放課後。
異変発生後ということで、しばらくの間、色々な知り合いに声を掛けてきたが、大方話し終えることができただろう。
……最近仲間たちと話してないな。誰かに声を掛けてみようか。
────>杜宮高校【1階廊下】。
「ん? あれ、ハクノセンパイじゃん」
「祐騎、今帰りか?」
「そうだね、センパイも? だったら一緒に帰らない? ちょっとジャンクショップに寄ろうかなと思ってるんだけど」
「わかった。一緒に行こう」
「そうこなくっちゃ」
……祐樹と一緒に寄り道をして帰った。
──夜──
今日は火曜日だし、もしかしたら佐伯先生が蓬莱町に居るかもしれない。
ちょっと話をしに行ってみるか。
────>カフェバー【N】。
カフェのカウンターに座っている担任の姿を見つけた。
近付くと彼も自身に近づく人の気配に気づいたのか、こちらを振り返る。
「ああ、岸波か」
「こんばんは。隣空いてますか?」
「良いぞ」
了承を得て、隣の席に腰を下ろす。
彼は夕食をここで取っていたらしい。目の前の机にはタコライスが少し残っている。
「火曜日と木曜日はここで、と言ってましたが、それ以外の曜日はご飯どうしてるんですか?」
「基本は自分で作っているな。ただ、気分転換と作業時間の確保のために外食の曜日を決めているんだ」
「なるほど」
まあ確かに、買い物等を含めた準備に、実際の食事時間、後片付け等を考えるとかなりの時間がかかってしまう。先生のように忙しい人たちからすると、その時間ももったいなく感じるのかもしれない。
「そういう岸波も独り暮らしだろう? 食事はどうしているんだ?」
──Select──
>作ってます。
買って済ませます。
作りに来てくれる人が。
──────
「ほう。偉いじゃないか。栄養バランスには気を付けているか?」
「一応大丈夫だとは思いますけれど。野菜を多くとるようにはしてますし」
「野菜を取ることはもちろん大事だが、一番大事なのはバランスだ。野菜を多くとっているのは立派だが、魚や動物から取れる栄養も健康には必要だぞ」
確かにそれはたまに聞くな。
動物性たんぱく質という名前もあるみたいだし。
「先生は結構気にされてるんですか? 栄養とか」
「ああ。身体づくりは食事からともいうし、以前から結構気を使っているな」
「身体づくり? 運動でもしていたんですか?」
「まあ、そんなところだ」
身体づくりをする目的はなんだったのだろうか、と考えて、1つの可能性を思いつく。
「もしかして、登山のためですか?」
「……まあ、そんなところだ」
……一瞬、間があったか?
もしかして違ったとか。でも訂正をしないということは、向こうにも話すつもりがないということかもしれない。
しかしだとしたら、昔の佐伯先生は何故身体づくりをしたがったのだろうか。
何かスポーツをやっていたとか? それとも筋力が付きそうな仕事に付こうとしていたとかだろうか。
「先生って、昔何になりたかったとかってあります?」
「どうした、突然」
「いや、大学でどういう勉強してたのかなって」
「ああ、そういえば岸波も残り1年半と経たずに高校卒業だな。進路についてなにか悩みがあるのか?」
「……自分はまだ、何が勉強したいのかとか、将来の夢とかが決まっていないので」
決まっていない。やりたいことも、なりたいものも。
高校生の大部分は大学へ行くと聞く。そうでない人は基本的に、何かやりたいことがあるか、もしくは早く社会に出て稼ぎたいとか。まあ明確な目標があったり、大学へ行く必要がない道を選んだりする人が大半だ。
一方で、何の目的もなく大学へ行くという選択肢を選ぶ人も多い。一種の時間稼ぎであったり、或いは道を探す為だったりとこちらも千差万別だろうけれど、まあ進学するのであれば何かしら学習する内容を選ばないといけないだろう。
だから、色々な人がどうしてその進学先を選んだのか、という話には、とても興味があった。
……まあそれとは別に、彼の趣味嗜好を知れる良い機会にも思えたという理由が後付けで思い浮かんだけれど。佐伯先生を慕う後輩にも色々と情報を横流しするよう頼まれているし。
「俺が大学へ入ったのは、趣味の延長である社会科系の勉強をしたかったからだ。その後、まあ色々あって違う内容の勉強を始めたんだが、その時も含めて根底にあったのはいつも“やりたいこと”だった」
「やりたいこと……」
「ああ。熱意だとか、信念だとかと言い換えて良い。大学で学ぶ期間は4年。その長いようで短い時間を使って勉強するということを、しっかり意識するべきだと、俺は思う」
4年間か。確かに単語として聞くと長そうにも思える。その時間を無為に過ごすか有益に消費するかの違い。今の言い方から察することに、彼は目的を持って臨んだからこそ、大学生でいる期間を無駄にせずに済んだ、ということだろう。
……となると、自分は大学には行くべきではないのだろうか。
「まあ、とはいえ大学は学ぶだけのところではない。新たな人との出会いもあるだろうし、夢を探す目的で入るのもまあ悪くはない。どう選ぶかは、その人次第だな」
「なるほど」
「また悩みがあれば聞きに来ると良い。先達として、出来る限りは答えよう」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
学校ではないけれど、こうして親身に相談に乗ってくれる。
良い先生だな、と思った。
……しかし、話していてもいまいち、新しい情報が出てこないな。ガードが硬いと言うべきか。
佐伯先生に対して、ミステリアスな人という評価だったり、クールな人という評価だったりを聞くけれど、その本質が多少分かってきた気がする。
なんだか特定の事柄に対して、上手く隠されているような……意図的にはぐらかさせようとしている感じがする。
もう少し接していれば、何か分かるだろうか。
コミュ・刑死者“佐伯 吾郎”のレベルが3に上がった。