PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 文字数的に1章2章と章タイを削りに削った英文で書いています。
 文法が合ってるかは分からない。実はなにか重大なミスをしてるのではないかとビクビクしながら書いてます。私、英語からっきしなので。知識1です。

 もっと良い書き方あったら教えてください。切実に。


第2話 (Want to be equal ,even if we are not fair.)
4月22日──【教室】負けっぱなしでは終わらない


 

 

 昼休み、予め購入しておいたパンを食べようとした所、サイフォンが振動した。誰かからの連絡を受け取ったようだ。

 端末を受け取った時から入っていたSNSアプリ『NiAR』を起動し、送り主の名前を見る。

 ──美月からだ。

 

『こんにちは。急で申し訳ないのですが、本日の放課後お時間を頂いても宜しいですか?』

 

 特に予定はない。

 可能だ、という返事を送ろうとしたところで、再度サイフォンが着信を告げる。

 送信者は、玖我山璃音(某アイドル)

 

『ごめんなさい! 放課後は急いでレッスンに行かなくちゃいけないので!』

 

 どうやら先の連絡は、自分と玖我山2人に向けて送られたものだったらしい。

 となれば、話はあちら世界についてだろうか。

 

「『自分は大丈夫です』と」

 

 返信し。パンを食べようとする。

 一口目を齧った所で、再度振動。

 

『それでしたら岸波くん、お手数ですけど放課後生徒会室までお越しください』

『了解です』

 

 これで今日も用事ができた。

 無為な日が無くて良い。

 安堵の気持ちと、それに対する違和感を得つつ、パンを口に近づける。

 その時、またサイフォンが唸った。

 

『岸波くん、今晩暇? 話の内容とか教えてほしいんだけど』

『だそうですよ、岸波くん。デートのお誘いですね』

『チ・ガ・イ・マ・ス』

 

 思わず苦笑する。

 クラスの端、輪に囲まれている玖我山も、呆れたような顔をしていた。

 目が合う。

 ……なんとも不満そうな顔だ。

 

『玖我山、その顔は何だ?』

『岸波くんこそ、その平凡な顔は何?』

『また平凡って言われた』

『うんまあ、何とも言い難い顔をしてたし』

『……』

『……え、怒った?』

『いや、別に』

『ゴメンゴメン、そこまで気にしてるって思わなくて!』

『いや、だから別に』

 

 そこまで気にしている訳ではない。

 ただ、彼女の本音を知っている以上、ここで何を言ってもなぁ、と思わないでもないわけで。

 ……しかし、そこまで平凡だろうか、自分。

 元々顔に自信があった訳ではないが、無個性、普通、平凡と何度も言われれば気になってくる。

 酷評されるよりはマシ、なのだろうが。

 

『ふふっ、仲良さそうですね』

『まあ、ソコソコには? ふっふーん、アイドルと仲良いからって、自慢して回っちゃダメだからね、岸波くん』

『しない。仲良いって言うか、取り繕わない関係なのは確かだな。凄い本音をぶつけられたことだし』

『それ今言う?』

『もう言ったけど』

『いや、そういう意味じゃなくて……まあイイや』

『やっぱり仲が良いですね。いま一緒にいるみたいですし』

『クラスメイトですから』

『クラスメイトですから』

『息もぴったりですね』

 

 玖我山、こっち見るな。視線がいたい。

 まあ、仲が良く見えるということは、仲が悪いよりよほど良いだろう。

 これから先、色々と行動を共にしていくことだし。

 

『それで、夜だったな? 空いているけど』

『そ。じゃあまたあとで連絡するね! 取り敢えずあたしの分もしっかり聞いといて。ヨロシク!』

 

 会話が終わった。

 後に残ったのは、食べかけているパンと、それを食べづらくする周囲の視線だ。

 ……外で食べよう。

 

 

 

────

 

 ──>杜宮高校【生徒会室】。

 

 来る放課後、生徒会室へと足を踏み入れた自分は、美月から歓迎を受けていた。

 

「それでは少し、お茶でも飲みながら話しましょうか」

「えっと、生徒会室で良いのか? 他の人たちとかは」

「今日は活動日じゃありませんので、気にしないでください」

 

 寧ろ活動日じゃないのに勝手に使っていることが気になった。私的使用を許して良いのか、生徒会。問いただしてみたいが、長が彼女の時点で目に見えている。それに、彼女自身しっかりと仕事を進めているようで、机の上には結構な書類が束になって積んであった。

 

「仕事、忙しいのか?」

「そうですね、今は部活の関係で問い合わせや雑事が絶えなくて、といった形です」

「なるほど、手伝おうか?」

「いえ、数十分もあれば終わる仕事なので気にしないでください」

 

 ……とてもそんな量には見えないが。

 まだ彼女からの信頼度が足りていないらしい。

 

「……わかった。わざわざ時間を割いてくれてありがとう。早速本題に入ってくれ」

「わかりました。本日お呼び立てしたのは、異界について話しておきたいことがあったからです」

 

 異界。

 数日前、自分と玖我山が巻き込まれた、この世ならざる世界での事件。

 軽い説明と覚悟の確認だけされて、あとはそれっきりだったが……何か進展するのだろうか。

 

