PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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10月18日──【駅前広場】怜香の相談 2

 

 今日も授業が終わり、さっそく帰り支度をする。

 誰かを誘って勉強会でもしようかと思い、数人に声を掛けたけれども、どうやらみんなそういった気分ではないようだ。

 ということで、帰り道。ついでに書店に寄ろうと思い、駅前広場に寄ると、見覚えのある少女たちが集まっていた。

 

「あれ、センパイじゃん」

「ども」

 

 ヒトミとマリエの1年生コンビ。

 彼女たちも、学年は違えど試験前のはずだけれど、ここで何をしているのだろうか。

 

「2人とも、勉強は?」

「しないけど」

「私は帰ったらする。今は普通にマリエの付き添い」

 

 ヒトミはまあ良いとして、マリエはしないのか。一切の躊躇なく否定するあたり、潔いと言うか何というか。少し心配だ。

 そういえばマリエは一学期の中間考査で補習対象に入っていたか。期末やその後は大丈夫なのだろうか。

 ……そう思うと、流石に見て見ぬフリはできないな。

 

「良かったら、一緒に試験勉強しないか?」

「いや、やらないって」

「……それ、先輩には何のメリットもなくない?」

「復習になるから問題ない。寧ろいい機会かなって」

「ふーん……そういうことなら、あたしはお願いしようかな。マリエもお願いしたら?」

「は? なんで」

「補修になるよりマシでしょ。夏にしんどい思いしてたじゃん」

「……そりゃまあ」

「ってことでゴメン、2人合わせてお願い」

「ああ、こちらこそよろしく」

 

 ということで、後輩たちに教えながら、自分は勉強の復習をした。

 ……何かきっかけがあれば、更に縁が深まる気がする。

 

 マリエの集中力が切れるまで付き合い、机に突っ伏した彼女と、後は任せてというヒトミに別れを告げ、家に帰った。

 

 

──夜──

 

 

 帰って再度自分の勉強を行い、ご飯を食べた後に休んでいると、ふいにサイフォンに通知が入っていることに気が付く。

 メッセージを送ってきたのは、意外なことにSPiKAの如月 怜香だった。

 

『こんばんは。ちょうど近くに行く用事があるの。良ければ時間もらえるかしら』

 

 送られてきたのは、10分ほど前か。

 まだ返信間に合うだろうか。

 

『確認遅くなった。すまない。今晩なら連絡もらえれば大丈夫だ』

 

 返信をしてから数分後、彼女から再度連絡がくる。

 

『ありがとう。これから移動するから時間かかるけれど、着く前に連絡するわ』

『分かった。待ってる』

 

 取りあえず、連絡が来るまで勉強するか。

 サイフォンの通知はしっかりオンにしておこう。

 

 

────>杜宮記念公園【マンション前】。

 

 

「わざわざ悪いわね」

「いいや、どうしたんだ?」

「渡したいものがあったのよ」

 

 そう言って、今日もしっかりと変装をしている彼女は、鞄から封筒を取り出した。

 

「……開けても?」

「勿論」

 

 封筒の封を切る。

 中に入っていたのは、質感のある数枚の紙だった。

 

「これは……チケット?」

「ええ、私たちSPiKAのライブチケット。貴方とリオンの分と、ほかにも数枚入れてあるわ」

「どうして急に?」

「リオンを引っ張ってきてほしいのよ。ついでに、今までいろいろ聞いた恩返しに、貴方とそのお友達を招待しようって」

 

 SPiKAのライブは基本的に、チケットが余ることがない。予約の段階で抽選に落ちることだって多分にある。

 そんなチケットを、特別にもらった。嬉しくないはずがないだろう。

 けれども、疑問は残る。

 なぜ璃音を自分に連れてこさせようとするのか?

