PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 閲覧ありがとうございます。
 毎回毎回遅くなって本当に申し訳ございません。

 女教皇コミュ 前回までのあらすじ。

 霧の日をともに乗り越え、温泉を経てかなり距離を縮めたはずだが、過去に交わした会話の中でふと気になる話があり、聞いてみた白野。その話の中で明日香は、己の戦う理由は“復讐”だと語った。


10月21日──【杜宮記念公園】明日香の戦う理由 2

 

 

「なんて言うか、焦って試験対策しすぎたら今回余裕があり過ぎたって感じだ」

 

 2年生4人で集まってテスト対策の勉強をしていると、不意に洸がそんなことを言い出した。

 

「あ~わかるかも。なんか今までのテスト前ってバタバタしてたよね。あたし達」

 

 璃音の同意を聞いた後に、そうだろうか、と思い返してみる。

 確かに、いつも焦って詰め込んでいるイメージがあるな。

 

「……前回の期末は確かに救出日程とタイトだったけれど、中間が忙しかったのは、貴方たちがゴールデンウイークにアルバイトや遊び・仕事に勤しんでいたからでしょう?」

「「「……」」」

 

 そういえば、そうだった気がする。

 期間的には結構余裕があったけれど、自分と洸は特に連休の全日程をアルバイトに使ったし。

 

「ま、まあ高2の連休なんて1度しかないじゃん!? 遊んでなんぼでしょ! ウン!」

「それで自己肯定できるなら良いんじゃないかしら。若いうちの苦労は買えって言葉があるくらいだし。私はごめんだけど」

「……なんか今日の明日香、反応冷たいな」

「え、いつも通りだと思うよ?」

「ブフの使いすぎで心が凍った説」

「 は ? 」

 

 そのネタは擦ると良くないって、それこそゴールデンウィーク前後に学習したはずなんだけれどな。

 ……いや、洸も当時を思い出し、何か懐かしい気持ちになって言ったのかもしれない。あの頃とはみんな色々変わったし。

 変わってないものもあったみたいだけれど。

 

「……話を変えるが、今回の物理範囲、難しくねえか?」

「強引すぎでは?」

「いや、真面目に。今やってる問題なんだがな」

 

 どうやら本当に行き詰まったようで、彼が持っている問題集を覗き込む。

 書かれていたのは、水中に沈む物体の絵。

 水圧や浮力に関する問題らしい。

 

「中学でやった内容の発展形なのは分かるけど、式とかが入って余計に難易度があがった気がする」

「あー確かに。なんか前提条件とか多いよね」

「ちなみにその前提条件は、将来的にその前提条件ではないものを学ぶって伏線だったりするらしいわね」

「考えたくないな。……で、なんか浮力に関してイメージしやすいものってあるか?」

「氷じゃない?」

「氷?」

「ええ。まあ他にも挙げられる例はいろいろあるだろうけれど……ちなみに岸波君、なんで氷が水に浮くかは分かる?」

 

 水の上に氷が浮く理由か。

 それは、水よりも氷の方が……

 

──Select──

  冷たいから。

 >大きいから。

  軽いから。

──────

 

 

「その通りよ。水は凍ることで体積を上げ、密度を下げるわ。浮力の公式……アルキメデスの原理にもあるように、浮かべる物体の体積が上がれば、浮力は大きくなるでしょう?」

「へえ。なんで水って凍らせると大きくなるんだ?」

「簡単に説明すると、水の分子結合の形が歪……とまではないけれど、少し曲がっているらしい。凍らせることでそこが隙間になるんだとか」

「へえ、良く知ってるな。ハクノもアスカも」

「いや、なんでH2Oって斜めにOとH2つを繋いで書くんだろうなって思って、調べたんだ」

「あ! そういえば学校で習ったとき、逆Vの字とかで書いてたかも! CO2とかは横一列に書いてたのに」

「確かに。そういう理由があったのか」

 

 実際のところ、本当にそれが由来であの形の表記を習うのかは知らない。けれど、一番妥当な理由として教わったのが、それだったのだ。

 疑問に思ったあの時、ちょうど近くに居たのが化学のマトウ先生で良かった。

 

「そういえば、大気中に浮かぶものに関しても浮力は存在するけれど、根本的には同じものだと考えないほうが良いみたいね」

 

