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夢を見た。
泡沫の如き■だった。
終わりの定められた、恋の夢だった。
堕ち■。
■チる。
ただひたすらに堕■て■く。
堕■■、堕ち■、至■■は裏。
歪な■■から解■放■■た彼■■、そ■■も歪な■日常■在って。
や■り■■、■■、彼■は足■く。
今ま■で■■■■れな■った■■を■、■■で行■■■た■■■■い■■る。
■■■き、■■終■■せ、絶■■■い、■た次■■難■■■。
■■■閉ざさ■■未■の中、■■取■■い、■■■■え■■て、■■は乗り■■続■た。
例■その手が■■■■■■■、例え■■■■■■え■うとも。
残■■もの■■■すら■■繰り■せ、■■■■めず、望■■捨て■、ただ■■■らに■■上が■続■る。
誰■が■■。■■だめ■、勝■■■すぎ■。と
■■■嘆く。もう■■■■、時■■■い。■
■■■哭ら■■■聴■■け■■波 ■■■、■■し■■を止■■■■は■い。
岸■ 白■を■■■■た人■■■■、絶■■■■■■■■■■、諦め■■■■■■■。
■■■■■■■■■■、■■■泡沫■■■。■■■■時■■■■■く消■■■■いた、■■■■■■■夢■■。
■■■■■■■■■■■■、憶■てい■■■■、■■■。■■■■■■覚■■■■い。
そ■で■、■■■足掻き■■■■■結■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
────
「……」
目覚めは、緩やかだった。
いつもと比べて、はっきりと意識が覚めない。今日が曇り空だからだろうか。
……いや、なんというか、意味もなく疲れているような気がする。
最近そんな疲れるようなことをしただろうか。
いや、心当たりはない。週もまだ半ば。部活も体育も確かにあったけれど、昨日に限った話ではないし。
「……よし」
自分に気合を入れたと言い聞かせる為に、わざと掛け声を口に出す。
学校へ行く支度をしよう。
──放課後──
「ザビ、その様子では、杞憂だったみたいだな」
授業が終わってすぐ、眼鏡を掛けた男子生徒が話しかけてきた。
サブローだ。
「何が?」
「いや、今朝は酷い顔をしていたし、午前中は注意力が散漫だっただろう。ザビらしくない」
「……そうだったか?」
いや、確かに午前中のことを思い出せと言われたら、多少難儀する。
自分が実際に行ったこと、というよりは、自分が動くことを誰かの視線で眺めていたような形に近い。確かに注意力が欠けていたと言われれば、その通りのような気がしてきた。
「だが、今は普段と同じザビだ。せっかく元気を出させる方法を見繕ってきたのだがな」
「……それは、ありがとう」
ザビではないけど。
まあもう長く呼ばれている。ツッコミは口にしない。
そろそろ恥ずかしい気持ちも薄れてきたし、呼ばれ慣れてきたというのもある。嫌な慣れ方をしてしまった。
「ちなみに、元気を出させる方法って?」
「! ……ホウ、気になるか」
丸い眼鏡をくいッと上げるサブロー。
今日が曇りでなれけば、太陽が反射して眼鏡が光ったかもしれない。
つまり天気が良ければ最高の眼鏡アピールだったというわけで。惜しいな、実に。
「クク、ならば授けよう。それがその答えだ」
そうして彼が差し出したのは、サイフォンだった。
「……何か高性能な新型サイフォンとか?」
「使っているサイフォンは当然性能を重視して選び、スコアには満足している。が、そこではない。サイフォンを使った娯楽、ということだ」
「娯楽」
ふと思い浮かぶのは、ゲームだろうか。
サイフォンで何かしらの遊びをしている子どもの姿などは何度か見ている。
気分転換にお勧めのゲームがあるというなら、参考程度にダウンロードしてやってみてもいいかもしれない。そちらの方面に詳しいサブローが推してくれるのだ。ハズレはないだろう。
「それで、その娯楽って?」
「うむ。俗に言う“携帯小説”というやつだな」
「……?」
どうやらゲームではなかったらしい。
携帯小説……自分は読んだことがないが、確か書籍のデータなどを端末に落とし込んでおき、小説のように空き時間で読める、というものだったか。
「とはいえ、そんな高尚なものを薦めるつもりもない。ザビが活字を読める側の人間なのは知っているが、起承転結までしっかり纏められた本をすべて読んでいては、時間が掛かり過ぎるからな」
