PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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10月6日──【神山温泉】旅行初日 7

 

 

 誰かの声が聴こえる。

 ああ、この感覚には覚えがある。

 どうやら自分は寝ていて、誰かが起こそうとしてくれているらしい。

 ……でも、自分はどうして寝ているのだっけか。

 まあ、良い。起きるとしよう。

 

「────ノ!?」

 

 目を、開ける。

 

 ぼやけた視界が捉えたのは、灯りと影だった。しかしそれが何なのか、ここがどこなのかをはっきりと捉えることはできない。

 捉えられないのは、音も同じだ。聞き覚えのある音はするけれども、それが何かが分からなかった。

 しかしそれも目を開けて数秒のこと。時間が経つにつれて、感覚が段々と景色と音を取り戻していく。

 

「「はぁ~」」

 

 聴こえてきたのは、安堵の吐息。

 どうしてか、仲間たち全員が自分の周囲に集まっていた。

 

「……あれ、どうした?」

「どうした? じゃないですよ!」

 

 空が怒る。

 自分が怒られている。

 しかし原因が分からない。空も理由なく怒る人間ではないし、何かしただろうか。

 

「……岸波君」

「どうした、柊」

「さっき、何の話をしていたか、覚えている?」

「さっき……?」

 

 どういう意図の質問かは分からないけれど、そういえば自分が寝ていたタイミングも分からない。眠る前のことを思い出してみる必要が確かにありそうだ。

 ……ええと。

 

「確か、璃音が部屋に来て、美月と柊の所属関連の問題の解決策を聞いて、後は……そういえば、歴代の自分と同類の力を持つ人の特徴の話なんかをしていた、と思う」

「……………そう。“すべて覚えている”ようで安心したわ。2度同じ話をするのも手間だったし」

「……柊」

「急に人の苗字を呟かないでくれるかしら時坂君」

「呼んだだけなのに当たり強くね?」

 

 そう言って見つめ合う2人。

 なんだか妙な雰囲気だ。

 

「……ま、安心したよ。ハクノセンパイ、いつから寝てたのかは知らないけどさ、頭から床に倒れてったのに起きないから。まあハクノセンパイにとっては難しい話ばかりで、居眠りしたくなったってのは仕方ないだろうけど」

「そんなダイナミックに寝たのか、自分。というか、別に話も難しくはなかったぞ」

「てっきりまた記憶喪失になるかと思って、僕以外のみんなが心配してたんだから」

「それは、すまない」

 

 確かに、頭を怪我すればそういう可能性もあるか。

 自分の場合特殊ではあるけれど、一度記憶を失った経験がある。そんな自分が頭に強い衝撃を与えられる姿を見せつけられれば、心配になるのも当然かもしれない。

 

「心配を掛けて本当にすまない。もう大丈夫だ。話し合いを再開しよう」

「本当に大丈夫なのか?」

「ああ。志緒さんもありがとう。おかげで目が覚めているから大丈夫。どれくらいの間自分は寝てたんだ?」

「数十分ってところだな」

 

 思ったより長かったらしい。

 それだけの時間、話し合いを中断させてしまったのか。

 起こしてくれればいいのに、というのは大変失礼だろう。わざわざ起きるのを待っていてくれたほどなのだから。

 

「まあ、本人もこう言っていることですし、元の場所に戻りましょうか」

「う、ウン」

 

 美月の合図で全員が元の位置に戻る。

 自分は記憶の中の自分の最終位置からほとんど動いていなかったので、身体を起こして姿勢を正すだけで済んだ。

 

「さて、多少トラブルはありましたし、話すべきことだけは話してしまいましょう。九重先生」

「うん、そうだね」

 

 美月が九重先生の名前を呼ぶ。先生はここまで積極的には会話に参加していないけれど、彼女が話題の鍵を握るとすれば、部活のこと関連だろうか。

 

「それじゃあ話すね。まず、この中でこれから始める部活のことを聞いていない人っているのかな?」

「一応、全員聞いているはずですが」

「ああ、直接話したオレと空は勿論、ハクノを通じて全員に連絡はいっているはず……だよな?」

 

 言われて思い返す。

 確かにあの時、入院していた璃音と柊のお見舞いに、自分と美月、祐騎、志緒さんの4人で訪ねに行った。実際に九重先生と話した洸と空を含めれば、全員が聞いていることになる。

 

「ああ、話したはずだ」

「うん、じゃあその前提で話すけれど、この連休明けから、みんなには部活動に参加してもらいます。文化部扱いだから、運動部に所属している郁島さんや岸波君も所属して問題ないよ」

「運動部と文化部って兼部できるんですね」

「うん。そこは大丈夫」

 

 数人がへえといった反応をする。空と祐騎はまだしも、志緒さんと璃音は……いやまあ、部活とは縁のない人たちだから仕方ないといえば仕方ないか。

 

「活動内容だけど、基本的には地域貢献活動。あと民俗学及び社会学をフィールドワークで学ぶ活動って内容で登録してるよ」

「地域貢献活動ってことは、ボランティアとかをしなくちゃいけないってこと?」

「ううん、そこは自由参加のつもり。一応活動として、人脈が広がりそうなボランティアの要項は持ってくる予定だよ」

「とはいえ、誰も1つも参加しないとなるとそれはそれで活動内容を疑われてしまうから、時間がある人は参加した方が良さそうね」

 

