PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月25日──【教室】祐騎と友達

 

 

 授業が終わった。

 流れで周囲の確認をしてみる。席を立つ者、立たない者。教室を去る者、席を囲む者。まあ若干の誤差はあってもいつも通りの人の流れだ。

 やはり、周囲に変わった様子はない。

 粗探しのように細かい所を見るなら、話しながらサイフォンを弄っている人が多いな、くらいか。

 

 そこに注視してみると、やはりサイフォンの使用者が多く見受けられる。とはいえ昨日覚えた違和感と同じ。少しいつもより多いかな、というくらい。

 ……しかし、何かが引っかかる。

 祐騎はネット関係に異常がないと言っていた。彼が調べているのは、アクセスの集中度だとか、検索のホットワードだとかに過ぎない。いや、知らないだけで色々と調べてくれてはいるのだろうけれど、それでもその道のプロフェッショナルである彼が、ないと断言しているのだ。

 つまりは日による誤差。たまたま見たタイミングで多かっただけ。もしくは自分が普段意識していなかっただけで、これだけの人がサイフォンを弄っていたということなのだろう。

 

 

 内心結論付けたところで、スッキリとはしなかった。結論付けたのに納得はしていないらしい。

 ……切り替えるか。

 考えを纏める時間が必要みたいだ。どちらにせよ1人で集中したいところなので、夜、寝る前にでも行えばいいだろう。

 なら今は、今しかできないことをしようか。

 

 とはいえ不意には思い浮かばないものだ。

 誰かいないか歩き回ってみよう。

 

 

────>杜宮高校【1階廊下】。

 

 

「あ、祐騎」

 

 ヘッドフォンを首から下げた少年を前方に捉え、声を掛ける。

 振り返った祐騎は億劫そうな表情を浮かべていたが、すぐにそれを引っ込めた。

 

「どうかしたのか?」

「別になんでもないよ」

 

 自分が隣に並んだのを確認してから、出口へ歩き出す祐騎。

 どことなく気にはなる反応だけれど、どうしようか。

 

──Select──

 >祐騎に付き合う。

  見送る。

──────

 

 

 そのまま彼の下校に付き合うことにした。

 

「何ともないような反応じゃなかったけれど」

「お節介……」

 

 はあ。と溜息を吐く彼。

 何か嫌な事でもあったのだろうか。

 あったんだろうな。

 

 

────>杜宮高校【1階入り口前】。

 

 

 2人で校舎を出て、特に支障もなくそのまま校門を通り抜ける。

 同じ帰路に付いて、帰り時間を会話に割くことにした。

 

 

「……最近真面目に学校に来すぎたからか、最近よく同級生に絡まれるんだよね。最初の頃なんか郁島が余計な気を回してきたこともあって、アイツ繋がりの色々な人と話すことになったしさ」

「真面目に学校に来ているというのは分かるけれど、来すぎるということはないだろう。1日に何回か来てるのか?」

「そんなワケないでしょ。1回だって本当は来たくない。3日に1回でも多いくらいさ」

 

 とはいえ、誰も強要していないのに学校へ来ているのだ。

 彼は彼なりにそれなりの意義を見出しているのだと思うけれど。

 まあそれは良いか。

 

「それで、空が気を回したって?」

「大方、僕が孤立しないように友達ができるまで仲良くしようとか思ったんじゃないの? 事あるごとに大声で話しかけて来てさ。それがうるさいのなんの。おまけに余計な視線まで集めるし」

「なるほど」

「一通りやって満足したのか、今度は直接色々な人を連れてくるようになった。大方、僕に友達でも作らせようとしたのかね。知らないケド。ホント、いい迷惑だよ」

 

 

──Select──

 >友達できたか?

  空とは話せた?

  学校は好きになれたか?

──────

 

 

「は?」

 

 凄い不機嫌そうな顔でこちらを睨み付ける祐騎。

 

「なに? 保護者気どり? 姉さんじゃあるまいし。血が繋がってない分、姉さんより質悪すぎるでしょ、それ」

「いや、正直祐騎に友達が出来ようと出来まいと正直なところどっちでも良いんだけれど、それよりも空の努力の結果が知りたい」

「…………どっちでもいいって何さ」

「本人が求めていないことに対して、期待するようなことはしない。今の祐騎は別に、“友達が欲しいわけではない”んだろう?」

 

 言葉の通り、正直どっちだって良い。大事なのは友達の有無ではなく、なんて言うのか、祐騎にとっての幸福なのだ。

 もしも祐騎が友達を作りたいと願い行動していたら、自分はそれを応援しただろう。それを叶えることが彼の喜びに繋がると思えたなら、喜んで協力するし、ずっと関心を持つ。

 けれど今回は違う。

 祐騎は別に友達が欲しいとか思っている訳ではない。のだと思う。良くても『まあそういうのもアリかもね』程度だろう。推測だけれど。

 そんな状態の彼を想って、“祐騎に友達が出来てほしい”と願う意味がどこにあるのだろうか。ないだろう。

 強いて言うならば、彼が健やかに生きることだけは、自分が自称祐騎の友人として唯一押し付けている願い、だろうか。本当にそれくらいだと思う。

 

 ……最近、異界の攻略、加えてシャドウの説得をするようになって、気持ちを押し付ける、夢を押し付けるという行為の意味を、段々重く感じるようになってきた。

 好きを押し付ける。

 正義を押し付ける。

 それをするべきタイミング、してはいけないタイミング等あると思う。

 

