PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月20日──【教室】佐伯先生と経験 1

 

 

 終業を告げるチャイムが鳴った。

 この2日、学校内で色々話を聞いていたけれども、特に何も情報を得られていない。

 放課後の街とかでも調査した方が良いだろうか。

 バイトでもしながら、周辺の調査をしてみよう。

 

 

────>ゲームセンター【オアシス】。

 

 

 ゲームセンターでのバイトは、以前と何ら変わりない。

 途中で声を掛けてくれるBLAZEの人たちに触発されたのか、色々な人に話しかけられるようになったくらいか。

 業務内容には含まれていないけれど、店長からは「誰かが良くて誰かは駄目っていうのはクレームになるから」と、極力受け答えするように言われている。

 そんなこんなで、そこそこ顔見知りが多いわけだけれども、今日はなぜか客足が少ないみたいだ。

 一応BLAZEの人たち含めて何人かのお客様からは、最近の流行について話を聞くことができた。それでもその話に統一性はなく、まばらな答えであったけれど。

 どうやらそううまくは行かないらしい。

 

 しっかりと働き、バイトを終えた。

 

 

──夜──

 

 

────>カフェバー【N】。

 

 

「なるほど、今日はバイトだったのか」

「はい。勉強させてもらっています」

「勉強熱心なのは良いが、あまりやり過ぎないようにな」

 

 時間が経つのは早いもので、夕飯時を過ぎたころ。

 自分はカフェバーでお勧めの珈琲を飲みながら、佐伯先生と話していた。

 そもそもの発端は、深く知らない彼についてのことを、自分と後輩たちの為に知りたいと思ったことから。

 そうして以前、彼に相談を持ち掛けた際、火曜日と木曜日はここに居れば大抵来ると言われていたことを、先程思い出したのだ。目と鼻の先にあったバイト先からこちらへ直行。軽食を摘まみつつ、待たせてもらうことに。

 先生が来店したのは、ご飯を注文して1時間するかしないか程度の頃。

 彼もここに教え子がいるとは思っていなかったのだろう。来た時は流石に目を見開いていた。けれども自分との話を思い出してくれたのか、静かに自分の隣へと腰を下ろしてくれる。

 

「先生は、学生の頃はバイトしていましたか?」

「ああ。それなりに、な。俺も高校の頃なんかは色々と入用で、長期休暇はバイトに勉強にと忙しかったな」

 

 

──Select──

 >バイトは何を?

  何に使ったんですか?

  一番の思い出は?

──────

 

 

「それこそ色々、だ。元々身体を動かすことは得意だったから、イベント設営とかの日雇いの仕事を複数。あとは普通のバイトもやったし、中学生向けの家庭教師とかもやっていた」

 

 懐古の表情を浮かべつつ、指折りでバイトを数えていく佐伯先生。

 どんどん指が曲がっていく姿を見て、本当に色々なことを経験してきたのだな、と感心した。

 ただ一方で、気になることもある。

 

「そんなに働いていたのに、1つの所に定着はしなかったんですか?」

「考えはしたんだが、日払いと月払いは若干違うからな。それに学校のある期間は勉学や部活に集中したかった、ということもある」

「なるほど」

 

 確かに日払いというのはとても魅力的だ。突発的にお金が必要になった時など、対応できないと困ることが多いから。

 まあ自分の場合は色々と他にも優先したいことがあったから、シフト制は好まなかった、というのもあるけれども。

 佐伯先生も学生時代は1人暮らしとかをしていて、出費が激しかったりしたのだろうか。

 

「別に今の岸波を咎めているわけじゃないぞ? そういう経験も大事だろう」

「経験……やっぱり、やっておいて良かったと思いますか?」

「ああ。特に今では、中学生を教えていた経験が生きているな。1・2年生の授業で、どう説明しても理解が得られない時の一番の要因は、中学時代に習ったことが疎かになっているからだ。色々な人が、どこでどういった内容に躓きやすいかを知っておけたのは良かったと言える」

