PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月22日──【マイルーム】小日向の性格

 

 

 土曜日。今日は秋分の日で、学校が休みだ。

 取り敢えず外に出るとしよう。

 

 

──昼──

 

 

────>レンガ小路【通路】。

 

 

 曇り空の下、明るい色のレンガで舗装されている道を歩いていると、見覚えのある少年が道端に立っているのが見えた。

 小日向だ。

 

「あれ、岸波君?」

「こんにちは」

「うん、こんにちは。今日はどうしたの?」

「特になにも。ただうろついていただけ」

 

 調査も行き詰まったことだし、今日は町の様子を見ながらゆっくりしているだけだ。

 彼に伝えた通り、特段用事があるということもない。

 

「そうなんだ……じゃあ、この後少し時間あるかな?」

「ああ」

「良かった。それじゃあちょっと付き合ってくれるかな」

 

 

 

────>カフェ【壱七珈琲店】。

 

 

 近くにあった珈琲店に入り、2人で机を挟んで向き合う。

 小日向は席に座ると、ガサゴソと肩に掛けていたバッグを漁り、何かを取り出した。

 

「それは?」

「えっと、岸波君はGATE OF AVALONっていうゲームを知ってる?」

「ああ、蓬莱町のゲームセンターにもあるな」

「あ、そういえば岸波君はそこでアルバイトしてるんだっけ。なら説明は要らなかったかな? これはそのゲームのカード版なんだ」

「……それはゲームでやるのと何か違うのか?」

「【オアシス】のゲーム機でならオンライン環境下で全国の誰とでも遊べるけど、それは【オアシス】でしか遊べないでしょ? こっちは全国の誰とでも、とはいかない代わりに、近くの人といつでもどこでもプレイできるってこと」

 

 言われてみれば確かに、ゲームセンターのゲームはゲームセンター内でしかできない。その不満を晴らす為に、現実でも出来るようカードゲーム化されたということか。

 

「それで、何でそれを今?」

「実はこの前、コウがやり始めたみたいでさ。ちょっと勘を取り戻しておこうかなって」

「いや、だから何で自分?」

「そこはほら、普及活動、みたいな」

 

 プレイヤーの輪を広めようとしているのか。まあ教えてくれるというのならば、やってみよう。

 快諾の意を伝えると、それを喜ばしく思ったのか、彼はありがとうと嬉しそうに微笑んだ。

 その表情を見て、ふと思う。

 

 

──Select──

  そんなに楽しみなんだな。

  負けたくないんだな。

 >大好きなんだな。

──────

 

 

「……え?」

「このゲームが大好きなんじゃないのか?」

「あ……う、うん。そうだね。駆け引きもアツいし、楽しいと思うよ」

 

 ……?

 一瞬、虚を突かれたような反応をしたのは気になるけれども、まあ良いか。

 駆け引きの熱いゲーム。それは戦略性に富むということだろう。より楽しみになってきた。

 

「小日向、ルールを教えてくれ」

「うん、じゃあ最初は流れを理解する為に、一回手札をオープンしてやろうか」

 

 

────

 

 

「飲み込みが早いね」

「先生が良いからな」

「じゃあ尚更、負けられないなっと」

「……あっ」

 

 彼の出した一手で、勝負がついたことを悟る。

 振り返ってみても最善手を出し続けていたと思うけれど、ここはやはり彼の立ち回りが上手かったというべきだろう。見事にそこへと誘導されていて、詰まされた。

 

「なんというか小日向って」

 

 

──Select──

 >絡め手が多いな。

  我慢強いな。

  付け入る隙がないな。

──────

 

 

「え? そう、かな?」

「何重にも罠を張って、決められたゴールに追い込んでいくスタイル、って言っていいのか。まあとにかく、気付いた時には蜘蛛の巣の中、みたいなことが多いから」

「……」

 

 指摘すると、いつもは柔和な表情を、苦虫を噛み潰したようなものに変えた。

 口にされたくなかったことだっただろうか。個人的には、凄いと思うのだけれど。

 

「……うん、確かにそうかもしれない。目的を果たすためなら、過程にこだわったりしない方だからね」

「そう考えると意外だな。普段の様子からすると真逆だ」

「それはそうだよ。そもそも僕は……っ」

 

 何かを言いかけて、小日向ははっと口を噤む。

 何を言いかけたのだろうか。追及する前に、彼は強引に話の流れを変えようとしてきた。

 

「それを言うなら岸波君の方だって意外性があったよ」

「自分の?」

「受け身のカウンタータイプかと思ったら、段々カウンターが激しくなっていくんだもん。あれって僕の手を先読みしてたからでしょ。観察だけで予測して攻撃的カウンターをしてくるだなんて、想像してなかった」

「……そんなことしてたか?」

「あれ、無自覚だった? 時たま、次に出したいものが分かってるんじゃないのか、っていう切り方してたし、こっちの策が読まれてるのかとヒヤヒヤしたよ」

 

 自分のプレイスタイルを意識はしていなかったけれども、普段から観察に頼る節はあるし、何も意識しなければそうなるのかもしれない。

 自分的には新しい発見だった。

 これも異界で身に付いた力だと思うと、素直には喜べないけれども。

 

「それはそれとして、小日向みたいな戦い方もしてみたいな」

「それだけ相手の動きが読めるなら、相手の考えをトレースすれば出来るんじゃない?」

「……やってみても良いか?」

「勿論。回数を増やすのは、僕にとっても願ったり叶ったりだしね」

 

 

 その後は2人でアドバイスをしあって、戦いを続けていった。

 最終的に勝ち越すことは出来なかったけれど、最初の色々を掴むまでに比べたら、だいぶ勝率は上がった。大体3割後半くらいだろうか。

 またやりたいな。

 

