PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

184 / 213
 

 閲覧ありがとうございます。
 遅くなり申し訳ございません。
 あまりに期間が空いたので近況報告させていただきます。
 前話後書きに追記した通り、テイルズ新作の攻略に必死になって遅れました。
 無事トロコンしたので連載再開します。



インターバル 6
10月8日──時坂 洸(魔術師)(Ⅵ)──心に刺さった棘


 

 

 夢を見た。

 輝きに手を掛ける夢だった。

 

 ついに辿り着いた最終戦。

 夢の中の青年は、圧倒的な雰囲気を持つ少年に挑む。

 逃げる道は、恐らくあった。それでも今の彼に、諦観は許されない。

 それでも逃げなかったのは、今まで積み上げてきたものがあったから。

 死体の山も、葬った想いも、そのすべてが彼に──否、彼ら2人にのしかかっている。

 相棒たる女性は、きっと気にしていないのだろう。彼女が気にするのは、主である彼ただ1人。だが逆に言えば、彼が潰されないように、彼女も等しく背負っているようにも思えた。

 泣いても笑っても最後の戦い。

 その戦いの後には、別れが待っていることにも、彼らは気付いている。

 だがそれは、足を止める理由にはならない。当然のことだ。分かりきっていたことであり、やらなければならなかったことなのだから。

 故に、夢の中の彼は指揮を取る。

 声を張り、術式(コード)を打ち込み、戦況を読んで共に戦う。

 

 

 そして遂に彼、いや彼らは、遥か高みで輝く太陽を、落とすことに成功した──

 

 

──朝──

 

────>【マイルーム】。

 

 

 久方ぶりに夢を見た。

 何時ぶりだっただろうか。寝ぼけた頭では、はっきりと思い出せない。

 

「……とにかくまずは起きるか」

 

 学校に行く準備をしないと。と思い起き上がり、サイフォンを起動した所で不意に気付く。

 ……そういえば今日は3連休の最終日だった。

 起こした身体を、もう一度ベッドに沈める。そしてそのまま、思考は夢の内容についてへ。

 

 長らく見続けてきた、正体不明の夢も、これで最後だろうか。

 何故続き物である夢を長期間にわたって見ていたのかは、終ぞ理解することが出来なかった。夢は記憶の整理の結果だと聞いたことがある。突拍子もない夢も、どこかで考えていた点と点が結ばれた結果であるとか。

 その説でいくと1度や2度では途切れない続き物の夢、というものは、とても不思議なものであるはず。

 自分がどこか心の中で、まるでテレビドラマを見るかのようにその夢の続きを見たいと思い、話を妄想している、とか。そういうことなのだろうか。

 そうでないのなら、或いは他者からの干渉──何かしらの意図があって見せられている、とか?

 シャドウの攻撃の可能性だってあるかもしれない。

 仮にそうだとしても、あの内容を見せた意図は、分からないけれど。

 

 ……まあ、夢がここで終わるのか、或いはもう少し続くのかは分からないけれど、取り敢えず何か事件が起きている訳ではない。相談する相手も思いつかないし、やはり手は出さないでおくべきだろう。

 

 

「……」

 

 なんだかそうこう考えているうちに、すっかり頭が冴えてきてしまったらしい。

 何か予定がある訳ではないけれど、少なくとも二度寝の気分ではなかった。

 取り敢えず、朝食の準備をしようかな。

 

 

──午前──

 

 

 今日はどうしようかなと考え、まず頭に思い描いたのは、洸の姿だった。

 先日の小旅行でも思ったけれど、そろそろ彼と話がしたい。

 彼の都合は、どうだろうか。

 

 

──Select──

 >連絡を取る。

  また今度にする。

──────

 

 

『おはよう。今日って空いているか?』

 

 まあ送ってすぐに返事は来ないだろうなと思いつつ、サイフォンを仕舞おうとする。

 その時、ブブブとサイフォンが振動した。

 

『もう少しで課題が終わるから、それからなら暇だ』

『分かった。なら午後遊びに行かないか?』

『応。何処に行く?』

『蓬莱町のゲームセンター、とか』

『わかった。取り敢えず終わったら連絡する』

『待ってる』

 

 ……これで、良し。と。

 ゲームセンターは騒がしくて、話をするのに向いている訳ではない。

 話をするなら落ち着いてからだと思うし、夕食の時にでもしよう。

 

 

──夕方──

 

────>カフェバー【N】。

 

 

「ハクノって結構あのゲームセンターに行ってるんだな」

「どうした急に」

「結構色々な人と知り合いみたいだったじゃねえか」

「……まあ、バイトしているし」

 

 それに、BLAZEの人たちも居て、そこから発生した輪もあったからな。

 自分でもあそこまで馴染めると思っていなかったから、改めて考えてみると意外だった。

 

「あー、あそこもユキノさんの紹介か?」

「ああ。ゴールデンウイークの時にな」

「なるほど。じゃあもう半年になるのか」

 

 馴染むわけだな、と笑う洸。

 出てきた珈琲を飲む彼は、一瞬遠い目をした。もしかしたら自分も同じ目をしているかもしれない。あのゴールデンウイークは充実していたものの、きつかったし。

 

「そう言う洸だって、バイト先にも馴染んでいる姿をよく見るけれど」

「そうか?」

「ああ」

 

 自身だけでは自覚が沸きづらいのかもしれない。特に人と人の関係性という、曖昧なものの話だ。他者から指摘されないと分からないことも多いだろう。

 尤も、彼がバイト先から受け入れられているのは、働いた時間もあるだろうけれど、人助けのような活動が巡り巡って、という場合も多そうだ。

 