「でも本ってじっくり読んだ方が面白いだろう」
「フッ、やはり分かっている。流石は同志……いや違う。そうではない。つまりだ。気軽に読めてかつ面白いものを読めばいいということだ。そこで勧めたいのが」
「携帯小説、ということか」
一瞬握手を求めてきたサブロー。
ただ、話の途中であることを思い出したのか、首を振って手を引っ込めた。
しかしなるほど。元より本を読むのは好きだ。夜はよく読書をしているし、リハビリ期間もよく歴史系や偉人系の本をよく読んでいた。
……そういえば初対面の頃、この話をしたら美月に呆れられたな。リハビリ期間だし勉強を優先するべきでは。みたいな感じで。
「そうだ。印刷という手順を踏まないからか、携帯小説は本来の紙媒体のものとは違い、“読み返しを前提としないもの”、“勢いだけで押し切る”といった作風も許されている。膨らませる義務がないことから、美しい終わり方をしやすいというのもあるのかもしれん。無論、紙媒体に負けず劣らずな素晴らしい連載小説もあるがな。まあとにかく、ニーズに合った小説を見つけられるものだ。特にこのサイトは粒ぞろいでな──」
サイフォンを操作し、実際のサイトを見せながら、熱く語るサブロー。彼の思いのたけを聞き逃すことなく、興味を持ちながら聞いていた。
確かに面白そうな話。後で実際に読んでみようか。
夜の楽しみが増えたな。──そんな程度の感想を、抱いていただけだった。
「“最近は結構な生徒が読んでいる”ように見えるな。“登下校中などもふとした時に、このサイトを開いている人間を見つける”。そもそも読書が1人用の趣味であることや、紙媒体に比べれば未だに浸透していない分野で、日陰のようなイメージがあるからか、“あまり他人と共有されない趣味”のようだが、知ったような口で批判されるよりは数倍マシか。その反面で新規のファンを獲得できないのもまた悩みであるが、こうして着々と普及活動を──と、ザビ、聞いているのか」
「……」
“最近は結構な生徒が読んでいる”。つまりは学校内でブームになっているということだ。
“登校中や下校中に読んでいる人が居る”。九重先生が感じた違和感は合っていたということだろう。短時間で読める、ということは、手持ち無沙汰な時間を解消できるということだ。それに、気になって仕方のない展開があったり、ぎりぎり読み切れなかったりしたら、つい歩きながらでも読んでしまうこともあるかもしれない。
“あまり他人に共有されない趣味”。聞き耳を立てても、あまり気にならなかった理由はこれだろうか。そもそも携帯小説という言葉を念頭に入れていなければ、ただの読書話やドラマやアニメなどの話と区別がつきづらい。ということもあったのだろうか。
いや、これは言い訳だ。
……つまり自分たちは、現在進行形で、“学校内で流行していたものを見落としていた”ことになる。
「ごめんサブロー。急用が入った。良ければお勧めなどがあればメッセージで送っておいてくれるか? 後で必ず目を通すから」
「……良い目になったな。急用なのだろう。早く行くと良い。後で珠玉の作品を教えよう」
「ありがとう。楽しみにしている」
全員、都合が付いてくれるように祈り、通話画面を立ち上げながら、教室を後にした。
────>杜宮高校【空き教室】。
「俺もそういうのに詳しいやつに確認取ってみた。そいつ自身はそこまで嵌っている訳じゃないみたいだが、確かに友達がその話題で盛り上がることは多くなってきているらしい」
小日向との通話を終え、サイフォンを耳から離した洸が、そう伝達する。
空き教室に無事集合した8人が、険しい顔をしている。
「他に、何か聞き出せた人は?」
ここに来る前、全員を呼び出したついでに、急ぎの情報収集を頼んでいた。
急な話で伝達もうまくいっていなかったはずなのに、空と璃音の手が上がる。
「1年生はかなり浸透しているみたいですね。結構な人が知っていました」
「……それ、ホント? 2年は半々ってカンジかな。なんか、忙しければ忙しい人ほど、そういうのを知ってたかも。部活のエースとか、成績のイイ子とか。って言っても、最近近くによくサイフォンを弄るようになった人いる? って聞き方したから、全員がそうだとは言えないケド」