 ……まあ、というわけで、祐騎の感じた煩わしさは分かる。とはいえ空の気持ちも分からない訳でもない。

 なにより彼女は人と人とのつながりを大事にしている。

 もし祐騎が拒否したら祐騎の気持ちを尊重して止まったのだろうが、どうでも良かった彼は拒絶しなかったのだろう。だからこうして、ずるずると来てしまった。

 

 と、経過の予想はいくらでも立てられる。後から聞くことも可能だし、補完は充分に簡単だ。

 だから取り敢えず、結果が知りたかった。

 祐騎はどういう結論を出し、空はどういう納得をしたのか。

 

「……あのさ、人のことについて勝手に分かったような口ぶり、しないでくれる?」

「違ったか」

「その観察眼、もっと他のところに向けた方が良いと思うよ」

 

 あーあ。とめんどくさそうに肩を竦める祐騎。

 

「はいはいざーんねーんでーした。できてませーん」

「そんな自信満々に言うことじゃないだろう」

 

 だが、その表情には一点の曇りもない。空に対しても申し訳なさを感じていなさそうだった。

 

「郁島にも言ったんだけどさ、別にそういうのを求めてるわけじゃないんだ」

「そういうの?」

「まあ言ってしまえば放課後にただ話すだけの相手とか、時間つぶしの相手とか」

「……空が聞いたら怒りそうだ」

「怒ってたよ」

「うん、だろうな」

 

 知ってた。

 彼女にとって友達とは言葉では表せないような大切なもののはずだから。

 

「『友達といることで、互いを高め合うんだよ』、とかなんとか言ってたね」

「……目に浮かぶな。そういう祐騎は」

 

 

──Select──

  そういう相手がいるのか?

 >その話を聞いてどう思った?

  友達には他の関係性があると?

──────

 

 

「少なくとも、高め合うなんてことはないね。人は1人でも上達できるし、友より敵が居た方が上達は速いさ。異界攻略だって、シャドウがいなければここまで強くならないよね」

「それは極端な例だと思うけれど……敵から学ぶことと友から学ぶことは違うんじゃないか?」

「例えば?」

「連携だとか、人の動かし方だとか」

「友でなければならない理由もなくない? そもそもその理論はセンパイみたいな一般人のもの。僕らは一回見ればだいたい分かるし、やってみて調節すれば大抵なんとかなる。教えてもらわなきゃ習得できない技術を持つ人なら苦渋を呑んで師事するだろうけど、どちらにせよ相手が友である必要がなさすぎるでしょ」

「だから、友はいらないと?」

「……まあ、だいたいそんなトコ、かな」

 

 まあ、言わんとしていることは、分かった。

 そこを踏まえて、1つ、祐騎に聞いておこう。

 

「じゃあ、祐騎の求めている相手ってどんな相手だ?」

「はい?」

 

 自分の質問に、目を丸くしてこちらを向いた祐騎。目が合う。

 そんなに意外な質問はしていないと思うけれど。

 

「だから、空が築いている友情みたいなものはいらない、って話なんだよな? だから、どういう友達なら要るのかなって」

「……えー」

「なんの『えー』だ?」

「それ聞くのか、と思って。まあここまで言っちゃったし、別に良いケドさ」

 

 ちょっと待って。考える。

 彼はそう言って、思考に入った。

 

 

────>杜宮記念公園【入口】。

 

 

 公園に入る直前に考え始め、彼が次に口を開いたのは、スケートボードの練習場へ道が伸びる三差路に差し掛かった時。

 

「誰と組んだところで結局、他人に合わせなきゃいけないし、もう“合わせてあげよう”って考えをさせられる時点でもうムリだね。ストレスが溜まり過ぎるでしょ、そんなの」

 

 天才を自称する彼らしい言葉だった。

 『合わせてあげよう』、か。

 異界攻略の時は彼にそう思わせないよう努力しなければ。

 現状は自分たちの実力は、柊と美月を除いて横ばいだ。これで祐騎が特出しようなら、彼は自分の指揮下で嫌々誰かに合わせることとなってしまう。

 そして、チームの誰かしらにそんな思想が出てしまえば、何処かしら齟齬が発生してしまうようになるはず。

 だから、自分が。自分たちが目指すのは彼にとって。

 

「友達だって言うなら、僕が進んで“合わせよう”って思わせてくれるような人間が良いよね」

 

 

 ……そう、そういう類の強さを持つことなのだろう。

 

 

──夜──

 

────>【マイルーム】。

 

 

 祐騎と今日話したことだし、本日はゲームをするとしようか。

 『イースvs.閃の軌跡 CU』の続き。起承転結の承の部分に入って暫く、キャラが増えることなくシナリオ上の謎が増えていくようになった。

 転と結に向けた種まき、とでも言うのだろうか。いまでも軽く涙するほどに面白いのに、これから先、完結に向けてどうなるのかとても楽しみだ。

 

 

 ……十分に遊んだ。今日はもう寝ようか。 

 そのまま、ベッドに入り、ふと思い出したことに思考を巡らせる。

 今回の異界について。そして、流行について。

 サイフォンを弄る人が増えているのは関係があるのか。そもそもの疑問として、本当に今回の事件は終息していないのか。どうして前回で決着がつかなかったのか。

 どうするべきだったのか。何が正解だったのか。

 考える。

 取った選択は決して間違いじゃなかった。

 今のこの状況も、今後の見通しが立たずとも、満足いく日常だ。何も失っていない。何かを損なっていない。

 だから次は、より最善を掴めるように。

 考える。

 考える。

 考えて──

 

 

 




 

 コミュ・運命“四宮 祐騎”のレベルが5に上がった。


────
 

 優しさ +3。


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