「とにかく、お互い色々と紹介してくれているユキノさんには、感謝しないとな」

「まあ、そう、だな……」

「どうした、歯切れが悪いけれど」

「いや、下手に感謝の意を伝えると、それを利用して色々言われるだろうから、心に留めて行動するくらいが良いんじゃないか。……その、口に出す場合は相応の覚悟をした方が良い」

「……経験談?」

「……まあ」

 

 感謝の気持ちを抱くな、とは言わない辺り、洸らしい。

 

「でも、意外だったな」

「何がだ?」

「洸は忙しくなる方が良いのかと思っていたから、ユキノさんの無茶振りを嫌だと思わないと思っていた」

「あー……」

 

 どこか答え辛そうなリアクションをする洸。

 目線が自分から逸れた。

 

 何を焦っているのか、と以前洸に聞いたことがある。

 その時彼は、分からないと答えた。何かをしなければいけないことは分かるけれど、何でその感情が湧き上がってくるのかは分からないと。

 その焦燥感らしきものの出所について、彼は考える時間が欲しいと言った。

 あれから結構な時間が経つけれど、答えは、出たのだろうか。

 

「確かに、忙しくなること自体に不満はないな。それで誰かを待たせたりするって言うなら話は別だが」

「それはやっぱり、なにかしていないと落ち着かないからか?」

「ああ。どうやらそうらしい」

「らしいって、他人事みたいだ」

「自覚がないから、どうもな」

 

 そういうものなのだろうか。

 何にせよ、自覚がないということは、答えはまだ出ていないらしい。

 少し気合を入れただけに、残念、というわけではないけれど、拍子抜け感は否めなかった。

 しかし元より一朝一夕で解決する問題でないのも事実。自分も洸の迷惑にならない範囲で、できる限り手伝いたい。

 

「あれから、色々考えてみたんだ。ハクノに指摘されて、でも答えは出なかった」

「……」

「その上で、この前のあれだ。この前の小旅行で温泉に浸かった時のこと、覚えてるか?」

「小日向や伊吹にも言われてたな」

「ああ。あの時咄嗟に否定しちまったけど、あの瞬間、前にハクノにも言われた、『その感情に振り回されてたら、いつか誰かを悲しませる』って言葉を思い出してた」

 

 ……そういえばそんなこと、言ったっけか。

 あの時の言葉は嘘ではない。きっと彼を心配する人は多いだろうと思ってのことだった。特に自分が知っていた範囲だと、倉敷さんとかがそうだ。後は空もか。

 どちらかと言えば、空の方を思っての発言だっただろう。彼女は洸を心配する反面で、彼に憧れを抱いている。今はそれで良いと思うけれど、もし洸が倒れるようなことがあれば、彼女の中で色々な葛藤が起こりそうだったから。

 ……まあでも、縁で結ばれただけだった同好会の頃とは違い、今のX.R.Cの縁は、深く固いものとなっている。自惚れではないけれど、何かあった場合のフォローはできるだろう。まあ大部分は彼女自身の強さに任せることになってしまうのだけれど。

 

「焦ってるって。それでいて、それをかき消す為に色々動いているオレが、心配だったって。そう言うアイツらの姿は、まさにハクノの言う通りだ」

 

 

──Select──

  心配されているうちが華だ。

  他にももっといるかもしれない。

 >まだ、誰も悲しませてはいないはず。

──────

 

 

「まだ、だろ。それに心配を掛けている時点で、正直クるものがあった。だから取り敢えず、出来ることから始めてみようって思ってる」

「出来ることって?」

「取り敢えず、より自分と向き合い直すところから始めようと思ってる」

 

 なるほど。それは大事そうだ。

 どうやってやるかとか、目途は……着いていそうだな。

 目に迷いや陰りが見えないから。

 

「せっかくだし、ハクノも一緒にやらないか?」

「何を?」

「空手」

「……空手!?」

「己と向き合うって言ったら、武道。それも相手の居ない空手の型や弓道とかが最適だと思ったんだが……やらないか?」

 

 ……いや、驚きはしたけれど、やりたくない訳ではない。

 けれども、中途半端な気持ちで始めて良いのか、という懸念はある。

 ……いやでも、手伝いたいと思ったばかりだろう。ここで尻込みするのはあり得ない。

 それに、何か得られるものもあるかもしれない。なくてもその経験は糧となるだろう。

 

 

──Select──

  他にも誰かを誘う。

 >喜んで付き合う。

  付き合う代わりに対価を求める。

──────

 

 

「……なんか付き合わせてばっかで悪い」

「いいや、いつもいい経験をさせてもらっている」

「その前向きさは見習うべきなんだろうな。……まあ、だからこそ誘っている訳だけどよ」

 

 え? と聞き返したものの、彼は何でもないと話の流れを断った。追及は難しそうだ。

 まあそこまで気になる内容でもない。言わないということは、言う必要がないことなのだろう。

 本音で話し、色々と打ち明けられるようになった分、大部距離が縮まった気がする。

 何にせよ、これから頑張らなければ。

 

 

──夜──

 

 

 今日は病院の清掃アルバイトだ。

 灯りが付いているとはいえ、不気味なことに変わりない。

 逸る身体を抑えつつ、真剣に掃除を行った。

 

 

 




 

 コミュ・魔術師“時坂 洸”のレベルが6に上がった。


────
 

 度胸  +1。
 根気  +2。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。