「……いいえ。重要なデータだわ。どうやら本当に、目に見えていないだけで、流行していたらしいわね」
柊が腕を組みながら、空と璃音の発言を受けて判断する。
やはり、自分たちは見落としてしまっていたらしい。
悔いる気持ちは確かにあった。
けれどもまだ、目に見える被害はない。敵シャドウも準備中なのだろうか。とにかく、取り返しが着かない状態と思えないだけ、不幸中の幸いだろう。
「けどよ、可笑しくねえか?」
眉を釣り上げた志緒さんが口を開く。
「いくら怪しまれない程度とはいえ、調査はしていた。まったく話題が入ってこないってことはねえだろ。それに──」
「ネット関係なら、僕が気付かないワケがない。そう言いたいんでしょ、高幡センパイ」
「ああ。これは四宮に対する文句でも叱責でも何でもねえ。なあ、ホントに一切勘づけないことなんて、あるのか?」
「「「……」」」
誰も、明確な答えを返せない。
今も一心不乱にサイフォンとノートパソコンを弄っている、四宮祐騎以外には。
「…………ああクソ……無茶苦茶すぎるでしょ!」
苛立ちを隠せない祐騎が、机を思いっきり叩く。
何か進展があったのだろうか。
「なにか分かったのか、ユウキ!」
「何も分からないよ! 分からないのが分かった!」
身を乗り出して尋ねた洸に対し、祐騎は激昂を隠さずに答える。
しかしその答えはよく分からない。どういうことだろうか。
「さっきセンパイから教えてもらったサイト、検索しても出てこない! 他の人のアクセス履歴から飛ぼうともしたけど、そんなアクセスの履歴すら引っ掛からない!」
「「……」」「「「「「!?」」」」」
祐騎の叫びに、耳を疑う。
検索しても出てこない、なんてあり得ない。だって自分のサイフォンはサブローがお勧めとして紹介してくれたサイトにつなげることが出来ている。
他の皆の様子は……各々、サイフォンを弄っていた。だが、祐騎のような激しい驚きを表す人は居ない。
それどころか、皆首を捻っている。
「え? あたしは繋がったケド……そ、そんなことってあるの?」
「ないに決まってるじゃん! つまり!」
「考えづらいけれど、誰かが四宮君の妨害をしている、ということね」
四宮 祐騎個人への妨害。
確かにネット関係に細工をするのであれば、祐騎は真っ先に障害となるだろう。知っていれば、真っ先に封じたい相手だ。
しかし、それはおかしい。
「その、誰かって」
空の問いに答えたのは、美月だった。
「異界の主。今回の異変の元凶とも言える存在でしょう」
「……美月先輩、でも今回のって、変ですよね? その、上手くは言えないですけど」
「ネット関係に影響を及ぼすシャドウは、今までにも存在した例があります。珍しいケースですが、“そちら”は大した問題ではありません。現状、一番気掛かりなのは」
「どうして敵の親玉が、四宮を狙い撃ちしたか、ってことだろ」
志緒さんの問いに、首肯する美月。
そう、その対策は、まるで四宮 祐騎が脅威となり得ることを知っていて、かつ自分たちの中に祐騎以上の対策を取れる者が居ないことを知っていなければ、取られることのない方法だ。
仮に自分たち対抗勢力を知っていたとしたら、全員のアクセスを絶つべきだった。それをしなかったのは、どうしてか。
“ネットを張っていたのが祐騎のみ”だと知らなければ、祐騎個人のアクセスを封じはしないだろう。
けれども、いくら一度戦った相手の大元の存在とはいえ、そこまで把握されているとは考えづらい。
「シャドウは、四宮の目さえ誤魔化しちまえば、俺らの目を欺けることを確信していた。だが実際、そんなことが有り得るのか?」
「あり得たのでしょう。偶然として片付けるには、向こうにとって都合が良すぎる。今回の敵は、“わたし達の情報を知っていて”、“その情報を活かす頭脳を持つ”。ということね」
どういう手段かは分からないけれど、的確に対応されている。
事実祐騎の妨害がされていなければ、すぐにでも異常が発見できただろう。
「完全に後手に回っているな。どうする?」
「どうするもなにも、今は情報を整理するべきだよ。相手の得体が知れなさすぎる」
祐騎の意志漲る視線を受け、頷きを返す。
彼も悔しいだろう。完全に相手に上回られたのだから。
「けどよ、情報を整理するって言っても、何をするんだ?」
「分かっていることをもう一度確認してみましょう。何か見えてくるかもしれないわ」