PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月19日──【教室】路上ミュージシャンの夢

 

 

 授業も一通りが終わり、放課後。昨日同様教室で聞き耳を立ててみるけれど、特に成果は得られない。

 今日も場所を移動して色々聞いていくとしよう。

 昨日は本校舎を散策したし、今日は別の所に行くべきだろう。学校内だと残るは……図書室とか、クラブハウスとかか。

 ……そういえば今日は水泳部の活動日だ。顔を出すとしよう。

 

 

────>クラブハウス【プール】。

 

 

 一通り話を聞いて回ったけれど、経過はやはり芳しくない。

 仕方なく諦めて、今日は事前に考えていた通り、部活へ参加。一旦調査のことは忘れて、練習に専念する。

 

「お、頑張ってるな」

 

 プールサイドの対岸までたどり着くと、ハヤトがこちらを見ていた。

 

「どうだ、コツは掴めたか?」

「いや、まだまだだ」

「良かったらこの後練習付き合うぞ?」

「本当か? 助かる」

「そうか。それじゃあまた」

 

 挨拶を残し、彼は彼の練習へ戻る。

 自身の練習もあるのに、優しい人だ。

 ……そろそろ縁が深まるような気がする。

 

 部活動に励んだ。

 

 

──夜──

 

────>【駅前広場】。

 

 

 夜は駅前広場にやってきた。

 突然話しかける訳にもいかないから、広場で道行く人たちの様子を見たり、話しに聞き耳を立ててみたりする。

 自分のことながら、やっていることが恥ずかしい気もするけれど……なりふり構っている場合でもない。

 

 そうして十分ほどを過ごしていると、聞き覚えのあるリズムと声が聴こえてきた。

 駅の方へ目線を向けてみると、ギターを構えるオサムさんの姿が。

 ……今日はここまでにして、行ってみよう。

 

「~~っ!」

 

 歌っている最中の彼と目が合う。

 一瞬驚いたように目を見開いた彼だったが、その直後にこちらへウインクをしてくれた。

 自分のことを覚えていてくれているらしい。出会いから長い時間が経ったわけではないけれども、こうして記憶に留めておいてもらえるのは、嬉しいな。

 そんなことを考えながら彼の歌に耳を傾ける。

 ……残念ながら、自分の他に立ち止まって歌を聞いていく人の姿は見られない。

 

「……ふう、おおきに!」

 

 それでも彼は笑顔で手を振る。

 自分に。そして、道行く人々へと。

 そして曲の余韻が引いた後、彼はこちらへ近づいてきた。

 

「元気やった?」

「ああ。今日も演奏してたのか」

「勿論! 水曜やしやっとるぞ」

「……活動する曜日とか決めているのか?」

「オレのバイトがない日やな」

 

 詳しく聞いてみると、滞在費を稼ぐ為に日雇いのバイトをしているらしい。

 基本的に水曜日や金曜日、日曜日は夜までのバイトは入れないようにしているとのこと。

 つまりはその曜日ならこうして路上ライブが聴けるということだ。

 

「憶えておく」

「おう、よろしゅう頼むわ」

 

 カラカラと笑うオサムさん。

 しかし、話が途切れてしまった。

 何か質問してみようか。

 

──Select──

  東京には慣れた?

 >曲はどうやって作っている?

  歌っている時どんな気分?

──────

 

 

「せやな……普段思うとることを歌にしとるだけやな」

「普段思うこと?」

「こないなのが楽しい、こないなのが可笑しい、みたいなことを集めとる……って言えばええのかな」

「なるほど」

 

 普段思っていること。日常の些細なことを歌に乗せる。

 だからこそ、歌詞が浸透しやすいのだろう。同じ思いをしている人などは共感でき、そうでない人ははっとする。みたいな。

 

「じゃあリズムは?」

「思い付きやな」

「……なるほど」

「いやいや、しゃんとした理由があるんやで」

 

 つい微妙な反応になってしまったことに焦ったのか、彼は両手を前に押し出して自分の早とちりを止めようとした。

 

「ノリのええリズムはその場のノリで生まれる!」

「……」

「大体な、ええ曲は書こなと思うて書けるわけやあれへん。ならどうやって書くか。答えはパッションや! オレが楽しめへんと、みんなも楽しめへんしな!」

「……なるほど」

 

 なるほど。

 そもそも自分が導き出した良いものと、他人の思う良いものは違う。

 それが等式で結ばれるようなら、世に出る曲はすべて流行曲だ。

 ならば、他人の顔色を伺う音楽より、自分のやりたいを詰め込んだ音楽を演奏していた方が楽しいし、自分が笑顔で音楽をやっていなければ他の人を笑顔にすることもできない、ということだろう。

 

 

「オサムさんの音楽は」

 

──Select──

 >誰かの笑顔のために?

  みんなで楽しむために?

  良い曲を伝えるために?

──────

 

「誰ぞの笑顔……いや、誰ぞっていうより、皆やな」

「みんな?」

「オレの歌を聞いてくれるみんなを笑顔にする。夜とか疲れた帰り道に、ふとオレの音楽を聞いた全員が笑う。それがオレの理想や」

 

 それは、璃音の夢にも似ていて、けれども少し違う夢だった。

 彼女の夢が、聞く人を笑顔にできるアイドルであると同時に、辛いときに勇気を与えられる存在、だったはず。

 しかし彼女と彼は立ち位置が違う。身近な所で歌っている訳でもなく、自分たちみたいに同じ学校に所属していなければ、直接かかわる機会も少ない偶像。不特定多数の人に見られることが前提の、多くの人を対象とした夢。

 対してオサムさんの活動は、周囲に自分の歌を聞いてくれる人がいる前提の夢。

 活動は近所で、日常の一瞬。今の時間帯みたいな、疲れて帰って来たような人たちに笑顔を与えられる存在。直接目の前で歌い、語り掛けられる存在だからこその夢と言えるだろう。

 

「素敵な夢だな」

「おおきに! ……と、長話が過ぎたな。そろそろ戻るわ」

「じゃあ聞いていきます」

「ほんまおおきに! それじゃあまた少し、付き合うたってや!」

 

 楽器を持って、元の場所に戻る彼。

 やはり表情は笑顔だ。

 楽しんでいるな、と思う。

 彼の夢を聞いた後だと、彼の笑顔がより輝いて見えた。

 また少し、縁が深まったような気がする。

 

 

 ……しばらく聞いていたけれども、遅くなってきたので、彼に挨拶して家へと帰った。

 

 




 

 コミュ・節制“路上ミュージシャン”のレベルが3に上がった。


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