 思い出したかのように、明日香が口を開いた。

 どうして急に、と思ったけれど、そういえば話のきっかけは、浮力をイメージしやすいものは何か、という洸の質問だったか。

 

「私たちの体が浮かないのもそうだけれど、空気の密度が低すぎるというのが影響するみたいね。あとは、単純に空に浮いているもので、飛行機とかを連想すると思うけれど、速度を持つものや横軸の動きがあるものは、基本的に浮力問題には関係してこないわ」

「へえ」

 

 飛行機は浮力よりも揚力だろうし、今話題に挙げるべきではないな。確かベルヌーイの定理とか、色々あった気はするけれども、それを説明するには明らかに時間がかかるし、何より今はテスト勉強中だ。横道に逸れ過ぎるのも良くない。

 まあ何にせよ、洸の質問にはこれで回答したことになるだろう。あとは彼次第だ。

 

「璃音は疑問とかないか?」

「普通に分からないのが多い、カモ。キミは何の教科が得意とかあるの?」

「特には。強いて言えば、物理や歴史かな」

「そうなの? 文理選択で迷いそう」

「得意不得意で決めるわけじゃないから、そこで迷いはしない」

「そっか」

 

 まあ、将来の目標とかの面ではまだ迷ってはいるけれど。

 みんなは、そこらへんどうなんだろう。

 

 

 その後も集中して取り組むことができた。

 

 

──夜──

 

 

「それで、話って何かしら」

 

 どうしても話したいことがあり、一度解散した後、再度明日香にだけ時間をもらえないかとお願いした。

 聞くべきことの準備はすでに整っていて、かつ今の自分は“怖いものなし”。

 臆すことなく、踏み込むことができる。

 

「この前の話の続きがしたいと思って」

「この前って……ああ、話すことは、特にないのだけれど」

 

 ずっと頭に残っていた、彼女の戦う理由。復讐という、背負ったもの。

 それに、ソウルデヴァイスの謎。

 自分が調べていることが明日香に伝わらないように、美月の伝手(ゾディアック)のみを使いながらの調査なので、若干時間が掛かってしまったけれど。

 

「両親の敵を取るって言ってたよな。それで、その為の剣を鈍らせるのが嫌だと」

「……ええ」

「少し、その話で疑問に思うことがあってな。質問に答えてもらえないか?」

「……答えるかどうかはわからないけれど、どうぞ」

 

 それは、そうだ。

 彼女にとっては、話したくない話題だろう。だから今まで、自分たちに出さなかった。

 それでも、仲間として知っておくべきことがある。

 ……どうやって聞こうか。

 

 

──Select──

 >直球で。

  間接的に。

  まずはほかの話から。

──────

 

 

 回りくどいのは止そう。

 彼女とは比べ物にならないけれど、お互い色々と忙しい身だ。

 

「実際、仲間の存在は、明日香にとって重荷だったか?」

「それはそうだけど?」

 

 ……思いのほか、直球で断言された。

 

「岸波君も時坂君も、ほいほい首を突っ込むし。ペットを拾うかのように仲間を増やしていく。守るこちらの身にもなって欲しかったわ」

「……いや、ほんと、苦労をかけた……」

「特に高幡先輩の件は、冗談抜きで袂を分かつか悩んだわ」

 

 確かに、本当に怒っていたしな。

 全然しゃべらないし、最後の最後まで険悪な雰囲気が抜けなかった。

 あの時は自分たちも視野が狭くなっていたし、それこそ、璃音たちが居なければもっと纏まらなかったかもしれない。

 正直なところ、あの後で美月と明日香の所属の話もあり、組織関係とか色々考えた際、結局何かが起こったら監督者の明日香が責任を取ることになっていたらしく、本当に申し訳ないことをしたと思う。

 ……まあ、しかし、とはいえ、知っていたとしても取る手段は変えられなかったかもしれないけれど。

 結果論にはなるけれど、ああして志緒さんを連れて行ったからこそ、事態は好転しているし。

 

「けどまあ、今となっては、悪くないとは思っているわ」

「……そうか」

「そう。……前の私だったら、悪くないと思うことを、一番恐れたのでしょうね」

 

 そう言って、彼女は目を伏せた。

 少しの間、沈黙が続く。

 

 彼女の中で、明確に何かが変わったのだろう。それを引き起こしたのはおそらく璃音で、洸で、自分たちだ。

 

