PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月26日──【■■■■宮】駆け抜ける

 

 

「こいつは……」

 

 探索を始めて10分ほど。一番最初の開けた場所へと辿り着いた。

 そこに複数転がる影を見て、志緒さんが眉を顰める。

 

「……まさか、学校が異界化したから!」

「あのタイミングで校内に居た生徒と教師は全員巻き込まれたってことか!」

 

 そこに倒れていたのは、胴着を着た人や水着の人たち。水泳部の人や空手部の人たちだろう。自分にとっても見覚えのある顔があった。

 

「マイ先輩! チアキ先輩!」

「ハヤト!」

「ノブオ!」

 

 横たわるハヤトの近くに駆け寄る。気絶しているらしく、呼吸はあったけれど意識はなかった。他に横たわっている人たちも同様のようで、空が確認した空手部の方々も、洸が確認した2年生も、その他の水泳部の先輩たちも同様のようだ。

  異界化時にクラブハウス周辺に居た人たちが巻き込まれたのだろうか。

 ひとまずこの場にいる全員は意識がないものの無事のようだ。いや、無事とは言い辛いけれど、少なくとも現状命に別状はなく、大きなけがや衰弱をしている様子もない。

 

「……ひどい」

 

 空が相沢さんの上半身を起こしながら、唇を噛む。

 気持は全員同じだ。学校に居た人が全員巻き込まれているなら、全員、誰かしら関係者が巻き込まれていることだろう。

 

「どうする、岸波」

 

 志緒さんに伺われる。

 どうする、というのは、ここに居る生徒たちのことだろう。

 運び出すか、そのまま急ぎ攻略するか。

 

「このまま進もう」

「……え」

「私も、その方が良いと思います。幸いにして異界化は起きたばかり。時間的な猶予はあるでしょう」

「──ッ」

「それでも、全校生徒を助けるほどの時間はありません。それならば、一刻も早く異界化を終息させた方が良いと思います」

 

 一見非情とも取られかねない判断だと言うことは自覚している。それは美月も同様だろう。

 しかし、全員を助けられる可能性が一番高いのは、最速で異界を駆け抜けることだ。

 幸い、異界は今発生したばかり。最も異界適正が低い人でも、数日は持つ。

 我慢を強いるようで本当に申し訳ないけれど、美月の言う通り、1人1人搬出するには人手も時間も足りない。ならばこそ、全員救い切ることを目標とすべきだろう。

 

「意外だね。北都センパイなら、助けられる人だけ確実に助けるって言うかと思ったよ」

「……そうですね。正直な所、そうすべきだという思いはあります」

 

 祐騎の問いに、表情を浮かべずに美月が答える。

 

「ですが生徒会長として、学校にいる人たちは全員助けたい、という理想を抱いてしまうんです」

「……あなたが会長で良かったっす。北都先輩」

「ですね、本当に」

 

 こう言ってくれる人が居てくれるというのは、本当にありがたい。見捨てるという選択肢は本当にしたくないから。

 

「みんなを助けよう。絶対に」

「「「「「応!」」」」」

 

 

────

 

 

 どれほどの時間が経っただろうか。

 暫くの時間自分たちは走り回った。

 最初にクラブハウスに居たはずの人たちに会って以降、かなりの人たちが倒れているのを見た。その度、全員が悲痛な表情を浮かべながら危険がないかを確認だけして隣を駆け抜けていく。

 幸いだったのは、本当に危険そうな人がいなかったことだろう。唯一、フウカ先輩が居た時だけは肝を冷やしたけれど、顔色はいつもより悪いどころか若干安らいでもいたので、本当に申し訳なかったけれど、その意識を失った顔に急ぐことを誓い、先へ進んだ。

 

 ──そして。

 

 

「……」

「……」

「この先か」

「みたいだな」

 

 少し遠くに居ると言うのに、分かる存在感。

 姿が見えないと言うのに、鳥肌が立つような感覚。

 全身で感じ取っている。この奥の空間に、巨大な敵がいるということを。

 

「正直、虫の知らせとか直感とかは信じてないんだけどさ、これはちょっと別格すぎるでしょ」

「ええ。嫌というほど伝わってきますね。流石は連鎖要因の異界の主、ということですか」

「だが、退くわけにはいかねえ」

 

 全員が、震える身体に気合を入れる。

 

「アスカ先輩とリオン先輩は、無事でしょうか」

「そういえばここに着くまで会わなかったな」

「ここが終点ではない、ということでしょう。」

 

 この場に居ない彼女らの無事を案じつつ、このまま駆け抜けることが最善と信じ、竦んでいた足を進めることに。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして辿り着いた、大広間。

 立ちはだかる大型シャドウを、各自視界に入れる。

 

「■■■■■──」

 

 空間を震わせるほどの大きな咆哮。身体に重圧がかかった。

 その重みを跳ね除けるように、全員がサイフォンに指を添える。

 それぞれが気合を入れ直し、画面の上で指を走らせた。

 

 


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