

 校門前へと歩いていくと、同行者たちの姿があった。自分が一番遅かったらしい。

 

「すまない。待たせた」

「いいや、十分早いだろ」

「ええ。早速行きましょうか」

 

 いろいろなものを揃えるにあたり、一番頼りになるであろう友人──洸と、割り振られた仕事を早々に終えそうだった美月を連れ、外に出る。

 外出の用事は買い出しだったので、洸を頼るだけでも良かった。しかし、それなら本来の課外活動である小規模異界の調査も並行して終わらせてしまおうと、助っ人として美月を呼んだ形だ。

 美月にはもちろん生徒会長としての仕事があるはずなので、誘って申し訳なかったけれども、当の本人は「今週中の生徒会業務は終えていて、後はわたしが居なくても大丈夫なものばかりなので」と軽々しく了承してくれた。なんでも、いつX.R.Cの活動が舞い込んできても良いように、仕事をある程度前倒しているのだとか。

 ……まあでも、頼りすぎないようにしよう。

 

「お2人は試験どうでした?」

「オレはまあ、ぼちぼちっス。ハクノは?」

「言ってはなんだけれど、完璧だったと思う」

「大きく出たな」

「手ごたえは十分だった」

「そうですか。……ふふ、杜宮に来た当初を思うと、成長しましたね、岸波くん」

 

 成長か。

 そうして認めてもらえるのは、嬉しいことだ。

 

「そういえば、美月先輩はこっちに来る前のハクノを知ってるんスよね」

「ええ。とはいっても、話したのはこっちに来てからですけれど」

「そうなのかハクノ?」

「ああ。そもそも自分は向こうを出るまで、ほとんど誰とも話していないからな。強いて言うなら、勉強を教えてくれた人くらいだ」

「……そういや、ハクノがここに来るまでどんな生活をしていたのかとか、よく知らねえんだよな」

「「…………」」

「……あー……なんだ、聞いちゃまずかったか?」

「ああいや、別にそんなことはない」

 

 正直、言うことがないくらいで。

 こちらに来てからの日々が眩しく、楽しいものばかりだったので、色の薄い昔を思い出そうとしても時間が掛かってしまう。

 ……こうして、古い記憶は整理され、薄れていくのか。少し寂しい気分になった。

 目を覚ましてまだ数年。記憶の累積は、同年代のみんなが過ごしてきたものより遥かに少ない。そんな自分でもそうなのだ。みんながどうなのかは、想像もできない。

 ……いつかはこの日々のことも、みんな忘れてしまうのだろうか。

 

「向こうにいた頃は、基本的にベッドで勉強かリハビリかだった」

「あー……まあそうか。10年近く寝てたんだもんな」

「岸波くんが日常生活の能力を取り戻すまでリハビリを行い、空いた時間で基礎知識や日常常識、時事問題などを詰め込んでもらいました」

「……それって、空いた時間は?」

「空いた時間は……勉強していたと記録にありましたね」

「ハクノ、お前……」

「いや、違う。そうじゃない」

 

 何か勘違いされていそうなので、洸の発言を遮る。

 

「単純に、その当時は本を読むくらいしかなかったし、ついでに歴史の勉強をしていたくらいで」

「何も違わないが」

「誤解のないように言っておくと、北都グループは一切強制していません。ゲームなどの娯楽用品も用意しましたが、あくまで岸波くんが歴史書を選んだというだけで」

「まあハクノだしな。てか思いのほか手厚いんスね、北都グループって」

「……まあ、前にも言いましたが正直なところ、岸波くんは私たち北都グループのなかでは“特別”なので」

 

 まあ白野だしってなんだ。別にいいけれども。

 それにしても、“特別”か。

 容疑者であり、保護対象でもある。1番相応しい名前といえば、重要参考人かもしれない。

 小旅行での話を聞いた後だと、組織の中でも自分に向けられていた思惑が様々だったことが分かった。

 恐らく北都が用意してくれていた教師やリハビリの担当者の決定などでも、当時は水面下で色々あったのかもしれない。

 ……きっと、裏から手を回して、色々といい方向に持っていってくれたのは、美月であり、そのお爺さんである征十郎さんなのだろう。

 なんでそこまで色々してくれているのかは、まだ分からないけれども。

 

