PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 ペルソナ5の演技力じゃがりこ面接(祐介と双葉)がけっこうツボに嵌まりました。




4月22日──【駅前】それは、唐突にやってきた

 

 

「──という話だ」

「ふーん」

 

 同日の夜。駅から商店街へ、玖我山 璃音と2人で歩く。

 彼女が住んでいるらしい自宅からは離れる方向だが、夕飯のおかずにもう1品とお使いを申し付けられたらしい。故にその何とかコロッケが売られている、商店街の精肉屋に向かっていた。

 それにしても、治安が悪くないとはいえ、よく一人娘に夜買い物へ行かせるものだ。

 夜道は危険んじゃないか、と尋ねたところ、返ってきた答えは、変装してるから大丈夫。

 女性の独り歩きのことを言ったのだが、職業について心配されたと思ったらしい。

 そういうことじゃない。

 まあでも、昔から過ごしてきた彼女やその家族が平然としているなら、大丈夫なことなのか。取り敢えず今日は自分が居るから良いが……同行を強制するわけにもいかないし、どうしたものか。

 

「それで?」

「……?」

「いやさ、今の話だと、異界の発生原因が2つしか説明されてないじゃん? あと1つはどうしたのカナー……って」

「……」

 

 そういえば。

 

「すまない、聞きそびれてた」

「だと思った。まあ仕方ないよね、突然同好会とか言われたら」

 

 だが、発言のタイミングを失ったとしても、美月が言うべきことを後回しにするだろうか。

 付き合いは短いが、そんな性格でないことくらい分かる。

 つまり、言う必要のないこと。もしくは言わないべきことなのか。しかしだとしたら最初から隠すはず。

 ──なら、まだ必要ではない情報と考えた方が良さそうだ。

 

「同好会、どうする?」

「あたしは参加で良いけど」

「良いのか。仕事との両立は大丈夫?」

「あれ、言ってなかったっけ」

 

 彼女は自分より少し前に出て振り返り、苦笑いしながら言う。

 

「あたし、少しの間仕事抑えることにしたの」

 

 一瞬、自分の中のすべてが止まった。

 それはつまり、自分が強引に夢を諦めさせなかったから、だろうか。

 

「あたしもあの事件の後、ミツキ先輩と色々話したの。それで、時たま引き起こされるあの“異常”が治った訳じゃないって知った。だから、少しの間だけ、ね」

「それは……」

「勘違いしないでほしいのは、少しの間ってこと。仕事は全部休むわけじゃない。ステージ以外の仕事は受けるし、レッスンだって量は減るけど受ける予定」

 

 今日はその話し合いをしに、事務所へ向かったのだと言う。

 口で言うのも、思うことさえ憚られるが、よくそんな申し出が通ったものだ。まさか正直に話した訳でもないだろうし。

 

「うん、まあ事務所の皆や仲良い人たちには心配かけちゃったけど……完全復活して、戻るまでのことだから!」

「……」

「これでもあたし、嬉しいの。まだ目標があって、夢を諦めなくて良いってことが。全部、岸波くんのお陰。本当に、アリガトね」

「……自分は、なにもしていない。進むことを決めたのは、玖我山自身だ」

「それでも! アイドルからこんなに感謝されてるんだから、有り難く受け取っておく!」

「本人に言われるとなぁ」

 

 何となく笑いあって、歩を進める。

 どこで足を止めたかは分からない。気付いたら立ち止まっていたみたいだった。

 隣に戻った彼女を見る。

 目があった。

 

「なに? ひょっとして惚れた?」

「それはない」

「ちょっと、どういうこと!?」

「言葉通り」

 

 それからは大抵こんな形で会話が続いていく。

 自分達の関係柄から、極たまに真面目な話が顔を出す、といった形でもあったが。

 きっとこの先も、こんな調子なんだろう。

 気づけば目的地である、商店街の前の通りまで来ていた。

 

