PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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10月16日──【部室】文化祭に向けて 1

 

 

 話し合いから一夜明け、特に画期的なアイデアが思い浮かぶこともなく、再集合の時間がやってきた。やってきたしまった。

 ……しかたない。誰かほかの人に任せるとしよう。

 そう思って部室へとやって来た。のだけれど、みんな揃いは全員顔色が優れないようだ。

 

「誰か……何か言わねえのか?」

「ハイ言い出しっぺの法則。コウセンパイどうぞ」

「ユウキお前それを狙って……!」

「ぴゅ~」

 

 露骨に口笛を吹いて誤魔化そうとする祐騎。

 話を振られた洸を助けたいけれども、自分が変れるわけではない。話題も案もないのは皆同じ。ということだ。

 少し考え込んだ洸は、控えめに、それなら……と口を開いた。

 

「ここに来る途中に映画研究部の人たちが困ってたみたいだから、話を聞いたんだが、どうにも人手が足りないらしい」

「今はどの部活も手一杯ですよね。試験もあるので」

「ああ。どうにも人手が足りてねえって言うから、ちょっと時間が空いた時にでも手助けに行こうと思ってたんだが」

「それよりも先に私たちの活動を心配するべきだと思うけれど」

「まあ聞けって。つまりだな、活動したってことが目に見えて分かれば良いんだったら、ほかの部活動の補助的な扱いで立ち回るのはどうかってことだ」

 

 洸の意見としては、いつも彼がやっているような人助けを、部活単位で、同じ部活動相手に行おうということか。

 個人的にはいいとは思うけれど、生徒会長としてはどうなのだろう。

 美月に視線を送ると、彼女も自分が聞きたいことが分かっていたのか、頷きを一回挟んで口を開く。

  

「手助けというのはいいことだとは思いますけれど、難しいですね。部活動としてそれを行うことは、設立の目的からも逸れていないので賛成です。しかし、文化祭の実績として成果が上がるものではないので、今回の対策としては……」

「……そうっすか」

「あ、そっか。あたしもイイかなって思ってたけど、当日に何かするワケじゃないんだよね」

 

 なるほど。文化祭で結局何をしたのか、と目に見えた結果が必要なわけか。

 確かに手伝っただけでは、結果を問われた際、証明ができない。

 どこにどう貢献したかを伝えたとして、完成するものは他所の部活のもの。

 “自分たちの部活動が作り上げたナニカ”とはならないわけだ。

 

「……ねえ、生徒会長」

「どうしましたか、四宮君」

「その発表ってさ、ステージ発表でも良いんだよね?」

「? ええ。音楽系や演劇系など、隣接する教室に影響が出るような部活動などは、総じてステージ発表のみとなりますけれど」

「だよね。なら1つ、イイ案を思いついたんだけど」

「良い案って?」

「端的に言えば、コウセンパイがやりたがってる人助けを企画として作るのさ。流れとしては──」

 

 

────

 

 

 祐騎の案はまったく思い至らなかったもので、かつ全員の納得がいくものだった。

 唯一、美月だけは晴れやかではない笑みを浮かべていたけれど。

 まあ、これも一種の強権を使わせるようなものだし、彼女の生徒会長としての立場を最大限に活かしてもらう必要もあるから、仕方がない。

 

「ま、つまるところ、いろいろな部活を手伝えってことか」

「そ。それも綿密なスケジュールを組んで、ね。僕はそのまとめ役をするから、みんなが実動隊ってワケ」

「……四宮、お前まさか、自分は手伝わないなんて言うつもりじゃないだろうな」

「言いがかりはヤめてくれない? 高幡センパイ。僕はただ、みんなが手伝うX.R.Cを手伝うってだけ。ほら、みんなと同じで、部活動を助けるオシゴトしてるでしょ」

「……はぁ。それは屁理屈だろうが」

 

 まあ、だいぶ遠回しななにもしたくない宣言だったけれども、やろうとしていることを考えれば、祐騎のいった司令塔ポジションは必要だ。

 その点、積極的に動く必要があるであろう、自分たち2・3年生組はその位置に付けず、空には空手部もある。

 代案がない以上、だれも文句は言えない。祐騎の独壇場だった。

 まあ発案者だし、それくらいの特権は認められるべきだろう。と、みんなが口々にそれを了承していく。

 

「まったくユウ君ってば……」

「最近郁島、口を開くとそれしか言ってなくない?」

「いやそれ大抵ユウキが悪いだろ」

「悪いことなんてしたことないけど」

「してるのは悪だくみだものね」

「残念だけど記憶にございません。ってことで、みんな了承ってことでイイんでしょ?」

「……ま、オレたちらしい企画。オレたちらしい活動だしな」

 

 最後に、部長である洸が全員を見渡し、顔色をうかがう。

 不満を抱いていそうな人間は、居なさそうだった。

 

「それじゃあ、X.R.C初の文化祭は、この出し物で行くぞ」

『応!!』

 

 話は纏まった。じゃあ解散……と言えるほど、自分たちのスケジュールに余裕はない。特に明日からは部活動停止期間。文化祭準備も等しく学校から制限される。

 ならば、今日できることは今日のうちに。

 

