PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 死神コミュ 前回までのあらすじ。

 未来のことなんて考えられないと言うフウカ先輩。昔の自分のような、どこか諦めた様子でいる彼女を放ってはおけず、彼女の友人である寺田先輩を巻き込んで、フウカ先輩に自身の将来について希望を持ってもらえるよう、活動をしていくことにした。


10月19日──【教室】フウカと将来の夢 1

 

 金曜日。テスト前最後の登校日だ。

 とはいえ、授業はいつも通りの予定で遂行していく。

 あっという間の放課後。

 今日はどうしよう。勉強できそうならしたいけれど、ここのところずっと勉強しているし、誰かと話しても良いかもしれない。

 少し、校内を回ってみようか。

 

 

────>杜宮高校【保健室】。

 

 

 やはり今日はみんな忙しいみたいで、1年生2年生ともにほとんどみんなが帰宅を選んでいた。自分もそうしようかと思う反面で、そういえば最近寄っていないなと保健室へ向かうことにする。

 すると、思いのほかフウカ先輩がベッドに腰かけていた。

 

「あれ、岸波君?」

「フウカ先輩、こんにちは」

「こんにちは。テスト勉強の調子はどう?」

「自分の感触的には順調です」

「すごいね」

「先輩は?」

「定期試験に関しては問題ないかな」

 

 そうか。先輩は3年生だし、受験もあるから、定期試験の範囲はすでに終わっているのかも。

 

 

「それで、今日はどうしたの?」

「……少し、話せませんか?」

「うん、良いよ」

 

 微笑を浮かべる彼女と過ごすことにした。

 

 

 

────

 

 

「あれからどうですか?」

「どうって、何が?」

「寺田先輩と、将来のことについて考えるって話です」

 

 前回、どうにか空手部の寺田 舞衣先輩の協力を引き出し、彼女に将来のことを考えてもらうことになった。

 それから時間もあったし、何かしら進展があったかと思ったけれども。

 

「あまり、かな。私自身、急にそんなこと言われても……」

「そう、ですよね」

 

 まあ、それもそうか。

 杜宮に着いたころの自分は、自分のことでいっぱいいっぱいだった。とてもではないけれども、未来に目を向けて何かを話すなんてできず、誰かにこうして夢を持つことの大切さを説くこともしなかったできなかっただろう。

 それをできるようになったのは、いろいろな人と話して、色々なものを知って、ようやく考えるになったのだ。

 いくらスタート地点が違うとはいえ、いきなり結果を求めるのは酷だろう。

 まずは、小さなきっかけから話を広げてみよう。

 

「寺田先輩と、どんなことを話したのか聞いてもいいですか?」

「えっと、何がしたいかから始まって、やってみたいスポーツとか、持ってみたい趣味とかの話をしてくれたかな」

「良いですね。フウカ先輩はなんて答えたんです?」

「……えっと……」

「……あー」

 

 それも難しかったのか。

 しかし、どうしてなのだろう。まったく興味を持っていないなんてことは、ないと思うけれど。

 自分には出来ない、対岸での出来事。憧れを抱くことは、できるはずだ。

 

「テレビとかを見て、いいなあと思う番組の企画とか、なかったんですか?」

「うーん…………ないかな。楽しそうだとは思うけれど、やってみたいかと聞かれると、ちょっと違いそう」

 

 以前、寺田先輩の応援に道場へと一緒に行った際、空手をやってみたいかと聞いたみた時と同じような反応だ。

 考えられるとしたら、自身の元気な姿が投影されず、想像に自分の姿が加えられないから、肯定的な感情も否定的な感情も出てこない、といった状態だろうか。

 テレビなどを見ていても、あくまでそれは他人が楽しそうにしている絵であって、自分が行っているものではないという、乖離。その差をなくせるかどうかが、課題なのかもしれない。

 それが正解かは置いておくとして、ひとまず、自分の憧れを共有してみようか。

 楽しんでいるだれかの隣にいることなら、想像が楽にできるかもしれない。それに、相手が楽しんでいれば、自然と楽しさが沸いてきてくれるかもしれないし。

 となれば、何を話そうか。

 

