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皇帝コミュ 前回までのあらすじ
恩返しに奔走していたはずの志緒さんだったが、どうやら最近は心ここにあらずの状態。なにがあったかは気になるけれども、どうやら自分に関わらせる気はないらしい。危ないことに首を突っ込んでなければいいけれども……
土曜日。
今日は登校日ではないので、一日勉強ができる。
やろう。
──夜──
かなり長い時間集中して勉強していたため、流石に疲れてきたのかもしれない。
一回、気分転換を挟もう。
さて、何をしようかな。
さすがにただの息抜きで、誰かを呼び出すのも申し訳ない。
……お腹も空いたし、ご飯を食べに行こうか。
────>商店街【蕎麦屋≪玄≫】。
もう何度か潜ったことのある暖簾の先は、いつもと変わらず人がいっぱいいた。
そこまでは予想通りだったけれど、1つ、予想外なことがあったとすれば。
「あれ、志緒さん」
「おう、岸波か。らっしゃい」
志緒さんが、普段と変わらない仕事着を着てホールに出てきたことだろうか。
「志緒さんは試験大丈夫なのか?」
「普段からやることやっておけば、定期試験なんて気にすることはねえ。それに3年生は、ほとんど一学期で範囲終わってたからな。テスト範囲もほとんどない」
「? どういうことだ?」
「範囲を前もって教え終わって、2学期は受験対策が主だったってことだ。試験も当然その延長。焦って何かするよりかは、毎日同じことを積み重ねた方が良いからな」
なるほど。
確かに、受験直前に授業を行い、何か新しいことを詰め込む、なんてことは褒められたことではないだろう。それに推薦の人たちは1部夏にはもう動かなければならないと聞く。その場合は、3年生での学習範囲をどれほど含むかは分からないけれど、それでも早く終わらせておくに越したことはないのか。
「岸波こそ、調子どうだ?」
「順調だ」
「へえ。言うじゃねえか」
今日の勉強はとても手ごたえがあったし、正直今回はかなりしっかり勉強をしている。目指せ1桁順位だ。
「……ああ、そうだ岸波。意気込んでいる試験前で悪いが、良ければ食後、時間もらえるか?」
「うん?」
あることにはある。元より気分転換を含めた外出だ。気分転換になるのであればなんでも良かったりする。
どうしようか。
──Select──
>付き合う
他に用事がある。
──────
せっかくここまで来たんだし、話をしていこう。
「志緒さんの方は、お手伝い抜けて大丈夫なのか?」
「ああ、そろそろ休憩に入れって言われてたからな」
また後で。と約束し、暖簾の奥に消えていく志緒さん。
……取りあえず、食べるものを決めてしまおう。
────
食事を済ませると、まだ着替えていなかった志緒さんが厨房から出てきた。手に持っていたのはお手製のデザート。時間を割いてもらった例と、試験へのエールらしいが、少し過剰なような気がする。
まあなんにせよ、美味しく頂いたけれども。
その後、甘味の余韻に浸っていると、私服姿の彼がフロアに現れた。
「悪いな、待たせたか」
「いや。それよりご馳走様」
「お粗末様でした。……さて、悪いが場所を変えても?」
「もちろん」
会計を済ませ、先導する彼に着いていく。
向かう先は……神社の方角か。
静かに話すには、もってこいだろう。
話す内容は検討も付かないけれど。
そうして歩くこと数分。
境内へとたどり着いた。
「まずは謝らせてくれ。……すまなかった」
開口一番、自分の方へと振り返った彼は、自分へ頭を下げる。
急にそんなことを言われても、思い当たる節がない。
「えっと、何がだ?」
「この前は、なんつうか、気が立ちすぎてたからな。態度が少し横柄だったかもしれねえ」
……そんなこと、あっただろうか。
いや、この前、少し様子がおかしな日があったな。その時のことだろうか。
「別に気にしていない。誰にだって不機嫌な日はあるよな、程度にしか思ってなかったし、気にしていないことで謝られても困る」
「……そうか」
「で、何かあったのだろうけれど、解決したのか?」
「ああ。まあ色々あってな」
確かに比べてみれば、あの時の妙な緊張感のようなものはない。
憑き物でも落ちたかのような感じだ。
「なにがあったのか軽く聞いても?」
「……簡単に言えば、過去の因縁に1つケリを付けたってとこだな」
過去の因縁。
妙に殺気立っていた志緒さん。
ということは、もしかして、BLAZE絡みか?