「とりあえず、今日は何するんだ、洸」

「取り敢えず、依頼のあった映画研究部の対応だな。それと、人手が足りそうなら余った人員には宣伝というか売り込みに行ってもらいたい」

「あ、すみません。わたし、今日は部活が」

「あ、悪いソラ。何ならもう行っていいぞ。結論は出たし、この後はどうせ別行動だ。何か進展あったらチャットに送っておく」

「……分かりました。ありがとうございます、コウ先輩! みなさんすみません、お言葉に甘えて失礼します!」

 

 立ち上がり、置いてあった鞄を持ち、扉のほうへ進む空。

 出入口の前で一礼し、再度、挨拶をして、彼女は去っていった。

 

「そういえば時坂、映画研究部の依頼内容は何なんだ?」

「あー……まあ早い話、演者の募集っすね。脚本に対して人手が足りてないみたいで」

「……ちょっと待ちなさい。演技をするということ? 素人の私たちが?」

「……まあ、そうなるな。詳しいことは細かく聞いてみないと分からねえが、外部の人間に頼る以上、求める内容はそうデカくないだろ」

 

 さすがに内容には驚愕したけれど、それはそうか。

 さしずめ、壁に空いた穴を埋める程度のことしか、任されないはず。まさか壁そのものを作るところからなんてことはないだろう。

 多分。

 

「……あれ、そういえばうちの学園祭って、一般客来場オッケーなんだっけ」

「そうですね。初日が生徒のみ。2日目に保護者、友人等外部客の招待になります」

「あ、じゃああたしダメかも。マネに止められると思う」

「あー……そういえば久我山センパイ、芸能人だったね」

「だった。って四宮クン? あたしこれでも人気沸騰中のアイドルなんだからね! ……休業中だケド」

「忘れてたよ」

「忘れるってなに!?」

 

 そうか。そういう縛りもあるのか。

 大変なんだな、アイドルって。

 

「リオンって、高校は明かしてないんだよな?」

「ウン、押しかけられても学校側に迷惑かけちゃうしね」

「学校側としても、正直なところ昨年は、目立つ出し物への参加は避けてもらうよう依頼をしています。当日も参加されるなら変装等をしていただく必要がありました」

「ま、そもそも去年は参加できなかったケドね」

 

 そうか。情報が下手に拡散すれば、言い方は悪いけれど学園祭に支障が出たり、後日学校周辺でトラブルが起こることも考えられる。

 そうなってくると、今回の映画研究部の依頼には参加させられないだろう。ばっちりと映像に残ってしまうのだから。

 

「ならリオンは今回売り込みをやってもらうとして、映画研究部の話次第ではもう1人か2人一緒に回ってもらうか。とりあえず話を聞くところまでは一緒で良いか?」

「うん、裏方の仕事とかならできるし、ソレで!」

「──時に、リオン」

 

 話がまとまりかけた所で、柊が強引に割って入った。

 名前を呼ばれた璃音が不思議そうに明日香を見ている。

 

「貴女、そろそろ復帰の準備に入らなくて良いの?」

「……ぇ」

 

 その話を聞いて、ふいに、思い出す。

 合宿の時のことだ。初日の宿に付き、SPiKAと遭遇した後、璃音と話した際に彼女が言っていた内容を。

 彼女はあの時、自身が同好会の小旅行をアイドル活動より優先したことを、若干後悔していた。それも話してある程度は解消されたことかと思うけれど、しかしあれは問題の一表面に過ぎない。今回明日香が口にしたのは、その根っこの部分。

 久我山 璃音は力のコントロールができるようになったのであれば、アイドル活動を再開しても良いのではないか、という話だ。

 

 元より璃音が自分たちと共に行動しているのは、力と向き合い、力に慣れ、2度と暴走しないように制御することを目標にしてのことだったはず。

 その目標が叶うというのであれば、完全復帰とまではいかなくても、並行して再開に向けて動くくらいのことはできるのではないだろうか。

 

「そういやリオンの状態って、どうなんだ?」

「……」

「リオン?」

「……え、あ、ウン」

 

 上の空だ。

 洸の問いかけにも、返事はしたものの、答える様子はない。

 どうしたのだろうか。

 

「……リオンさん、私が話しても?」

 

 その様子を見かねたのか、美月が間に入った。

 璃音が通うのは、北都系列の病院だ。4月に保護されてからというもの、あそこに定期的に通っているのを知っている。

 美月も、診察の結果は聞いているのかもしれない。まあ、担ぎ込んだ張本人みたいなところもあるし、色々立場的な問題もあるのかもしれない。そこは自分には想像がつかないけれども。

 

「……ううん、自分で言う。言います。えっと、経過そのものはとっても順調で……その……今月の診断結果次第では、もう大丈夫かもって」

 

 そう……か。

 そうなのか。

 もう、そこまで良くなっていたのか。

 確かに最近になって、ひどく感情的になるシーンは多々見てきたけれども、そのいずれにしても異界の発生のようなことは起きていなかった。

 順調に治療もとい経過観察が進んでいた結果なのだろう。

 原因に立ち会ったというのに、失念していた自分がとても信じられない。

 唐突に、今まで忘れかけていた美月の言葉が、頭を過ぎる。

 

