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今日の昼休み、一件の通知がサイフォンに届いた。そのうち暇な放課後あったらまた付き合ってくれ、と。
差出人は洸だ。何やら話があるらしく、さっそく今日でどうかと聞いてみたところ、了承の返事を得た。
という訳で放課後、廊下で待ち合わせし、帰り道を共にすることに。
……しかし、暫く歩いてみても、本題らしい話題の切り出しはなかった。
取り敢えず、どこへ向かっているのかだけ聞いてみようか。
「洸、この後ってどうするんだ?」
「ん?」
「行き先、どうするのかって」
「……特に決めてねえな。行きたい所とかあるか?」
「いや。ああでも、何か話すなら落ち着けるところの方か良いのか」
「ん……まあそう、だな」
くつろげる、もしくは落ち着けるという点だったら温泉でも良かったのだけれど、神山温泉は必ずと言って良いほど人がいるので、他人の耳がどうしても気になってしまう。
望ましいのは、落ち着けて、かつ2人きりになれる場所。
となれば……
────>杜宮記念公園【ボート乗り場】。
「いや、これは違くねえか?」
本当に乗るのか? と目で聞いて来た。
その問いに首肯を返す。
「ゆっくり、2人きりだ」
「……聞き耳は心配しなくても良いが、代わりに周囲の目が気になってくるな」
「そうか?」
「……まあ良いか。別に噂されて困ることもねえ」
噂になるようなことだろうか。と思ったけれど、確かに今乗って回っている人たちは、親子か恋人らしき異性ペアのみ。
洸が何を気にしているのか、分かった気がする。ここはそういうスポットだったのか。乗ったことがないので分からなかった。
……でもまあ、彼も気にしないと言ってくれたし、今回はこのままで良いか。貴重な経験だ。うん。
「よし、乗ろう」
「……おう」
乗るのは決まっているけれど、乗り気にはなれないらしい。
湖の上、適度に他の船との距離がある所で、足を止めた。
ああでも、やっぱり想像通り落ち着くな。
それに、結構漕ぐのも面白かった。
「これ、全力で漕いだらどれだけ速度が出るんだろう」
「止めとけ、ボートじゃない色々なものが壊れそうだ」
周囲のムードとか色々。仰る通りだった。自重するべきだろう。
なんて、ふざけた話を最後に、話が途切れる。
せっかくゆったりとした時が流れているんだ。待ってみよう。洸にも洸のタイミングがあるだろうし。
そこから数分、沈黙が流れる。
話の切り出しは、ぼそっと呟くような洸の声だった。
「将来のこと、なんだが」
来た。この前話した、焦りを解消した後に、何がしたいか。という話題の続きだ。
果たして、洸はどういった答えを出したのだろう。
「ぶっちゃけ、夢だとか何だとか、そんな崇高なものは見つかんなかった」
「まあそれはそうだろう。一朝一夕で見つかるものでもない」
「ああ。けど、考えること自体は止めるつもりはねえ」
それを聞いて安心した。先程彼にも伝えた通り、急いで結果を出してほしい訳ではないし、焦って良い結果が出る訳でもない。
けれども、この前の問答が何も齎さなかったという訳でないことを、彼は伝えてくれた。
洸がその思考をするようになったのであれば、自分も頑張った甲斐があるだろう。
「けどな、何となく目標のようなもの、っていうか、やりたいようなことはできた」
「え?」
「ほんと夢なんて呼べないような、漠然としたものだけどな」
「ぼんやりとでも形が掴めているなら、良いんじゃないか? 正直、自分もそんなものだし」
本当に。
自分がいま抱いているものも、明瞭な形のないものだ。
それでも、洸が何を見付けたのか、聞いてみたい。
「今の部活の延長みたいなものを考えている」
「そういう活動を続けるということは、対シャドウ案件に関わり続けるということか?」
「ああ。けどアスカやミツキ先輩みたいに、裏世界に属すっていう訳じゃねえ」
「と言うと?」
「あくまで守るのは表。裏の世界の利権だなんだは関係なく、目の前のことに積極的に介入し、身の回りの日常を守り抜く、って感じなんだが」
「……それは」
まさに、今の部活の延長上って感じだ。
日常を守る。をモットーに、裏世界のパワーバランスとかは気にせず、目の前の悲劇を食い止めることだけに注力する。
言ってみれば、地域密着型と言った所だろうか。積極的に介入するのは近場のみ。明日香や美月は世界的に展開している組織の一員だと言っていた。そういった組織に所属することになれば、今回みたいな長期間の大きな案件以外で、一か所に留まり続けることは難しいだろう。
そういった意味では組織に属さずにいく道も充分にアリだろう。
話や筋は通す必要があるだろうけれど。
「希望のある、良い目標だと思う」
「……まあ、まだまだ解決することはたくさんあるが」
「だとしても、目標を見付けられたのは、良いことだろう」
