PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月30日──【マイルーム】路上ミュージシャンの歌 1

 

 

 今日は日曜日。昨日に続いて学校が当然休みだ。

 予定はない。しかし何かしたいという漠然とした欲求がある。落ち着かないというかなんというか、とにかく衝動を持て余していた。

 ……そうだな、今日はバイトに行くか。

 

 

 

──夜──

 

 

────>【駅前広場】。

 

 

 帰り道。

 バスに乗って駅前広場のバスロータリーに辿り着く。

 階段を昇っていくと、だんだん、聞いたことのあるような音楽が耳に届き始めた。

 高架の歩道に足が付いた頃には、彼──オサムの姿を視界に捉えられるようになる。

 ……今日も、彼の周りに人が居ない。

 近付くと、彼はこちらに気付いてくれたのか、歌唱中にも関わらずこちらへウインクしてくれた。

 暫く聞いていこうか。

 

「っ! ……おおきに~」

 

 締めの一音を奏で終え、挨拶を区切りにした。

 そしてそのままギターを持ったままこちらへ歩いて来る。

 

「なんや、きてくれたんか」

「はい。頑張ってますね」

「あいかわらず、鳴かず飛ばずやけどな」

 

 自虐気味、というほど沈んだ表情ではない。純然たる事実として捉えているのだろう。それはそれで問題だけれども。

 

「今日はどうしたんだ?」

「バイトの帰りです」

「あ~、温泉でバイトしとんやったか。って、敬語」

「……おっと。そうだ」

 

 そういえば以前、もっとフレンドリーにって言われて、敬語は止めるようにしたんだったか。忘れてた。

 気を抜くとついつい敬語になってしまう。

 

「それにしても、ええな。旅館のバイトっていうのは」

「ああ、良いところだ。ぜひ来てくれ」

「おおきに! そのうち行くわ!」

 

 快活そうに彼は笑った。

 

「そういえば、どうしてそのバイトを始めたんだ?」

「うん?」

「金が必要やったんか?」

「ああ、そういうんじゃなくて」

「じゃあ夢とか?」

「そういうのでもなくて」

 

 何といえば良いんだろう。

 

 

──Select──

 >人生経験のため。

  興味があった。

  暇つぶし。

──────

 

 結局は、経験を積みたかったからに尽きる。

 向き不向きもやってみないことには分からないだろうし、ということで始めたような気がする。結構前のことなので、思ったより詳細には思い出せないけれど。

 

「人生、経験? どういうことや?」

「自分はまだ夢とかそういうのを持っていないので、判断する為に色々経験を積まないとって思ったんだ」

「そうか。はやく見つかるとええな」

 

 まあ、漠然とやりたいことは見え始めてはいる気もするけれど。まだまだ鮮明なビジョンになっていない。でもこうして輪郭を捉えられるようにはなっているから、進んできた道は間違っていないのだと信じられる。

 

「ま、夢の為の努力も、夢を見つけるための努力も、正直同じようなもの。最短ルートだけが正解やあらへん。今は雌伏の時やな」

「雌伏の時?」

「高校生といえば、夢とかを持っとるやつもおるやろう。比べたりすることないか?」

 

 夢を持っている人と自分を比べる、か。

 したことは確かにある。

 自分がどうにか夢を見つけようと頑張っていたのは、そういった理由もあった。

 特に最初杜宮に来た出会った人たちといえば、将来会社のために働くことを意識し、その上で努力をしている美月や、既にアイドルとして活躍し、夢を叶える為の努力をしている璃音など。

 その姿を見て、眩しいと思ったのだ。

 

「眩しい、ねえ。焦るんやのうて憧れたんか」

「憧れた……うん、そうだな」

 

 間違いない。憧れたのだろう。

 自分にはない輝きだからだ。

 

「うーん」

 

 自分の答えに対して、どうしてか頭を悩ませるような雰囲気を醸し出したオサムさん。

 焦っている、という回答が欲しかったのだろうか。

 焦っていなかったわけでもない。人と比べて劣っている点だ。なんとかしたいと思うのは当然だろう。それでも必要以上にそれを出さなかったのは、色々な人と出会い、“夢”の難しさを知ったからかもしれない。

 夢を持っている人、持っていない人、いろいろな人との出会いがあり、やり取りがあった。言葉を交わし、心境へ思いを馳せるたびに、夢というものの大切さを学んでいく。そんな大切なものが一朝一夕で思いつくわけがない、という思い込みもあるのかも。

 

「……それで、オサムさんは何に唸り声を上げたんだ?」

「ん? ああ、なんかええフレーズが浮かびそう、なんやけどな」

「フレーズ?」

「こう、喉のここらへんまで出てるんやけど」

 

 本当に喉の上、顎下辺りに手を当てるオサムさん。かなり出かかっているらしい。モヤモヤしそうだ。

 少し待ってみようか。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……あー! あかんで! ぜんっぜん思い浮かばへん!」

 

 ガシガシと頭を掻くオサムさん。

 特徴的なパンチパーマが、ゆさゆさと揺れた。

 

 

──Select──

 >曲を作るのか?

  手伝おうか?

  作詞大変そうだな。

──────

 

 

「ん? そうやで。言わんかったか? オレ、出会いやネタを纏めて歌にするのが夢やねん。そんで、君との語らいも東京での出会いの1つやからな。いつかは歌にしたいんだ」

「……なんど聞いても、良い目標ですね」

 

 本当に。

 そして自分がその目標に少しでも関われていると言うのであれば。何かが残ると言うのであれば、それはとても誇らしいことであり、嬉しいことだと思う。

 

「まあそのフレーズが出る出ないは置いておいて、完成することを願ってます」

「おおきに。絞り出すけどな! このままじゃ夜寝られへん!!」

 

 額に人差し指を押し付け、ぐりぐりと回す彼の姿を見て、心が温かくなる。

 夢に、目標に必死な人間だ。本当に。

 

「まあ今すぐ出さなくちゃいけない訳でもないし、また今度にしよう。また話してれば思いつくかもしれないし、もっと良いものが思い浮かぶかもしれない」

「……正直、出会いや会話なんて一期一会やし、もう少しこの閃きを大事にしたいところやけど……>こうなったらもうドツボやしな」

 

 といいつつ、顔は悔しさにゆがめている。

 それでも今言ったことは本心からの一言だったのだろう。

 彼は会話を切り上げて、ギターを再度握り直した。

 

「この悔しさを晴らすには、歌うしかあらへん! キミももう少し聞いてくやろ?」

 

 その問いに、力強く頷く。

 おおきに、と彼は笑った。

 元の定位置に戻った彼は、陽気な音楽を奏で始める。

 それから数曲聞いた後、夜も更けてきたので家に帰ることにした。

 

 




 

 コミュ・節制“路上ミュージシャン”のレベルが4に上がった。


────


 優しさ +2。
 魅力  +1。


────

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