お風呂から出て、各々自由行動の時間。
自分もどこかに行こうかと部屋を出る。
一応この後の予定としては、夕飯を食べた後に同好会での話し合いをすることになっている。話し合いの内容は多岐に渡るようで、細かくは知らされていない。
取り敢えず、空いた時間は有意義に過ごしてほしいとのことだけれど、どうしようかな。
……ロビーに出るか。誰か居るかもしれないし。
────>神山温泉【ロビー】。
ロビーに下りると、数名を発見した。更に中庭に目線を向けると、ほとんどのメンバーが外に出ている。
誰かに話しかけよう……と思ったけれど、やはり一番様子が気になるのは。
「璃音」
「……あ」
大きいソファーに1人座る璃音。顔は下に向いていて、手で覆い隠されていた。
やはり思う所が多いのだろう。少しでも力になれると良いのだけれど。
「大丈夫か?」
「……まあ、うん。あたしが選んだことだし。場所がここだったのは運が悪かったケド」
まあ、それはそうだ。場所が知らされたのはかなり後。まさかSPiKAの宿泊先と被るなんてこと考えていなかっただろう。
それにしても、SPiKAはどうしてここに?
「SPiKAが今日ここに来ることは決まっていたのか?」
「ウン。ライブツアー前の決起会でね。離れに宿を取ってるみたい」
「なるほど。行かないのか?」
「……行けないでしょ」
「そうでもないと思うけれど」
目線があう。だいぶ疲労が見えている。先程の遭遇で、気付かれないという万に1つの可能性もなくなってしまったからか。
でも、だからこそ。
「きちんと話すべきだと思う。どうしてこちらを優先したのかとか、今の気持ちとかを、伝えないと」
「あたしの、気持ち」
「上手く整理が付かないのであれば、いっかい吐き出してみたら良いんじゃないか?」
「……聞いて、くれるの?」
頷きを返す。
逡巡の末、彼女はぽつりぽつりと話し出した。
「こっちの集まりを優先したのは、単純に大事だと思ったから。今回は色々なことが、あったじゃん?」
「あったな」
璃音と柊のこととか、美月と柊のこととか。あとはサクラのことや、九重先生とのことなど。
軽く思い返しただけでも色々あったように思える。
「心配だったのもあるし、あたし自身色々と不安だったこともあるから、しっかり話さなきゃって思ってたの」
「そうか……ありがとう。真面目に考えてくれて」
「ううん、本当に真面目に考えていたら、あたしは今こんな気持ちになってないと思う」
それは……残念ながら反論する余地はなさそうだ。
「多分あたしはきちんとこの選択のこと、考えたつもりになってた。さっき初めてあたしが選んだことの重さが分かったって言うのかな」
「異界攻略を選んだことか?」
「アイドル活動よりも、異界攻略を……キミ達を優先したことかな」
優先という考え方で言えば、確かに彼女はこちらを優先した。後から出てきたであろう予定のこちらをだ。
しかしその時の流れだとか、さきほど璃音が言った通り、状況がこちらを優先させたというのはあるだろう。
……?
ああ、だから“もっと真剣に考えるべきだ”と言っているのか。
「璃音は後悔しているのか? こっちを選んだことを」
「……それは……してないケド」
「してないなら、もっと時間を置いて考えた所で、変わらなかっただろう。もしくは向こうを選んだところで、同じ後悔をしていたんじゃないか?」
なんて。分かりきったように言っているけれど、そんなことはないだろう。
彼女が悩んでいることは、きっと、“アイドルである自分”よりも優先させることが出来たということについて。大切な夢よりも優先させることがあったことに対する驚きだろう。
けれど先程も言った通り、タイミングというのもあったし、何よりアイドル休業中ということが最も大きく作用しているはず。
「……」
しかし、あまりそのことを意識させない方が良いだろう。彼女自身にはどうしようもないことだったし、無理に焦らせる訳にもいかない。
……そういえば、彼女の特訓って、どうなっているのだろうか。
後で柊に聞いてみよう。
「璃音の中にしっかりとした、優先した意味があるのであれば、それをはっきりと伝えると良い」
「でも……」
「“怖くないなら、恐れていないなら、ぶつけた方が良い”んじゃなかったのか?」
「!?」
先月。
璃音と柊が行った喧嘩の際、璃音が言った言葉。
はっきり言わなければ分からない。話し合わなければ両者にしこりが残る。
なら、話し合い以外での解決策は取れないだろう。
「まさか、理解されないと思いこんでいるわけじゃないよな?」
「……いや、そもそも異界攻略のことは伝えられなくない?」
「…………」
それは……
確かに……
そうだけど。
「ふっ、ふふふっ」
唐突に、璃音が笑い出した。
吹っ切れたような、快い笑い方ではない。込み上げてきたものがせき止められずに零れたようなもの。
それでも、ふさぎ込んでいた表情からは改善されたのだろう。
「そうだよね。想いは“抱え込むもの”じゃない。“ぶつける”もの。うわー……アスカにあんな啖呵をきったのに、あたし恥ずかしくない!?」
──Select──
>「まだバレてない」
「早く行かないとバラす」
「あ。あそこに柊が」
──────
「そ、そうだね。……よしっ、まずは離れに行こうかな。話す話さないはともかくとして、挨拶くらいはしないとね」
「行けそうか?」
「うん。ありがとね。大事なことも思い出せたし!」
「? 大事なこと?」
なんのことだろうか。
「うーん……内緒」
「内緒って」
「ふふ、いつか機会があったら話すね!」
よし! とソファーから腰を上げる璃音。
すれ違う直前、彼女の口が小さく動いた。
「何のための活動かは、あたしが覚えていれば良い。あたしが忘れなければ、大丈夫」
己に言い聞かせるように、刻み込むように、小さくしかし力強く呟く璃音。
自分に向けられた言葉ではないので、反応はしない。
気負いすぎているようなら、また声を掛ければ良いだろう。
「じゃあ、行ってきます! あ、着いてきちゃダメだからね。いくらキミだからって、流石に無理だから」
「いや、行かないから」
いくら璃音の友人で、SPiKAの面々と面識があるからといって、そこまで無礼は働けない。それに、これから話をしようとしている璃音に付いて行ったら邪魔だろう。
いや、彼女曰く、話をするのかどうかは分からないけれど。
話して、理解し合えると良いな。
コミュ・恋愛“久我山 璃音”のレベルが7に上がった。
第7話Bルートが解放されました
第7話Cルートが解放されました