 

──Select──

 >行ってみたい場所。

  やってみたいこと。

  将来ほしいもの。

──────

 

 

 無難に、行ってみたい場所について話してみよう。

 場所。ある程度、彼女にもわかるような場所の必要がある。

 とすると、自分が行きたい場所の中で、どこを選ぶべきだろうか。

 

 

──Select──

 >ハワイ。

  アメリカ本土。

  エベレスト。

──────

 

 

「行きたい場所はいっぱいあるけれど、その中でも自分は、一回でもハワイに行ってみたいですね」

「どうして?」

「景色が綺麗なイメージがあるから。明るいですし」

「……そうだね。晴れている砂浜と、綺麗な海って思い浮かぶかも」

「そうなると、ただホテルとかの高いところから見下ろしているだけで、とっても綺麗だと思いません?」

「テレビとかで見たことはあるけれど、確かに綺麗だもんね」

「テレビで綺麗に感じるなら、自分でみたらもっと綺麗に見えますよ。肉眼に勝るものはないですから」

「……確かに、そうなんだろうね」

 

 

 どうやら、景色のイメージ自体はつくみたいだ。

 とすると、次は状況かな。どうしたらそこに行くのか。考えてみよう。

 ハワイと言えば……

 

 

──Select──

  やっぱり海。

  パンケーキ。

 >結婚式。

──────

 

 

「例えば、寺田先輩が結婚されるとして、その場所がハワイだったとするじゃないですか」

「……結婚式? うん」

「式場には、新郎新婦のご両親や知人友人がいっぱいいて、その中にはフウカ先輩もいるとします」

「……呼んでくれるかな?」

「呼んでってお願いして、その時まで連絡を取り続けていれば、きっと呼んでくれますよ。まあ当然、フウカ先輩にとっても集まる人は知らない人だけじゃないと思います。それこそ同じ学校の人たちや空手部の人たちも来たりして」

「マイちゃんなら、いっぱい呼べて、いっぱい来てくれるだろうね」

「はい。それで、みんな異国の地で、笑顔で2人を祝福するんです」

 

 結婚式なんて、出たことはないけれど。

 映画とか、小説とかは、そうだったから。

 

「その式場の外には、外国人たちがいて。外に出た彼らに、一緒になって祝福の言葉を投げたり」

「……すごいね」

「人気スポットですし、現地の人たちも慣れてるって言いますからね。知ってる人知らない人、みんな笑顔ですよ。きっと」

「……うん。きっと、とっても幸せな光景だと思う」

 

 ですね。と、言葉にはせずに頷いた。

 その幸せに思える光景を、もっと強く思い描いてほしいから。

 

「岸波君は……」

「はい?」

「結婚式は結婚式で嬉しそうだけど、道中も帰り道も楽しそうなんだろうなって」

「……かもしれませんね。まあ自分は寺田先輩の結婚式には呼ばれないと思いますけれど」

「そうかな? 私が呼ばれるなら、呼ばれると思うよ」

「いえ、あくまで自分と寺田先輩は、友だちの友だちというか、知り合いの知り合いのような関係ですから」

「え、でも……」

 

 でも?

 なんだろうか。

 

「ううん、なんでもない」

 

 首を振って言葉を止めたフウカ先輩。

 ついぞ、彼女が何を言おうとしたのかは分からなかった。

 けれども、今の話をきっかけに、少し将来のことに対する話が前向きにできたような気がする。

 

 完全下校の少し前まで、長話をした。迎えが来た彼女を、校門まで見送る。

 ……今日はもう帰ろう。

 

 

──夜──

 

 

 今日は当然勉強をした。

 土日を過ごせば、次は試験当日の月曜日。

 気合い入れていこう。

 

 

 




 

 コミュ・死神“保健室の少女”のレベルが6に上がった。


────
 

 知識  +2。



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