 普通に呼ぶのでは駄目なのだろうか。

 

「璃音には断られたってことか?」

「ええ。何を考えてるのかは分からないけど、はっきりと断ったわね」

「……」

 

 理由は分からない。想像の範囲で考えるのなら、それも彼女の“覚悟”なのだろうか。

 とはいえ、事情も知らずに断られたのでは、腹も立つだろう。

 どうしたものか。

 

 

──Select──

  受け取るだけ受け取る。

 >返す。

  璃音が行くなら行く。

──────

 

 

「……なに?」

「返す」

「……正気?」

「ああ。……決めているんだ。初めてライブを見に行く時は璃音の復帰ステージだって」

 

 本人には言っていない。

 何というか、自分にとっての願掛けのようなものだ。

 見に行くにしても、璃音と一緒ならどうかと一瞬だけ考えたが、やめておいた。

 きっとどこか、悔しい気持ちにさせてしまうと思うから。

 彼女の症状については、回復を焦ったところで成すすべがない。時間と経験が解決してくれるものだ。ならばそういった感情は邪魔になりかねないだろう。

 ゆえに、今はどんなに辛くても返すしかないのだ。

 

「……そ。ならいいわ」

「良いのか?」

「なんで返した貴方がそれを聞いてくるのよ」

「いや、だって」

 

 

──Select──

 >怒られるかと思った。

  叩かれると思った。

  文句を言われるかと。

──────

 

 

 正直に思ったことを答える。

 そう思ったのは、彼女が自身の活動に真摯なのは知っているから。

 自分はただ、エゴを通しただけ。それを通すことで、彼女のプライドを、彼女が大切にしているものを傷つけてしまったことは承知している。

 ゆえに、されたくはないけれど、張り手の1つや2つくらいは覚悟していた。

 だからこそ、困惑の声が思わず漏れる程度には、素直に引き下がられることが意外だったかもしれない。

 

「まあ、何も思うところがないわけではないわ」

 

 だろうな。と、態度には出さずに、彼女の言葉を吞み込んだ。

 無言で、続きを促す。

 

「それがくだらない理由であったり、なんてことないものに優先度で負けたんだったりしたら、文句は言ってたし怒りもしたと思う。もちろん、そんなものに負けた私自身にね」

「怜香自身に?」

「ええ。当然じゃない。相手はその人の価値観で、自身が思ってるそのくだらないものよりも、私たちSPiKAのライブを下に置いた。つまりそれは、私たちが、私がその人にとって、価値のあるものになれていないということでしょう? つまりは私たちの実力不足が招いた結果。他人に怒りをぶつける必要なんてないわ」

 

 ……言っていることは、分かる。

 しかし、それは、その生き方は、なんとも背負いすぎな気がするけれど。

 いやでも、夢に生きるアイドルっていうのは、こういうものなのかもしれない。

 璃音も節々に力強い面があり、何より強すぎる理想に、諦めない心を持っていた。

 怜香だって同じなのかもしれない。いや、璃音と一緒に長いこと活動しているんだ。きっと同じなのだろう。

 

「貴方の答えにムカつかなかった理由は、貴方が優先したものが、私たちの大切なものだったから」

 

 そして、璃音がSPiKAを大事にしているように、怜香も、おそらく他のメンバーもみんながみんなを大事にしているのだろう。

 それは、この前璃音の家に集まっているのを見て感じていたものだ。

 彼女たちの中には、とても大きな絆がある。

 だから、色々な苦難へと立ち向かっていけるし、その姿は輝いて見えるのだろう。

 

「結果的には残念だけど、貴方のことが少し知れて良かったわ。どうやらリオンのことに関しては信頼できそうね」

「そうか?」

「ええ。まあリオンの話を聞く以上に、ハルナが信頼している時点で、あまり心配はしてなかったけど」

「?」

「ハルナの人を見る目は確かだから」

 

 そうなのか。

 まあ、そういう信頼に足る何かがなければ、付き合いは続いていなかっただろう。そもそも自分の目で相手を判断する、という段階にだっていかなかったはずだ。

 なんとなく、納得がいった。

 

 自分も、今日の会話を通じて、怜香との縁が深まった気がする。

 

「じゃあ、また機会があったら」

「ああ。また」

 

 呼んだダクシーに乗り込む彼女の姿を見送り、自分も家に帰った。

 

 

 




 

 コミュ・星“アイドルの少女”のレベルが4に上がった。


────


 知識  +2。




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