「取り敢えず目下のやるべきこととしては、力の制御なんだって。あの“異常”は異界関連だから、それに対する力を付けていくことで、ある程度は発生を抑えられるかも、って先輩のとこのお医者さんが言ってた」

「じゃあ特訓あるのみだな」

「うん、任せて。努力は専売特許ってね」

 

 努力は専売特許か、良い言葉だ。

 自分もそういうものを、見つけられたら良いのだが。

 

「それで、玖我山は──」

「リオン」

「……は?」

「あたしのことは、リオンって呼んで。仲良い人はみんなそう呼ぶし」

 

──Select──

  リオン。

 >嫌だ。

──────

 

「呼んで」

 

──Select──

  ……リオン。

 >嫌だ。

──────

 

 また周囲に責められたくはない。

 一晩開けたら名前呼びになっていましたなんて、どう弁解するべきなんだ。

 

「むむ、手強いわね……」

「ありがとう」

「誉めてないわよ!」

 

 ……とはいえ真面目に、断るのも申し訳ないな。

 仕方ない。覚悟を決めよう。

 

「ふぇっ」

 

 隣を歩くリオンの肩に手を起き、引く。

 反転した身体の逆肩をもう片方の手で抑え、がっしりと両肩を固定した。

 

「ちょ──」

「璃音」

「──」

「……これで良いか?」

「──」

 

 返事がない。

 ただ、聞こえてはいるようだった。

 ポカンとしていた表情から、焦ったような表情へ、そして段々、赤みが差していき──

 

「……こ」

「こ?」

「コロッケ買ってくる!」

 

 ──逃げた。

 

 ……うん、やり過ぎたかもしれない。

 女性の独り歩き云々を語っておきながら、今の自分が一番彼女を女性扱いしていなかった。

 幸い店はもう目視できる程に近く、彼女の後ろ姿くらいは暗い中でも捉えられる。

 

 

 ──>杜宮商店街【ナカジマ精肉店前】

 

 

「思い出した。今日そういえば放課後に、キミに似た失礼な同級生と会ったの。キミに似た!」

「へぇ」

 

 わざわざ2度繰り返す辺り、遠回しに自分のことを責めているのかもしれない。

 揚げたてだよ、っと渡されたアツアツのコロッケが入った袋を代わりに持ち、彼女の愚痴らしきものを聞く。

 

「サインあげようか、って言ったら要らんって言うし、スピカの名前を出したら、ああそんな名前だったか、とか、曲は聞いたことない、だとか言うのよ」

「へぇ」

 

 確かにどこかで聞いたような反応だ。

 その人はメディアを嫌う性格だったり、もしくは自分と同じく外界に触れてこなかったタイプだったりするのだろうか。後者だとしたら話が合うかもしれない。是非とも話してみたいものだ。

 

「えーっと、名前なんだったっけなぁ、とき、トキ、時……時貞?」

「天草か」

「うん?」

「なんでもない」

 

 時貞といえば天草四郎だと思うのだが……去年の入院中に読む本が歴史系に偏り過ぎただろうか。まさか着いてきてもらえないとは。

 

 何処か少し寂しくなって、視線を前から少しずらす。

 すると、見覚えのある人影がある建物の中に見えた。

 丁度出てきたその人物の名を呼ぶ。

 

「……時坂?」

「あ、そうそう時坂クン──ってええ!?」

「ん? ああ、岸波と……えっと、確か……玖我山?」

「何で疑問系!?」

 

 時坂の名前を思い出せなかった璃音が責められることではないはずだが……黙っておこう。

 しかし何やら、困っているような素振りを時坂が見せている。

 視線は、自分と璃音を行ったり来たりしていた。

 ……確かに、夜遅くにアイドルと会っていれば、関心が薄い人でも気にはなるか。

 

「あー……悪い、邪魔したか?」

「全然。会った理由も時坂が想像するような内容じゃない。それに時坂が話題に上がった所だし、丁度良いくらいだ」

「あ? あー……昼はスマンかったな、玖我山」

「え、あ、ウン。別にちょっとしか気にしてないし」

「正直だな」

「まあこの短期間で2人目だしね。……でもどこかの1人目さんみたいにゼッタイファンにしてやるんだから!」

 

