PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 ※お詫び。
 今までレイカの漢字表記である怜香を間違えて伶香と表記してしまっていたこと、深くお詫び申し上げます。


10月1日――【クラブハウス】怜香の向ける信頼 1

 

 週が明けた月曜日の放課後。

 自分は部活へ出ることにした。

 自分も結構早く来たつもりだったが、自分より先にハヤトが練習を始めている。

 ユウジの姿はない。

 

 ……少し、ハヤトの取り組み方が鬼気迫っているようにも感じられるが、ひとまず様子を見ることにした。今は他にも彼の友人や後輩がいることだし。

 自分も早く、泳げるようにならないとな。

 

 

──夜──

 

 

────>【マイルーム】。

 

 

 家で夕食を終え、くつろぎがてら本でも読もうかと思った所で、サイフォンが鳴動した。

 誰かからの連絡だろうか。そう思ってサイフォンを起動すると、最近連絡を取るようになった人物の名前、如月 怜香の表示が浮かび上がる。

 

『久し振り。少し良いかしら?』

 

 何かあったのだろうか、と考えたものの、心当たりなどある訳がない。

 ……他にやることもないし、特に断る理由もないか。

 

『ああ、大丈夫だ』

『時間は取らせないから、また公園に来てくれる?』

『わかった』

 

 ……外に出よう。

 

 

────>杜宮記念公園【マンション前】。

 

 

 マンションの外に出ると、門に身体を預けている女性が視界に入った。

 変装はしていてもどこか他の人と一線を画すオーラを纏った人間。間違いなく、如月 怜香その人だ。

 

「こんばんは。待ち伏せてしまったようになってごめんなさい」

「いいや、大丈夫だ。寧ろ来てもらったようでありがとう」

「こちらが呼び出したのだし当然だわ」

 

 そういえば前回、住んでいるところを教えたのだったか。

 わざわざこちらまで来てくれたらしい。

 

「けれども大丈夫なのか? 結構このマンション、人通り多かったと思うけれど」

「ええ。幸い誰にも気づかれていないみたい」

「まあ変装上手いしな」

「そう?」

「……璃音に比べれば」

「リオンより下手な人は変装しないでしょう」

 

 ……いやまあ、どうだろうな。

 彼女自身、変装が下手だとは思っていないみたいだし、容易く見破られたことに驚いているようだった。

 自覚がないだけで、そういった変装をしている人も多いかもしれない。

 

「正直なところ、知名度がまだまだということもあるかもしれないわね」

 

 

──Select──

 >自分は知っているぞ。

  有名だと思うけれど。

  現状じゃ足りないのか?

──────

 

 

「……ありがとう。けれど貴方たち杜宮高校の生徒にとっては、リオンが最も身近なアイドル。だからそのつながりでSPiKAを知っているという人が多いでしょう? そうでもない人たちにとって、私たちはそこら辺にいる女子高生と大差ないわ」

 

 メジャーデビューしている以上、知名度がないということはないはず。しかしながら彼女は認識が違うらしい。

 そういえば以前、璃音が怜香のことを、『1番ストイックに努力をしている』と評していた。

 そのあたりも関わっているのだろうか。

 

「というか貴方、私たちのファンじゃないのよね? 璃音から聞いてるわよ」

「いや、ファンだけれど」

「……えっ。……ああでも、聞いたのは結構前だったし、最近そうなったとか?」

「いや、結構前から。ただ、璃音に言うのは復帰してからにしようかと思って」

「……そう。まあ貴方たちの関係に口出しはしないわ。ただ、応援とかは口に出さないと伝わらないものだから、機会が来たら積極的に伝えてあげて」

「分かった」

 

 まあ、尤もだ。

 彼女が復帰した時には、惜しみない声援を送ろう。

 

「あ。ただ応援は本当に有り難いわ。今後も私たちは成長し続けるから、これからもよろしくね」

「ああ、応援している」

 

 綺麗な笑顔を浮かべる怜香。璃音のような明るい笑顔ではないけれど、爽やかで優しい魅力的な笑顔だ。

 何となく、璃音とは違うなと思う。どちらが良いとか悪いとかいう話ではなく、アイドルとしての在り方の違いみたいなものがひしひしと感じられた。

 これが個性というものだろうか。

 個性……個性か。

 いや、昔に比べたら自分もかなりの個性を獲得しているはずだ。その単語でナイーブになる必要はない。はず。

 ……考えるのはやめよう。

 

「それで、今日はどうした?」

 

 本題。

 多忙な彼女が自分の時間を必要とした理由を、まだ聞いていなかった。

 まあ十中八九璃音のことだろうけれど。

 

「ああ、1つ確認したいことがあったのよ」

「相談?」

「リオンと一緒に、カラオケとかって行く?」

 

 

──Select──

  行く、かも。

 >行かない。

  誘ったことない。

──────

 

 

 この質問をされるということは、璃音の“症状”を探られているのだろう。

 とはいえ、嘘を吐く必要もない。もしここで嘘を吐き、後日怜香が璃音をカラオケにでも誘ったとしよう。その際に璃音が断るとして、『でも岸波君とは行ったのでしょう』とでも言われてしまえば、彼女もやりづらくなるだろうから。

 

「……そう。なら、誰かとリオンが一緒にカラオケに行ったとかの話って聞く?」

「いや、あまり聞かないな」

 

 というより、璃音とは親しくしているものの、彼女の交友関係にまで詳しくはない。せめて仲間内ならば分かるかもしれないけれど、それ以外はまったくと言って良いほど知らないしなあ。

 

「そう……やっぱり」

「やっぱりって?」

「私たちが誘った時も断られたから……となると問題は……」

 

 険しい表情で黙り込む怜香。

 ……まあ、察されてしまうよな。

 

「……まあ、良いわ」

「え、良いのか?」

「リオンが助けを求めてきているならまだしも、そうではないし。ただ、求められたときに何か出来るよう備えておきたいだけよ」

 

 決して突き放しているわけではない。声には優しさが伴っている。

 怜香から璃音へ向けている信頼も感じ取れた。

 ストイックさも垣間見えるけれど、根底には優しさがある。また伶香のことが分かった気がする。

 

「さて、聞きたかったことも聞けたし、今日はもう帰るわ。ありがとう」

「送ろうか?」

「大丈夫よ、まだそこまで遅くないし」

「そうか。じゃあまた」

「ええ、またね」

 

 ……公園から出る彼女を見送る。

 そろそろ帰ろうか。

 




 

 コミュ・星“アイドルの少女”のレベルが3に上がった。


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