 そんな会話をしつつも、買い物を進めていく。

 洸がいるお陰で、買い物の行先には困らない。加えて美月がいるお陰で買い物の段取りが上手くいっている。

 効率的に回れたお陰で、予定よりもだいぶ早く終えることができた。

 

 

「ああ、そうでした。岸波くん、時坂くん」

「ん?」

「はい?」

 

 帰り道、雑談をしながら歩いていると、急に美月が自分たちを呼び止めてきた。

 何だろうかと振り返る。

 

「文化祭は成功しそうですか?」

「まだ流石に分からないっス」

「成功させたくはあるけれどな」

 

 洸の言った通り、まだぜんぜん分からない。まだ準備を始めたばかりなのだ。

 まあでも、出た案がすべて上手くいくのであれば、それは成功と呼べるだろう。

 だから自分たちは、そこに向けて努力するだけだ。

 

「どうして急にそんなこと聞くんスか?」

「いいえ。ただ……」

「「ただ?」」

「ただ、私にとっても高幡くんにとっても、これが皆さんと一緒に行う最初で最後の学年行事になりますから。少し、柄にもなく心が踊っている、と言いますか」

 

 ……そうか。3年生にとっては、残り少ない行事か。

 次回の学園祭を終えれば、残るは卒業式のみ。

 自分たちは2月に修学旅行が、1年生たちは課外活動があるけれども、もう3年生にはない。そもそも3学期は自由登校なのだから、行事も何もない。

 そう考えると、絶対に成功させなければいけない気がしてきた。今までだって気を抜いていた訳ではないけれども、一層気が引き締まったと言うべきか。

 今出ている案も、少し揉みなおしても良いだろう。

 

「楽しい思い出にしてみせる」

「ああ。先輩たちが一生思い出せるような、そんな文化祭にするって約束するっス」

 

 美月や志緒さんだけではなく、3年生全員が良かったと思えるような文化祭を作り上げることが、後輩たちの務めだ。

 その中でも、1年生はまだ初めての文化祭。自分たち2年生や3年生の姿を見て、来年に活かしてもらうよう経験を積んでもらうことを考えると、やはり文化祭をより良いものにするのは、自分たち真ん中の学年の仕事だろう。

 

 まだ本番まで1週間ほど。挑戦するにはやや不足した残り時間のように感じるけれども、それでも意見を出し合うには十分な時間だ。

 さらにできることを話し合って、詰めていこう。

 

 

 

 

 学校の校門が見えてくる。

 そこそこ時間が掛かってしまった。まだ完全下校時間までの間で、できそうな作業があればいいけれども。

 

「そういえば、岸波君」

 

 少し小声で、自分に声を掛けてきた美月。

 内緒の話か、と少し歩くスピードを遅くし、洸との距離を話す。

 

「どうした?」

「1つ相談というか、お願いがありまして」

「珍しいな。分かった、何すれば良いんだ?」

「……あまり軽々しく了承しない方が良いですよ?」

 

 咎めるような視線を何故か向けてくる美月。

 そんな目で見られる筋合いはないはずなのだけれども。

 

「美月がわざわざ前もって、お願いするくらい大切なことなんだろう?」

「聊か信頼が重すぎる気もしますが……それでは、同じように頼めばどんな無理なお願いでも聞いてくれるんですか?」

「自分にできる範囲に収まってくれるなら、勿論」

「では、どんなお願いをするかだけ考えておきますね」

 

 まあ、二言はない。他ならぬ美月の頼みだ。

 自分にできることであれば、聞かない理由もない。

 頼ってくれるのであれば、全力で応える。

  

「それで、頼みって?」

「……その、会ってほしい人がいるんです」

「いつ? 誰かは聞いていいのか?」

「ええ。もちろん」

 

 若干申し訳なさそうな顔をしたまま、彼女は続ける。

 

「日にちは明日。都合の良い時間に合わせてくれるとのことです」

「テストも終わったし、明日なら別に空いているけれども……急だな。それで? 誰と会えば良いんだ?」

 

 自分の問いかけに少し間をおいてから、彼女は口を開いた。

 

「御厨(みくりや) 智明(ともあき)。わたしの、婚約者です」

 

 

 




 

 ちょっとそのうち、閑話を1話の前に挟むかもしれません。
 近いうち、とはおそらくいきませんが。

 次回から第7話です。
 

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