 握り拳を作って意気込む璃音。1人目と言ったときに自分の方を見たせいか、それが誰のことか、時坂にもわかったらしい。

 まあ自分も似たようなものだったんだと、軽く説明する。

 それを聞いた時坂は少し諦めたような、呆れたような笑みを浮かべつつ、口を開いた。

 

「あー、その、なんだ。期待して待ってる……っていうカンジで良いのか?」

「良いんじゃないか」

「ウン! 首を洗って待ってなさいっ!」

 

 良い笑顔だ。と思う。

 連れて自分も時坂も笑った。

 それにしても、彼女の言う2人目が数少ない知り合いの1人だったなんて、なんて確率だろう。

 どうして知らなかったのか聞いてみたいが、その前に彼がその流れを遮った。

 

「っとそうだ。わりぃ、ちょっと顔出す所があるから行くわ」

「そうか、引き留めて悪かったな」

「いや。……あ、そうだ。2人とも、あんまし噂にならねえよう気を付けろよ。ただでさえ注目の的なんだから」

「ふーん、心配してくれるんだ」

「……人気商売の玖我山はともかく、岸波はな」

「……可愛くない」

「ほっとけ」

 

 何だかんだいって、この2人も仲良くなれそう。

 こんなに軽口が叩き合えるなら、よほどすれ違わない限りは相性の良い友人になるだろう。

 ……友人の少ない自分が言える事ではなかったか。

 

「ンじゃ、また──」

「──あんたさえいなければ、こんな思いをしなくて済んだのに!」

 

「「「!?」」」

 

 怒声が響いてきた。

 通路の奥、左の方から聞こえてきたが……

 

「今の声……まさかっ!」

「ちょ、時坂クン!?」

 

 時坂が走り出す。

 焦っているのか、玖我山の声には反応しなかった。

 

 玖我山がこちらを伺う。

 その目は既に、行くことを決めた目だった。

 

「……急ごう!」

「うんっ!」

 

 

 

 

 

 ──>杜宮商店街【アパート前】

 

 

 曲がり角を左折して目に入ったのは、同じ学校の女子生徒2人の言い争いに、時坂が介入した所だった。

 近づいて様子を伺う。女子生徒は2人とも活発そうな女の子だ。ただし片方は明らかに苛立っていて、もう片方は意気消沈している。

 

「相沢、さすがに言い過ぎだ。少なくとも先輩が後輩に言っていい言葉じゃねえだろ」

 

 相沢というらしい、窘められた女子生徒が、時坂を強く睨む。

 

「……あんたにも、ソラにも、あたしの気持ちは分からないわよ!」

「あ、チアキ、先輩……」

 

 怒りを吐き捨てて女生徒は走り去る。

 呼び止めようとした女生徒は、小さくなる背に伸ばした手を、そっと下げた。

 

 静寂が残る。

 嵐が去った後のような。

 

「コウ先輩……」

 

 女生徒が口を開き、重苦しい雰囲気に発言が許された気がした。

 

「わたし……どうすれば良かったんでしょう。何で……何で!」

「ソラ……」

 

 悲痛そうに、少女を見る時坂。

 その顔は険しい。彼女の失意を見ただけで、はたしてそんな顔をするだろうか。

 まるで……“どちらの味方につくべきか分からない”、とでも言いたげな表情。

 

 そして再度、静寂が訪れる。

 再びその静寂を破るのは、言いづらそうに口を開いた時坂──ではなかった。

 

「「「──ッ」」」

 

「……え……」

 

 

 

 

 

 ──空間に突如、亀裂が走る。

 ひび割れの向こう側に見えるのは、赤くて暗い、“異界”の片鱗──

 

 

 





 ここからは週2更新。
 前書き、後書きは展開によってなくなります。テンポが大事。



 腐った大人に、じゃぁがりこっ!


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