 ……ゲームを介したことで、小日向との縁が深まった気がする。

 

 

 

 

 

「じゃあね」

「ああ」

 

 あまり長時間お店に居て迷惑を掛けるわけにもいかない。

 陽が落ちる前に帰ることにした。

 

 

──夜──

 

 

 今日は読書をしよう。

 随分と前に買った本、『歴史で紐解くTOKYO郊外』に手を掛ける。

 “23区にはない、TOKYOの魅力”を大々的に押し売ろうとしている記事の中には、神山温泉のことも載っていた。

 どんな偉い人たちが愛用したか、その地にまつわる稲荷信仰も含めて書かれている。それとは別に、今売り出している名物や温泉の楽しみ方なども記されていた。

 ……今度試してみるか。

 少し勉強になった気がする。

 

 




 

 コミュ・正義“小日向 純”のレベルが4に上がった。
 
 
────
 

 知識  +1。
 魅力  +2。


────



151-1-1
──Select──
 >そんなに楽しみなんだな。
  負けたくないんだな。
  大好きなんだな。
──────

「え?」
「洸と戦うのが。そうじゃないと、事前に練習なんてしないだろう」
「ああ、うん。そうだね。楽しみだよ。楽しくするために、練習するんだけど」

 一瞬キョトンとしたものの、彼は質問の意味を理解したのか、柔らかく微笑んだ。
 楽しくするために、というのは、自身が勘を取り戻せていないと、洸と互角には戦えないだろうということか。一方的な戦いは面白く無さそうだしな。
 ある意味で洸を信頼しているのだろう。
 いずれ、自分のいる階級まで上り詰めてくるであろうと。
 今の自分に出来ることは、小日向の勘を取り戻す為の協力くらいか。
 後、洸とも戦ってみてもいいかもしれないけれど……いや、それは彼らの戦いが終わった後まで待つか。変な横やりになってしまう可能性だってあるし。

「じゃあ小日向、ルールを教えてくれ」


 →以下合流。
 
────────
151-1-2
──Select──
  そんなに楽しみなんだな。
 >負けたくないんだな。
  大好きなんだな。
──────


「え?」
「洸に。あれ、何か負けられない理由があるとかじゃないのか?」
「いや、そういうわけじゃ……ううん、ゴメン。やっぱり岸波君の言う通りかも」

 一瞬首を傾げたものの、何かに思い至ったのか、自分の発言を肯定した小日向。
 頷いた彼の瞳には、力が宿っている。
 
「別にこだわっているって訳ではないけれど、コウには勝ちたいかな、友達として」
「友達として?」
「得意のゲームでくらい勝ちたいと思うのは、普通じゃないかな?」
「……いや、言われてみれば気持ちは分かる」

 誰だって、得意なものや好きなもので負けたくはないだろう。
 それに、明らかに格下の相手には負けたくないはずだ。
 小日向の話を聞くに、洸はビギナーで、小日向は経験者。だというなら、小日向は意地にかけて負けられないだろう。
 ……もっとも、これは自分にとってはの話で、小日向にそういう意地があるかどうかは別だけれど。いや、負けられないと言うのであれば、彼には彼の通したい意地があるのだろう。
 自分に出来ることと言えば、せいぜい踏み台になることくらいだ。
 
「よし、小日向、ルールを教えてくれ」

 →以下合流。
 

────────
151-2-2
──Select──
  絡め手が多いな。
 >我慢強いな。
  付け入る隙がないな。
──────


「我慢強い?」
「小日向はプレイ中、相手を誘導する為の罠を何重にも張っているだろう? 相手が掛かるまで急かず、じっと待ち続けている。我慢強いじゃないか」
「うーん、陰険、とか、姑息、とか」
「自分で言っちゃうのか。……いやそもそも、そこまでネガティブな言い方をしなくても良いだろう。本当に凄いと思う。自分だったらじっとは待てないからな」
「僕的には褒められている気はしないけれどね」
「というと、小日向には理想とする勝ち方があるのか?」
「ないよ」

 ないらしかった。
 ただ、そう答えた彼の表情は、とても儚げで。
 消しきれない痛々しさがその裏には隠されていた。
 
「勝ち方なんて気にならない。大事なのは勝利という結果。必須の手順さえ踏めれば負けることはないんだから、それの構築がすべてだよ」

 所謂、必勝パターンの構築が大事だと、彼は言う。力を込めて断言する。
 いついかなる時も同じことをすれば勝てるのだから、過程に意味はないと。
 本当にそうだろうか。
 ……それを力強く否定できるだけの物証を、自分は持っていない。
 なら、その勝ち方をする彼を負かせ続けることで、彼の過ちを証明しよう。

「続きをしよう、小日向」
「うん、僕もまだまだ勘を取り戻せたとは言えないからね、もう少し付き合って貰うよ」


 →以下合流。♪2

────────
151-2-3
──Select──
  絡め手が多いな。
  我慢強いな。
 >付け入る隙がないな。
──────

「それは、そういう風に立ち回ってるからね」

 もし、仮に。
 ゲームのプレイスタイルが個人の性格を色濃く反映するのであれば、小日向 純という少年は、とても恐ろしい人間に思えた。
 まあそれがすべてではないから特に気にしないけれど。
 
「自分も小日向みたいに戦えるようになりたいな」


 →以下合流。好感度上昇なし。踏み込まない系選択肢でした。断言しておくべきは、藪蛇を突くことを恐れて止めたのではなく、本当にどちらでも良いと白野が思ったから追及していないということですかね。
 ゲームで見えてくる性格なんて、一側面でしかないですし。
 ……いやまあ一般論的にはその側面を見ることで、ハロー効果みたいな感じで印象に悪影響を及ぼさないとも言えませんが。
 



 

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