「最初は復讐の為だけだった。私は異国の地で1人、目の前のシャドウのみを倒し続けていたの。と言ってもステイツではそもそもそんなに大事件に遭遇することもなかったけれどね。そんな生活が2年続いたころだったわ。今の組織の人たちに出会ったのは」

「例の、シャドウワーカーだったか?」

「ええ。出会ったのは本当に偶然。私が長期休暇でステイツからこっちへ戻ってきた時に、当時学生で活動中だった先輩たちに出会ったの。そして、私は見せつけられたわ」

「何を?」

「仲間と共に困難に……恐怖に立ち向かう姿を」

 

 サクラ迷宮攻略時、彼女は自身のことを根性論者だと称した。

 先輩たちの姿を見て、そうなったのだとも。

 何かを思い出すかのように斜め上を向き、それでいて眩しいものを見るかのように細目になった彼女。

 きっと、よほど輝いた背中を見せつけられてきたのだろう。想像することは難しいが、彼女の大きな憧れなのかもしれない。

 

「正直なところ、ハクノがワイルド能力者だと知ったとき、一瞬だけ、あの日見た先輩たちと同じようなことができるのかも、って思ったわ。そしてそれを、すぐに否定した」

「どうして否定したんだ?」

「私のくだらない憧れのために、誰かを危険に晒せと? そんなことを企てる人間は、仲間なんて作らずに1人で戦って孤独に死ぬべきよ」

 

 ……もしかしたら、その時明日香がそう考えたことが、彼女が頑なに仲間との距離を詰めなかった理由の1つなのかもしれない。

 そこにあの日の璃音が、もっと自分たちに気持ちを押し付けろ、望みを好きにぶつけてこい、と訴えかけたことで、殻が破られた。とか。

 

「だから私は、まず復讐を完遂することを再度念頭に置きなおして、目的の遂行のために、貴方に経験を積ませようと思った」

「……? え、なぜ自分に?」

「良くも悪くも、貴方の周囲に大きな事件が起こるわ。それが、タイプ・ワイルドの宿命のようなもの。つまりその隣に居られれば、よりシャドウを効率的に殲滅できる機会が訪れ、かつ鍛えておけば目を離しても死ぬようなことは考えづらいから」

 

 ああ、それで。

 他者を巻き込むことに否定的だった明日香が、どうして自分と璃音の時は強く言ってこなかったのか、その答えが明かされた。

 死なない囮、ということだろう。

 

「まあ結局、何も思う通りにいかなかったわけだけれど。今の私は……見ての通りだし、皆だってしっかり、大切な仲間だと思えているわ」

「色々と、いい方向に転がってくれたんだな」

「ええ、本当に。皆には正直頭が上がらない気持ちもあるの。あそこまで冷徹だった私の手を、諦めずに取ってくれたのだから。……特にその、同学年の3人にね」

「いや、感謝をするべきはこちらだ。どんな思惑があれど、自分たちは明日香のお陰で強くなれて、仲良くなれた。見守ってくれて、見放さないでくれて、ありがとう」

「「……」」

 

 ……なんか、変な空気になってしまった。

 話題を変えなければ。

 

「……と、そろそろ帰らないと」

 

 口を開こうとした所で、明日香から時間切れを知らされる。

 まだ、話していないことがあったんだけれどな。

 仕方ない。また次の機会だ。

 

「また話そう」

「……もう勘弁してほしいのだけれど」

「まあまあ」

「……はあ。1度話したことは2度話さないから、そのつもりでお願いするわ。あと、今日私が言ったことは他言無用で」

「え!?」

「え!? じゃないわよ。まあ女子会でなんとなくは言ったから、リオンたちは知っているけれど、それとこれとは話が別。いい? いつかコウたちには機会があれば自分で言うから、それまで伝えないこと」

 

 話す意思はあるらしい。

 機会があればと言っているところは、少し怪しいけれども。

 そういうことなら、良いか。

 

「……わかった」

 

 別に言いふらしたい訳でもない。

 打ち明けてくれたことを、素直に喜ぼう。

 縁も深まった気がする。

 

「それじゃあ、また」

「ああ。また明日」

 




 

 コミュ・女教皇“柊 明日香”のレベルが7に上がった。


────
 

 知識  +2。


────


 次回は7日更新予定とさせていただきく存じます。


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