 

────

 

 

「これから人を救う活動を続けるなら、その対象も増えることになります。良いですか、人をただ救って終わるのは物語の中です。意図して救った者には、支え続ける義務が生じると心得てください」

 

 

────

 

 

 結果として、美月が危惧した通りになっていた。

 璃音はずっと向き合い、戦い続けていたというのに。

 ……もう遅いかもしれないけれども、その最後になるかもしれない診断というものには、付いていこうかな。もちろん彼女に嫌がられなければ、だけれども。

 

「何もアイドル活動に戻るからこちらに参加するなというわけでもないのだし、本人の希望なしに記憶を消してさようならといった一般人同様の扱いもしない。だからそ、別に責めてるわけでもないのだから、そんなに話しづらそうにしないでもらえるかしら?」

「……ゴメン。でも、この前までみたいに積極的には参加ができないかもよ?」

「リオンがしたいのなら、2足のわらじを履けば良いと思うわ。こっちは強制ではないのだし、空いた時間は遠慮なく助力の要請をするから。リオンの良心が痛むのであれば、休む暇は確実になくなるけれどね」

「アスカ……うん、ちょっと考えてみる」

「そうした方が良いわ」

 

 

 まあなんにせよ、考える時間は必要だろう。

 また機会があれば、話を聞いてみたい。

 

「……なあ柊。今ちらっと聞いたが、俺たちのような異界適正の高い人間って、記憶の操作ができないんじゃなかったのか? さっきの口ぶりだと、本人の同意があればできるって感じだったが」

「できるわよ」

「「「「「「できるんだ!?」」」」」」

 

 誰も知らなかったらしい。驚いていないのは例のごとく、美月と明日香の2人のみ。

 ……あれ、でも。

 

「それなら九重先生は、それで記憶を消せば良かったのでは?」

「そ、そうだよね!? ……どうしてなのかな、柊さん?」

「リスクやデメリットが高すぎるからです」

 

 険しい顔の明日香が、眉を寄せたまま口を開く。

 

「例えるなら、糸1本切るのと、綱引きの綱を切るほどの違い。当然綱──ここで言う高い異界適正を持つ人の記憶の方が切りづらいので、綱に力負けしないような強力な切断機が必要になるわ」

「つまり、サイフォンじゃ無理、と?」

「そうね。今四宮君が言った通りの事情もあるし、別のもっと大きい理由もあるわ。端的に言えば、出力を上げて異界に関する記憶を消すのは良いけれど、その分記憶消去の精密さを欠くわ」

「……まて、じゃあまさか、異界関連以外の記憶も消す羽目になるってことか!?」

「その通りよ」

 

 そちらは事故の範疇になるだろうけれど、と難しそうな表情を崩さず話し続けた明日香。

 そのほかの記憶を巻き込むほどに高火力にするとしても、サイフォンからでは無理とのことなので、ひとまずは安心だ。

 記憶を消せる人がいるとしても、もう1度記憶を無くすことだけは避けたい。

 

「なるほどね。関係ない記憶まで消したら、後々矛盾が生じる。万が一大事な予定を忘れてでもいたら、人間関係にだって亀裂が入るだろうね。それを見越してってこと?」

「そう。あくまで自己責任。何があってもこちらでは責任を取れませんとあらかじめ言っておかないと面倒だから。あとは機材を持ち運べないから、置いている施設などに来てもらうことにもなるわ」

 

 なるほど。だから本人の同意が必要、ということか。

 よくわかった気がする。

 

「しっかし、なんでそんなものを開発したんだ?」

「戦いで負った心の負傷は、治せないから。戦い自体を忘れさせるしか方法がないもの」

「……なるほどな」

 

 志緒さんに続くように頷く。

 そこにしか逃げ道がなく、逃げることを本人が選ぶのであれば、そうせざるをえない。ということだろう。

 

「ちなみに、これは疑ってるとかじゃなく、あくまで単純な確認なんだけどさ」

「何かしら?」

「“ハクノセンパイの記憶喪失”はそれによるものとは別、で良いんだよね?」

「「「「「!?」」」」」

 

 そうか。異界に限らず必要な情報がすべてなくなるほどの消去をかけたのであれば、記憶喪失は妥当な結果かもしれない。

 でも、そんなことはあるのか?

 

「……念のため、調べておきます」

「ミツキさん、任せてしまって大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です。……元よりその道具の開発は、“ゾディアック(こちらの陣営)”の側なので」

 

 それに、コールドスリープやリハビリもすべて北都の系列店で行ったものだ。

 美月以上に、その確認に適している人はいない。

 

 

 

 

 

「……っと、つい話し込んぢまった。早く映画研究部に行かねえとな」

 

 洸の声に、全員がハッとする。いつの間にか長い時間に渡る雑談になってしまっていた。中身は結構大事だったけれども。

 今はなんにせよ、目の前のことをしっかりと済ませよう。

 いざ、映画研究部室へ。

 


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