「前回は力についての説明が主で、異界についてはなにも話していなかったと思います」

「まあ」

 

 その力についての説明も、少し曖昧で強引だったが。

 

「ですので、本格的に関わる前に1度、異界の条件などについても話しておきたいと思い、時間を頂きました」

「条件……異界が成立する理由を教えてくれるのか?」

「そこまで詳しいことまでは、私たちも分かっていません。未だに異界には未知の事柄が多いので。ですから本日説明するのはあちらの世界──異界が発生する3大要因についてです」

「3つ?」

「人的要因、自然要因、連鎖要因のことを私たちは3大としています。自然要因は自然発生を含む、特に理由もなく発生してしまうものです。これらは事前の対処が難しい反面、危険度や攻略難易度は低いことが多い。人が巻き込まれる事例も少ないですし」

 

 それは、少し安心した。

 突発的に異界が現れ、大多数の住民を巻き込んだ大災害を引き起こすなんて、間の悪い冗談としか思えない。

 

 話の続きを目で促す。

 メモ等は取らない。形として残らない方が良い気がしたから。

 そうでなければ、記憶消去なんて行われないだろうし。

 彼女が話す内容に集中して、しっかり覚えなければ。 

 

「次に人的要因、こちらは事前対処が比較的簡単と言われますね。人が核となって発生するものです。玖我山さんの事例も、こちらに当たるでしょう」

「その核と言うのは?」

「岸波くんは見ましたね? もう1人の玖我山さんを名乗る、瓜二つの存在を」

 

 見た。

 明け透けに物を言う存在。もう1人の彼女は自身のことを玖我山がもつ本音だといった。事実、溜め込んだものを発散するかのように、理性……気配りや遠慮といったものを一切排除した形で彼女は声高らかに己の考えを唱っていたように思う。

 

「人の抑圧された感情から産み出され、暴走するこの世ならざるもの。それらを私たちは総じて、“(シャドウ)”と呼んでいます。現実世界を侵食し、蝕むことで、己自身に成り代わりたいといった欲が核となり、超常の力を伴って発露されたもの。それが人的に構成された異界。ですね」

「欲、か」

 

 玖我山の欲。それは、諦めたいということ。努力することに、努力しても変わらない現実に疲れ、抱えきれないジレンマに追い込まれた彼女はしかし、夢や周囲の応援などといった理由から、辞めるに辞められなかったのだろう。

 どちらも彼女の欲だ。ただ、続けることに固執し過ぎた結果が、隠し続けた本音の暴走。

 そう考えると、一種の防衛機能のように発生したものなのかもしれない。

 

「もし仮に玖我山さんが“(シャドウ)”に飲み込まれていた場合、彼女はアイドルを辞めていたでしょう。何の躊躇いもなく」

「……っ」

「諦めることは、悪いことではありません。今回のようなケースの場合、諦めを是としなかったのは自身の理性であって、本心ではなかった、という解釈もできますね。本当の所は、本人しか知りませんが」

「……それなら自分がしたことは、意見の押し付けだったと?」

「端的に言えば」

 

 確かに、感情的になりすぎていたかもしれない。

 岸波白野と玖我山璃音。色々と逆の境遇にあり、どこか似ている自分たち。

 そうだ、認めたくなかったと言えば、嘘になる。自分にできないことをして、諦めようとした彼女の姿を。それだけの自分勝手な理由であったのも確かだ。

 

 それでも、何かしたかった。この衝動は、嘘じゃない。

 あの悲痛な、魂からの叫びを聞いて、戦いたいと願ったのだ。

 押し付けでも何でも良い。ただ自分が信じることをした。それだけのこと。

 後悔はない、が、もっとやり方があったのでは、と思うのは、手を出した側の傲慢だろうか。

 

「もちろん、責めている訳ではありません。岸波くんのしたことは一方で、彼女が一番納得の行く方向へと導けたという成果もあります。だれだって、自暴自棄に諦めるよりは、最後までやりきってから諦めた方が納得できるでしょうから」

「……そういうものか?」

「そういうものですよ、人間は。自棄になって夢を捨てれば、残るのは空虚さくらいなものです」

 

 少し遠い目をして、彼女は言う。

 美月にも、何か諦めたことがあるのだろうか。

 

「それに、玖我山さん自身、歩き続けることを決めています。1人の女の子の可能性(ゆめ)を守れたんですよ、岸波くんは」

「そうだと良いが」

「……ふふっ。気になるようでしたら、玖我山さんがどう思っているのか、直接本人に聞いてみては如何でしょう」

 

 なんとなく、知ってそうな口ぶりで彼女は促してくる。

 だが、自分から聞くことは、きっとない。

 彼女が今後浮かべ続ける表情が、その答えに他ならないだろうから。

 

「ちなみに岸波くん、危機から救っただけで満足、なんてしていませんよね?」

 

 上げたり下げたり忙しいな……素直に誉めるか責めるかしてくれないだろうか。

 