 忌避感はないし、暇があったらやってみよう。誰かを誘ってみるのも良いかもしれない。

 ……少なくとも、誘ってみないことにはやらなそうなメンバーもいるしな。逆に誘われるようなことがあったら積極的に参加していきたいけれど。

 まあ、実際のところはその要項とやらを見てからだろう。物の種類によって誘いやすいメンバーも変わるだろうし。

 

「九重先生、そのフィールドワークっていうのは、いつもの探索活動で良いんですよね?」

「うん、大丈夫。高幡くんと北都さんは3年生だから、12月末で引退にはなっちゃうけど」

「構いません。受験もありますので。どちらにせよその頃には一旦活動を抑えなければいけませんし」

「ま、そこは文化部はすべて12月までの引退って学校が決めてるんだ。そこに文句は言えないよな」

「あの、ミツキ先輩は生徒会と兼任で大丈夫なんですか?」

「生徒会執行部は一応大丈夫との決まりですね。仕事量的にやらない人が多いだけで。私も生徒会長としての仕事を優先はしますし」

 

 そうなのか。それは知らなかった。

 まあ大丈夫なら何より。

 

「というかその話でいくと、全員所属の問題はなさそうだけど、部活に入りたくない人とかはいない? 大丈夫?」

「自分は大丈夫だ」

「わたしも大丈夫です!」

「あたしも……まあ大丈夫かな。人が集まっちゃうかもだけど」

「ああ、久我山が所属すると集まるかもな。って言ってもまあどうにかなるだろ。オレも大丈夫だ」

「僕はまあ嫌だけど、仕方がないかなって」

 

 全員快諾……とまではいかなかったけれども、了承を得ることができた。

 これで先輩たちが引退したとしても6人が残る。部として残すことが可能だ。

 ……いや、部活として残したい訳じゃないんだけれども。

 

「で、部活名はどうするんだ?」

 

 志緒さんの質問に、一回全員が黙る。

 いや、美月とか柊とか九重先生が回答してくれないと誰も分からないけれど。

 

「一応、裏で活動する呼称は決めてるんですけどね」

「というと?」

異界(Xanadu)調査(Research)(Club)。略してX.R.C」

「……なんで裏の呼称だけ決まってるのさ?」

「決まっているというか、引き継いだ、と言って良いかもしれません。前回……10年前のこの土地で活動していた団体が、X.R.Cを呼称していたみたいなので」

「ふーん。ならそれになぞらえて僕らの部活は、不可思議現象(X)調査(Research)(Club)。略してX.R.Cなんてどう? 一応民俗学のフィールドワークって体もあるんでしょ?」

 

 祐騎の提案。

 2重の意味を持たせる略語を浸透させることで、自分たちも他の人たちも違和感なく呼べるようになる。

 加えて、覚えやすいという意味でもとても良いだろう。

 

「それで良いんじゃないか?」

「では、その名前で」

「うんうん、申請しておくね! あとは部長職なんだけど、2年生の誰かにお願いしたいな」

「洸」「「時坂(クン)」」

「……は!?」

 

 まさか重なるとは思わなかった。

 けれども、まあ自分たちの中から選ぶとすれば当然と言って良いだろう。

 

「なんでオレなんだよ? ハクノでも良いだろ」

「いや、フィールドワークを主にするなら、この地にずっと住んでる洸の方が適任だろう」

「普段からボランティアみたいな動きをしてるし、リーダーにするなら時坂君の方がイイんじゃないかなって」

「岸波君は異界探索の方でリーダーを任せているし、そこでトップを分けておくのはアリだと思うわ」

「ハハッ、人望厚いじゃねえか、時坂」

「ま、僕はどっちでも文句ないケドね」

「ふふ、私も時坂部長に賛成です」

「あはは、私もみんなの言う通り、コー君に部長をお願いしたいけど……どうかな?」

「……」

 

 口をパクパクとさせる洸。開いた口が塞がらない様子だ。

 とはいえ、自分たちの意見は一致した。彼がどうしても嫌だと言うなら考え直すけれど、そうでないのなら彼にお願いしたい。

 

「……ったく、分かった。やるよ」

 

 観念したように受け入れる洸。とはいえ嫌々というほどでもない様子だ。

 安心して任せることにしよう。

 

「取り敢えず、部活関連の話はこれで良いでしょうか」

「そうね。他に話題がある人はいるかしら?」

 

 顔を見合わせるけれど、誰も何も思いつかないらしい。

 ということは、取り敢えずこれで解散になるか。

 

「それじゃあ、長時間ありがとう。これで話し合いを終わりにするわ」

「まあ今後は部室を使ってミーティングもできますので、何か話忘れたことを思い出したら言ってください」

 

 ……そうか。今後は部活として正式に部室を使えるんだったか。

 

「部室はあの空き教室を?」

「ええ。そのまま使用できるよう手配してます」

 

 それはよかった。慣れている場所だし。

 

「それでは改めて、長い時間お疲れ様でした。九重先生、これからよろしくお願いします」

「「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」」

「うん、これからよろしくね!」

 

 




 

 コミュ・愚者“諦めを跳ね退けし者たち”のレベルが8に上がった。

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