「……ありがとな」
照れているのか、笑みを浮かべつつも顔を背ける洸。
元より自分はそう思っていないけれど、これで彼の前を走る幻想の岸波 白野という存在はいなくなった。洸の自分に対する焦燥感も消えるだろうか。
まあ、それは彼次第かもしれない。
今は取り敢えず、話を聞こう。
「参考までに、どうしてその目標を思いついたのか、聞いても良いか?」
「それくらいなら……って言っても、そんな大した話も出ないぞ」
「良いから良いから」
大した話でなくても、面白い話でなくても、聞いてみたい。
他ならぬ、同じ曖昧な目標を抱えた自分のためにも。
「そうだな。強いて言えば、自分の“
「“
「お節介でも、押しつけがましくても、身の回りの誰かを助けたいと思う心を貫くこと、だな」
誰かを助ける。焦燥感に刈られながらも、洸が貫いてきた生き方。
なるほど、“
それを曲げずに生きていくのであれば、確かに目の前の何かを見落とすような自体には陥りたくない。身の回りのことに注力するというのは確かな解決策のように思う。
「……焦りから目を背けるのに、非行とかそういう刹那的なナニかに逃げず、人助けを続けたんだ。まさしく洸の中のしっかりとした主軸なんだろうな」
例えば不良とか、まあ煙草とかお酒とかに手を出すのは、何かを忘れたいからだと聞く。創作物の中では、だけれど。実際に聞く機会はない。BLAZEは元々そういった不良グループではないし。
そういったものに手を出さずにいたのは、培われてきた彼の強さだろう。
曲げることのできない生き方の部分。そこで洸は非行を否定した。
「悪いことをしたらそれこそジッちゃんには叩きのめされそうだ。両親も飛んで帰ってくるかもしれねえ。そういった面倒は掛けたくないしな」
「周りに迷惑が掛けられないなら、夜遅くのバイトとかも……って、それも洸の」
「ああ。そいつも“
晴れた笑顔だ。
対する自分は、恐らく苦笑いなのだろうけれど。
まあでも心より祝っている。
変わった彼の、始まりを。
ここから、洸のリスタートが始まるのだろう。
「それで、まあ何だ。ハクノにもハクノの夢とか目標があると思うが……」
「?」
「その、ハクノさえ良ければ、お前も手伝ってくれないか?」
「……洸の、夢を?」
「ああ。オレ1人じゃ、何かを取りこぼす可能性があるからな。ハクノだけじゃなくて、ソラ……は地元が玖州だから難しいだろうが、ユウキやリオン、シオさんにも、手伝ってもらって」
力を貸してほしい時だけでも良いのだと、彼は言う。
今、同じく杜宮のために戦っている自分たちに、手伝って欲しいのだと。
「まあ返事は急がねえ。今回の事件が解決してからでも、卒業してからでも構わねえから、考えておいてくれると嬉しい」
「……分かった。しっかりと考えておく」
まさか自分が、それも洸と、将来の約束をする間柄になるとは思わなかった。いや、まだ約束していないけれど。
……でも、良いな、こういうのも。
卒業した後も、未来に渡って一緒にいたいと思える友をお互いに得られた。ということなのだから。
洸との間に、強固な魂の結びつき──縁を感じる。
────
我は汝……汝は我……
汝、ついに確固たる縁を結びたり。
確固たる縁、それは即ち、
無二の存在価値となりて、
汝の道を保証せん。
今こそ汝、“魔術師” の究極の在り方、
“フツヌシ”を見付けたり。
幻惑を断つ道標とならん……
────
「……なんだ、今のは」
「? ハクノも何か感じたのか?」
「洸もか?」
「ああ、なんだか妙にすっきりしたというか……表現に悩むな」
不思議な感覚に襲われたかと思えば、隣の洸も同じらしい。
どういうことなのだろうか。彼と共通の出来事が起こったのであれば、ソウルデヴァイス関連やペルソナ関連のことだろうけれど……取り敢えず、そのうち空いた時間にでもベルベットルームに行ってみようか。
「さて、話すことも話し終えたし、戻るとするか」
「……最後に思いっきり漕いで見ないか?」
「なににそこまで執着してんだ。怒られるぞ」
「……わかった」
──夜──
今日は勉強休みを設け、バイトに行くことにした。
病院の清掃に向かう。
……隅々まで綺麗にできた。
コミュ・魔術師“時坂 洸”のレベルが10に到達した。
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根気 +3。
>根気が“起き上がりこぼし”から“常に前向き”にランクアップした。
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今回の更新で魔術師コミュは終了しましたので、各話のタイトルを修正しております。個々人のコミュについては完結したら詳しく語るかもしれません。しないかもしれません。
そろそろ根気的に無限ハイハイできそう。