「ふふっ、こうして話す方が身に染みるかと」

「心を読むな」

「失礼、顔に出ていたので。岸波くんは表情の変化に乏しい反面、感情が読みやすいのですね。喜怒哀楽が伝わってきて、話が進めやすいです」

「……誉めてる、のか?」

「貶してはいません」

 

 上げても下げても来なかった。

 そういうものを求めているんじゃない。

 

「とにかく、救った後のフォロー──玖我山さんの場合なら、夢を追い続ける手伝いも、続けてもらいたいんです」

「それはまあ、一応相談くらいには乗るつもりだが」

「玖我山さんに限った話ではありません。これから人を救う活動を続けるなら、その対象も増えることになります。良いですか、人をただ救って終わるのは物語の中だけです。意図して誰かを助けるのであれば、中途半端で放り出すのは救わないのと同様に質が悪いと心得てください」

 

 生半可な覚悟で足を踏み入れるな、と彼女は言う。

 病院で告げられた言葉を、さらに詳しく発していた。

 しかし、正しいと思う。希望を与えてさようならなんて、あまりにも無責任が過ぎる。

 自分とて、そうして救われた側の1人。

 北都グループは延命処置だけでなく、生活補助、将来の援助までしてくれている。その重みは、自分自身が身を以て知っていた。

 

「それでも、自分は目の前で起こる悲劇から目を逸らしたくない。自分に出来ることをしていきたい。だから、その責任も負う」

「……そうですか。分かりました。以降、余程のことがない限り、私から制止することはないでしょう。ですが、今の話を心に置いていて下さると、有り難く思います」

「はい」

 

 少し湿っぽくなりましたね、と彼女は席を立ち、生徒会室の窓を開ける。

 開放的な暖かい空気と自然の匂いが入ってきて、グラウンドから響く声なども若干聞き取れるくらいには届いてきた。

 

「話を進めますと、先程から伝えている通り、対人被害がもっとも大きいのが人的要因で発生する異界になります。そこで、岸波くん──正確には、岸波くんと玖我山さんのお2人に、お願いしたいことがあるんです」

「? アフターケアじゃなくて?」

「ええ、当然そちらも行ってもらいたいのですが、大事なのはその前、詰まる所、対策と予防ですね」

 

 そういえば話の始めに、事前対処が楽と言っていた。

 自分たちも、それを?

 

「通常、異界の攻略、牽いては“(シャドウ)”と退治するのに必要なのは、情報。その人がどういった悩み(原因)を持っていて、誰との間に確執(被害予測)があって、どういう思考(症状)に陥っているのかが分かっていて初めてなんとかなります。言っては何ですが、玖我山さんの件は、はっきり言って奇跡でしかありません」

 

 原因も、予測も、何が起きているかも知らず、よく生きてこれたと思う。

 無我夢中だったことが、逆に幸を奏したのかもしれない。

 だが、今後は油断大敵だと思って、気を引き締めなければ。

 

「普通は間を取って、時間を掛けて対策をするものなんです。万全の準備を整えてから、異界の主との戦いに向かいます」

「……だが、自分の時にはすぐ突入してきていなかったか?」

「様子見のはずが、途中で勝手に異界が攻略され、崩落していきますし。せめて核となった人物の保護と対処に、と思って最奥へ急げば、友……知人が重症を負っているという私たちにも予想外な展開が待っていましたから」

 

 自分のことらしい。少し呆れた目でこちらを見ていた。

 

「自分のことは友人で良いぞ」

「ゆ……と、とにかく、今後は無茶な行動は慎むように。それと、普段から然り気無く情報を集めておくと場が有利に運ぶかもしれません。ちなみに、異界の核となった人物に敵対視されていると、強い攻撃が自分のもとへと集まってくるのでご注意を」

 

 それは危険だ。隙を作れるかもしれないが、命をわざわざ危険に晒したくはない。

 

 それと美月、少し照れたな。

 微笑ましくて、こっちまで笑ってしまいそうだ。

 

「まあ、そういうわけで、1つ、提案があるんです」

「提案」

 

 そんな自分を見て、彼女は何かを思い至ったみたいだ。

 ここにきて、何だろうか。と首を傾げる。

 ──という分かりませんアピールをしつつ、鳥肌が立っていることをひた隠す。絶対怒ってないか、あれ。からかわれたことがそんなに嫌か。友人なら軽口の1つくらいあっても良いと思うんだが!

 そんな自分の反応を見て、美月が、企むように微笑んだ。

 

 

「岸波くんと玖我山さん、何か……同好会のようなものでも作りませんか?」

 

 




 

 からかうのは得意。
 ある程度なら、からかわれても反撃できる。
 友人関係でからかわれたら、力で黙らせる。

 そんな本作ミツキ先輩。
 上下関係ばかりの場所に居て友達が少ないエリート系ぼっちヒロインとか、良いですよね(願望)。
 実際、ミツキももう1人も、異界に携わる立場柄か、関係者以外との距離は一線を保ってる印象がありましたし。
 そういう線を容赦なく踏み越えるのは、白野らしさかなぁって。そんなことを考えて作る2人のトークです。
 徐々に耐性の上がるミツキと、それでも無自覚で上を行く白野の掛け合いを、今後ともよろしくお願いします。


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