「難しいですしね、英語。よく、外人とは一生関わらないから英語なんか勉強しなくても良くない? って言っている人を見ます」

「日頃使わないと思っているもの学習してしまえば、何だって難しいだろう。数学であれ社会であれ、どの教科でもそれは変わらない」

 

 そう言って彼は、珈琲を口にした。

 

「そもそも前提として、今の世の中で外人と関わらない方が難しいんじゃないか? 学校という狭い社会にすら、留学生などで外国人を見るのに」

 

 そうだ。自分たちの学年にも、カレンという留学生は居る。

 街中を歩いてみても、普通に外人などは見掛けるのだ。

 関わらないなんて、家から出ない以外に選択肢がないのでは?

 

「難儀な生き方をしますね」

「まあ、そういう回り道も最終的に間違っていたと気付けるなら、有用ではあるのかもしれないけどな」

「自分の間違いに自力で気付くのは、難しいですしね」

「分かっているじゃないか」

 

 シャドウと戦って来て、思ったことだ。

 間違いを認められる、というのは、れっきとした強さの一種だ。自然に誰でも身に着けているものではない。それでも道を踏み外さずにいられるのは、他人の存在であろう。

 誰かの背中を追ったり、誰かと共に歩いたり、誰かに道を直されたり、そういう他者とのかかわりによって、1つ1つを学んでいける。

 佐伯先生も、そういうのがあるのだろうか。聞いてみよう。

 

──Select──

  後から気づいた間違いがあるか聞く。

  追っている背中があるか聞く。

 >共に歩んでいる人がいるか聞く。

──────

 

 

「そうだな、昔はよく一緒に道を歩いてくれる人も居た」

「今では、疎遠に?」

「ああ。ぱったりとな」

 

 中学や高校の友人とかであろうか。

 少し意外だった。つながりや経験を重要視できることから、佐伯先生はそういうものを大事にしそうな人に見えていたから。

 ……詳しく聞いてみたいけれど、まだ踏み込むにはまだ流石に付き合いが浅いか。

 

「ずっと一緒に居る友達って、難しいんでしょうか」

「そうでもないさ。大事なのは、運と努力だろう」

「努力は分かりますけれど、運もですか?」

「例えば親の都合による急な引っ越し。例えば何かしらの事件に巻き込まれて退学。例えば記憶喪失。事故なんて、確率がわずかにでもあるのならば起こり得るものだからな」

「……そうですね」

 

 記憶喪失。

 ああ、そうだ。確率がどれだけ低くても起こった、身近な例だったな。

 結果としてこうして再スタートを切れている訳だけれども、それはあくまで自分視点。自分も今では見ず知らずの関係になってしまった友人たちの気持ちを、裏切ってしまっているのだろうか。

 珈琲へと視線を下ろす。何となくカップを動かして、表面に波を立たせてみた。反射するようにカップの端からまた波は返って来て、やがてどこかで打ち消し合ったのか、すっかりと表面は大人しくなった。

 

「まあ今言えるのは、今いる友人を大切にしろ、ということだけだな」

「それは、勿論。自分にはもったいない良い人ばかりですし」

「なら大丈夫だ」

 

 ニッと笑う佐伯先生。

 女子の黄色い声が幻聴として耳に届いた気がした。

 

 その後も雑談を少しした後に、2人で店を後にする。

 どうやら帰りの方角は違うらしく、店の前で別れることになった。

 

「……ああ、そうだ。バイトで思い出したが」

「はい?」

「いくら経験になるとはいえ、時坂は若干働きすぎのように見える。大切にするというなら、しっかり見ておいた方が良さそうだぞ」

「……はい」

 

 帰り際の忠告を受け取って、自分はそのまま帰路へつく。

 そのうち、洸ともしっかり話さないとな。

 

 




 

 コミュ・刑死者“佐伯 吾郎”のレベルが2に上がった。


────
 

 度胸  +2。





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