「1人で大丈夫だったのか?」
「いや。……まあ色々あって、時坂も巻き込んじまったが、それもあってなんとか解決できたって訳だ」
なるほど。洸が動いていたのか。志緒さんの言い方からすると偶然巻き込まれたみたいだけれども、結果的にはそれが良い方向に進んだらしい。
内容的に荒事である可能性が高いけれど、確かにここ数日、洸がケガしたという話も聞かなかったし、特に変な素振りもなかった。本当に何事もなく終わったのだろう。
「……時坂も本当は、巻き込むつもりなかったんだがな。1人でやろうとした時、アイツに言われたんだ。『“俺たちは仲間だろ!?”』って。その時、お前に言われたことを思い出してな」
「自分に?」
「ああ。『友達を心配するのは当たり前』、みたいなことを言ってくれたじゃねえか。それで急に冷静になって、確かに同じ立場だったら、オレも放っておけねえなって思った」
「熱くなりすぎるよりは、頭が回る程度には冷静でいた方が良いしな」
「違いねえ。それに何より、数が多い方が何をするにも確実だしな。そんなこんなで時坂の助けも借りたわけだ」
なるほどなるほど。それで、一段落ついた今、こうして謝られていると。
謝りたい内容は、そういうことか。自分の心配から出た申し出を、理解もせず切り捨ててしまったと謝ってくれているのかもしれない。
なるほどそういうことか。
「まあ何にしても、無事で良かった」
心の底から、彼らの無事に安堵する。
詳しい話もそのうち聞いてみたいけれど、まあ洸も一緒に居るときにでも聞いてみるか。
「正直、どこかでまだ肩肘を張ってたのかもな。お前らにもう1回付けてもらったはずの焔を、燃やしていくんじゃなく、消さないために必死になり過ぎたのかもしれねえ」
「消さないための努力だ。別に志緒さんが間違っているわけじゃない」
新しく芽生えた、もしくは取り戻したその焔をなくさないように頑張る、というのは、決して間違えなんかではない。
ただ少し維持するのが難しいことと、それよりも焔が大きくなりにくい。
結果的に、胸に宿った焔を守りたいのであれば、どちらでも良いのだと思う。
「志緒さんは、その焔をどうしたいんだ?」
「どう……?」
「何かを灯したいのか、誰かに分け与えたいのか。みんなで囲みたいのか。それを聞いてなかったなって」
その焔というものが、どういうものなのかは知っているつもりだ。
己の内側から湧き出るもの。不条理などに屈しない強さ。逃げることなく、問題に向き合っていく力。端的に言えば力強い意思のこと。
亡くなったBLAZE初代リーダーのカズマさんという方は、その焔を集め、1つの大きな焔として背負っていたらしい。その明るさを以て、みんなを導いていたのだとか。
「カズマさんと同じ道を、選ぶのか?」
「そいつは……」
自分の問いに、答えを言い淀む志緒さん。
そこら辺は、もしかしたらまだ考えていないのかもしれない。
「考えたこともなかったな。この焔をどうするか、なんて」
「……」
「カズマがいた頃は、この焔が続く限り、恥じない生き方をしていくつもりだった。それから一度、完全にオレの中の焔が燻るようになって。アキや、お前らとのやりとりでもう一度焔が付いて。それで……」
どうやら、答えは出ないようだ。
まあ、自分も人のことは言えない。志緒さんも自分も、恩返しという大きな目標があり、そこに向かって歩いている最中。
自分が言っているのは、それとはまた違う軸の話。
そう容易に答えが出るものではないだろう。
自分の、夢とか目標の話と同じだ。
「ゆっくり考えよう。幸い、まだまだ時間はあるし」
「……だな。ほかに何かすることで、見えてくることもあるかもしれねえ」
今日は一旦戻るか。と志緒さんが一度伸びをする。
色々と話せてよかった。
また、彼との縁が深くなった気がする。
そうして引き返すように歩き出した志緒さんだったが、自分の横に並んだ時、肩にコツンと拳を当ててきた。
「まあなんだ。とにかく、有り難うな」
「……」
びっくりした。
が、彼がとても良い表情なので、良しとしよう。
その後、神社前の階段を降りたところで、店に戻る彼とは別れた。
さて、今日もあと少し、勉強しなければ。
コミュ・皇帝“高幡 志緒”のレベルが5に上がった。
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知識 +2。
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次回更新は、27日を予定したいです。
よろしくお願いいたします。